9話 二人
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。???/172cm
キョウがリモコンを押した。すると片山さんは自白をやめる。動きも止まってしまったので、ナナとうさぎ仮面達が一応支えた。
「ユヅ先輩……俺、」
「すまない、配慮が足りなかったな」
「俺のミスです!」
「いや、僕達二人の責任ということで手打ちにしよう」
「はい……」
ユヅさんは総理と琥太郎氏が座る方へ行き、キョウは繋いだままの手にさらに手を重ねた。
「ベル……大丈夫か?」
血の気がすっと引いてるのが自分でもわかる。
でも、あんなに元気なナナだって、倒れてしまうくらい戦ってたし、服部さんは精神的に疲れたのが目に見えてた。ユヅさんは指示を的確にしてくれて、私にも気を遣ってくれた。
――キョウは、キョウはずっと私の心を気にかけて、今もずっと目を離さないでいてくれてる。
命を狙われてるけど、みんなが守ってくれてる。弱気になってる場合じゃない!
「平気だよ。てかすごいね、一時停止? ビデオみたい」
平静を装いたくて話を変える。キョウに大丈夫だよって伝えたいから。
「あのな……命を狙われているって直接聞いて、普通でいられるわけがないだろ。総理も琥太郎さんも裏切られて動揺してるはずだ。自白している所を軽々しく三人に見せるべきじゃなかったんだ……ごめんな」
総理の方を見るとユヅさんが何か話をしていた。
「平気じゃ。腹は括っておったわい」
「私もです。知らないままの方が怖いですよ」
そうはいうものの、ショックだったことは伺える。こんな時、感情が流れてくる。悲しい、驚き、不安。黒い波が二人から私の心にざぷん、と流れて私も飲み込まれそうになった。
「キョウってばっ! 謝っちゃだめって言ったでしょ? それに私は強いんだから。……でも総理と琥太郎氏に見せるのは、私は怖いかも」
同じだよ、とキョウが言う。
「ベルがそう思うように、俺達もベルに対してそう思うんだ。わかってくれるな……?」
自分と他者を置き換えると、見えてくるものがある。でもその瞬間、気を遣わせてしまった、心配をかけてしまったと自責の念に駆られる。自分を責めても何の解決にもならないのに。
キョウがこんなに頑固な私に言い聞かせてくれるのに、それを否定するのは失礼だ。
「わかった……。心配かけてごめんなさい」
「ベルも謝るなよ? 一応軽く診ていいか?」
「うん……お願いします」
ユヅさんが帰ってきた。二人との話を終えたそうだ。
「ベル、こんな時に聞いてすまないが確認したい。動画配信サイトで最高何倍速で見ていた?」
えっ? 何この質問。ええと……
「ゆったりした口調のものだと、最大で二倍速かな。でも集中すればもっといけると思う」
「そうか……じゃあ万が一ベルが早送り自白を見た時の保険をかけて、五倍速にするか。キリもいいし時短になる。恭介はどう思う?」
早送り自白ってすごいワードだなぁ……。はっ! ユヅさんは、私が見ても意味わかんないようにするために質問してくれたんだ!
「それだとユヅ先輩に負荷がかかりますよ」
「終わったら注射を頼む」
「はあ……医療は万能じゃないって言ってるじゃないですか。まあ俺が言っても聞かないんでしょうけど」
「ああ、聞かない。ベル、邪魔して悪かったな」
「えっ? いいえ?」
全然邪魔じゃなかったけど…? ってあれ? キョウが繋いでいた手を慌ててパッと離してしまった。
手の温もりが無くなってなんだか寂しいしなんか失礼じゃない!? むぅ。
「じゃあ恭介はベルの診察と治療。僕は上に『早送り』の申請をしてくる。ところで服部さんは何倍速まで見れるんだ?」
あ! 気配が薄くて後ろの服部さんのこと忘れてた!
「拙者は二十倍速まで口を読むことができるでござる。」
「え。マジですか! じゃあ念のため、僕と共に片山さんの話を聞いてもらえます?」
「ユヅ殿。承ったでござる。」
人としてのスキルを超えてる! 忍者やばーい!
すると琥太郎氏と総理が通って行った。
「お話中失礼致します。では、私たちは二つ右の部屋で待っています。左隣の部屋は置いてあるものも含めて遠慮なくご自由にお使いください。飲み物やお菓子もどうぞ。」
琥太郎氏が「平気じゃもん! 未来の技術みたいじゃろ!」とバタバタする総理を引きずって移動した。
「俺たちも行こう。立てるか?」
「うん」
あれっ? 立てない……?
