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062 だっこと食事

本日14話目ですね、きっと。

抱っこされるらしくて呆然とする山村。

 俺は帰ったら抱っこされるらしい。

 千賀はルンルンと車を運転している。


「俺は人形かよ」


「山村は山村だよ?」


 千賀の返答は答えになってない。

 一体、大の大人が大の大人を何が楽しくて抱き上げて喜ぶというのか。

 頭の中に「分からないなら同じ」という有名な歌詞が流れていった。


 いや、分かるよ。

 千賀は俺の体温を感じたい。

 俺を自分の腕の中に収めたい。

 俺の匂いを感じていたい。

 そんな欲求があるというのは、分かる。

 ただそれは観察の結果分かるものであって、俺自身のものではないから、やや主観性に欠けるのだ。


 そんなことを考えていると、普通に家の駐車場に到着した。


「山村はここにいてね」


 そんなことを千賀が言ってくるので、これはまずいと思って、


「せめて部屋の中でやれ」


 と言い、俺は持てそうな荷物だけ持って自分の家の扉を開け、洗濯が終わったシーツを干すこととした。


 千賀はものすごいスピードで家の中に荷物を搬入した。

 俺というご褒美が待っているからな。

 俺はまた少し気が遠くなった。

 この勢いは俺が手出しする方が邪魔になると思い、マットレスだけになったベッドの上に避難していた。


 千賀は見るも鮮やかに荷物を置いていく。

 まるで、どこに何を置くか予め決めていたようだ。

 もしかしたら、本当にずっと考えていたのかもしれない。


「お待たせ、山村」


「はいはい」


 俺は別に待ってはいないが、もう何も言うまいと脇に手を入れられて持ち上げられながら思った。


 千賀はどう俺を抱えるつもりかと思えば、まずはそのまま俺を高く持ち上げた。

 千賀の手があまりに力強いので、肺に空気が入り辛い。


「山村」


 千賀は語尾にハートがついていると錯覚するほどに、甘い声で俺に囁く。

 俺はあまり千賀が立った時に見下ろすことがないので、新鮮な気持ちで眺めていた。

 次に千賀は、俺を肩に引っ掛けた。


「ぐぇ」


「ご、ごめん」


 慌てて千賀は腕の中に俺を戻した。

 その次に、千賀は俺を背負ってみた。

 俺も千賀にしがみつく。


「いつもと逆だね」


「俺はどちらかというとあの時のことを思い出すけどな」


 千賀もあの宗教施設で逃げ回った時のことを思い出したようで、嫌だったのか、背中から俺を降ろした。

 そしてそのまま、今度はお姫様抱っこをした。


「山村が見える」


「そうだな」


 千賀はそのまま俺のベッドのマットレスに腰掛けた。

 何だっけ、この格好。


「ピエタ像じゃん」


 そうなると、こいつがマリアで俺がキリストってことじゃないか。

 俺は千賀を見上げる。

 こいつ、そういえばマリアだったわ……。


「俺は処刑された後のキリストかよ」


 俺がそう言うと、千賀は愛おしそうに俺の脇に回した手で俺を摩り始めたので、俺は「めっ」と叩いておいた。


「俺は山村を処刑なんてさせないから」


「どちらかと言えばお前がされる方だからな」


 俺がそう言ってやると、千賀は「確かにそうだな」と気の抜けた笑い声を出した。


「で、俺お腹空いたんだけど」


 千賀はその一言で終わりが来たことを悟り、俺を抱っこしたまま立ち上がって、俺をソファに優しく降ろした。

 俺の躾の効果が出ている。

 と思ったところで、俺は調教師か! と自分で思った。

 これでは会田の言葉を否定できない。

 このままでは、冒険者ギルドに登録された時の俺の二つ名が『飼い主』になる日は近いのかもしれない。


 今日のお昼ご飯は冷や汁とご飯だった。

 千賀は料理で手抜きをするようで手抜きをしない。

 よく見ると丁度よく溶けた冷凍ブロッコリーが浮いている。

 俺は千賀とブロッコリーから逃れられない運命にあるのか。

 千賀はいつもの場所で俺が食べるのをニコニコと見守っている。


「お前はさ、お腹が空いても料理を食べたいとは思わないのか?」


 俺がそう聞くと、千賀は自分で作った冷や汁を眺めた。


「思わないな。何と言うか、ペットがペット用の乾燥野菜チップを食べているのを見ているのに近いかな」


 言わんとすることは分かる。

 ペット用でも普通においしそうなものはあるけれども、自分用ではないんだよなという感覚なのだろう。


「お前はそのペットに飼われているのか」


「そうなるな」


 そうらしい。

 それでいいのか吸血鬼。


「より具体的に言うと、間接的に自分の身体に入れるものが消費されていく様を見ているようだ。それで喜んでくれるのなら喜ばしいし、後で栄養バランスが偏っていなかったかチェックも出来るからな」


 ここに俺専用の管理栄養士がいた。

 毎度血液検査で健康チェックまでしてくれるおまけつきだ。


「味覚はどうなんだ? 死んでるのか?」


「一応働いてはいるが、嗜好ががらりと変わった。ただ、人間の美味しいと感じる塩分濃度と私の嗜好は同じくらいであるからか、味見は出来る」


「そうなのか」


 今回の私は、マリアではなく研究職としての私だろう。ややこしいな。


「そういや、昔食ってた刺身はどうなんだ」


「動物と同じだ。新鮮ならば食べられる」


「じゃあ、今度は釣りしてその場で食べられる店とかに行ってみるか。もしくは夜釣りか」


「それは……嬉しいな」


 こいつの親愛の示し方として、俺に自分と同じものを食べさせたいというのがあるのは知ってる。

 だが、こいつの食性が偏り過ぎているせいで、今までなかなか実現してこなかった。

 しかし、俺は押しも押されぬJapanese people。

 生魚も生卵もどんと来いである。

荷物のように抱えられる山村。

ピエタ像はググってみて下さい。

千賀は山村の顔が見えていた方が嬉しかったようです。

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