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10話 心を確かめて、それから

★主な登場人物★


・ベル (本名 ???)

現代人。鈍感な本の書き手/164cm

・来栖恭介

未来人。爽やかな医者/177cm

・百目鬼弓月

未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm

・七彩七海

未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm

・服部半蔵

過去人。???/172cm

 まさかナナのことだとは思わなかった。

 やはり俺が先に見るべきだったんだ! 


 ユヅ先輩が、今回の時間軸は予想外だらけで、何もかも先回りして保険をかけることをしまくって疲弊していたのは理解していたというのに、ダブルチェックを怠った。


 ――反省しても遅い。俺は片方の手で布団の上に落ちたベルのスマホを拾ってこぢんまりした高級そうなテーブルに置いた。


 致し方ないが、忘却防止装置を一旦取って時間を巻き戻すか迷った時、ベルは顔を上げて俺に訊いてきた。


 動揺しているかと心配したが、ベルは毅然としていた。


「ナナは、現在の時間軸で亡くなってない、よね?」

「ああ、過去のループで起きたことだ……。ベルの心が疲れている時に悪い。読ませるべきじゃなかった」

「謝らないのっ! ねえ、答えにくいと思うけど……キョウも、ユヅさんも、過去に亡くなったことがあるの……?」


 ベルに問われると、全部話したくなる。隠していると、針で刺されているような痛みを感じる。

 ――だが、今だけは本当のことを言えるはずがない。


 ……きっと、また泣かせてしまう。


「今は言えないが後で必ず話す。約束する。それと、遮ってしまうが――俺はベルから一度、忘却防止装置を外して、メッセージを読む前のベルに戻したいんだ……駄目か……? 外すのは痛くないから安心してくれ。これは俺の我儘だから断ってもいい」

「車内で入れてくれた、時間移動しても記憶を失わないやつ?」

「そうだ。それがある限り時間移動しても記憶は残る。……だけど、今は、ナナの事情を一旦ベルに忘れてほしくて――」


 ベルは珍しく声を荒げた。彼女は怒っていない。俺に伝えたくて大きな声を出したんだ、とわかるからこそ辛い。


「どうしてそんなこと言うの? 嫌だよ。嫌だ! 大丈夫だから信じて!」


 ――もう失いたくないからだ。優しい君を傷つけたくない。頼むから俺の我儘を聞き入れてくれ……。

 だが、ベルのことだからきっと断るんだろうな……。


「信じているから、ベルを守りたいから! また後で伝えようと思ってるんだ。今はタイミングが悪すぎたんだ。わかってくれ……」


 手を離されたかと思ったら、肩を掴んで真っ直ぐ。眼差しを向けてくる。


「私、誰も死なせない。絶対守る。決めたの! ナナもユヅさんも服部さんも、キョウも……守るから。絶対……大丈夫だよ」


 あの時のベルと重なる。亡くなる前の、優しい声だ。


 ――すると、ベルの瞳がピンク色に変わって、同時に胸ポケットの中の万年筆が光った。


 光も瞳の色も、全てすぐに戻った。瞳の色の変化は能力者にしか無い現象だ。


 ベルが、能力に目覚めたとしか思えない。


「ベルっ今……自覚しているか? 瞳の色が」

「わかるよ、気持ちがもっと強くなった気がするの。なんでもできるような、そんな感じの、んー? サイヤ人的な最強な感じ?」


 だから、と言って肩を掴み、顔をぐいと近づけられる。「信じて」と言われた時には、俺の心臓がどうにかなりそうだった。


「し、信じる。ち、ちかい。ベル。」

「何? 近いと嫌なの? キョウってば、たまに目を逸らすんだもん。失礼なんだからっ! もう逸さないでよー?」


 むぅぅ、と可愛くまた怒る。頬を膨らませてわかりやすい。また不機嫌になった。さっき手を離した時も怒っているような雰囲気だった。

 ベルの気持ちは難解な専門書よりも理解不能だ。


「もうっ! 本当に信じた?」

「信じたから、信じたから肩から手を離してくれ」

「嘘ついてない?」

「何で俺こんなに信用無っ、うわ!」

「わぁっ」


 俺が反射で後ずさってしまい、ベルが俺を押し倒す形になった。


 ……柔らかい。じゃなくて! ああもう!クソっ! 

