2話 はてながいっぱい
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・???
ドン! ドン! ガッ! という人体を殴る嫌な音と男の呻き声が外から聞こえた。
ナナは本当に戦ってるんだ……と思うと不安になった。でも、あんなにかわいいナナが本当に戦えるの?
いや、でも未来人らしいし……? 強いのかも?
私はキョウの背中でびくびくしていると、ユヅさんが「おお」と感嘆の声を漏らした。
「早いな。警戒を緩めていいぞ」
「流石ナナだな。仕事が早い」
キョウが軽く拍手してから、私が装備してたあれやこれやを外してくれた。
私は驚きっぱなしだった。どーゆーこと?
そういえば、音はもう聞こえない。
「もう敵を倒してピースしてるぞ……ってあの人! 服部さんじゃないか!」
何が起こったんだろう、てか、ピース?
はてなだらけで窓を覗き込もうとしたら、キョウに「こーらっ! 危ないから離れないでくれるか?」とちょっと厳しめに言わせちゃった。
うー、ごめんなさい……。
ユヅさんは「七海ッこの……馬鹿野郎!」と叫ぶと「サーセンっした!」と必死なナナの声が聞こえる。
なになに、何が起こってるの?
私がソワソワしているのを察して、ユヅさんはスマホで写真を撮ると、そのまま私に見せてくれた。
もう窓に近づきませんってば!
「今の状況だ。本来なら敵を倒してもピースなんてしないが、ベルに会って調子に乗ってるんだろ」
写真の中のナナはうぇーいと笑顔を向けて手を振っていた。拘束された服部という人はぐったりしていて、生きているかわからない。腕を後ろにされて手錠までされてる。足も動かないように縄でぎゅっと両足を縛られてた。
「ピースしてる場合かー! 恭介に治療させるから早く連れてこい! その人、服部さんだぞー!」
ナナは血相を変えてるのがわかる声音で、「マジっスか? 服違くてわからなかったっス」と言いながら、部屋の窓へ帰ってきた。
ええっ⁈ どうやって戻ってきたの⁈
ナナは、窓際にちょこんと腰掛けた。お人形が座ってるみたいでかわいい。
「ハンゾーっちごめんっスよ……訓練ってことにして欲しいっす……」申し訳なさそうにしつつも服部という人物をドサリと適当に置いた。
キョウが「丁寧に扱え! 誰が攻撃したと思ってるんだ!」とナナを叱る。
「ウチっス。超手加減したっスよ?」
「ったく……」キョウは「足の縄キツすぎんだろ!」って文句を言いながら拘束を解いていた。
ナナは、まだ窓際に腰掛けたままだった。靴下を脱いで、奥にいる私のところへ来て渡してきた。
え、な、なぁに?
「うう〜靴下汚しちゃったっス! ベルっちぃ……汚いんで袋かなんか欲しいっス!」
「え、うん? 袋ね?」
私は綺麗に折ってたビニール袋をバッグから取り出してそのまま渡す。
ナナが「あざっす!」と満面の笑顔でお礼した。
それからナナは、靴下を袋に入れて何事もなかったかのように、ささっとポケットから替えの靴下を出して履いた。
んーと、部屋を汚さないようにしてくれた、のかな? てか、替えの靴下あるんだ。
ギャグ担当のギャルかと思っていたけれど、意外と礼儀正しいのかもしれない。
「てゆーか、服部さん? って説明に無かったけど何者か訊いてもいい?」
禁忌というものがあるらしいので、何が質問できるかわからないし、教えられないんだよってみんなに言わせてしまうのも……なんだか申し訳ない気持ちになる。
「僕と七海以外にもベルの警護はいるんだよ。この人もその一人だ。で、恭介。服部さんの怪我の具合はどうだ?」
「ウチ、ウチ手加減したっスよ!?」
「もう聞いたぞ。わかったから声を荒げるな」
「ぁぃ……」
なんとかナナの強力な拘束を解いたキョウは、服部さんを床に寝かせて、聴診器を当てたり触ったりしてた。注射をして、包帯を手際よく巻いて、本当にお医者さんなんだな、って実感する。
――そういえば、一瞬、目が青くなった気がしたけど気のせいかも。
「痛みで話せないだけだ。意識もあるぞ。本当に手加減してるな……。うん。大丈夫だ! でも両足は骨折してる。他にも骨がいってるから、服部さんにはもう無理はさせられない」
「ええっキョウ! それ、服部さん全然大丈夫じゃないじゃん!」
「生きているから大丈夫だ。あまり心配するなよ? ベルは優しいな」
待って、微笑んで言ってくれてるけど……大丈夫の基準が大丈夫じゃないよ!
