4話 銃
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。???/172cm
私とキョウはナナとユヅさんの待つ駐車場へ向かって歩いてた。自称未来人についていくのもなー……って思ったけど、もう信じちゃった私もいるし、キョウといると何故か安心する。
普通の住宅街を抜けて、商店街を歩きながら話してた。
「ついに任務が始まるんだね。私、頑張る! 何回も任務をしてるキョウたちの力になれるように! ってかさ、ループしてるってことは総理にも会ってるってこと……?」
「いいや。同じ時間軸に来ているけれど、毎回任務内容が違うんだ。だから俺達も緊張しながら進めてる」
「え、ループしてるのに任務がいつも違うの? タイムリープって聞くと同じことってイメージがあるんだけど」
「よくあるパターンはそうだよな。でも、俺達は任務の数が多いから、何度もループして毎回違う依頼人にそれぞれ夢を見せるんだよ」
「へー……すご……。でも、ループしたらその人の記憶から無くなっちゃうんじゃない?」
「いや、消えない。未来の技術は上手くできてるんだ。詳しいことは今度な。時間をとってやれなくてすまない」
「ううん。あ、あのさ、キョウが悪いわけじゃないから、謝ったりしないでね?」
キョウはきょとん、としてから声を出して笑った。
「ベルには敵わないな。君にはつい謝ってしまうんだ……」
今度からだめだよ? と言うとありがとうと返ってきた。
「ああっ急がなきゃいけないのに!」
なんでかわからないけれど、キョウと話してると安心しきってしまう。そんな不思議な力が彼にある。
私は焦っていると、「走って転んだら困るから歩いていこう」と促してくれた。
「ベル、その……手を繋がせてくれ。守るためなんだ。移動する時、誰でも良いからそうしてほしい。今は俺で我慢してくれ。ごめんな」
「あ、また謝ったー!」
「……癖なんだ」
「キョウの速度でいいから直してって」と躊躇って宙ぶらりんになっていたキョウの手をとった。
きっと、私が命を何度も失う姿を見せちゃってるからなんだよね……。謝るのは私の方なのに。
***
駐車場はちょっと歩いたところのコインパーキングを使っていた。私の家を特定されないようにする為でもらしい。
わからないことばかりだけど、立ち止まるわけにはいけない。
スーツ組がいる車に向かうと、クロストレックが停まっていた。お金が貯まったら買おうと決めている私の夢の車だ。
運転席にユヅさん、助手席にナナがいる。
ナナが車内からぶんぶん手を振ってくれた。
「ねえっ! 私の憧れの車なんだけどっ! 実物ヤバい! かっこい〜!」
「テンション上がるだろ? 俺が選んだんだ」キョウがドヤ顔をする。
私はうんうんうんうんと何度も頷いた。
「だって、綺麗なお洋服着て、かわいい髪型にしてもらえて、リボンまでつけてもらって、私の好きな車まであるんだよ? 怖いって思ってたけど、やわらいだよ。それに、頑張ろうってもっと思えた!」
「気持ちはありがたいが、肩の力を抜いてな。これから任務が始まる。だからせめて、今は乗り心地も楽しんでくれ」
キョウは嬉しそうだった。至れり尽くせりで嬉しいのは私の方なのに、こんなに笑顔になってくれて、心が温かくなる。
乗り込んでシートベルトをすると、「さあ、行くっスよ!」ナナが気合いを入れてGOサインを出した。
「運転するのは僕なんだが……」
「さあ、行くっスよ!」今度は拳をあげて大声で言った。
「はいはい」ユヅさんは諦めた様子でアクセルを踏んだ。
ユヅさんの運転の上手さもあるけれど、乗り心地は最高だった。ブレーキが荒っぽくなくて、丁寧だし、道路の凹みを避けてくれているのか、ガタン、とすることも無かった。
うっかり船を漕いでしまって、はっとすると、「いいんだ。寝れる時に寝ておけ。これもベルの仕事の一つだぞ?」ってキョウが言ってくれた。
えー、申し訳ないなぁ……。
「何しろ、これからたくさん仕事が待っているからな。僕達よりベルの方が大変だ。寝不足にもなるだろう。恭介の言う通りにしてくれ。……というかお前も寝ろよ」
「お言葉に甘えます、ユヅ先輩」
「ベルっち!おやすみなさいッス! 一応見張ってるっスけど、車を襲って騒動を起こす小説みたいな事は敵も面倒臭がるっスよ〜! だから安心して寝てくださいっス!」
「そっか。じゃあおやすみなさい」
「俺も。一旦任せます」
「着いたら起こすからな」
「おやすみなさいッス」
「ベル、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
初対面とは思えないほど、三人といると心があたたかくなる。
今日初めて会ったのに、前から知っているみたい。
――大切で、愛おしい。
私はいつのまにか眠っていて、夢を見た。三人が泣いてる夢、だったような気がする。私は泣かないでって言いながら自分も泣いてた。
でも、起きたらすっかり忘れてしまった。
何の夢を見てたんだろ……?
***
「ベルっち、目的地の手前に着いたっスよ」
さっきとは雰囲気が違うナナの静かで優しい声で起きた。
寝ぼけながら確認すると、どうやらコンビニの駐車場に停めたらしい。
「おはよっス。気分大丈夫っスか?」
「おはよう。うん、大丈夫。よく寝れたみたい」
ナナは声をひそめて、「寝顔撮っちゃったっス!」とスマホを見せてきた。
「わ、ナナ消して消して消して!」と暴れる。動けなくて、おっと、シートベルトをしているんだったと思い出した。
「じゃあこっちはどうっスか?」
にやり。と見せてきたのはキョウの寝顔だった。
うぐ……イケメンの寝顔……国宝なりッ……!
