【アフターストーリー】ナナの悩み
★主な登場人物★
・ベル (本名 綺咲凛音)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。純粋な心の忍者。護衛/172cm
、若王子王子
未来人。七海の兄。自称天才・実際天才/167cm
・黒羽フリル
未来人。洪水のように泣く。皆のサポート役/158cm
・沖田総司 ※この作品では女性※
過去人。真面目な剣の達人。護衛兼サポート/172cm
私の隣で、「ふにゃ……にゃぁ……」って世界一かわいい寝言を言って寝てるのは、最強の未来人ギャルの七彩七海。私はナナって呼んでる。
寝顔が天使でかわいい。ピンクのロングヘアはツヤツヤさらさらで、ついつい触っちゃう。
ナナは訳あって私の護衛で一緒に寝てくれてるんだけど……多分ナナが甘えたいだけじゃない⁈
なんだか寝れない私は、「にゃふ……ふにゃぁ……にゃ……」ってずっと猫みたいな寝言を言ってるナナを起こさないように、私たちのリーダーであり、実質ナナの旦那さんにメッセを送った。
『ねえ、ユヅさん。護衛の関係でナナが一緒に寝るって……実は嘘じゃない?』
『今気がついたのか? 七海は一人では寝れないんだ。寂しがり屋だからな。これからも頼む』
いや、これからも頼むって……ナナの彼氏、じゃなくて実質旦那さんなんだから一緒に寝ればいいのに。二人専用の離れだってあるんだし!
『私はいいけど、ユヅさんはナナと一緒に寝なくていいの?』
『僕はいつでも一緒に寝たいが……かわいすぎるからタイミングによる。察してくれるか? それよりベルは恭介とどうだ?』
恭介――キョウは私の彼氏。私たちはシェルターという名の豪邸に訳あって住んでる。詳しくは本編を見てね!
『私はベッドも一緒がいいんだけど、キョウがダメって言うんだもん。女子側と男子側じゃ事情も事情だよね、きっと……』
『ああ。こればかりはな。まあ恭介のことは待ってやれ。それより早く寝ろよ? 恭介も寝てるしな』
メッセの交換をしてるけど、私たち四人の寝室は同じだ。スマホの光に照らされたユヅさんは手を振った。
『おやすみベル。七海をよろしくな』
メッセが届いた。
私はおやすみなさいって書いてるうさぎのスタンプを押して、手を振ると、ユヅさんは微笑んで布団に潜り込んでいった。
***
ん? やわらかい……ナナだ。私にぎゅうって抱きついてくれてる。ふふっかわいい!
――でも私より遅く起きるの、珍しいなぁ。
「ユヅぱいせん……うぅ……にゃ、にゃあぁぁ……」
えっ泣いてる? 起きてる? どっち?
ナナ、どうしたの? ナナが泣いてると私も悲しいよう……。
私はもう起きてるであろうユヅさんにメッセをすぐに打って送った。
『ナナ泣きながらユヅさん呼んでるすぐ来て』
ユヅさんが血相を変えて飛び込むように寝室に入ってくると、キョウも起きた。ユヅさんの顔を見て緊急事態と判断したのか、枕元にある聴診器を取って二人一緒に来てくれる。
「ベルっ! ユヅ先輩! どうした!」
私とユヅさんはしーっと人差し指を当てる。
キョウは、ナナの寝顔を見て、やべって顔をした。
私の彼氏反省して偉い! もう大好き!
「まだ泣いてるの。切ないよ……どうしよう。起こす?」
私は抱きついてるナナをそっと撫でると、また涙が頬を伝って落ちていった。明るいナナがこんなに苦しそうにしてるの、滅多に見ないからとっても心配……。
「ゆづ、ぱいせん……ゆづき、さ……ん」
ん⁈ 弓月さん⁈
私とキョウは、すぐにユヅさんを疑惑の眼差しでじーっと見た。
「すまない、心当たりがある……」
「先輩、どうしたんです? ウエディングフォト撮って、家で結婚式ごっこして幸せ絶頂じゃないですか」
「……色々悩んでてな。悪い、ベル。そこ変わってくれるか?」
「うん、いいよ。……あれっ……どんどん力が強くなってきた」
ナナはぎゅううううって私を抱きしめて、抱きしめすぎて、私は耐えられなくなった。
「いたたたた、助け、助けて、つぶれ、つぶれるよう〜〜〜ナナっストップ! ストップ!」
「ふにゃ……にゃ……ゆづ……さ……ぱいせん……」
「ベルの骨が折れたら困る! ナナを起こします!」
「ああ。ベル、待ってろ! 七海を回収する! すまないが布団をめくるぞ!」
「いいからはやくー!」
パジャマ姿はいつも見られてるし、時と場合によっては一緒の部屋で着替えてるし気にならないから! 早く!
