049 えいがと出前
突然ですが、今日は私の誕生日です。
ということで、0時から23時まで毎時間投稿します。
感謝の24話投稿です。
ここが本日一話目です。
「で、早速だが今週末にお前の母校に行く」
「分かった、大学に連絡しておく」
「後はそうだな。少しずつでいいから、教授のことを聞かせてくれ。そこに何かヒントがありそうだ」
「分かった」
「今日はもう遅いから寝るぞ」
俺は怠くなった身体をベッドに放り出した。
布団を掛けたら、千賀が潜り込んで来た。
お前は猫か。
「どこも行くなよ」
「善処する」
「約束しろ」
「約束する」
俺は静かに電気を消した。
土曜日。
天気は雨だった。
「雨はどうなんだ」
「少しなら平気だが、大雨は良くない。一応靴を履いているからマシだが、動きは鈍る」
千賀は大学に連絡し、来訪予定を一日後にずらした。
「じゃあ今日は暇だな。何かするか?」
「えっ」
千賀はまさか聞かれると思っていなかったという顔をする。
「何かないのか? こう、ソファに座って、コーラ飲みながらポテチ食べて、ゲームしたり映画見たりするとかさ」
俺はそう言ってみてから、千賀にとってのそれは何に当たるのか考えてみた。
ソファという温かいところは、俺への接触か。
コーラやポテチも、俺の血か。
ゲームとか映画はそのままか。
つまり、俺を抱き抱えながら何かしたいということになるのか。
本当に自分だけで欲を満たせないのは大変だな。
千賀も同じことに思い至ったようだ。
スマホを眩しそうに眺めながらポチポチしている。
「山村、一緒に映画を観よう」
千賀は自分の鞄からノートパソコンを取り出した。
机の上に置くと、俺にソファに座るように促した。
「山村の家のWi-Fiは?」
「アパートで契約してるのがあるから、番号送っとく」
「助かる」
最近思うんだが、化け物が文明の利器を普通に使えるのってかなり脅威ではないか?
「今契約した」
南アメリカの大河の名前を冠した大企業の映画視聴サービスと契約をした千賀は、俺に聞くことなく観る映画を選んだ。
内容は、吸血鬼を題材としたホラーサスペンスものである。
「別にいいけど」
俺は千賀の隣に腰掛け、一緒に映画を観ようとしたところで画面が一時停止した。
何をするのかと思えば、千賀は食器棚の奥から俺が隠していたビーフジャーキーを取り出して来た。
コップにトプトプと麦茶を注ぎ、皿に出したビーフジャーキーには黒胡椒を振っていた。
それを机の上に置き、高さが足りなかったパソコンの下にはタオルの山を置いて調節し、自分用には骨ガムとタオルを用意して着席した。
「山村、俺の膝の上で一緒に観よう」
「はいはい」
俺は吸血鬼に捕まりながら、千賀と一緒に吸血鬼から逃げる映画を観た。
「お前、夢は見るのか?」
「見ているのかも知れないが、覚えているのは、一面の茅の原で、交わした約束を果たさなければということくらいだ」
「結構覚えているんだな」
「何度も繰り返し見ていればそうなる」
「約束までは覚えていないのか」
「あぁ。ただ、誰かを探さねばという焦燥感がずっと胸にこびりついている」
千賀は俺をぎゅっと抱きしめた。
俺は普通に苦しくなったので、「苦しいわ」と千賀の足を軽く蹴飛ばした。
拘束が緩み、映画は進む。
唐突なR18シーンは千賀が責任を持って飛ばした。
俺も千賀をそんな目では見ないし、千賀も俺をそんな目で見るつもりはないのだろう。
だったら千賀は俺にとって何なのかと聞かれれば、やはり、大事な人というのが一番しっくりくる。
ちなみに、人が殺されるシーンは普通に観た。
普通逆じゃね?