 このまま訊いてやる。半ばヤケになって腕を回して抱く。

「ひゃっ! キョウ?」驚かせたが構うものか。

 ベルが悪いんだ! いちいち俺の理性を壊してくる!


「……質問に答えるまで離さない。ナナのことを聞いてショックだったろ」

「キョ、キョウ。私がごめんなさいだから、離して?」

「ベル。答えてくれ、な?」

「……ショックだったよ。信じられないくらい。でも、それ以上にもうみんなに悲しんでほしくないって思ったの」

「本当に、大丈夫か?」

「正直、大丈夫じゃなかった。けれど、血が熱くなって、それから大丈夫になった、っていうか……平常心が戻った感じ。だから離して?」


 ――能力が目覚めたショックで、偶然心の均衡が取れたのかもしれないな。


「離せって言ってるのに何で抵抗しないんだ……。ベルは、ベルは……本当に離してもいいのか?」


 しまった。なんてこと聞いてるんだ俺は!


「キョウに抵抗するわけないじゃん。……このまま、一回だけ泣いたら、離して?」


 ――ああ、ちくしょう。ベルにはいつも勝てない。こんなことは普通、恋人同士がすることなのに何故許すんだ? 


 ……頼むから突き放してくれよ。離せと言われて離さなかった俺も悪いが、言葉とは裏腹にずっと無抵抗でいたベルに甘えてしまった。


 ベルの背中をさすったらそれが引き金になって泣き出した。我慢したままより良い。今は心のままに泣いてほしい。


「よく頑張ったな、ベル」


***

 

「このどら焼き美味しい〜!」


 なんか知らないけどキョウが抱きしめてくれてから、私はすごく機嫌が良い。キョウはちょっと怒ってた気がするけど、撫でてくれたし! 一回泣いたらすっきりしたし! なんか強くなった気もするし!


「食べ終わったらもう一つのやつは半分こな?」

「キョウにあげるのにー」

「ベルは今、食べた方が良い。能力の詳細はわからないが、目覚めた時は疲れるものだ。本当は俺の方こそベルにもう一つあげたいんだが……断るだろう?」


 私たちは用意してあった三つのどら焼きを食べていた。その余った分をお互いに遠慮した結果、折衷案でキョウが半分にしようと言ってくれた。


「それはだめっ。半分こで許す!」

「それはどうも。はい、どうぞ」


 器用に綺麗に半分にされたどら焼きを渡されて、「ありがと」と受け取った。私はお腹が空いてたみたいで、すぐに食べ終わっちゃった。


「ベル、もう大丈夫なのか……?」

「心配しすぎだってばっ! ちょっと例の動悸はするけど」

「懸案事項は少ないに限る。調べさせてくれ」

「んー。私もこんな症状、現場で見たことなかったから調べてみる!」


 スマホに【動悸 熱くなる 脈が速くなる 病気】と打ち込んで検索した。けれど当てはまりそうなものは無い。


「不整脈なかったよね?」

「ないな。他に症状はあるか?」

「んと……胸が苦しくなったりするかも」

「え!? 今はあるか!?」

「ちょっとだけ……でも安心もしてるの」

「難しいな……先輩に連絡してみるよ」

「あ、ありがとう。私も友達に訊いてみるねっ」


【急にごめん! 知らない病気があって知りたいんだけど……少し体温が上がって、動悸がして、胸が苦しくなるけどたまに安心を覚える病気って何かわかる?】


 すると、すぐに返事が来た。


【あんた馬鹿じゃないの?! 世界はそれを恋と呼ぶんだぜ!】


「え?」

「はあ?!」


「ど、どうしたの恭介くん……?」

「ベルこそどどどどうした? わかっ、わかったのか?」

「てっ適当なこと言われた! 恋って!」

「……おっ俺もだ! あの人が冗談言うとは思えない」

「恋ねぇ……? からかわれたのかな?」

「ベル、先輩は真面目な人なんだ。確認させてくれ! 好きな人はいるのか?」


 すきなひと……? 浮かんだのがまさかの――いやいや、違う。推しだから! えっとえっと、と言っていると、落ち着けと麦茶を渡された。お酒のように一気に飲む。キョウも飲んでた。


