だえきと命
いつか文フリで出す!
「山村?! そんな、どうして?!」
千賀はショックを受けている。
会田はそんな千賀と俺を見比べている。
俺は会田に説明してやった。
「会田。千賀は、俺をふくさに取られると危惧したり、俺がふくさを構うと嫉妬をしてくるんだ」
「むーちゃん? ふくさはコウモリだよ?」
「違うんだ、会田。ふくさは教授と五感を共有できるんだ」
「へーぇ? その話、もっと聞かせてよ」
突然会田の態度が変わって、ここで初めて千賀はこれを言ったらまずかったと思ったらしい。
ふくさはより頑張って会田の手から抜け出そうとするが、「おっ、力あるね」と会田には通用しない。
「むーちゃんもそうだけど、教授はどんな身体機能をしているのかな。そもそもどうやって使い魔みたいにするんだろう。血? 僕がふくさの血をネズミにあげたら、ネズミがふくさの使い魔になるのかな、色々やってみたいと思わないかい、山村くん」
「えっ」
俺は会田の突然のキラーパスに驚いて返答できなかった。
「父さんは『もう何も言うまい』と意識をなるべく切っているみたいだ。そんなこともできるんだね、早く俺も欲しいな」
「うんうん、僕もむーちゃんの使い魔ほしいな。いつでも可愛がってあげるんだから」
「えぇ……山村がいい」
会田、またしても千賀レースのドベとなる。
どうしていつもいつも、会田はこうも千賀に無碍にされてしまうのか。
「ふくさは千賀と同じ性質を持つので、生物に触れているだけで微量にエナジードレインをしているそうだ」
「そうなの?!」
会田が興奮して、ふくさを握り込んだ。
「あと、いくら温めようとしても温かくならないらしい」
「ほんとだ、ふくさはひんやりだね。おもしろーい!」
ふくさは暗闇と温もりに包まれて落ち着いた。
野生動物は大体目隠しすると大人しくなるからな。
「僕ね、野生動物はおろかペットも全然なついてくれた記憶がないんだ。だから、手の中に小さな生き物がいるのが、すっごく嬉しい」
会田は興奮している。
俺も、会田にふくさを預けておくのはよくないのではと思い始めた。
「なぁ、俺はどうしたら早く麻痺が解けるかな」
俺が会田にそう聞くと、会田はパッとふくさをベッドの上に放って何かを取りに行った。
ふくさは突然変な格好で放り出されたから驚いていた。
会田、そういうところだぞ。
「むーちゃん、蒸しタオル作って」
「分かった」
千賀はタオルを持って水道へ、会田は俺にスポーツドリンクのペットボトルを渡した。
「はいこれ。こういう時はたくさん飲んで、患部を温めて、それで寝るしかないよ」
「分かった、そうさせてもらう」
俺はスポーツドリンクに口をつけると、とても喉が渇いていたことに気づいた。
レンジから取り出されたタオルは熱々なのに、千賀は苦もなくはたいて余計な熱を逃がしている。
千賀は俺お世話モードに入ると、余計なことは言わずにちゃんと仕事をする。
千賀のこういう細かな気遣いに、俺はいつもありがたく思っているのだが、如何せんいつも俺が倒れる理由も千賀であるため、手放しで褒める訳にはいかないのが難点だ。
「山村、少し動かすよ」
千賀は俺の姿勢を起こして、首元を半周させるようにタオルを巻いた。
「熱くないか?」
「丁度いいよ、ありがとう」
会田は俺のために作っていた麦茶を勝手に出して飲んでいた。
俺が自宅療養中もそうしていたのかもしれない。
「それで、俺はこいつに説教しなきゃならないんだが、会田は聞いていてくれるか?」
俺は少し迷ったが、今回は俺のために来て診てくれた会田が同席することに意味があると感じ、会田に同席を願った。
「えっ、山村くんのむーちゃん飼い慣らし講座? 聞きたい聞きたい!」
会田は何だか全く別のものを期待しているが、完全に間違いでもないため否定もし辛く、そのまま聞き流してしまった。
千賀は戦々恐々としている。
やらかしたという自覚はあるからだろうな。
「千賀。お前はどうして今回こんなことになってしまったのか、お前の言葉で説明してみろ」
「分かった。山村が完全に皿に盛りつけられたご飯の様になったのは、俺のせいです」
「足りない。その俺のせいというのは、何をやったからこうなったのか、お前の食事の様子を具に報告しろ」
「えっ……そんな、公開処刑だ!」
千賀は慄いて立ち去ろうとしたが、「むーちゃん?」と会田に声をかけられて渋々と戻ってきた。
「別にいつもはお前も嫌だろうから聞かないが、今回は俺が被害に遭っているんだから、再発防止のためにちゃんと事情聴取をする必要があるからだ。それ以上の理由はない。だから吐け」
「分かった。分かったが、俺にも整理できていない部分があるから、分からなくなったら聞いてくれ」
「おお、任せてくれ」
千賀は自分の感情を伝えきれていないのを認識した上で、俺の言葉を求めるようになったか。
成長したな。
「まず、昨日は頑張って山村を気遣いしようと舐めていたら、ピリピリと恐怖のスパイスで美味しくなってきて止められなくなりました」
「アウト。お前、別に俺は全く痛みを感じないまでは求めてないからな。寧ろ、少し痛みがあった方が何されているか分かって助かるから。今度からそうしてくれ」
「分かった」
千賀は素直に頷いたが、説教はまだ序の口だぞ?