「お願い、メッセに送って」私はナナに耳打ちした。
「そーゆーと思ってもう送ってるッス! ウチ、しごできなんで!」
「コラ! しごでき! 武器の確認しとけ」
ユヅさんの言葉の鉄拳を喰らって「ハイっス! うう、パイセン耳良すぎっス」とナナがびくっっっとした。
ちらちらとキョウがこちらを見るので、んー? と見ると、「なあ、ナナと何こそこそしてたんだ? 早速悪さか?」とキョウがからかう。
いっ言えないよ!
「内緒っ! いいものもらっただけ」
「なんだよずるいぞ」
「ずるくていいもん」
「お前らも楽しんでる場合じゃないぞ。ほら、恭介。嫌な役割なのはわかっているが、例の物をベルに渡しといてくれ」
「なあ、ユヅ先輩……その、」
「我慢しろ」
「あの」
「恭介が適任だ。わかってるだろ?」
キョウは気が進まない様子だ。でも、意を決したみたいで、ベルあのな……と切り出した。
白衣の内ポケットから――銃を出した。
「お守りだ。ショットガンという。同じものを用意してある鞄に入っているから、ワンピースの右のポケットに入れてくれ」
私は右のポケットに手を入れてみると、広くて頑丈に作られていた。左にもポケットはあるけれど、作りが全然違う。
「動揺させてしまってごめんな……話は聞けそうか?」
そっか……みんなが私を守ってくれるように、私は私で自分を守って生きなきゃいけないんだ。何より、私もみんなを守りたい。でも、銃なんて……。
――誰かを傷つけないといけない時が、来るかもしれないんだ。
――すごく、嫌だ。だったら自分が傷ついた方がマシだよ。
――でも、みんな命懸けなんだもん! 私も覚悟しなきゃいけない。
「聞く。聞かせて!」
キョウは、強く頷いた。
安全装置の外し方から撃ち方まで、要点をわかりやすく説明してくれた。
私は教えてくれたことを復唱してしっかり確認した。キョウが神妙な顔つきで聞いてくれる。
運転席で小さなナイフを数本ポケットに入れていたユヅさんが、振り返らず独り言のようにお話ししてくれた。
「撃たなくてもそれで殴るだけで結構痛いんだ。万が一相手を撃っても、恭介に治療をしてもらえばいいと思っておいてくれ。僕も七海も、戦闘は避けるし傷つけたくない。人の命ほど大切なものはない――これは全員の共通の考えだ。あと、思うほど銃は容易じゃない。当てられないんだ。動く相手なら尚更な」
「そーっスよ! 嫌なやつでも傷つけたくないっス! 絶対命は奪わないっスよ!」
そういえば、ナナは服部さんと戦った時、ナイフを持っていたのに血を一滴も流させてなかったなあ、と思い出す。
キョウは私の顔を覗き込んで、ぽん、と肩に触れた。「ベルは強い。俺達は知ってる」と言ってくれた。嬉しかったけど、何かが込み上げてきて泣きそうになったから、黙って頷いた。
「準備は整ったみたいだな? 飲み物や七海のおやつも買ったから行くぞ。他に買いたいものがあったら言ってくれる。ベル、依頼人に言うあの言葉は覚えてるな? 僕達で合図をする」
「わかった」
コンビニでお菓子とか飲み物とか選ぶ余裕もないし、心が早くって走ってるから、私は私を止められない。
最終打ち合わせを終えて、ついに豪邸についた。
門と、周りを囲う立派なレンガみたいなので、中がよく見えない!
ユヅさんは車を降りずに、電話をかけた。
すると門が開き、車を招き入れてくれる。
門から本邸への道が長くて、あまり見ないお花とかも咲いてて緊張も増していく。
執事さんがキーを受け取って、車を預けるみたい。
車から降りると、大きくて高級そうなブラウンのボストンバッグを持たされた。重いけど我慢して下さいっス、とナナがペコペコと謝っていた。大丈夫だよ!
それよりもさっきのポケットに入れた『銃』の方がバッグよりずっと重いよう。
使用人さんたちがご丁寧に案内してくださったけど、覚えてない。なんか廊下も長かったし、靴を脱ぐ時とかわたわたしちゃって、わけわかんなくなっちゃったぁっ!
そして――ついに現在の総理・高城次郎がいる部屋に通してもらった。
テレビで見る印象とは随分違った。元々親しみやすさがある総理として人気で、メディアの露出も多く、適度にユーモアを交えて話す人だからだ。
しかし、テレビとは違ってラフなジャージ姿で、孫娘のレナさんと撮った写真立てを切なそうに、愛おしく撫でている姿は――
普通のおじいちゃんだな、と思った。
私が先頭に立って、スカートの裾を持ち上げてお辞儀をする。三人が、トンと背中を軽く叩いて合図してくれた。
「はじめまして。"本"の書き手の『ベル』と申します」
そう言ってから、広い部屋めいっぱいに三人が私の横に並んだ。今度は隣にいるキョウが、手にしていた真っ白な本を見せるように前へ出す。
「私たちは、高城レナ様の輝かしい過去を一冊の本にし、夢を通してお見せします」
この作品は命を大切にします。だからみんな、戦いたくないです。服部さんがボコボコになってしまったのは、あまりにも強かったのでナナが手加減しなかった結果です。それでも彼女は肉弾戦限定にしていました。