「ちょっと待ってくれ。俺とベル以外、時を止める」


 キョウはスマホを取り出して電話をかけ始めた。


「もしもし。来栖です。書き手に病気の可能性があるため診察時間を確保したいんですけど宜しいですか? ……そうです。時間停止で。……ありがとうございます」


 ええっ! 電話で時間停止の許可もらうの?!


「申請が通った。三十分もらったからゆっくり話そう」


 じゃあ私から、と手を挙げてみる。「話して良い?」と訊くとぎくしゃくしながらも頷いてくれる。


「あのですね……隠しても挙動不審になって心配かけちゃうかもなので、全部言いますね?」

 私はなんとなく、拳を握りしめて正座もしてキョウに向き合った。

「ああ」

「好きな人はいないんですけど、推しがいまして」

「推し……?」

「恭介くんなんですけど」

「きょうすけくん?」


 キョウは誰だそいつ、って顔をしてる。

 キョウだよ!? もうっ恥ずかしい思いして言ってるのに!


「来栖恭介くんなんですけど」

「……お、おれ?」


 キョウは、頬を朱色に染めて、また後ろにヒュンッと飛んだ。荷物にぶつかる。でも小さな部屋だからあんまり離れない。「痛くない?」と訊くと「痛みを感じてる場合じゃない……」と動揺してた。


「キョウだよ。好きとは違う、と思う。多分。その……最初からかっこいいなって思ってたの。はじめて会った気がしなくて。あっ! 昔からキョウたちを知ってるような感覚で。えと、ナンパみたいになっちゃったけど違くて。――それで、その、だから軽率に恭介くんを推してるわけじゃなくてですね」


「最初にかっこいいって言ってくれたのは社交辞令じゃなかったのか……その、照れる」


「そうだよ! そうだもん! でも、恋愛感情は私もわかんないの……。そうだ、キョウは未来とかに付き合ってる人とか、好きな人はいるの? 恋がわかんないから参考にしたいの」


 小中高女子校からの女子の比率多い特殊医療大学で、その後も女子の比率の多い特殊医療班で働いていたし、その後は仕事を辞めてネットで稼いで――だから恋愛とのご縁はほぼ皆無だった。


「いる。」

「あぁっ! じゃあ、私、手を繋いだりとかすごくご迷惑なことを……」


 このスペックで恋人がいないとかありえないから! 今更だけど彼女さんに迷惑をかけていたらものすごくごめんなさいな案件発生だ!


「そんなことはない。俺が好きなのはベルだから」

「べる?」


 私ーーーーッッ!!??


「いつのベル? 今の? 前の?」

「ずっとだ」

「ずっと!!??」

「いやでも前の私と今の私、違いとかあるんじゃない?」 


 だって、私は私でも、他の時間軸の私はちょっとずつ違うんじゃないの?


「違いなんて無い。ベルはベルだ」


 嘘偽りないのはわかるけど、私は腑に落ちない。むむ……。


「じゃあ前のベルと今の私、どっちが好き……?」


 意地悪な質問なのはわかってるけど、これだけは譲れない!


