055 えものと血
本日七話目……?
あっ、これ予約投稿しているのは、6/9ですのであしからず。
「それで、どこに行くんだ?」
千賀がそう聞いてきた。
「星に会いに行く」
「星……俺の同族だったか?」
「そうだよ」
昨晩星に連絡したら、今日の夜会おうという話になった。
以前訪れた店では星は店で提供された血を飲んでいたし、千賀を連れてまた飲もうという話もしていたし、丁度いい機会だろう。
夜。
俺は夕飯を食べてから、千賀の車に乗せられていた。
「そういえばお前は仕事どうしてんだ?」
「山村が傷病休暇ということで、世話をするために一時的にリモートの割合を増やしてもらっている」
千賀は千賀でちゃんと考えて行動していたようだ。
普通に大人なのだから当たり前なのだが、いつもの様子を見ていると本当に大人なのか不安になるのだから仕方がない。
「というか俺、研究所ですぐ怪我する奴になってないか?」
「なってはいるが、不可抗力だ」
「大体お前のせいだけどな」
そう言うと、千賀は「うっ」と言葉を詰まらせた。
「いんだよ、俺の選択の結果だからな」
俺は千賀のシフトレバーを握る手の上から、自分の手を重ねた。
「ぴゃっ!」
今の音は千賀から出たのか?
千賀はゆっくりと俺の手を俺の膝の上に戻した。
「……運転中はやめてくれ」
「悪かった」
俺は反省した。
車は何とも言えない空気の中、駅ビルの駐車場に停車した。
千賀は病み上がりの俺の歩調に合わせて、ゆっくりと歩いてくれた。
「悪いな」
俺は駅の外にあるベンチに腰掛けた。
千賀は俺の言葉にふるふると首を振る。
「そういえばMk.2は最近出てこないな」
千賀は自分の胸に手を当てた。
「俺がある程度安定してないと出て来ないのか、声が小さくなるのかもしれない」
つまり、今の千賀は不安定だということだ。
きっと、心理的にではなく身体的に満たされていないという意味だろう。
俺がこんな調子だからな。
「山村くん! 元気してた? 隣の彼が君の彼かな?」
星は建物の前で待っていた。
「千賀と申します」
千賀は軽くお辞儀をして星に挨拶した。
「へぇー、君がね」
星は千賀を値踏みするような目で見た。
千賀は動じない。
星の視線はすぐに俺に移った。
星は俺に近づいて、ふんふんと匂いを嗅いでいる。
「案内するよ」
俺たちはこの前の個室に通された。
個室には既に一人の女性がいた。
所謂ゴスロリの服に身を包んだ、地雷系とも呼ばれるファッションをした若い女性だ。
「こんばんは」
俺は挨拶をすると、小声で「こんばんは」と返ってきた。
「千賀くんは、俺と一緒に来てね」
千賀は部屋に到着早々、星に強制連行された。
俺は、気まずくなるのも嫌なので目の前の女性に話しかけた。
「俺は山村と言います。あなたは?」
「サチ。みんなからはハッピーって呼ばれてる」
幸せだからhappyか。
だがしかし、目の前の女性が幸せそうに暮らしてきたようには見えない。
「あなたの彼、背が高いね」
「そうですね。千賀って言うんですけど、身長は180を超えていると思います」
ちなみに俺は168cmである。
少し小柄な方だ。
「私も、流星にいつも抱きしめてもらってるの」
「そうなんですか。俺は寒くなるからあんまり好きじゃないですね」
この女性、もしかしなくても星のイロか。
まぁ普通に考えれば、吸血鬼と人間の関係は恋愛だったり依存だったりに傾きやすいのはよく分かる。
サチはくすくすと笑った。
「流星も冷たいんだよね。だから、私があっためてあげたいって思うの」
俺は気になったことをサチに聞いてみた。
「あなたと星……流星さんはどこで知り合ったんだ?」
「私と流星のこと? 私が、友達にもらった薬でオーバードーズしながらリストカットをしている時に声をかけてくれたの。それから、私の居場所は流星になった」
「そうなんですか」
もしかすると、サチは俺の歳の半分くらいしかないのかもしれない。
「はい、お話終わり!」
星が部屋に戻ってきた。
千賀はずるずると引き摺られている。
千賀の甘い匂いがさっきよりも強いことに俺は気づいた。
「千賀、お前血ぃ流したのか?」
千賀は席に着いたまま無言になった。
「オレが先達だからね、教えるべきことを教えたまでさ」
星もそんなことしか言わない。
サチは星の隣に移動して、星に寄り掛かっている。
「山村くん、君死にかけたでしょ。今も本調子とは程遠い。その件でオレが千賀くんを〆ただけさ」
「〆た」
俺は復唱した。
千賀は俯いたまま、僅かに頷いた。
コンコンとノックされ、星が注文してくれたらしい飲み物が運ばれてきた。
俺とサチには牛乳、星と千賀には恐らく血が運ばれてきた。
「オレはもう食事をしたからさ、君が飲みなよ」
星は自分のドリンクを千賀に寄せた。
千賀はふるふると首を振った。
「他の人間の血は飲みたくない」
その瞬間、星は千賀の頬を掴んで持ち上げた。
「お前、そんなんでこれからどう生きていくつもりだよ。山村くんをこんなに無理させて、そんなに自分抑えられなくして、害獣にでもなるつもりか?」
千賀は何も言えない。
口ごと掴まれているからだ。
この件に関しては俺が心当たりがあったので、千賀に助け舟を出した。
「俺が千賀と約束したんです。俺の血以外は飲むなって」
星はパッと手を離した。
千賀がどさりとソファに落ちた。
「それを、お前は今までずっと律儀に守り続けてたってこと?」
千賀は星から顔を背けながら頷いた。
星は長いため息を吐いた。
「山村くん、その約束を撤廃してくれないか。このままだとこの馬鹿は駆除される。せめて、無理やり襲わないだとか、別の条件をつけて欲しい」
俺は頷いた。
「寧ろ、この状況になってまでその約束を守り続けているとは思ってもみませんでした」
「ほんとにね。信じられない頑固者だよ」
星は千賀を見た。
千賀は俯いている。
「千賀」
千賀は顔を上げた。
「約束を変更する。俺以外の人間から、無理やり血をもらおうとするな。限界な時は普通に催眠でも何でも使えるものは使え。それでいいだろ?」
星は頷いた。
これでいいらしい。
「分かった」
「約束しろ」
「約束する」
これで約束が上書きされた。
星は千賀に対して呆れ返っている。
「ほんとさ、この男を同族にしたのはどこの誰なんだ。向いて無さすぎでしょ」
「恐らく教授だ」
「教授ー? ほんとあの人何考えてんだか分かったもんじゃないね」
俺は牛乳を飲みながら星と話していた。
サチは肩に回された星の腕の下で俺と同じく牛乳を飲んでいる。
千賀は血の入ったコップの前で固まっていた。
俺は仕方なく千賀に対して、
「千賀、よし。飲んでいいぞ」
と許可を出すと、千賀は一瞬で飲み干した。
許可待ちだったのかよ。
「味はどうなんだ?」
「俺は山村の方が好きだ」
突然の告白だが、これは味についての話である。
俺は少しだけ自信を深めた自分の心が疑わしくなった。
山村は身長168cmですが、身長に対するコンプレックスは一切ないので、靴で盛ったり、「俺170cm」とか一切言いません。
いつも等身大の自分です。