「このハーディングさん気の毒すぎない?」
「本当にな」
「お前も人に取り憑くとかできんの?」
「私は……」
「私じゃなくて、千賀はどうなんだ」
「俺は出来ないな」
俺は、千賀の人格を引き出すライフハックを覚えた。
千賀は特に反応がない。本当に無意識なのか。
映画は化け物が死んで終わった。
「お前が杭とか銃弾とか日光で簡単にくたばらなくてよかったよ」
「本当にな。ただ、伯爵の死に様は共感できる」
「そこ共感すんのかよ」
「あぁ。どんなものであれ、彼は望みを果たしたのだからな」
「それは千賀としての言葉か?」
「恐らく両方だ」
千賀は俺を見ながら静かに頷いた。
その後は、大人しく未視聴だった環境系ドキュメンタリーを観た。
千賀はちゃんと研究者らしく、動物の生態について補足情報を入れてくれるのでかなり楽しめた。
不意に、千賀が手を伸ばしたと思えば、骨ガムを掴んだ。
そしてナチュラルに口元にそれを運ぶ。
「もしかして、我慢が効かなくなったのか」
「ほうは」
千賀は俺をずっと抱きしめていたため、ちょっと噛みつきたくなってしまったらしい。
最初の映画でも普通に吸血シーンがあったので余計に唆られたのだろう。
そりゃそうだよなと思いつつ、それをちゃんと俺ではなく物で対処していることに、俺は「偉い偉い」と千賀の頭を撫でて褒めた。
千賀は照れずに、俺の手を静かに、しかし嬉しそうに受け入れていた。
「今日は買い物に行くつもりだった」
千賀曰く、あんまり食材がないらしい。
千賀は冷凍食品をほとんど買わなかったし、先ほどのお昼で最後の冷凍パスタを食べてしまった。
乾物の備蓄もそれほどない。
外の雨は強まるばかりで、そろそろ千賀の外出が難しくなりそうなくらいだ。
「出前でも取るか」
俺は近くの店を探して、適当に牛丼を頼んでみた。千賀は俺の画面を覗いており、注文完了後に頷いて台所へ行き、何かを作り始めた。
しばらくすると、インターホンが鳴らされた。
「俺が出る」
気を抜いてマスクもサングラスもしていない千賀に家主である俺が来客対応させる理由はない。
普通に出前の人だったので、普通に荷物を受け取った。
振り返ると、千賀がじっとこちらを見つめていた。
「その目で凝視されると怖いんだが」
「宅配が家の中に入って来ないか見張っていた」
「いや宅配の人はな、普通に宅配に来ただけだから。変に縄張り意識持たんでいいから」
俺が鍵をかけて牛丼と共に座ると、箸と麦茶が出てきた。
「これも食べてくれ」
ついでにサラダも出てきた。
俺はサラダがあまり好きではないのだが、千賀が作ってくれたのなら仕方がない。
千賀に見られながら、今日の夕飯も食べ切った。
「時々、ここが平和である事が信じられなくなる」
千賀はそんなことを言う。
「平和だよ、平和だろ? いいんだよ、お前はよく頑張ってる。戦場で何をしてきたかは知らんが、ここに生き延びて帰って来れたんだからお前の勝ちだ」
「そう、そうなんだが。これから戦争が始まるような思いが胸から離れない」
千賀はまた自分の胸に触れた。
「なんか理由があんのか?」
「ない」
「ないなら自分を納得させ続けるしかないな。俺も手伝ってやるからさ。とりあえず風呂入れて入るか」
「そうだな」
俺は言うや否や風呂掃除に向かったが、千賀のスピードには勝てなかった。ずるいぞ!
いつもは風呂に入りたがらない千賀を風呂に入れ、俺はソファで寛いでいた。
「山村」
「いるぞ」
時々風呂から俺の生存確認が聞こえる。
寧ろ俺が生存確認する側なんじゃないのか。
いつもの通り、俺が布団をかけると千賀が潜り込んできた。
ちなみに俺のベッドはこれまた地元の掲示板で有償譲渡された中古品であるが、妙にでかい。
そうじゃなければ大の男二人が寝れるはずもないからな。
「明日は別に急がないんだろ、午後から……いや、昼ご飯を食べに行くくらいで出かけようか」
「分かった」
まぁこいつは俺が飯だし、次の俺の給餌は明日実験室でだろうから、どちらでもいいのだろう。
「おやすみ」
俺は電気を消した。
ベッドのスプリングの軋みで俺は目を覚ました。
まだ外は暗い。
「どこ行くんだ」
俺は暗がりに声をかけた。
「カヅキを探しに」
さっきまでベッドの塊だった奴はそう答えた。
「靴は履いていけよ」
奴は玄関に寄り、窓を開けて音もなく外へと身を翻した。
俺はその姿を見送ってから寝た。
日曜日の朝。
また布団の中に塊が生成されていた。
俺はそうっと起こさないように起きようとしたら、足をがしっと掴まれて動けなくなった。
「んー」
今朝は特に用事もない。
まぁいいかと思いながら、二度寝した。
次起きた時は昼間近くだった。
「昼ですよー」
俺はカーテンを開けてから、容赦なく布団を引っ剥がすと、千賀はシュっとベッドの影に隠れた。
俺は奴が起きたことを確認し、カーテンを閉めた。
「びっくりした……」
千賀はまるで、寝耳に水を注がれた時のように嫌な体験をしたという顔をしている。
「そんなに嫌か」
そう聞けば「うん」と答える。
まぁ弱点とか言ってたしな。
今度からこの起こし方はやめるか。
千賀はのろのろと眩しそうにベッドの影から這い出した。
「このカーテンでも明る過ぎるのか?」
「明るい」
「じゃあ、今度ホームセンターで遮光カーテンを買おう」
「そうしたい」
また奴と出かける予定が増えた。
このところ常に一緒にいる気がするのは気のせいだろうか。
千賀、玩具で我慢できてえらいえらい。
でも出前に威嚇すんなよな。
山村も苦労してますね。
でもそれが愛おしいんですよね。
全然口には出さないけどね。