「俺の心はいつだって変わらないよ」


 私は嬉しくなって、苦しくなった。だって、どうしても前のベルと今の私は違うはずだもん。

 

 私だけど私じゃない! う〜〜〜〜〜! でも、キョウが、すすす好きって言ってくれたから、こたえないと。


「その、ありがとう。キョウの気持ち、すごくすごく嬉しいけど……」


 顔がかあっと熱くなっていくのがわかる。ドキドキして止まらないし。キョウもさっきより顔が赤くなってて、多分一緒の気持ちに近いんだって思った。だけど、だけど……。


「恋とか愛とか、わかんないの……」


 ごめんなさい、と何回も言って、それしか言葉が出てこなくて俯く。


 すると、ゆっくりと手が伸びてきて「伝わったよ。謝るなって」と優しい声が耳に流れた。いつの間にか落ち始めてた涙をハンカチで拭ってくれる。


「俺はベルを好きでいいか……?」


 私はこくん、と頷いた。声が出ない。


「じゃあ、これからも推してくれるか……?」


 私は頷いて、キョウに飛び込んだ。受け止めて抱きしめてくれる。


「守るためじゃなくても、手を繋いだり抱きしめていいか?」


 首を縦に振る。


「ありがとう。ベル。これからもよろしくな」

「こ、こちらこそ……気持ちがわかったら、すぐ言うから。あと、」


 私も手を繋いだり抱きついたりしていい? と訊いたら「馬鹿だな。いいよ」と背中を撫でてくれた。


 私が落ち着いた頃、止まっていた時間がちょうど流れ始めた。


「片山さんの自白を終えてから三分経っているな……。ユヅ先輩が情報を整理してくれているはずだ。戻れそうか?」 


「ふふっ。キョウがぎゅってしてくれたら戻る」

「そんな不意打ちやめてくれ……」

「えーっ! 駄目なの?」

「いいよ。おいで」


 キョウは私を抱きしめてから耳元で「もうかわいいこと言うな。持たなくなる」って言って、すぐ離した。


 きゃーっ! 神対応萌えるー!!!!!


 顔が赤いままキョウは逃げるように自分の荷物を持った。あ、私も持たないと!


 荷物を持った途端、キョウは遠慮なく手を繋いでくれた。私は一旦話離して恋人繋ぎにしてやった。


 戸を開けるとレッドさんとブルーさんがいた。


「二人とも警備ありがとう。グリーンさんとイエローさんと交代して休んでくれ」


 レッドさんとブルーさんは二人でハートマークを作った。


「こら! まだそんなんじゃない!」


 あ、キョウが怒ってたのって照れてるからだったんだ。


 でも、『まだ』っていう言葉に引っかかった。


 ***


 部屋につくとナナが「ベルっち〜!」と迎えてくれた。荷物を下ろすと、両手いっぱい広げて私を抱きしめる。ああもう私のナナかわいい! 今日はハグの日なのかしらっ!


「ナナあっ!大丈夫? 私のせいで戦わせちゃってごめんね……」

「ウチは無敵っスから! 楽勝っスよ! あれ? ベルっち。何で抱きしめ返してくれな……」


 ナナの目線がキョウと繋いでいる手に移動する。見られた! にやにやしてる!


「キョウ兄〜〜〜〜??? ようやく結ばれ、ふぎゃうっ」


 キョウはにこにことしながらも怒ってて、ナナの頭を掴んでた。ええええ!?


「ナナの思ってるような関係じゃない。後で話すから今は騒がないでくれ。ベルが混乱する」


「ぁぃ……」とナナは言っていたけど、私に向かってウィンクした。かわいー! それを見てまたキョウが「馬鹿」って言う。


 キョウ、もしかして照れてる時に「馬鹿」って言うのかな? かわいい……やっぱ推せる! 推し公認になって嬉しいな。


「七海! 座れ! 片山さんが話した内容を伝える。服部さんは必要だと思ったら補足してくれるか?」


「わかったでござる」


 片山さんは、うさぎ仮面によって点滴してもらっていて、寝かされていた。何事も無くて良かったぁ。


「僕の中で情報を纏めた結果、移動も含めて非常に危険な状況にあるとわかった。だが大丈夫だ。病院には既に精鋭部隊がいてレナさんを守っている」


「ワシにも原因がある。山神を放っておいた罰じゃ。皆で力を合わせようぞ」


「まず簡潔に言うと、山神は未来人だ」ユヅさんは説明を続けるけど、もう難しくて入ってこない。


 ねえ! 未来人多くない⁈

お星様にて応援頂けますと嬉しいです!


レッドさんとブルーさん、ナイスです!!

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