サバイバルと修道服
サバゲー(実弾)
千賀の運転で来たのは、以前は大型ショッピングモール、現在は「エロヒムの救済」が所有しているという郊外にある会場だった。
入り口からして警備員が立っており、千賀が神保の名前を出してはじめて通してくれるような厳重ぶりである。
中で行われていることを考えれば妥当であるが。
まずは、一階ホールに全員が集合していた。
「サバゲーの会場みたいだな」
「それは正しい感想だ」
スーツを着た神保が俺たちを出迎えてくれた。
神保の後ろには、十人と少しくらいの人々が、銃や防弾チョッキで武装して立っていた。
「これから訓練を始める前に、今日のゲストを紹介する。千賀さんだ」
千賀は頭も下げずに一歩だけ彼らに近づいた。
「予め言っておくが、千賀さんは吸血鬼だ」
人々はざわめきだった。
その声を聞き分けてみると「やべぇ」「マジのバケモンじゃん」「やっと実戦始まったか」とか言っているのが聞こえる。
「これから行うのは訓練なので、ルールを設ける」
神保はそう言いながら、千賀に軍手と赤い液体の入ったバケツを渡した。
「千賀さんはこの軍手を嵌めて、バケツのインクをつけて見習い達の致命傷となり得る箇所に手形をつけてくれ。手形をつけられた見習いは脱落、管制室まで来て反省を聞いてから、インクを落として再度復帰も可能だ。時間は14時まで。何か質問はあるか?」
早速、一人の見習いが手を挙げた。
「そのバケモン、俺が勢い余って殺してしまってもいいんですかね?」
その質問に、神保はため息を吐いてから答えた。
「殺しても死なないような人だから平気だ。それに」
千賀が消えたと思ったら、質問者の首に手をかけていた。
「お前達が殺されないように気をつけた方がいい」
質問者は「チッ!」と千賀にナイフを刺そうとしても、軽々と取り押さえられていた。
千賀はナイフの先に噛みついて、「チンッ」という音と共に先端を折って吐き出した。
「千賀、ハウス」
俺はもうここまででいいと判断して声をかけると、千賀は喜んで俺のところに飛んできた。
「千賀さん。備品もタダじゃないから、なるべくなら壊さないでいてくれると助かる」
「だってよ千賀。分かったか」
神保にそう言われると、俺にのしかかる千賀は「分かった」と耳元で囁いてきた。
「見ての通り、千賀さんは人間に友好的だ。お前達は、仲間の跳弾で傷つくことをまずは恐れた方が良い。他に何かある者は?」
もう一人、挙手した見習いがいた。
恐らく女性のようだ。
「すみません、私たち怖いので、ちゃんとその化け物に首輪をつけてくれないと安心できません」
「千賀さんは少なくとも精神性だけは人間と同等に尊重しなさい」
女性の意見に、神保はピシャリと言った。
俺はそう思われるのは仕方がないと思ったので声を上げた。
「分かりました。俺がこいつに言って聞かせます。千賀、分かってると思うがお前から彼らに傷をつけるな。これは遊びだから、十分手加減しろ。破ったら次の食事は抜きだ。約束できるな?」
「勿論だよ、山村」
千賀は俺と指切りをし、俺はその姿を見習い達に見せつけた。
「それと神保さん。千賀の服を何か借りてもいいですか。それに、インカムのように俺の言葉をリアルタイムで千賀に伝えられる機械とかもあったら貸してください」
「分かった、準備しよう。お前達は、その間に各々好きな場所に隠れてくれ。千賀さんの準備が整ったら、館内放送で開始を伝える。他に何かある者は?」
見習い達の表情が引き締まった。
「俺と山村君と会田さんは、一緒に管制室のモニターで様子を見よう。俺は見習い達の評価をつけねばならないが、君たちは好きなように観戦してしてくれていい」
「僕、サバゲーって興味あったんだよね。楽しみ」
会田はウキウキとしている。
適応力が高い。
「俺は千賀がやらかさないかずっと見てますから。何かあったら千賀を叱るんで、安心してください」
俺は一応見習いの人々にそう言ったが、彼らはピンと来ていない。
そりゃそうかと思いつつ、俺はこれから千賀の遊び相手になってくれる面々に頭を下げ、神保について管制室へと向かった。
「申し訳ないが、千賀さんが着れる服がこれしか」
神保から渡されたのは、白黒の長くひらひらした布が特徴的な服である。
「これって、そちらの修道服? えっ、超背徳的。なに? 堕ちた神父が同族を増やすために、自分の古巣である『エロヒムの救済』にやってきたら、そこには狩人が待ち受けていた、とか? 興奮するね」
会田はとても楽しそうにその服を指してお喋りをしている。
「どんな設定だよ」
俺はその発言に呆れ返ったが、実際あり得そうなのだから仕方がない。
「本当にいいのか?」
「今の服が我々の武器によって傷つく可能性があるのなら、着替えてもらう他無いだろう……」
神保にとってもあまり本意ではないようだが、それしかないというのなら仕方がない。
「千賀、とりあえずここにバケツと手袋を置いて着替えて来い」
俺はそう言って千賀を部屋から追い出そうとしたが、千賀は出ようとしない。
「この服、よく分からない。神保さん、着るのを手伝ってくれ」
そう言って、あろうことかこの場で服を脱ぎ始めた。
神保はあまりのことに言葉を失っている。
「こいつ、男性機能ないんで大丈夫です」
俺はフォローを入れようとして、どの方向からのフォローか分からない言葉を言い放った。
会田は爆笑している。
「申し訳ないが、神保さん、千賀に服を着せてやってほしい」
俺がそう頼むと、神保はやっと再起動して粛々と千賀の着替えを手伝ってくれた。
「千賀、何というかどことなく悪い色気がある神父みたいだな。何かエロい」
「ひゅーひゅー、悩みを抱えた女性も男性も誑かして裏で食い物にしていそうな悪い感じが堪らないよ、よっ、むーちゃんカッコいい!」
俺と会田の感想を受けて、千賀は照れ照れしている。そこ照れる場面なのか。
神保は何だか頭を抱えているようだ。
その時、俺のポケットからひょっこりとふくさが顔を出した。
「あっ、ふくさ」
俺が指先で撫でると、「チィー」と鳴いてくれた。
「ほら見てみろよ、千賀が面白い格好をしているぞ。ウケるだろ」
ふくさは千賀を見て、うんうんと頷いている。
「山村、父さんは『悪くないな』と言っている」
「馬子にも衣装って奴だよな」
俺がうんうんと頷くと、ふくさは俺の顔まで登ってきて翼でぺしぺしとし始めた。
「何だよ」
「父さんは『言い方が悪い』と山村にダメ出しをしている」
俺はふくさを掴んで顔から引き剥がし、もう一度じっくりと千賀を眺めた。
肩は隠されているのに、腰の細さはベルトで強調され、胸元に入った十字架が背徳的である。
「分かったよ、とても似合っているのに、それが悪い意味で似合っている……手を突くな、こんなんに襲われたら性癖が歪みそうだよ」
「山村……!」
「まぁ、遊んで来いよ。暇になったらここに話しに来てもいいから」
俺はしっしっと手で千賀を追い払うと、「行ってきます」と言ってから出かけて行った。
神保は終始頭を抱えながらその様子を見ていた。




