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かいどうさんと告白

 俺は先ほどの海堂女史の告白を思い出し、彼女だけに告白させるのは不平等だと思って、ずっと誰にも言わなかったことを口にした。


「海堂さん。さっきはあなたの気持ちを聞けてよかったです。実は俺も、海堂さんのことを少し気になっていました」


「えぇっ?!」


 俺の告白になぜか千賀が驚いた。

 俺は「運転」と言い、千賀の視線を前方に固定した。


「そうですか」


 海堂女史は穏やかに話を聞いてくれている。


「今でも、海堂さんとならいい感じに恋愛ができたんじゃないかと思う時があります。うまいくかどうかは別として。俺はずっと、海堂さんの態度に救われてきました。さっきも千賀が言い出すまでは、あなたは何の詮索もしようとしなかった。俺たちに何も聞かずにずっと見守ってくれていた。それはとても得難いもので、とても難しいことだと、俺は思います」


「ふふふ、私も大人ですから」


「海堂さんは、今でも俺の大人としてのお手本ですよ」


 俺はそこで言葉を切って、後部座席に振り返ってから、


「いつもありがとうございます」


 と言った。

 海堂女史は「こちらこそ」と小さく頭を下げた。


「ずるい」


「全く、お前は何てことを言うんだ。ずるいじゃないだろ?」


 俺と海堂女史のやり取りを見て、千賀がまた変なことを言い出した。

 俺は千賀の頭を揺すってやりたくなったが、運転中なので控えておいた。


「お前にとって、俺と海堂さんの話はまだレベルが高い。後で一緒に整理してやるから。そうじゃなくて、お前も海堂さんに言うべきことがあんだろ」


「うーん?」


 千賀はピンと来ていない様子である。

 ダメだこいつ。


「ご迷惑をおかけしました……?」


「確かにお前は結構迷惑をかけたけれども! そうじゃない。そうじゃないんだ千賀」


 俺は千賀の言うことに呆れ返った。

 どうして今までこいつはこれでクールキャラやってこれたんだ。

 見た目詐欺だ、賠償金ものだぞ。


「海堂さんはお前に何をやってくれたか。もし、海堂さんのポジションに貴志がいたらどうなる?」


 俺はあまりにも分かっていない千賀に最悪の例えを使って説明し始めた。

 海堂女史は途中から笑っている。


 千賀は長いシンキングタイムに入ってから、暫くしてやっと帰ってきた。


「海堂さんが貴志さんだったら、俺の穏やかな研究所生活は無かったし、狩人が部屋の中を跋扈する危険地帯になっていたと思う」


 千賀は自信満々にそう言った。

 何言ってんだこいつ。


「絶対そうはならないが、それはいい。海堂さんは、俺たちのことを何も聞かずに、それでも心配してくれたり、声をかけてくれたりしていたんだ。それに対して何か言うことがあんだろ」


「うーん? ありがとうございます……?」


「後ろにハテナをつけるな。ちゃんと感謝するなら感謝の気持ちを伝えるんだ」


「ありがとうございます、海堂さん」


 俺は海堂さんにそれが伝わったのか不安で振り返ると、笑いながらも少し頬を染めていた。

 本当に千賀のことが好きだったんだな。


 そうこうしている内に、海堂女史の住んでいるアパートに着いた。

 海堂女史は三階だと言うので、千賀がお姫様抱っこをして連れて行くことになった。


「すっごく、恥ずかしいです。でも、ありがとうございます」


 海堂女史は玄関のロックを開けながら、千賀にそう言った。

 俺は松葉杖を持って防犯カメラを見ながら、海堂女史は謎の男に抱かれて家に帰宅というアブノーマルなことになるんだろうなとぼんやり考えていた。


「ここで大丈夫です。今日は私の不注意でご迷惑をおかけしました。そして、病院まで付き合ってもらった上に、自宅まで送ってもらっちゃって。今度お礼しますね」


「いいんですか?」


「もちろんです」


 千賀は俺が止める間もなく、海堂女史の頬にできた傷を舐めた。


「おい! お前!」


 俺が千賀を怒るも、千賀は自分が悪いことをしたと思っていないようで、俺の攻撃を受けながら「どうして……」と呟いている。


「お前な、」


「いいんですよ。私は嬉しかったです」


 俺が説教をしようとしたところで、海堂女史は俺の言葉を遮って、千賀にそう言った。


「だけど、今度人の身体に接触する時は、予め自分が何をするのかを伝えてからじゃないと、私みたいにびっくりしちゃいますからね」


 海堂女史はそう言って、涙を一つ拭った。

 俺は無言で未使用のハンカチを渡そうとしたが、「大丈夫ですよ」と断られてしまった。


「山村くん。私もちゃんと千賀さんに言えたでしょうか?」


 俺はそこで、もし千賀が頼ったのが俺じゃなくて海堂女史だったらと考えてみた。

 その場合、海堂女史はもしかしたら、千賀と共依存だったり、それに準じた関係になっていたかもしれないと思った。


 物事にifはあっても、それは全て仮定だ。

 海堂女史がこうして伝えられるようになったのも、もしかしたら、今の状況があってのことかもしれない。


 俺は海堂女史に「ありがとうございます。助かりました」と伝え、千賀には「突然のおっさんの舌で舐める攻撃やめろ」と頭を引っ叩いておいた。


「またね」


 海堂女史の別れの言葉は短かった。

 思えば先ほどから、未来の話をしている。

 俺は千賀を見た。


「月曜日からもよろしくな」


 千賀は俺の言葉を全く分かっていないのに頷いたので、俺は「何が分かったんだ?」と聞いた。


「山村が月曜日も一緒にいること」


 そこは間違っていなかったので、「そうだな」と微笑んで先に歩いて行った。


ええ話や(自画自賛)。

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