表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/130

わなと父さん

たまに一字下げ忘れている話もあるかもだから、なんか報告してくれると助かりますね。

 次の朝。

 布団の中で伸びをして、布団を剥がそうと思ったら手がもふもふに触れた。


「ふくさ?」


 ふくさはダメと言ったのに、俺の上に乗っていたらしい。

 動かないし、よく見ると目が開いていないので寝てるのだろうか。

 俺はふくさを定位置に戻し、起き上がろうとして千賀に腹に手を回されていたので、遠慮なく蹴り上げた。


「やまむら? おはよ……」


 千賀は今日は特に眠そうだ。

 エネルギーが少ない訳ではないはずなので、純粋に安心していたのだろう。

 一応教授(だと思えと言われているふくさ)もいるからな。

 久々にすごく気が抜けたのかもしれない。


 俺が立つと、ふくさも俺の背中にくっついてきた。

 なるほど、教授は観察対象を俺に切り替えたのか。

 俺としては既に洗ってダニがついていないのなら問題はない。


 俺が朝ご飯を食べているのも、肩の上から見下ろしている。


「お前もご飯食べなくていいのか?」


 俺がそう言って指を出すと、ぺろぺろと小さな舌で舐めてくる。

 すると、千賀が「父さん」と言ってふくさを回収していった。

 何をしているのかと思えば、教授と会話をしているようだ。


「父さんに山村はあげません」


「えっ、それは……」


「それでも俺は嫌だ」


「山村……山村を止めなくては」


「俺は絶対許可しませんからね!」


 何だか知らんが交渉は決裂したらしい。


「父さんは俺が持って行く」


 千賀はふくさをポケットに押し込んだ。

 しかしふくさはじっとせず、よじよじと這い出て俺の方に飛んできた。

 俺は嬉しくなって「ふくさは俺がいいって」とポケットに仕舞ってやった。

 千賀は「父さん!」とふくさに向かって言っている。


「千賀、ふくさがお前の父さんなら、ふくさは俺たちの行動を観察するために置いていかれたんだろ? 行動はなるべく制限すべきでないと思うんだが」


「それはそうなんだが、山村が悪いんだ」


「はぁ?」


「山村、何て罪作りなんだ……」


 千賀は恐ろしいものを見るような目で俺を見る。


「知るかよ。さ、仕事行くぞ」


 そうして俺たちは今日も家の鍵を閉めた。


「ふくさ、眩しいだろうからハンカチで蓋しとくから。見たい時は横から顔を出すんだぞ」


 俺が車の中でまでふくさを構っているのに、千賀は焼き餅を焼いている。


「山村は俺を撫でてくれないの?」


「後で撫でてやるから今は運転しててくれよな」


 俺はふくさを指で構いながら、千賀にそう言った。

 千賀はサングラスの奥で明らかに不満そうな視線を向ける。


「お前が言ったんだろ、運転中に触るなって」


「そうだが……」


「俺はきっとお前にとってスマホより中毒性があるんだから、減点取られるぞ」


「そうなんだが……」


 千賀は何か言いたげにしていたが、言葉が見つからなくて話すのを諦めたようだった。


「何か、ポケットにコウモリ入れて歩くのってドキドキするな。アニメみたいだ」


「隣に俺という者がいながら、山村はそんなことを言うのか?」


 千賀があからさまなジェラシーを見せてきたので、俺は千賀についても考えてみる。


「確かに普通に今のお前が隣にいる方が不思議な体験なんだろうが、もう慣れたな」


「俺は慣れた……父さんに負けた……」


 千賀はがっくりと膝をついた。


「ほら服汚れんぞ、外辛いなら早く入ろうぜ」


 俺は研究室まで千賀の手を引いて歩いた。


「おはようございます、海堂さん」


「おはよう、海堂さん」


「おはようございます、お二人とも。いつも仲良しですね」


「そうですね」


 とは俺の言。


「当たり前です、俺は山村の大事な人なので」


 とは千賀の言。

