5話 初めての依頼人
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。???/172cm
案内された部屋は庭園が見える和室で、鯉が泳いでいる池や桜の木が美しい。日本の和を詰め込みました、みたいな空間だ。なんて書いてあるかわからない掛け軸、高級そうな紐がついていてふっくらした座布団。木目調のとにかく大きなテーブル。全部が緊張に繋がって、心臓がバクバクしてる。
総理は険しい表情で立ち上がった。何か失礼があっただろうか、と私以外の三人も一瞬で汗をかいてる。
「ワシは高城次郎じゃ」
ストレートすぎる自己紹介でかえって困る。ちょっと待ってみたけど何も言って下さらない。え、えーっと……
「お、お目にかかれて光栄です……」
「ワシも! ワシも! 嬉しくてたまらないのじゃ! ささ、遠慮せずこっちへ座っておくれ。おすすめのケーキもあるからお食べなさいな。出してくれるかの?」
え? テンション高いし、『ワシ』って言ってるし、本当に総理?
みんな同じことを思ってるみたいで、ユヅさんですら、頭にはてなを浮かべてる。ナナはぎょっと目を見開いていて、キョウは作り笑いをしたまま固まってた。
「伯父上、皆様を驚かせてしまっています。妙なハイテンションはやめてくださいと再三注意したでしょう!」
隣の部屋から四人の使用人と共に男性が現れた。いかにも高級そうなスーツを纏った七三分けの眼鏡の男性で、なんだろう……典型的で漫画な感じだけど、総理よりずっと威厳を感じられる。
彼はお客様へケーキと紅茶を。あと同じ数だけ水も用意して下さいと早口で指示している。テキとパキが音として聞こえてきそうなくらいテキパキしてる!
使用人さんが秒で用意してくださった。はっっっや! 見逃すところだった!
「なんじゃあ! だってワシ、本当に夢を見せてくれるお嬢さんがいると思わなかったんじゃもん……だから嬉しいじゃろ? 嗚呼、ジャージで申し訳ないのう……おめかしして来てくれたというのにこんなジャージで……」
七三の人は馬鹿ですかと言って、大きなハリセンでバシッ! と総理を殴った。
「あいたっ! 老人を殴りおって! 暴力反対! 戦争反対!」
「被害者面とご年配のフリをやめてください。一生、もう一生懸命やめてください。柔らかい素材で尚且つ音しか出ないハリセンを特注で作らせておいて良いところでツッコミを入れるように指示をしておいて甥の私にこんなことをさせておいて何を言っているのですか」
「そっそういうことは全部言わんでいい!」
なんだ、パフォーマンスだったんだ。でもそこまでしなくていいのに!
「そっそこまでしなくても……」ナナが本音を漏らすと、すかさずユヅさんが睨みつけて黙らせた。
「伯父上の遊びに付き合わせてしまい、誠に申し訳ございません。私は甥の高城琥太郎と申します。どうか緊張せずお座りください。この人を総理と思わず、ただの五月蝿い老人だと思って寛いで下さるとこちらとしてもありがたいのでご遠慮なく。荷物や上着は、失礼でなければこちらでお預かり致します」
どこで呼吸をしているのかという思うくらい長い一言に、私たちはホッとする。あっ。出来過ぎの秘書がいると話題になったことがあったけど、この人だったんだ! 絶対そう!
ユヅさんが、ではお言葉に甘えて、と言ったのを合図に各自ふかふかの座布団へ向かおうとする。でも、ナナったら立ち尽くしたまま早速ケーキを見て目を輝かせてる。ナナぁー!
微妙な位置にどっかりと総理が座っているので、覚えて来た上座とか星座だとかは忘れて、もういいやと思った。
いやはやしかし。座布団が多すぎてどこに座ればいいのやら。迷っていると、「ベルは俺の隣。真ん中な」とキョウがこそっと指示してくれた。
「ご配慮頂きありがとうございます。マナーとして正しくありませんが、荷物類は各自側に置いても宜しいでしょうか?」
「良いぞ良いぞ! カラオケルームだと思ってどこにでも置いとくれ!」
すると、またハリセンでパシリ、と頭を叩いた。
総理は殴られても何も言わない。パフォーマンスはもういいですよ⁈
「勿論です。しかし、大切なものでしょうから少々お待ちください」
琥太郎氏が荷物用の籠を用意するよう使用人に指示すると、ご丁寧に四人が秒で持って来てくれた。はっっっや! 中には私のおじいちゃんと同じくらいの執事さんもいたけど足が早すぎる!
