レバーカツと手本
「夕飯ができた」
千賀が皿を持ってやってきた。
机の上には、揚げ物とご飯が並べられた。
「これはなんだ?」
俺が聞くと、千賀は説明してくれた。
「これがレバーカツ、これが大葉と豚肉のはさみ揚げ、これは余った大葉の天ぷら、さつまいも、れんこん、それでこれはバナナの天ぷら」
「バナナぁ?」
俺が怪訝な顔で聞き返すと、「これ好きだったんだ」と千賀は俺に言った。
「食べてみて。美味しいから」
千賀は俺の皿にバナナの天ぷらを置いた。
俺は千賀がそう言うので、仕方なく口に入れてみた。
衣を纏ったバナナは熱々で、口の中でとろけるような健全な甘さと天ぷらの粉との相性が抜群だった。
確かにこれはおいしい。
俺は千賀に頷いた。
千賀はとても嬉しそうに微笑んだ。
「だが甘い。これはデザートだな」
俺は二つ目を皿に入れようとする千賀を制し、レバーカツに手をつけた。
「塩? ソース?」
「ソースで」
千賀がデーツ入りの甘めなソースを手渡してきた。
俺はいい感じにソースをかけてサクサクとした衣と、肉肉しい内臓の風味を味わった。
「むーちゃん、おいしいよ。ありがとねぇ」
会田はいつの間にか取り出したプレミアムなビールをプシュっと開けた。
こいつマジ今日家で泊まる気だったな。
会田は「かんぱーい」と言って缶を持ち上げたので、俺も仕方なくスポーツドリンクのコップで乾杯してやった。
千賀は何も飲むものがなくて可哀想に思ったので、俺は千賀に自分のコップを取って来させた。
よく分からないという顔をする千賀からクマ柄のマグカップを受け取り、俺はスポーツドリンクを注いだ。
「ほら乾杯だ」
「かんぱーい!」
俺がそう言うと、会田も楽しそうに缶を持って、千賀のコップを軽く叩いた。
俺のコップと千賀のマグカップが鈍い音を立てた。
「じゃ、それ俺が飲むから」
俺は千賀のマグカップを奪って口をつけた。
千賀はどうしていいか分からずにおろおろとしている。
「お前が仲間外れみたいなのが嫌だったんだよ」
俺がそう言ってやると、少しずつ言葉が沁みていったからか、千賀はふにゃりと笑った。
と思ったら目を見開いてわたわたとし始めた。
「山村、俺、これ、間接……山村と、俺、同じコップ……」
「お前が何を言いたいのかは分かるが、洗ってたらノーカンだぞ」
俺は情緒をかき乱されている千賀を横目に、熱々の天ぷらやカツに舌鼓を打った。
「なぁ会田」
「なーに?」
「会田から見て、千賀の俺の食事回数ってどんなもんよ。多すぎ? 少なすぎ?」
「んー」
俺の質問に会田は悩んでから、「分かんない」と答えた。
「僕はさ、むーちゃん以外の吸血鬼とか見たことないからさ、どのくらいが丁度いいのかは分かんない。それにそういうのって個人差があるものだから、少しずつ試していくしかないと思うよ」
「そうか、確かにそれはそうだな」
俺は会田の答えに納得した。
「これは僕の個人的な見解だけど、むーちゃん、実は食事の仕方が下手とか言われていたから、教授にお手本見せてもらえばいいんじゃない?」
「へぁっ?!」
突然話に教授が出てきて、千賀は不意を突かれた。
教授も話を聞いていたからか、ふくさは巣から出てきて千賀の肩に止まった。
「父さん、俺からも頼む。その、持続可能な山村の方法を教えて欲しい」
千賀は肩のふくさにそう話しかけた。
俺はもっと言い方があるだろうと思ったが、口には出さなかった。
「『元よりそのつもりだ。お前には血を与えるばかりでそこを伝えて来なかったからな。山村葉一。うちの睦月が世話になっている』、っと、父さん?!」
千賀は突然教授が俺に対して発言を始めたから驚いているが、俺は千賀がぽっと出の教授のものとされたのが気に食わなかった。
「こちらこそ、明日はうちの千賀がお世話になりますから、よろしくお願いしますね?」
俺がふくさにそう言うと、ふくさは首を傾げて興味深そうに俺を見た。
「『こちらこそ、よろしく頼む』と言っている。父さんと山村は何を張り合ってたんだ?」
千賀が不思議そうな顔で聞き、会田がそれに答えていた。
「そりゃむーちゃんの所有権だよ。明日、多分むーちゃんは山村くんか槍先生のどちらかを選ばなくちゃいけないからね」
「それなんだが」
千賀が声を上げた。
「俺はずっと、山村の言葉を考えていた。俺にも、一週間が七日ある。月も12ヶ月ある。だから、山村と父さんのところを行き来したいと言ったら、二人は怒らないか?」
「元々俺の発案だからな。お前がそれを選ぶなら俺は尊重する」
ふくさも小さく鳴いた。
「父さんも『妥協点か。考えておこう』と言っている。父さん……!」
千賀はふくさを両手に乗せて、「ありがとうございます」と頭を下げた。
俺も箸を置いて、「ありがとな」とふくさの頭を撫でてやった。
ふくさも気持ちよさそうにしているので、これはOKだろう。
「山村。ふくさは父さんだから。父さんも山村に懐かないでくれ。俺はどんな気持ちで二人を見ていればいい」
千賀は目を瞑って、俺とふくさに思いを訴えてきた。
ふくさはピクっと動いたが、そのままへにゃりと俺に撫でられるままになっている。
俺は俺でふくさのふわふわを楽しめている。
「何が悪いんだ? ふくさも気持ちよさそうじゃないか」
「父さん……」
千賀はふくさを持っている手を引っ込めて、ふくさを自分の肩に戻した。
ちなみに、会田はその様子をニマニマと眺めている。
俺が会田を見ると「なに? おもしろいなって」と俺たちを眺めるのをやめない。
会田にとって、俺たちは最高のエンタメなのかもしれない。
ご飯を食べ終わると、「僕がやるよ」と会田が洗い物を引き受けてくれた。
俺はスポーツドリンクを飲み、トイレに通いながらまったりとしていた。
そうする内に、お風呂が沸いた音がした。
「会田、先入ってくれ」
会田は荷物から服とタオルを取り出して、風呂へと向かった。
俺は会田がいなくなったので、ふくさを撫でることとした。
「ふくさ、ふくさ」
巣に戻っていたふくさは、俺の声でもそもそと隙間から出てきた。
しかし、俺の前には立ちはだかる障害があった。
「山村。父さんをどうするつもりだ」
「どうって……会田がいない時にかわいがりたいなって」
「どうして。俺がいるじゃないか」
「千賀はふわふわというよりサラサラだからなぁ」
千賀はぐいぐいと俺に頭を擦り付けてきた。
「撫でて欲しい」
「お前は犬か。分かったから、同時に撫でてやる。こっち来い」
俺はふくさを手に入れてから、ソファの端に腰を下ろした。
「ほら、久々の膝枕だ」
ぽんぽんと俺が膝を叩くと、シュタっと風を起こしながら千賀が俺の膝に頭を乗せた。
俺は片手でふくさを握り込んで撫でながら、片手で千賀の髪を撫で続けた。
バナナの天ぷらはおいしいよ。