「ベル……?」
「わ、ちょっと待って、なんでかな、あはは……」
力が抜けてるの、自分でわかんなかった……。
意外とダメージを受けていた自分に対して静かに憤っていると、ふわっと体が持ち上がった。
すぐそこにキョウの顔がある。
わあああああ! お姫様だっこさせちゃった! 絶対重い! ダイエットしとけば良かった! 推しの顔が良い! うう、頭の中がぐちゃぐちゃでどうしたらいいかわかんないっ
「許してくれ。嫌だったら後で怒られるから。レッドさん、ブルーさん! 俺とベルの荷物を持ってきてくれ。その後は護衛を頼む」
うさぎ仮面の二人が上着のジャージのチャックを下ろすと、赤のTシャツと青のTシャツを着ていて、ゼッケンに『レッド』『ブルー』と書いてあった。え、戦隊モノ始まった?
二人はキョウに敬礼してから、よっこらせと荷物を持って、てけてけとついてきた。
部屋はさっきより小さめの部屋だったけれど、逆に落ち着く。用意されていたお布団をレッドさんが敷いてくれた。ブルーさんは荷物を整えて置き直してくれてる。
キョウが私を布団に降ろしてくれると、二人はハートマークを作って出ていった。「こら! からかうんじゃない!」キョウが声を抑えて怒る。
ねえ恭介くん。たまに変なタイミングで怒り出すよね?
「私、重かったでしょ……? ごめんね」
「そっそんなことない! ベルは軽いぞ! 俺の方こそ勝手にごめ――」
「ごめんじゃないってばっ。私が立てなかったから……ってあ、キョウうさがいない! どこ?」
すると、戸が開いてブルーさんが指を指し、仮面の上でうさ耳を作って戸を閉めた。
かっ、かっかわいい人たちだ〜〜!
私のバッグの上に、ちょこんとのせてくれていた。ありがとうブルーさん!
「キョウ、お願い。あのコをどこか近くにつけたいの。取ってもらってもいい?」
「ああ。ついでに聴診器とか持ってくる」
部屋はさほど大きくないので、キョウはすぐ持ってきてくれた。手を差し出すと、キョウうさを乗せてくれた。
「おかえり! キョウうさ〜!」
「くくっ……。多分、ただいまって言ってるぞ」
「あははっ! 改めておかえり。離れてごめん、今度は一緒にいようね。ねえ、……なんて言ってるかな?」
「うーん。一緒だって言ってるんじゃないか?」
キョウは目を逸らしちゃった。ちょっと耳が赤い。何か探してるのかな?
「そうだといいな」
「そうに決まってる。ええと、ベルトのポケットのココなんかどうだ? ストラップがつけれそうだ」
「わ、本当だ。すごい。もしかして服って改造されてる?」
「ああ。ユヅ先輩が銃のポケットとかを増やしてくれてるんだ。そいつ、良かったら俺がつけようか?」
「ありがとう。これでずっと一緒だあ……」
キョウは丁寧にキョウうさをつけてくれた。ん? なんか『キョウうさ』とか『キョウ』とか、私の心の声がキョウだらけだなぁ。
そんなことを考えている間に、キョウはつけてくれていた。引っ張って落ちないことも確認してくれるあたり、真面目さが滲み出てる。
「ベル……。その、うさぎもそうだが、俺たちだってベルと一緒だからな」
「うんっ! あっどら焼きがある! 『ご馳走様でした』って書き置きして後で食べようよ」
「三つしかないから、皆には内緒な」
「絶対秘密ね。ナナなんて絶対羨ましがっちゃう」
さあ、診察の時間だ。とキョウは切り替えて私に向き合った。
キョウはこめかみとトントントン、と軽く叩く。さっきみたいに目が青くなって、私を体を真剣に診ていった。
「それって能力? あ、喋ってごめんなさい」
「会話も診察の中で重要だ。ベルも知ってるだろう?」
「うん、だけど、」
「能力のことなら気にしなくていいぞ? 俺の場合こめかみを刺激すると患部が見えるようになってるんだ。医師免許を持ってて試験に受かるともらえるものだから、大したことはない。ナナのものとはレベル違う」
「そうなんだ! って喋っていいの?」
確か、現代人に話してはいけない未来のこととかがあるはずなんだけど。
「ユヅ先輩がブチ切れて、ベルに未来のことを何でも話していい許可をもぎ取ったからな」
「ええっそうなの?!」
私が亡くなったら、もうループはしなくて新しい書き手に変わるから、で合ってるかな。でもこーゆーのって理由を訊かない方が良い気がする。黙ってよう。
「隠し事はない方がいいからな――あ、ベル。結構疲れてるぞ? 注射は怖くないか?」
「平気!」
「こら。嘘つかない」
「えへへ……」
「俺の注射は天下一品だぞ。能力を高めると血管まで見える。一瞬我慢してな?」
注射器はもう用意されてた。多分必要だって診察前から見抜かれていたんだろう。
キョウうさを手で包んで、目をぎゅっと瞑っていると「終わったぞー。頑張ったな。えらいぞ」と頭を撫でてくれた。「えへへ」あ。声に出た。
「本当に痛くなかった〜! 私、苦手でいつも患者さんに痛い思いさせてて……」