それぞれ、「ありがとうございます」「恐縮です」「お手間をおかけしてすみません」「ありがとうござ……ざいますス」とお礼を言う。
「では、改めましてこちらから自己紹介をさせて下さい。僕は百目鬼弓月と申します。入り口側の端に居るのが七彩七海です。僕たち二人は書き手の警護を担当しています」
「それから、最初に申し上げましたが、彼女が"書き手"のベルです。本名を明かせないことをご容赦下さい。俺は医者をしている来栖恭介です」
「私から見て左から百目鬼様、来栖様、ベル様、七彩様ですね。改めてよろしくお願い致しま――」
「噂には聞いておったんじゃが、実在するなんてのう……悲しいことに、レナとの別れが近づいているみたいなんじゃ……。おっと、レナというのはワシのかわいいかわいい孫でじゃな。好物は――」
「チッ。伯父上。レナの状況説明は済んでおります。あと同じことを繰り返し言わないで下さい。クソ、面倒臭いジジイだな……与太話は省いて下さい」
話の遮り合戦が始まった。ワシは総理なのに。超偉いのになんじゃ。と小声でぶつぶつ言っている傍らで「申し訳ございません、大変申し訳ございません」と琥太郎氏が綺麗にお辞儀をする。
途中、さらっと悪口が聞こえた気がしたけれど、気のせいだったみたいだね。
「私達は、噂で皆様を知りましたから、明白な事実を知りません。知っていることは、書いた"本"の通りに夢を見せることができる、と。そんなことが本当に可能なのですか?」
「はい。可能です。しかし、リスクもありますがその点はご存知でしたか?」ユヅさんがスマートに答えてさらに確認をする。
「おお! マジなのじゃな!」
琥太郎氏は総理の頭を木魚のようにハリセンで頭をパシパシしながら答え始めた。もう慣れてきた……。
「開頭手術ですよね。手術に伴う危険もある上、鍵の形に傷が残り、一生そこから髪が生えてこないと聞きました。しかし、私共は覚悟の上で頼みたいと思い貴方達にご依頼させて頂いております」
「琥太郎! そっそうなのか? 愛しのレナにハゲができてしまうのか?」
「何故聞いていないのですか! このハゲジジイ!」
「ハゲじゃないわい! ちょっと残ってるじゃろ!だって……だってワシ、レナに楽しい夢を見せれるって聞いてもうそれどころじゃなくなったんじゃもん。遊園地じゃろ、お祭りじゃろ、それにアイドルのコンサートとかのう」
「あ、あの……お話し中恐れ入りますが……"本"を通して魅せられる夢は限られているんです……」
「なんじゃと?」
本のことはなるべく私から説明するように、と言われていたから、勇気を出して言ってみたら大変なことになったかもしれない。
慌てて「えっと」と口を開くと、キョウが私を制した。
「彼女の言葉通りです。ですが、お孫様に夢をお見せする為にもどうか落ち着いて聞いてくれますか?」
俺たちは誠心誠意尽くしますから、お願いします。と頭を下げる。私たちはキョウに倣ってばっと頭を下げた。
「このジジイが大変申し訳ございません。どうか頭を上げてください。噂で聞いた程度ですから私共の知っている情報と齟齬があるみたいですね。聞かせて頂けますでしょうか?」
「はい。まず、前提として"本"にはご本人が経験した過去の出来事しか書けないんです」
え……と二人の顔が曇る。
「そういえば、最初に『輝かしい過去を一冊の本にし、夢を通してお見せします』と仰ってましたね……」
「ワシ聞いとらんもん!」
いや、言ってます! 言ってますから! 時間巻き戻したい〜っ! けど私は現代人だからできないっ!
お星様にて応援頂けますと嬉しいです!
総理も琥太郎氏もキャラが濃いですね……?
なぜこうなったのでしょう?




