034 かりうどと教授
面倒すぎてルビやってないのですが、
槍は(うつぎ)と読むらしいです。
実在の苗字ですが、実在の方とは何にも関係ないです。
2026/6/13 面倒ですが分からなさそうな全ての漢字にルビつけろを決行しています。
俺はもう少し、槍教授という人を調べてみたいと思った。
だが、手掛かりは何もなかった。
当然の話だ、悠久を生きるだろう吸血鬼の情報が、こんな調べてすぐ出てくるようだったら逆に怪しい。
俺は心当たりのある場所に連絡してみた。
まずは、この前の吸血鬼である星。
「流星〜shooting star〜」と書かれた黒の背景にキラキラとラメが振られた名刺には、電話番号しか書かれていなかった。
もう日も沈んでおり仕事中だったら迷惑かなと思ってメッセージで[山村です。お聞きしたいことがあります]と打ち込むと、すぐに[でんわば んご]と返信があった。
少し考えて、スマホを使いこなせてない可能性を思いつくと、俺は[今から電話かけても大丈夫ですか]と聞き、[いい]と返事をもらってから名刺にあった番号に電話をかけた。
「星さん。山村です。少し聞きたいことがあるんですがお時間大丈夫ですか?」
「いいよ、困ってるんだろう?」
「槍教授……『教授』と呼ばれるあなたの同族に心当たりはありませんか?」
「知ってはいるよ、『教授』でしょ。そんな名前で活動してたんだ」
「ご存知ですか」
「変人だよ。とにかく変わってる。政府が嫌いで、いつも一人。一番人間っぽいけど、きっとそうじゃない。集会にはあんまり参加しないし、親もいないみたい。一度なんかトラブった人がいたらしいんだけど、教授がトラウマになってたことから、敵に回しちゃいけない人だって言われているね」
「他にはありますか?」
「うーん、医療に精通してそうだったね。それと、一回だけ話しているの聞いた時に、『継承』がうんたらとか言っていたかなぁ。本当にそれくらい」
「ありがとうございます、助かります」
「君の方は大丈夫だったの?」
「はい、あのまま瀉血してもらいました」
「そっかぁ、もったいないけどそれで良かったのかもね」
「それと、この前の牛乳ご馳走でした」
「いいのいいの、オレら金の使い処があんまりないからね、ほんとに気にしないでね」
「また何かあったら電話させてもらっても大丈夫ですか?」
「もちろんさ。今度はゆっくり一緒に飲もうね。君の彼と一緒に、さ」
電話はそこで切れた。
星の方から先に連絡したのには理由がある。
神保からは既に一通のメールが届いていたからだ。
[直接会って話がしたい]と。
俺が仕事を終えると、一台の見覚えのない車が研究所の外に停まっていた。
窓が少しずつ降り、
「行くぞ、乗ってくれ」
運転席の神保が俺に声をかけた。
「あんまりこういう目立つことはやめてほしいんですが」
「悪かった。次から気をつけよう」
研究所の前に不審な車があると言われたら堪ったものではないからな。
「で、何の用ですか?」
「着いてから話そう」
神保はしばらく車を走らせていた。
「失礼だったら悪いんですが、神保さんは、この宗教を信じているんですか?」
「いや別に」
俺の質問に、神保は何てことないように答えた。
「ではなぜ、狩人としてここにいるんですか?」
「復讐のためだ」
神保の声にはあくまで温度が乗っていなかった。俺はあまりの答えに口を噤んだが、神保は気にしていないかのように話を続けた。
「俺は元々、政府の役人だった。化け物担当のな。ある日、両親と恋人が、俺の追っていた化け物に殺された。俺は仕事を辞め、狩人になった。それだけだ」
重すぎる。
俺はこれを聞いても良かったのかと後悔したが、話してくれたものだから俺のせいじゃない。
気になることはあるが、これ以上この話をしても重くなるばかりだろう。
俺はこの空気を打開するために、別の質問をした。
「そういえば、氏家さんは?」
「置いて来た」
「ご一緒じゃないんですね」
「あいつがいるとまとまる話もまとまらない」
自覚があったのか、と俺は益体もなくそう思った。
神保が俺を連れてきたのは、明らかに一見さんお断りのお店だった。
俺は内心「ひぇー」と思いながらも、黙って神保についていく。
この時ほど、この広い背中が頼もしいと感じた時はなかった。
それに、と俺は匂いを嗅ぐ。
この店は……。
「ここなら安心して話せる」
個室に連れてこられた俺は、神保と一対一で向かい合った。
「ここって、宗教のお店ですか?」
「何故分かった?」
神保は片眉を上げた。
「匂いです。どこの机からもあの独特な蝋燭の匂いがします」
「山村は本当に鼻が良いんだな。狩人になる気はないか?」
それはきっと、本心からの誘いだったのだろう。
俺は少しだけ、狩人になった未来を考えてから、首を振って断った。
「俺は、千賀先生と同じ側に立ちたい」
「そうか、それは……残念だ」
神保は本当に残念そうだった。
「そういえばお前、体調は大丈夫か?」
「おかげさまで平気です」
「そうか、うちの氏家なんだが、あれから調子が悪くてな。『エモノ』だったか? 氏家は屈辱と言いながらも血を抜かれていた。お前の方が症状が重いと思ったのだが、本当に平気なのか?」
氏家の方が俺よりも症状が軽いだろうが、一度餌者にされたら、様々な症状がついて回る。氏家はそれを隠して仕事をしているのだろう。
「あー……実はですね、千賀が俺に直接噛みついたのは、あれが初めてだったんですよね」
神保は目を見開いた。
随分と目の色が薄い。
「それまではどうしていた?」
「普通にここから採血されてました、ほら」
俺は採血跡がわずかに残る左腕を見せた。
神保は椅子に深く腰掛け直した。
「本当に、俺達は余計なことをしてしまったのか」
「いや、きっといつかはこうなっていた」
離れている今なら分かるが、千賀との生活は危ういバランスの上に成り立っていたものだった。
それに、教授という親もいる。
だから、一度破綻すべきだったのだと、今では思っていた。
その上で、俺はもう一度千賀の手を掴む。
「それで、どうして俺を呼んだんですか?」
「『教授』の情報が手に入った」
神保は話を切り出した。
「言っただろう、俺が政府の役人だったと。その伝を使って、政府側から情報を抜いた」
俺は身を乗り出した。
「俺も詳しくは無いが、政府側には話が通じる化け物の登録制度があるらしい」
「何すかそれ」
「融和派がそういうことをしている様だ。話が通じるなら対話でという話なのだろう。俺達はそこから漏れた化け物を狩っていたのだろう」
「どういうことですか?」
「つまり、教授がその千賀を連れて、政府の役人と会う予定があるということだ」
「どこで?」
俺は聞き漏らさぬよう、持てる集中力をフル稼働して話に集中した。
「今週末の土曜日、◯◯山の◯◯診療所」
そこは、昔結核などの診療所や療養所があった場所だと記憶している。
密会には適した場所なのだろう。
「氏家がこれを知ったら、必ず殺しに行くだろう。だが俺は、それが必ずしも正解じゃ無いと思っている」
神保は俺の左腕を見ながらそう言った。
化け物に家族を殺された上での神保のこの言葉は、予想以上に重いものがあった。
俺は神保に夕飯を奢ってもらってから、家の最寄駅まで送ってもらった。
「記録から見るに、密会は恐らく夕方から夜にかけてだろう。俺は土曜の13時までここにいる」
この物語に千賀の名前が出て来ない話はあるのか、いや、ない(反語)。
こいつらいつも土日に動いてんな(休みだから)。