「緊急時特殊医療班なら、外の現場で注射することばかりじゃないか? 今みたいに悠長に時間かけたりできないから仕方ないだろ」
私はお医者さんと看護師さんの中間の『緊急時特殊医療班』のして働いていたことがある。キョウが何の治療を何しているか大体わかるからこそ、この若さで手際が良いことに尊敬している。
「でも、やめちゃったし」
「資格があるならいつでも復帰できるだろ。それに、今は書き手としての仕事を始めてくれた。人を救うのは医療だけじゃない。ベルは立派だ」
「あ、ありが……」
あれ、あれ、あれれっ……? 涙が出ちゃって止まらな……
「我慢させてたよな……。もういいから。」
背中をさすってくれるけど、優しい言葉と優しい行動が涙腺を刺激する。
「そっそんなこと言ったらもっと止まらなくなる……てかキョウ、自白、いいの? 片山さん……」
泣いてるのを誤魔化したくて質問をぶつける。
「今、ユヅ先輩が五倍速でやってる最中だ。聞いた内容をまとめて俺たちに後で話してくれる。だから今は休もう」
「……キョウじゃなくても……リモコン、使っていいの?」
「俺以外にも医師免許を持っている人はいる。心配するな」
またよしよし、と言って頭を撫でてくれると、キョウは「あっ」という顔になった。
「ベルの髪ぐしゃぐしゃにしちまった……結び直していいか?」
「自分でできるよ? キョウみたいに上手くないけど……」
「いや、俺がやる! やらせてくれ。願掛けなんだ」
「願掛け?」
その……とキョウはまた目逸らす。私は追いかけるようにじっとみると今度は後ろに下がった。
「キョウ〜?」
「なっ内緒だ。その、あまり見つめないでくれ」
「ねえ? 私もキョウを診察したいんだけど。心配してるんだけど?」
「さっき栄養剤打ったから大丈夫だ」
「自己注射⁈ こら! 今度から私がやる! あと血圧と脈拍測る! 聴診器も貸してっ」
「この時計で脈と血圧がわかるようになってる……はあ、元気になったのなら髪を結ばせてくれ」
涙も止まって、思考が平常運転に戻ってくる。これ以上キョウを疲れさせるわけにはいかない。ここは引き下がろう。
「うん、お陰様で動けるようになったよ! ありがとう」
「どういたしまして。俺も……色々さんきゅ」
ヘアピンを挟んでいる胸ポケットを指した。
「え、ヘアピンだけじゃん?」
「その……他にも色々してくれただろ」
「そうだった? なんだろ?」
「俺にとってはそうだったんだよ。聞くなよ、察してくれ」
「不思議とキョウってたまに感情がわからないの」
「それは都合が良い。感情を汲まないでくれ……」
さ、髪を結び直そうか、とキョウは座った私の髪を解いていく。もう! 誤魔化したなー?
「ひゃっ」
「どうした⁈」
「なんか、くすぐったい!」
「今朝は平気だったろ? 大丈夫か?」
今度は丁寧に櫛でとかしていく。多分高い櫛だと思う。
「うん。でも、気持ちいい」
「どっちなんだ……?」
「わっわかんない」
「心拍が少し早まっているな。……って体温も少し上がってるぞ!」
「ええっ? 確かにあったかくなってきた、かも?」
「熱まではいかないが――すぐ結び直すから待っててな」
私はうひゃひゃ、と笑って、その度にキョウは待ってくれ、我慢してくれ、と焦ってた。
この熱はなんなんだろう。風邪症状も無いし。勉強不足だなぁ。あとで調べなきゃ!
「あっそうだ、ユヅさんに後でメッセージを読むように頼まれてたの。今読んでもいい?」
「いいぞ。共有しないなんて珍しいな……」
スクロールしていくと、『できたら僕か恭介と見てくれ』と書かれてた。画面をそのまま見せて「キョウも見て」と頼む。
「ベル、先に読んでもいいか? 確認しておきたい」
「それはユヅさんに失礼になっちゃわない? 大丈夫だよ、一緒に読もう?」
さっき、急に手を離したお返しにキョウの手を握ってぐいぐい引っ張ると「……負けた。一緒に読む」と言ってくれた。ヨシ!
メッセージには、『どうか驚かないでほしい』『つらくなったら読まなくていい。ベルは繊細で優しすぎて、僕達は心配なんだ。特に恭介はベルが』と長々と書かれていたからついつい飛ばしてしまう。
――すると、私は目を疑った。
『七海は今までのループで何度も命を失っている。それを黙っていてほしい。
亡くなって未来から新しい七海が来たとしても、記憶は同期することができて、完全に元に戻る。
その時に、七海が亡くなったことをどうか秘密にしてほしい、頼む。
七海はショックで自分の死を忘れるんだ。
僕と恭介、服部さんや仲間は知っているが、ずっと秘密にしてきた。
この先、七海の身にそうあった時、ベルにも秘密を守ってほしい』
何、それ……。ナナが亡くなってる? どういうことなの?
スマホが落ちる音がした。
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