――それよりもナナだよ。なんで泣いてるのか、なんで『ゆづきさん』って呼んでるかがこの事件の鍵なのっ!
二人で私から剥がそうとしても無理で、力の強い沖田さんと服部さんを呼んだ。強く頼もしい二人は、息をぜーはーさせながらナナを私から引き剥がしてくれた。ふぅ。
「ベルっ! 大丈夫か?」
「いたた……すごい力だったから、ナナのことを診た後に私も診察してくれる? 沖田さん、背中とか見るの手伝ってほしいな。じんじんしてるから、多分、赤くなってると思うの」
「ナナ姉さんはすごい力でくっついてたからな……。ベル姉さん、自分が布団で隠しながら背中を確認します」
「ありがとう、いててて……ナナの力ってすごいねぇ」
「すまない、七海が……」
「ユヅさんもナナも悪くないよ。ね?」
私はユヅさんをばしばし叩いて励ました。でも、また、すまないって言ってた。私、気にしてないよう。うぅ。
「ユヅ先輩、すいません、ナナのパジャマのボタン外してもらっていいですか? 下着の上から聴診器当てますから」
「長い付き合いだし気遣いは無用だ」
「いや、だってナナはユヅ先輩のお嫁さんですから。前とは違いますよ」
ユヅさんはため息をついてから「悪い」って謝ってた。
――トントントンとこめかみを叩く音がした。キョウが能力を使ってナナの体の異変を見てるんだ。
「ベル姉さん……ナナ姉さんの愛らしい手の跡が綺麗に残ってます」
「だよね。でも、それよりナナの方が心配だなぁ……」
「自分思うんですけど――ナナ姉さんって、甘える時以外泣きませんよね? かわいいので自分は好きですから甘えてもらえて嬉しいですけど」
「そうなの。たまにガチで怖い時は泣いちゃうけど、ほぼ嘘泣きか甘え泣き。私もかわいいからオッケー! 今回は何か抱えてるのかな……? あっ起きたかな?」
私と沖田さんが戻ると、「ベルっち……」とぴょんって飛んできた。ユヅさんがキャッチすると、「ひゃにゃにゃ! ベルっち、ベルっち!」って必死に私に手を伸ばす。
ナナが離れて行って、ユヅさんは何か言おうとしたけど、俯いて黙ってしまった。
「ナナっどうしたの?」
「ふぇ……ふぇにゃむにゃぁあにゃにゃぁぁ〜〜〜!」
謎の声を出しながら、私にまた抱きついて来た。
「い、いたっ! ナナごめん、私、体中が痛いの。ごめんね」
「ベルっち……ウチのこと嫌いになったっスか?」
「違うの、違うんだよ。ナナ大好き。大好きだよ? 知ってるでしょ? 今はね、抱きしめることはできないけど、いっぱいなでなでしてあげるからね」
「嫌っス。抱っこが良いっス! ベルっちぃ〜!」
ナナがパジャマを掴んだ。捲れちゃう! 赤くなったところが見えちゃう!
「ナナ! ダメ!」
――パジャマが捲れてしまった。
さっきも見たけど、ナナが抱きついたところが全部真っ赤になってた。ナナは膝を丸めて寝てたから、お腹にも赤く跡が残ってる。
「……ベルっち、その傷……どうしたんスか! 敵にやられたんスか⁈ うちがボコボコにして――」
「七海……落ち着いて聞いてくれ。お前がベルを強く抱きしめすぎたんだ」
一番言っちゃいけないことをなんで、なんで言うのっ!