スーツ組がアイマスクかどうとか、ごにゃごにゃ話してた。なんとなく聞こえたのは、「最初に目をパンチしたっスから腫れてて見れないんじゃないスか?」と謎の会話だったのでスルーする。
勝手に未来から来て勝手にわかんない状況になってるんだから、わかんないままで良くない? と開き直ることにした。私の頭の上には、はてながいっぱい浮かんだままになっている。
もー。そろそろはてなで重くなってきた!
例の服部さんは、灰色の前髪を伸ばして片目だけしか見えなくなっていた。その片目も赤くなっていて痛みに耐えるために思いっきり、ぎゅっと瞑られている。か、かわいそう……。
すると、震えながらジャージのポケットに手を入れて、キョウに巻物を差し出した。
「……未来人の連絡手段って一周回って古いんだね」
期待外れでがっかりしているとびっくりドッキリ情報が飛び込んできた。
「服部さんは特殊なんだ。俺達が過去から連れてきたからな」
「まさかの過去人⁈」
「漫画とかに出てくるモノホン忍者の服部半蔵っス! まだ時代に馴染んでない感じっス!」
「え? 歴史の? うそ、そんなことある?」
キョウとナナは腕を組んでうんうん、あるあると頷いた。
私は、いやいやないないと首を振った。
すると、ゴゴゴゴと聞こえてきそうな重い空気がナナを襲う。ユヅさんだ。
「に"ゃ"っ!」と声がした。
猫かと思ったらナナだった。
「あのな、七海、お前……楽しそうに説明してるけど仕事の妨害をしたんだからな?」
「だ、だって! ハンゾーっちはわりと出てこない予定のキャラじゃないっスか! いつもの忍者ユニフォームの服じゃないし黒のジャージなんて現代っぽいモノ着てるんスもん。フード被ってたっスし……この状況だから未来から来た異分子かと思って、ウチは必死だったんスもん!」
ナナが涙目でユヅさんに訴えると、「落ち着け馬鹿野郎」と言って頭に手を置いた。
なんだ、厳しい人じゃないんだ――。とほっこりしていると、尋常じゃない驚きを纏ったキョウの様子が伝わってきた。
キョウは「え……」と声を漏らして巻物を睨みつけていた。さっきの柔和な雰囲気とは全然違う。
「おい、スーツ組。怒って怒られてる場合ではない」
――キョウは青ざめていた。どうしたんだろう……。
「服部さんの巻物に予想外のことが書いてあった」
「マジスか?」
「なんだ……恭介?」
「な、なに……?」
私もナナもユヅさんも、顔色が青とか白とかになってキョウの張り詰めた空気が伝わってきた。
キョウは、全員深呼吸しろ、絶対だ、と促す。
私達は従った。
キョウも動揺しているはずなのに、「したな? えらいぞ」と確認する。
彼の言葉には不思議と説得力がある。
とてもとても優しいのに、目には強さを感じるから、今は――なんだか、怖い。
「任務内容は後で伝える。まずは今から言うことを心して聞いてくれ」
今度はキョウが深呼吸をして、険しい顔で巻物を読み上げた。
「今回の『ベル』が亡くなった場合は、他の『書き手』を速やかに探せ――だそうだ。ありえない。ベルがここで亡くなったら一生俺達は……」
「クソ、上は何を考えてるんだ!」
「ベルっちを守るっス……! ぶっちゃけよくわかんないっスけど……それしかないじゃないっスか!」
「……ナナの言う通り今は出来ることをするしかないよな。わかってる、わかってるけど俺は……!」
私はわけのわからないまま、わけのわからないことを言われて脳がパンクしそうになった。でも、三人は演技でもなく嘘でもなく動揺してて、この焦りから本当のことなんだって私はわかってしまった。
――私、本当に死ぬかもしれないんだ。
ナナは綺麗好きで、物を大切にするコです。
すぐ調子に乗りますがしっかり反省して前へ進むしっかりした一面があります。
服部さんは今回、残念でしたが大活躍しますよ〜!