 俺は「俺の気持ちを勝手に話すな」と千賀の腕を叩いた。


 ふふふと海堂女史は笑っている。

 俺もつられて笑ってしまった。


「今日も罠の見回りに行ってきます」


 俺はそう言って外へと繰り出した。


「眩しくないか? 辛かったら言うんだぞ」


 俺はポケットの中にいるふくさに指を差し出すと、チィと鳴いてぺろぺろと舐めてきた。

 大丈夫そうである。


 俺はいつもの通りに罠に餌を撒き、カメラの点検をした。

 カメラの電池を変えていると、ふくさがポケットから顔を出した。

 チィチィと鳴いて、俺に何かを知らせようとしているようだ。


「何か映っていたらカメラで見るから大丈夫」


 そう言うとふくさは鳴き止んだ。


「千賀、何かさっき山でふくさが鳴いていたんだが、理由を聞いてくれないか?」


 俺はカメラのデータを見るよりも早く千賀のところに行き、ふくさの通訳を頼んだ。


「分かった、父さん」


 千賀がそう話しかけると、ふくさは何事かを千賀に伝えているようだ。


「分かった、山村。罠は全て停止しよう」


「どうした?」


「クマの匂いがした、父さんはそう言っている」


 俺は思わずふくさを見たが、相変わらずもふもふしていた。


 俺はすぐさま研究室に帰って、ふくさが鳴いた場所のカメラの動画を見た。

 確かにそこには、若いクマが映っていた。


 俺はすぐ実験室へと向かい、ポケットからふくさを出して頭を撫で始めた。


「えらいぞ、ふくさ。お手柄だ」


「山村」


 俺は差し出された千賀の頭を無言で撫で回した。

 千賀はやはり次第に照れてきて、そっぽを向いてしまう。


「で、俺一人で山に行くの少し不安なんだが」


「昼飯がまだだろう。午後に俺も一緒に行く」


「分かった。ふくさはここにいるんだぞ」


 ふくさは大人しく俺のポケットに入って収まった。

 千賀が改まって俺に話しかけてきた。


「なぁ、山村。ふくさはな、父さんなんだ」


「はい。だから?」


「山村は父さんに『えらいぞ』と声をかけて頭を撫でるのか?」


「教授本人にはしないぞ。ふくさだからな」


 そう言って俺はポケットの中のふくさを撫でる。

 千賀は「ほらまた!」と俺を指差す。


「山村。ふくさと父さんは感覚を共有している。常にではないんだが」


「ほぇー、すごいな」


「だから……山村が今までやったこと、全て直接教授に伝わっている」


 俺はその言葉にふくさを見た。

 確かに俺はふくさを撫で回し、丸洗いし、巣を作って、隣で寝た。

 これが教授だったら色々と問題があるが、相手は小さなコウモリである。


「だから何だ」


「えっ? 山村は父さんにあれやこれやしたって事なんだが、それで良いのか?」


 千賀は俺に慎重に聞いてくる。


「別に。俺は教授ではなくふくさにやったことだからな」


「だから、ふくさは教授なんだよ、山村」


「それでも、ふくさは小さなコウモリだろう」


「うー」


 千賀は俺に伝えたいことがあるようだが、なかなか伝わらないことに頭を抱えていた。


「父さん。父さんはそれで良いのか」


 俺の手の中のふくさは千賀の方を向いた。


「山村が? 山村のことは俺には分からない」


 千賀がそう言うと、ふくさは俺の方を向いた。


「山村。父さんが『どうして私の端末を小さな動物として扱うのか』と聞いている」


「小さな動物だから」


「父さんが『理解し難い』と言っている」


「さっきから言ってるが、ふくさは小さなコウモリだからな」


「父さんが……山村に懐いている? そんな……嘘だ。以前言ってたではないですか、それは違う? 何が。今朝だって山村の上に……充電は俺からして下さい。俺が?」


 何を話しているかは分からないが、千賀とふくさは同時にこちらを向いた。

コウモリはコウモリだろ

いや父さんが

ふくさ

懐く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