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私たちは、あなたの輝かしい過去を一冊の本にし、夢を通してお見せします。  作者: 夢乃めちあ


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3話 「涙」

★主な登場人物★


・ベル (本名 ???)

現代人。鈍感な本の書き手/164cm


・来栖恭介

未来人。爽やかな医者/177cm


・百目鬼弓月

未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm


・七彩七海

未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm


・服部半蔵

過去人。純粋な心の忍者。護衛/172cm

 もう嫌だ、もう嫌なんだ……


 闇しかない気持ちとは裏腹に、薬指の指輪は太陽の光を受けてキラリと光る。


 ナナは一人じゃ寂しいっスから先に行ってきます! と笑顔で部屋を後にした。


 その直後。

 ――ゴトリ、と音がした。


 ユヅ先輩も「七海の所に行ってくる」と部屋から去った。


 俺はすっかり力が抜けてしまっていて、二人を止めることができなかった。


 ――何回繰り返したのだろう。抗う力なんてものは残ってなかった。


 でも、ベッドに寝ている彼女の手はまだ温かい。永遠にそうであってほしいが、少しずつ色を失っていって、綺麗な肌も青に近づいていた。


 俺は、指輪同士をコツンとぶつけてから手を握る。愛している、という意味で話せない時によく使った。


 彼女は力なく「ふへ……」と子どもっぽく笑った。


「次は、絶対……大丈夫だよ。ほら、約束の……証」


 彼女は髪から宝物のベルベットのリボンを、ゆっくり解いて俺に渡してくれた。


 ――次なんて言うなよ。


 ――これは、君が持っているべきものなのに。


 伝えたいことを言えない。涙で、悲しみで、首が締めつけられたようになって言葉を発することができない。


「もう泣かせたりしないから……今回で終わりだから……ごめんね」


 どうして涙は出るのに声が出ないんだ。


 耳だけは機能していて、かすかな声を掬いあげる。


 俺は――俺は、弱すぎる。


 愛する彼女の無垢な顔は涙でぼやけて、とうとう見えなくなってしまった。


 触れていた脈は、止まってしまった。



***



「……キョウ? キョウ、ねえってば!」

「キョウ兄! ベルっちが心配してるっスよ!」


 キョウは何度も呼びかけて、やっと気がついてくれた。どうしたんだろう、大丈夫かな?


「しっかりしろ、恭介。こんな時こそ、だ。それを寄越せ。僕が代わり任務内容を読もう」


「すみません、俺……」


「いや、いい。お前が一番つらいだろ? ほら」


 キョウは巻物をユヅさんに渡した。


 任務内容とはなんだろうと思った。

 軽く説明は聞いていたものの、いざ直面すると緊張する。


 ……ここまで来たら、信じるしかないし。危ないらしいし、私はこの三人といるしかないかもしれない、と思う。直感じゃなくて、本気の実感になっちゃった……。


「よく聞け。対象は高城レナ。女性。十二歳。祖父である高城次郎からの依頼で、難病の孫が息を引き取る前に夢を見せて欲しいそうだ」


 達筆の巻物を読み上げると、ナナが「今の時代の総理じゃないっスか! 初っ端からこんな大物の依頼なんてするんスか?!」と驚く。


 今総理って言った? 嘘だよね?


「そうだ。それから――言いたくないが高城レナの命のリミットは明後日だ」


 明後日? 明後日って言った? 嘘だよね?


「……急がないとっスね」


「そうだな、ベルには悪いがゆっくり説明してられないな。支度して現地に行くか?」


 キョウは服部さんの治療を終えたみたいで、顔を上げてみんなに訊く。すると、ユヅさんが「そうだな」と答えた。


 服部さんは、キョウによって包帯だらけの姿に変わっていた。見てるだけで痛い……。


 突然、綺麗にお辞儀をしようとして、あいたた、という表情をしてお腹の上あたりを抑えた。

 

 やっぱ大丈夫じゃないじゃん!


 すると、手を合わせて祈るポーズをした。忍術かな、と期待していたら突然消えた! やっぱり……


「こっこれが本物の忍術⁈」感動して、私は三人を見る。


「違うっスよベルっち……」


 ナナにドン引きされてショックを受ける。だってそう思うじゃん……?


「服部さんは未来に帰ったんだ。と言っても、いなくなった瞬間に治った服部さんが未来から来て、どこかにいるはずだ」


 ちょっと待って、リスポーン早すぎない? タイムリープってエネルギーを使うとかなんとかあるじゃん!


 それは置いといて、と一呼吸してからユヅさんは続ける。


「まずは、僕と七海で車の用意と必要な物の再確認をしてくる。これから依頼人のところへ行こう。さて、恭介にはいつものを頼んだ」


 キョウは「了解です」とひらひら手を振った。


「ベルをこのまま行かせるわけにはいかないからな。俺がバイタルチェックを済ませたら用意した服に着替えてくれ」


「じゃ、ベルっち! キョウ兄! 車で待ってるっス」

「恭介、しっかりな」


 スーツ組は微笑ましそうに見てから部屋を出ていく。「にやにやするな馬鹿!」とキョウが急に怒鳴ったのが意外だった。何? どうしたんだろ?


