たいようと遊び
「はぁ、もう一回風呂いいかな?」
「どうぞ」
汗だくになった会田は、「服の予備があってよかったー」と着替えを持って再度風呂へと向かった。
「千賀、楽しかったか」
「あぁ」
千賀は楽しそうに頷き、俺の前にも革紐を垂らした。
「今度は山村がやってくれ」
「もうやんねーよ。今何時だと思ってんだ。22:43だよ。ご近所さんにご迷惑をおかけするな」
俺は千賀の誘いを突っぱねて、そのまま歯を磨きに行った。
つられて千賀も歯を磨きに来た。
俺が口を濯いでいると、背後で千賀が口を開けて何かを確認している。
後ろを振り返ると、なんとゆっくりと牙を伸ばしたり縮めたりしているではないか。
よくよく見ると、ちゃんと下の犬歯の長さも変動している。
ちゃんとしているな。
「なんそれ」
「食欲のトレーニング」
「どゆこと?」
「空腹をコントロールすることで、山村を大事にする。これは山村の味を思い出して、それを打ち消してを繰り返しているのだが」
千賀の俺を見る視線に、段々と切実なものが混ざるようになってきている気がする。
「やめた方がいいのでは?」
「そうだな……」
千賀はしゅんとして、とぼとぼと布団の前で立ち尽くした。
俺が布団にインするのを待っているようだ。
シャワーだけだったのか、早速会田が風呂から出てきた。
「僕は適当にクッションを枕に、タオルでも乗せて寝るから」
「クッションにはタオル巻いとけ」
タオルを渡すと、会田は素直にクッションへと巻いた。
俺と千賀も布団に入り、「おやすみ」と一声かけて電気を消した。
「ん……」
ものすごい勢いで何かが転がり落ちた音がして目を覚ますと、分厚い遮光カーテンが開いていた。
「おはよう、山村くん……むーちゃん?」
「おはよう、会田。カーテン閉めてもらってもいいか」
会田は何も言わずに即座にカーテンを閉めた。
「千賀は本当に太陽光が嫌らしくて、普通に脅しとして効くレベルだ」
「でも暗くない? いつもこんな感じだとセロトニンが生成されないよ?」
会田は俺を連れて太陽光を浴びにカーテンの向こう側に行った。
「山村がいなくなった……」
カーテン越しに、俺の肩ががしりと掴まれた。
「こうなるんだよ」
「なるほどね……」
俺は仕方なく日光浴を中断した。
「むーちゃん、山村離れをしよう」
会田の言葉に、千賀は「うぇっ?!」と飛び退いた。
「嫌だ。山村は俺のもの」
「何度違うと言わせる気だ、俺は俺。お前はお前。ジャイ◯ンじゃないんだから」
俺は千賀に言い聞かせるが、千賀は嫌々と首を振るばかり。
「お前それでも41歳のおじさんか? 言いたいことがあんならちゃんと言葉にしろ、見ているこっちが恥ずかしいわ」
「分かった。俺は短い時間でも山村と離れたくない。山村が失われるのは怖いからだ」
「言葉で説明できるなら先に言え」
俺は千賀の腕を引っ叩いた。
察してもらおうなんてのは甘えだ。
「嫌だよ、山村と一緒がいいよ」
千賀は俺に覆い被さってきた。
俺は「離せ」と動くが、千賀は俺に合わせて身体を動かして全然離れない。
これが暖簾に腕押しというものか。
動くには支障がないから、仕方ないか……。
「会田、どうすんだ」
「僕はむーちゃんと旧交を温めたい。今日の午前中、借りてっていいかな?」
「昼間は動きたくない……」
千賀は俺にのしかかって散歩拒否をする犬のようだ。
正直邪魔くさいが、どかそうとしても運動能力が違いすぎてくっついてくるので諦めた。
「こいつは仕事じゃないと俺が一緒でも動きたがらないぞ」
俺は親指で覆い被さる奴を指した。
「えぇー、じゃ、日が落ちてきてから、むーちゃんの食事のお店に山村くんを置いていこう。ね?」
