065 プライバシーと共同作業
本日、なんだ、17話目?
そこで、適当にSNSを覗くと、この前解散した男女のペアのニュースのまとめ動画が勝手に再生され始めた。
そこに、一つ気になるコメントがあった。
[普通に息を合わせての演技って、恋愛よりもよっぽど深いところで繋がれる感覚があるからな]
俺は、これだと思った。
千賀は俺が対応してくれないので、拗ねて水場の方まで行ってしまった。
何やっているのか様子を伺うと、俺の脱いだTシャツに顔を埋めている変態がいた。
俺は見なかったことにした。
きっと、千賀が俺のトイレの後の匂いについて何も言わないのと同じように。
共同作業と言えば、何があるのだろうか。
いつの間にか戻ってきた千賀は俺に手を伸ばしてきたので、仕方なく俺は握手してやりながらスマホを弄っていた。
チェスとかボードゲームは対戦型だからちょっと違う。
PvEのゲームならばよさげだが、千賀が力加減をミスって壊したら諭吉が軽く飛んでいくので控えたい。
安易だが、社交ダンスは悪くないかもしれない。
他には、餅つきとかか……?
俺は千賀をじっと見た。
千賀は最初は一生懸命俺と視線を合わせていたが、途中で照れてそっぽを向いた。
こいつすぐ何があると視線を逸らすよな。
よく考えたら、俺たちの生活自体が共同作業なのではないか。
ある程度時間がかかって、一人じゃなくてもできる作業で、生活に必要なもの。
「料理だ」
「料理?」
千賀は首を傾げている。
「そう、料理だ。千賀、俺にも料理を手伝わせてくれ」
「山村が? 分かった」
分かったのか分かってないのかは分からないが、千賀は了承してくれた。
俺はそれ以上思いつかなかったので、千賀に聞いてみることとした。
「共同作業? け、け、ケーキを切る、とか?」
千賀は混乱しながらそんなことを言い出した。
ケーキがどうして共同作業なのか考えて、俺は顔を赤くして「違う違う!」と否定した。
「こうな、社交ダンスみたいに一緒にやる作業のことだよ」
「な、成程な」
それでも千賀は照れている。
さっき料理をするって時とは反応が違うから、いざその時になったらまた喜ぶのだろう。
俺は千賀を喜ばせてばっかだな。
「……すぐには思いつかないな」
やはり千賀もそうらしい。
困った時のAI先生に俺は聞いてみた。
そうしたら、ずらっと回答が来た。
「なになに? DIYはここでは難しいし、楽器の合奏もどこか行かないとな。社交ダンスもこの部屋だと狭いし、小説だのを書く予定もない。一緒にボートとか自転車とかは身体能力の差があり過ぎるし、登山は活動時間帯が違うから難しい」
千賀と俺とが違い過ぎたり、そもそもこの家だけではできないことも多かった。
「後はそうだな……ペットの世話はここペット禁止だし、キャンプとかならできそうだ。まぁ、これらは今度行くとしても、まぁ何だ。あれだ。まずは一緒にストレッチで押し合うくらいが丁度いいのかもな」
そういうことになった。
「山村は身体が固い。柔軟な方が何かと便利だから、ゆっくり伸ばしていこう」
「いだだだだ」
俺はベッドの上で千賀に背中を押してもらいながらストレッチをしていた。
長座体前屈は苦手だったんだよ!
「身体が柔らかいと、転びにくくもなるはずだ」
「いだいいいだいギブギブギブ!」
「まだいけるはずだ。人体はこんなものではない」
千賀は容赦なく押してくるが、俺の身体は悲鳴を上げている。
「最初はこんなものか」
一頻り終わる頃には俺はしなしなになっていた。
「じゃあ千賀はどうなんだよ」
俺は復讐がてら千賀を押してやろうと思ったが、そう事はうまく進まなかった。
結論から言うと、千賀はとても身体が柔らかかった。
「私は身体が柔らかいのが取り柄だ」
これはマリアの言だろうが、今の千賀にも当て嵌まるのだろう。
「父さんのところで最初にやったのが、柔軟体操だった。身体が柔らかければ避けられる負傷は少なくないからな。そのまま伸ばしていると時間がかかるため、ナイフで筋を切って再生しながらのストレッチとなったのだが」
「うぇぇ」
「痛い話は駄目だったな、失礼」
そう言いながら、千賀は足を180度に開き、左手で右足のつま先を摘んでいた。
「君はゆっくりと伸ばしていくのが良いだろう」
すっかり保護者・研究者モードになった千賀はしかし、俺が布団に入るとすかさず滑り込んで俺の胴体にしがみついた。
この大きな子どもは、俺が死ぬまでずっと親離れしてくれないのだろうなと苦笑し、電気を消した。
翌朝、俺は寝坊した。
俺が起きたのは、千賀に「朝だよ、山村」と揺り起こされたからである。
アラームはかけ忘れており、それでもいつも大体起きる時間に起きれなかったのは、恐らくはこの分厚いカーテンのせいだろう。
俺は起きると、カーテンの隙間から日が差す向こう側に行き、十分朝の日差しを浴びて頭をリセットした。
「山村が見えない……」
千賀がそんなことを言うので、仕方なく俺は暗い部屋に戻り、電気をつけた。
「もうできたのか」
「暇だったからつい」
千賀は既に机の上に料理を置いて待っていた。
「夕飯は俺にも手伝わせてほしい」
「分かった」
俺は千賀に作ってもらった目玉焼きと付け合わせのブロッコリーをもさもさと食べた。
なんかゴロゴロしたりゲームしたりしている内に出かける時間になった。
ちなみに千賀も一緒にゴロゴロしていた。
この時間だけ切り取れば、仲良しな友達みたいだった。
久々にこんな風に寛げた気がする。
車から降りると、飲食店の屋根の下で神保と氏家が待っていた。
俺は二人の顔を見て、お土産を買ってくるところから忘れたことに気づいた。
「お久しぶりです」
「久しぶりやな、後ろの真っ黒さんは彼氏かいな?」
千賀は俺を真っ黒なコートの中に入れるくらいの距離感で背後に立っている。
しかもいつもの日傘、帽子、サングラス、マスク、手袋までした変質者フル装備だ。
「彼氏とは少し違いますね。俺の大事な人です」
俺はそう言いながら「不審者やめろ」と鳩尾に肘鉄を入れた。
千賀はノーダメージだった。
「あっはっは、彼氏はん暴力振るわれてるけど、山村くんに嫌われてんちゃいますか?」
「山村は俺の大事な人だ」
千賀はすっかり保護者モードに入ってる。
俺はため息を吐いて、
「お待たせしました。中に入りましょうか」
「ああ、そうだな」
と、努めて背後霊の千賀を無視しながら、店の中に進んだ。
久々の神保と氏家。