「ユヅ先輩!」キョウは思い切りユヅさんの胸ぐらを掴んだ。慌てて服部さんがキョウを止めてくれる。
沖田さんはそっとナナの背中を撫でてあげてた。
「ユヅさん! 違うでしょ? ナナ! 私ね、きのう、ドジしちゃって……」
ナナは、焦点が定まらないまま、自分の手を見つめた。
「ウチが……ベルっちを……? キョウ兄っキョウ兄っ! 教えてっス!」
ナナが、キョウの白衣を掴もうとしてやめた。
「そうなんスね……ウチ……おバカっス……アホでばかぢからで、さいてーで、ひどいっス……。ベルっちを……ベルっちを……にゃぁぁっにゃぁぁぁぁぁっ! ふにゃぇぁやぁにぁ〜〜〜〜!」
ナナは自分の手を齧って、自分で罰し始めた。
「ナナっ! ナナっ! 痛いよ、だめぇっ」
「ウチ悪い子っス! ベルっち……ごめんなさいっス! 罰を与えるっス!」
キョウが「やめろ! 傷つけんな!」って思い切り叫んで、ナナをやめさせた。ナナの手首を掴んで言う。
「ユヅ先輩、ナナ借ります。服部さん、沖田さん、ありがとな。沖田さん、塗り薬を置いてくからベルを手伝ってほしい。服部さんはユヅ先輩と居てくれ。必ず一人にしないでくれな! これは医者としての指示だ!」
「はいっ! キョウ兄さん!」
「承知でござる」
***
ナナをおぶってやると、俺の背中にくっついて、くすん、にゃすん、くすん、あにゃぁ……と泣きっぱなしだった。診察室だと圧迫感があるし、ベルの執筆部屋に連れてくか。
考えながら歩いていたら、フリルさんに発見されてしまった。やべっ……ナナのマジ泣きはみんな心配するよな……。
「おはようございますですの……あらっ? 七彩様?」
「おはよう、フリルさん。すまん。わからないからこれから診察だ。ユヅ先輩もちょっとな……。王子くんは本気を出せば料理ができるから、朝ごはん作りはこき使ってやってくれ」
「はいですの。力になれることがらありましたら言って下さいませ」
「助かる。頼むな」
「あのっ……少々お待ちをですの」
フリルさんは立ち止まって、「いいこ、いいこですのよ」とナナの頭を撫でてくれた。「それでは朝食を用意しますわね。七彩様の大好きなホットケーキを作りますのよ」と言ってすぐ去って行った。
ナナ、みんなが心配してるぞ。
ユヅ先輩、何したんだ……?
部屋に連れてってベッドにナナを置いても、ナナは落ち着かなかった。ツインテールを握って口元に持って行って、にゃあにゃあと泣いている。
「痛いところないか?」
「うぅ……お胸が痛いっス」
聴診器を一応当てて診察のフリをする。
心因性だってわかっているからな。
「いつも通り心臓は元気だぞ。でもな、心が痛い時は、話を聞かないと力になれないし、治せないこともある」
「ベルっち……あんなにまっかに……ウチの馬鹿力のせいっス」
「ベルのあの赤いのは、治るから大丈夫だぞ。それよりも――ベルは、心の方が痛いみたいだったぞ?」
ナナは、涙と鼻水もべちょべちょになりながら顔を上げた。仕方なくティッシュで軽く拭いてやったが拭いても拭いても涙と鼻水が出てきて、しばらく鼻をかんでやった。鼻水の吸引機を持ってくれば良かったな……。
「ベルっちは、心が痛いっスか?」
「ああ、そうだ。ナナが泣いてると、ベルは心が痛くなるんだ。みんなもそうだぞ? ナナが大切な友達だから、悩んでないかって心配すると――心に傷がいっぱいできるんだ。ベルを助けるためにも、誰かに話せないか?」
「ウチ……ウチ、ベルっちに謝りたいっス。それから、ベルっちに話したいっスよぅぅ」
「わかった。じゃあベルに来てもらうな」
「ウチ、キョウ兄にも聞いてほしいっス」
「……いいのか?」
ナナは俺の白衣をきゅっと力加減に気をつけながら握った。ベルを馬鹿力で傷つけてしまった、とまだ責めてるんだろうな。
「はいっス。キョウ兄はウチのことよくわかってるっス。でもゆづきさ……ユヅパイセンとはまだ話せないっス。でも、嫌いになったんじゃないんス。好きっス。愛してるんス〜〜〜〜!」
うにゃああああああっ! にゃあああっ!