 キョウは一度咳払いしてから服の上から失礼する、と聴診器を当てて鼓動を丁寧に確認していった。


 さっきとは違って、鼓動を聞いている間は、顔が緊張から解放されて、安心した様子だった。他にも入念に血圧も測っていく。


「ねえ、キョウ。急いでいるのにいいの? 私、元気だよ?」


「色々聞いて疲れただろ? それに、ベルの健康チェックは君にとっても俺達にとっても大事なことなんだ」


「わかった。キョウは、大丈夫? さっきなんとなく変だったから……」



 私は、さっきのキョウを思い出す。

 私は、人の感情に敏感だから見逃せない。



「大丈夫だ。俺達に何かあればすぐ未来に飛べるし、また来れるんだ。未来人は無敵なんだぞ?」


 私は何か引っかかった。こんな時だからこそ、違和感は大切にするべきだ。


「それって、体は大丈夫だけど心は……?」


 キョウは、目を見開いた。そして、見抜かれてしまった、って何かを失敗した小さな子どものように、誤魔化そうと顔を逸らす。


「ねえ、私たちってずっと一緒にいて、それで未来の私が死んじゃったんだよね。私、わかんないけど……わかってあげれないけど……もしかしたら悲しい思いをさせちゃったり、迷惑かけちゃったりしたんじゃない……?」


 キョウはすぐに返事をしなかった。まだ目を合わせてくれない。でも、また前を向いて話してくれた。


「ありがとな、ベル。大丈夫だ。俺も、ユヅ先輩もナナも大丈夫だからな? ベルが、いつもこうして気遣ってくれるから、俺達は前からずっと、心は守られてきた。――さあ、体は問題無かったから、悪いが早めに着替えてくれ」


 やっと、顔を見せてくれた。キョウは笑顔で言ってたけど、泣きそうにも見えてしまった。


 なんでだろう、胸が痛い。


 絶対、守られているのは私の方だ。


 私は用意して頂いたお洋服を持って、「じゃあ、着替えてくるね」って足早に隣の部屋に移動した。


 俯いてちゃだめ! と頬を叩く。でも、キョウのあの泣きそうな瞳が、まだ消えない。

 でも時間が無いんだから! とにかく早く着替えよう、目の前のことをしよう、とキョウに渡された服に手を伸ばした。


 胸元にリボンのついた紺色のワンピース。ところどころ白いビーズの花が縫われていて高級感を感じる。白のハイソックスには、小さなリボンが付いていて私の好みど真ん中。大人可愛い、みたいな雰囲気ですごく好きなデザインだ。


 かわいい、とテンションが上がったけれど、いざ着替えてみたら普段着ない服で落ち着かなかった。


 ……緊張、するなぁ。



***



 優しくしないでほしい。

 いっそ距離を取ればいい。

 任務遂行の道具だと思え、と上には言われている。


 ――そんなこと、できるか!


 持っている赤のベルベットのリボンを見ると、視界がぼやけていた。


 また俺は泣いているのか――?


 今回、彼女を失ったら……俺たちは一生彼女に会えなくなる。ループは終わりになるんだ。


 最期に彼女は大丈夫と言っていた。

 彼女は嘘をつかない。

 いや、嘘をつけない。


 ――信じよう。守ろう。


 俺は誓いをさらに強くした。



***



 隣の部屋からキョウが「ベルー?」と呼びかけてきて、私は大きめに「はい!」と聞こえるように返事をする。


「着替えたら髪はそのままでいいからなー!」


 え、なんだろう? と思いつつ、また「はーい!」と答えた。


 私は鏡でぱぱぱと再確認して「ただいまです」とキョウのところに戻る。


「おかえり、ベル」


「その、変じゃない? こんなお高い服着たことないから落ち着かないの」


「何言ってるんだ、似合ってるぞ?」


「え、待って。急にご褒美じゃん……ふふっありがとう」


 キョウはパソコンのデスクの椅子に促した。


「さあ、仕上げだ。座ってくれるか? 髪を結うのは俺の仕事なんだ」


「え、そうなの? いいの?」


「俺の仕事をとるなよ。ほらほら、座ってくれ」


 あああああ! せっかく綺麗な服を着てるのに椅子がこれしかないなんて。


「いつもはシニヨンとか、巻いたりして凝っているんだが、時短でポニーテールでいいか?」


「うん。動きやすくて好き! ポニテって自分でちゃんとやるの大変だし……。てゆーか、誰かにやってもらうの、緊張する」


 キョウは肩に力が入っていると持たないぞ、と言った。


 櫛で髪をとかす手つきが早くて丁寧で、慣れを感じた。"前"の私にも、してくれていたんだろうな……。


「本当に綺麗な金髪だな」キョウが褒めてくれる。

「えへへ、トリートメントだけはリッチなの使ってるからね」


 時短って言ってたのに、左右の髪を少しとって、細く三つ編みまでしてくれて、お洒落なポニーテールが完成した。


 さあどうぞ、と私の手鏡を持って、後ろも見せてくれた。


「わっ ヘアピン無しでこんなに高めのポニーテール作ったのすごい! 短時間でこんな綺麗に……ありがとう!」


「まだ完成じゃないぞ? これはプレゼントだ」


 綺麗な赤が鏡に映った。ベルベットの上質な赤いリボンだ。ポニーテールの上から丁寧に、解けないように結んでくれた。


「わあっリボン! かわいい!」

「好きなキャラクターとお揃いなんだろ?」


「"前"の私に訊いたの? そうそう、リボンは特別なの。リボンをつけるとね、強くなれるんだよ。ありがとう、大切にするね!」


 今日、はじめてキョウたちに会ったのに。私のこと、知り尽くしてて変な感じになるはずなのに。

 私は当然って感じがしてて、おかしいよ。


 タイムリープによる、ちょっと記憶が残るやつ……とかなのかな?


 ああもう知らない! そんなことより――


 嬉しいけど、悲しいって気持ちが反発してる。



***



 最後になんて、させるものか。



 この笑顔を守る。

 夢も届ける。

 今回こそ誰も死なせない。

 俺も死なない。

 全部守る。



 ――未来の為に、俺にできる全てを捧げよう。



***



早くも過去編を少しだけ入れました。

今回はポニーテールですが、ベルの髪型はよく変わります!

髪を結ぶのは恭介の担当です。

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