「何かお前『もっと美味しくなれる』とか言って少し話をしたよな。別に食事中でも会話はあるもんだからそれはいい。問題はその後だ」
はぁーと俺はため息を吐き、額に手を当てて昨晩の寝る前を思い出した。
「『美味し過ぎる』とか言ってなんかしてたよな。お前は俺に何をしたんだ?」
「お、俺は……山村が、今までになくすっごく美味しくて、それで、もっと食べたくて、痛みがないだろうと思ってもっと傷を増やして、夢中になって血を啜りました」
「お前はそんなに腹が減っていたのか?」
「そうではなく、腹が満たされていても別腹というのがあるだろう」
千賀はそんなことを言うから俺は「こっち来い」とベッドの横に千賀を呼び出し、頭をぽすんと叩いた。
「その時、俺の体調はどうだったんだ」
「正直あまり気にかけていなかった」
「ダメじゃねーか!」
俺はポンポンと頭に拳骨を振り下ろした。
まだ身体が十全に動かないため、攻撃になってはいないのだが、この状態も含めて千賀は責任を取る必要がある。
「お前は食事をする時、俺が食われているんだよ。お前は俺を食い尽くしたくないのなら、ちゃんと残量を気にしてくれ。そうじゃないと俺は死ぬ」
「それでも、俺は山村を食い尽くさないように努力はしたんだ。山村は大事だから、傷が塞がるようにずっとずっと舐め続けていたんだ」
そこで、ふくさが小さく鳴いた。
千賀は「えっ?!」と驚いている。
「父さんは『原因はそれだ。お前は山村葉一に唾液を入れ過ぎた。死なせたいのか? お前は食事が下手過ぎる、見てられん』と言っている」
「どう考えてもそうだろうな」
「原因はそれだけど、どちらにしろ血も薄いからむーちゃんは山村くんに無理させすぎだね」
俺と会田は、教授の言葉に頷いた。
「あれか。お前、昨日俺が唾液を『気遣い』としたから、頑張って俺を舐めまくったのか」
俺は自分の言葉にも非があったことを思い出した。
千賀はうんうんと頷いている。
その様子を見て、俺は呆れ返った。
「お前な……最初に会田からネズミをもらって唾液の危険性を実験していたお前はどこに行ったんだよ。お前のやりたいことは大体俺を弱らせるし、俺の命が減っていくんだ。お前が少々舐めるのは気遣いかもしれない。だが、お前の唾液は俺を気遣ってはくれない。容赦なく俺をお前の餌へと貶める、危険なものなんだよ」
「俺は……危険?」
千賀は寄る辺なさそうな顔で俯いている。
俺はまた千賀の頭を、今度は手を開いてぽんぽんと叩いた。
「最初からそう言ってるが。お前は危険。俺がお前の危険まで全部背負える訳がない。だから、お前の危険はお前が管理しろ。失敗したら、俺が死ぬ。これは脅しでも何でもなく事実だ。分かったか?」
「ならば、俺はどうしたら良いんだ」
千賀はまた迷子になっている。
いい歳こいたおっさんなんだから、もっとしっかりしてほしいといつも思う。
「だから昨日、お前は俺と欲求と感情を選り分けたんだ。お前は欲求が暴れないように、適度に餌をやったり、宥めたりして飼い慣らすんだよ。餌は俺だから、一人で満たせないのはよく知っている。お前は欲求の具合を確認して、俺にお前の言葉で何をしてほしいのか頼むんだ。ずっと俺はそれをやってきたんだよ」
「飼い慣らす……」
「そうだ。こんな感じで、たまには褒めて、時には叱って、そうして付き合っていくしかないんだよ」
俺は愛おしくなって、千賀の頭をゆっくりと撫でた。
「僕さ、山村くんも心配だし、むーちゃんとの絡みを見ていたいから今日は泊めてよ」
「いいぞ。と言うか頼む」
会田が家に泊まりたいというので、俺は快諾した。
俺の体調を医者が横で見ててくれるというのだから、否やはない。
千賀を見ると、千賀は別にどちらでもいいようだ。
本当に会田は千賀にとってはニュートラルな存在なのかもしれない。
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