耳をつんざくように泣き始めて、俺はベルに「すまない一人で来てくれるか?」とメッセを送る。
すると、十秒くらいしてからノックされた。「ナナっ! 大丈夫?」あまりの早さに驚いていたら、ベル・ユヅ先輩・沖田さん・服部さんが扉の前で待っていたらしい。ったく盗み聞きしやがって……。
ユヅ先輩はすまない、と手を合わせて沖田さんと服部さんを連れて離れて行った。
***
「ベルっち、ごめんっスよ、ウチ……ウチのせいで」
「こんなの平気! それよりどうしたの? 話せる? 話したくないんなら無理しなくて良いんだよ?」
ベルはナナの横に座ってずっと頭を撫でてた。
ナナはベルのもう片方の手を優しく握っている。
「はずいっスけど、話すっス……その、ユヅパイセンが、えっと」
ナナはちょこちょこ、少しずつ話し始めた。
ユヅパイセンは、ウチのお婿さんになってくれたっス。
でも、婚姻届とかの紙は出してないっス。
でも、ウチ、夫婦みたいなことしたいっスねって言ったら、僕のことをパイセンじゃなくて、普通に呼んでほしいなって言ってくれたっス。
ウチ、ウチ……恥ずかしくなってなかなか、名前にさんをつけて呼べなかったんス。
三日頑張ったっスけど、できないっス……。
「ウチもキョウ兄とベルっちみたいに名前で呼び合いたいんス〜〜〜〜!」
「話してくれてありがとね。ナナ」
「事情はわかった。体調を崩してなくて良かったぞ。――でも、ストレスになるのなら問題だ」
早く解決してあげたいな……。どうしたらいいんだろ。
私とキョウに、置き換えてみたらいいんだ!
「ねえ、キョウ。私たちだったらどうしよう? 例えば、『恭介』『凛音』って呼ぼうねってなったら、どうする?」
「り、り、りん……ベル」
「恭介……くん」
私たちはかああって赤くなった。
「ナナ、これ、自然なことだよ!」
「そうだ! 『ベル』はあだ名で、名前じゃないしな」
「あっ私も『凛音』って呼ばれたいな……」
「いや、外で咄嗟に出て誰かに聞かれたら困る!」
「確かにそうだね!」
うーん、うーん……。
「えっと、じゃあ、二人きり限定、の時に頑張って呼んでみる、とか?」
「そうだな。言えなくても、ゆっくり言えば良いだろ」
ナナは少し元気になったみたい。
私とキョウがわたわたしてたら、笑ってくれた。
「みんな、同じなんスね! じゃあベルっち、『恭介』って呼んでみてほしいっス」
無邪気に無茶なお願いが飛んできた!
が、頑張るぞっ!
「きょ、きょうすけ、くん……ああっだめっ呼び捨てできないっ!」
「にゃふふっ 面白いっス!」
「ナナっ! このっっ! お前に言われたくない! 『弓月さん』って言ってみろーッ!」
「あにゃにゃベルっちぃぃ」
腕は大丈夫だから、ナナはいつもより優しく掴んで私に甘える。んーかわいっ。大好き!
「もーっ! じゃあキョウは『凛音』って呼べるの?」
私はまだ涙と鼻水だらけのナナの顔をふきふきしながらニヤリと笑って訊いてみた。
「り、りり、りん……」
「あはっあははっ! 呼べないじゃん!」
「うっせぇ!」
「ウチ、くだらないことで悩んでたんスね!」
「そんなことないよ! 一生懸命考えて、向き合って、大好きなユヅさんの希望を叶えてあげたかったんだよね。それは、ナナの愛だよ?」
「ウチの、愛っすか……?」
「ねえ、ナナ、ユヅさんに話してみない?」
「にゃっ‼︎‼︎」
ナナが驚いてると、強めのノックが聞こえた。「おい、離してくれ」と抵抗するユヅさんの声がする。
「黒羽ですの! 今よろしくて?」
「ナナ、フリルさんだ。開けて良いか? ……多分、ユヅ先輩もいるけど大丈夫か?」
「はずいっスけど、ウチ、ウチ……! 今すぐユヅパイセンに会いたいっス!」
ナナがドアを開けて、フリルさんの後ろにいるユヅさんの前に立ち止まった。
何か言おうとして見上げてるけど、言葉が出ないみたい。
見かねたユヅさんが「七海、おいで」と言うと、ナナはぎゅっと抱きついて「ごめんなさいっス……」と何回も謝ってた。
私もキョウも、その様子を見てホッとしていると、フリルさんは勢いよくスマホを出して見せてきた。
「今からこの場所に二人で行ってほしいですの。荒療治ですのよっ!」
ナナが好きそうな綺麗なホテルだった。ってホテル⁈
「二泊三日、しっかり二人で話し合ったほうがいいですの! もうタクシーを呼んでますの。逃げられませんのよっ! 沖田様! 服部様!」
沖田さんはナナを、服部さんはユヅさんを持ち上げて、たたたーっと走って行った。フリルさんも荷物を持って後を追う。
「フリルさん、俺が荷物を持つ! ありがとな!」
「あの二人には、あれくらいしないとダメかもねっ! さすがフリルさんっ」
「あなたたちもいつかそうしないといけませんのよ? 全く、進展しないのですからワタクシ達の方がムズムズしますの」
私とキョウは「「すいません」」と謝った。
タクシーに無理矢理乗せられた二人と荷物は、ホテルに直行した。
王子くんが「オレ特製の朝ごはんできたよ〜♪」と安心した声色で呼ぶ。
「ナナちゃん達の分もオレ達で食べちゃお! 朝からパーティーってコトで♪ 盛り付け凝っちゃった!」
お兄ちゃんだもんね。きっとみんなに知れ渡ってて、みんな心配してたんだろうなぁ。
王子くんは、みんなの心配もしてくれたんだよね。ありがとう。いつも気を遣ってくれてるの、知ってるんだからね!