会田は千賀の手を引くが、千賀はつれない態度だ。
「山村を置いていく理由はあるのか」
「んー、むーちゃんの独り立ちのため?」
「理由が弱い」
千賀の奴、俺とのやり取りのせいで、少しずつ扱いにくくなってきていやがる。
会田は俺を見た。
「なんとかしてよ、山えもん」
「まだ俺の体調も悪いし、千賀も動きたがらない。それに今日は教授に会いに行く日なんだ。午前中くらいゆっくりしていてもいいだろ」
「山村!」
千賀は俺を持ち上げて、「やめろ」と言われて降ろした。
俺は部屋の隅からいいものを取り出した。
「ゲームでもしないか?」
手の痺れが残る俺。
動体視力だけはいいがゲームは触れたことのない千賀。
地味に昔ゲームをやっていたがブランクの長い会田。
この三人の実力は、意外と拮抗していた。
だが、時間が経つにつれ、どんどんと千賀有利の状況が続くようになる。
「じゃ、今から俺と会田でチーム組むから」
「えっ?」
「化け物は孤独なもんなんだよ」
俺がそう言ってやると、千賀は裏切られたという顔をする。
「山村? どうして……会田の方が良くなったのか?」
「違うから。ゲームの話だから。お前がうまくなってきたから敵わなくなってきたんだよ。バランス取ってるだけ」
そう言って、俺と会田は千賀に嫌がらせを仕掛けながら協力してフィールドから落としたりとハメ技をしたことにより、千賀は拗ねてゲームをやめてしまった。
「いじめだ……」
「お前が強いんだよ」
俺はベッドの上で体育座りをする千賀の頭を撫で撫でした。
千賀は赤茶の目をこちらに向けてきた。
「もっと楽しいことしたい」
「分かった。何がいい」
「山村がいい」
千賀は頭を撫でる俺の手をガシっと掴んだ。
俺は反対の手でペシっと千賀の手を叩いて一歩離れた。
「もっと具体的に言え。それに、会田もいるんだから会田ともできることにしてくれ」
俺は後ろから来ていた会田の隣に並んだ。
「追いかけたい……鬼ごっことか?」
「それごっこじゃなくてお前が鬼だろ。普通にホラーだわ。それにどこでやる? 昼間は外に出たくないんだろ? 公共の場はダメだ。山は危ないし、家は見ての通り2DKしかない」
千賀は黙って考えている。
会田も「そうだよねー」と両手を組んで頭に乗せている。
その時、俺のスマホに連絡があったので、ポケットから取り出して見てみた。
神保からだ。
内容は、今日の集合場所の確認のようだ。
俺はパッと思いついたことがあったので、即座に神保に電話をかけてみた。
「神保だ。山村君か。どうした」
「神保さん、お願いがあるんですが……」
俺はそこで、今思いついた内容を話してみた。
千賀も、もちろん会田も目を見張っている。
「……そうか。願ったり叶ったり、というところか。よろしく頼む」
俺は神保と話を詰め、千賀が店に寄って食事をする時間まで神保にお世話になることとなった。
「しかし、本当に良いのか? 一応千賀さんの言葉も聞きたい」
神保がそう言うので、俺は「代わりますね」と千賀にスマホを渡した。
「君達が遊んでくれるのなら、私は構わないがね」
千賀は肝が冷えるような温度で、その一言だけ伝えてから俺にスマホを返してきたので、俺は千賀の腕をパシっと叩いて「先に感謝しろ」と言ってからスマホを受け取った。
「うちの千賀が失礼しました」
「いい。それくらいの意気の方が有難い」
話はまとまったので、会田と俺たちは荷物をまとめて出かけることとした。
なお、ふくさは朝から寝こけている。
教授も何かと忙しいのだろう。
この期に及んでまだ何かするつもりなのか?