***
黒羽さんに強引に連れて来られてしまった。
七海は大丈夫か……?
「七海……無理させて悪かった」
七海はぴとっとくっついて上目遣いで瞳をうるうるさせて僕を見る。
「無理してないっス。ゆづ……パイセンはウチのことを名前で呼んでくれてるのに、ウチは、ウチは……」
「その、呼んでくれると嬉しいが、無理はしないでほしい」
「ウチも呼びたいっス! だから、ゆづ……ゆづ、ゆ、弓月さんっ! 練習させてほしいっス」
「ああ。わかった。綺麗なホテルだな。二泊三日、僕達は泊まれるらしい。突然の新婚旅行――じゃないが、外泊だ。思い切り僕に甘えていいからな」
「ユヅパイセンも甘えて良いっス。あ、ゆ……ゆづ……き、さん……っス」
ああ、かわいいな。コイツ。
「七海、こっちにおいで。してほしいこと全部してやる」
七海を抱き上げたが、七海はするんっと抜け出してベッドにぽすんっと落ちた。
……嫌だったんだろうか。ショックを受けていると、
――腕を広げて、にっこり笑って、僕を迎えた。
「ウチ、頑張り屋さんのユヅパイセンを、いっぱいよしよしといいこいいこしてあげたいっス」
そんな可愛い顔で、可愛い声で、可愛いことを言わないでくれ――
僕が七海の体に飛び込むと「にゃーっ! パイセン甘えん坊さんっスね!」と思い切り笑ってた。
シェルターじゃないから、好きなことを好きなだけした。
ゲームもして、漫画も読んで、卓球をしたり、久しぶりに手合わせもした。
それから、夜更かししてずっと話をしたりもした。
だが、僕も七海と結局寂しくなって、二泊三日がすごく長く感じた。
***
あああっどうしよう、寝室にはいつもナナとユヅさんがいるのに、キョウと二人きりだ……!
い、一緒に寝たい!
「キョウ、私、一緒に寝たいな……?」
「ベル、俺も同じことを考えてたんだ。――だがぶつかったら体が痛むだろ?」
あーっそっか! ただでさえじんじんしてるのに無理だ! うわーんっ!
「その代わり、と言ったらなんだが、俺達の将来のことを話さないか?」
「結婚、とか……?」
「ああ。前に俺は正式に婚姻届を出したいって言ってたろ?」
「うん」
「そういったこととか、その、寝ててもこれはして良い、とかダメだとか、気持ちを確かめたい」
「え、寝てる時にも起きてる時にも何してもいいよ?」
「いや、何でもはダメだろ!」
「えっと、例えば――……」
「しねえよ!」
「えええ? しねえの? ……私からはするのは?」
「し、してくれ!」
「なんか損してる感じだからキョウもしてっ!」
「確かに不公平だよな……わかった」
***
外泊を終えたナナとユヅさんが手を繋いで、にっこにこで帰って来た。
「ただいまっス! だんなっちと帰って来たっスよ!」
「あらまあ、かわいい呼び方ですわね」
「『だんなっち』⁈ ナナ最高っ」
「ナナ姉さん……寂しかったです。抱っこしていいですか!」
「ナナちゃん……ナナちゃんが外泊した……うぅ……ふくざつ……」
「王子殿。覚悟が足りないでござるよ」
「王子くん、兄貴の宿命だろ。――あ? なあ、服部さん。恋愛のこととなるとやけに大人びてるよな?」
「秘密でござる」
「ええっ気になる! 半蔵くん教えてよお!」
良かったね、ナナ! ユヅさん! おかえりっ!
ナナのお悩みでした。かわいい悩みですけれど、
ナナはとても真剣で苦しかったみたいです……。
シェルター待機のみんなは二人がいなくてとても寂しくて、寂しさを紛らわすためにカラオケ大会や、学力決定戦、うさぎ仮面を呼んで運動会をしていたそうです。




