39話 私 ※残酷な描写有
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。純粋な心の忍者。護衛/172cm
、若王子王子
未来人。七海の兄。自称天才・実際天才/167cm
・黒羽フリル
未来人。洪水のように泣く。皆のサポート役/158cm
・沖田総司 ※この作品では女性※
過去人。真面目な剣の達人。護衛兼サポート/172cm
最悪〜〜〜! まだ寝てたかったのに。ベッドの上で玄関を睨んだ。まだ寝たかったのにぃ。急にインターフォンが鳴って起こされたっ!
時計を見たらまだ八時じゃんっ。私にとっては『まだ』八時なのーっ! なんなのもう、だあれ?
ベッドから重い体を起こして、適当にカーディガンを羽織ってインターフォンの映像を見ると、雰囲気の違うイケメン二人を抱えて困った様子の女の子が泣きそうな顔でカメラを覗いてた。礼儀知らずはこの人達かあ。
普通さあインターフォンのカメラに目線向ける? しかも顔が近い! でもかわいい女の子だなぁ。
「今日医療お当番の綺咲さんっスか?! 二人が倒れちゃったっス! 助けてほしいっス!」
あ、やば。今日は臨時のバイトの日だったの? 忘れてた……。
私は以前、緊急時救急医療対応守備部隊に所属して働いていたけれど……あまりの過酷さにリタイアしてしまったのだ。
寝不足。ありえないほどの怪我。力仕事。たくさんのご遺体、悲しみに耐えられないご遺族の皆様。
私は重くのしかかる負の感情に押しつぶされて仕事をやめた。
――だけど生きるために最低限稼ごうと思い、インタビューを記事にまとめるライターみたいな仕事を始めた。
でも、それでは稼ぎが足りなくって、渋々当番制の『簡易医療場』に登録していたのだ。
仮の応急手当とか、救急車を呼びたいけど迷ってる人とかが利用するところで、あんまりメジャーじゃない、というか小さなアパートの一室だからほとんどの人が知らないし。
いつもは、近所のおばあちゃんが腰痛で来たりするんだけど……若い人はこの場所を知らないし誰かが来ること自体珍しい。
九時からって書いてるんだけどなぁ……。
まあいいや。時間外手当請求してやるっ!
私はイライラしながら、生活の為って自分に暗示をかけてインターフォンのマイクに「少々お待ちくださいませ」と言った。
配給されてる白のTシャツと私服の無難なジーンズをさっと履いて、急いでドアを開けると――女の子と男性達は、病人とは思えない勢いで上がり込み、女の子は鍵をしめた。
がちゃん。という鍵の音が脳内で何度も鳴る。
……は? 何、私、騙された? 騙されたっぽい!
さっきまで男性達は項垂れてた。
女の子が必死に抱えてた。
なのに立ってる。全然立ってる!
全然元気じゃん! 嘘つき! 泥棒!
でも、心の元気って言ったらいいのかな。
何か大きなものを失ったような、そんな雰囲気が三人からしていて、寂しそう……だった。
いや、でも詐欺師かもしれないし。物騒な世の中だから帰ってもらおう!
「元気でしたらお引き取りください。時間外ですし非常に、とても、迷惑ですから」
「ベル……じゃなくて綺咲さん、聞いてほしいことがあるんです」
茶髪の髪の白衣を着たイケメンが困った顔で話し始めた。なんなのもう。イケメンだから一回だけ許すけど!
「壺なら買いません。宗教なら入りません。不用品はありません。お引き取りください」
私はぐいぐい三人を押し出そうとしたけど、ピンクのツインテールの女の子がとんでもない力で押し返してきて、丁寧に靴を揃えて勝手に上がってきた。
「「「失礼します」」」
何、この子! こらっ! 後の二人も続くなーッ! 何テーブルのところに平然と正座してるの⁈ 失礼! 本当に失礼してるよっ!
女の子が立ち上がって駆け寄ってくる。泣いてる? どうして?
「ベルっち! 聞いてほしいっス!」
「七海……違うだろ、『綺咲さん』だ。まだ何も知らないんだよ」
「うう……ベルっち、ベルっち……」
『ベルっち』って誰? なんか、たまご型のアレ? お姫様? 怪しいけど、泣いてるのはなんだか放っておけなかったから、「どうぞ」ってティッシュをケースごと差し出した。
その子は、どんな仕組みか知らないけれど、猫耳としっぽをしゅーんと垂れさせながら、ずぴー! と一箱全部使う勢いで鼻水やら涙やらを拭き始めた。
うわ、追い出しにくいなぁ……。どうしよ。
狼狽えていると、茶髪の男性がため息をついて話し始めた。もう一人の黒髪の怖そうな男性はピンクの子に懸命に声を掛けてる。
「綺咲さん。信じられないかも知れませんが、俺達は未来から来ました」
「は?」
やば、声に出しちゃった。いいや。知らない人だし。このイケメン何言ってんだろ。
「それで……俺達は綺咲さんの力を借りてある仕事をしていたんですけど、俺達にとっては一週間前、綺咲さんにとっては五年後の未来で、綺咲さんが……その、」
男性同士が目を合わせる。
「恭介。気持ちはわかるが話せ、話すしかないだろ」
茶髪の男性は頭を抱えていた。
「毎回これ言うの嫌なんですけど……」
何か拒否している。気になるんですけど⁈
私は怪しい三人組に警戒心丸出しで言った。だって、おかしいよ。「未来から来た」なんて、からかってるに違いない。どうせ録音とかしてて、イェイチューブに動画でもアップするんでしょっ!
「あのっ! コソコソしないでさっさとここにきた目的を話して帰ってください!」
大声で言うと女の子が怯えた。怯えたのに「ベルっちが生きてるっス〜〜」って言って抱きついてきた。私は引き剥がそうとして……できなかった。
ベルって誰? とか、あんたたちなんなの⁈ とか怒りと疑問でいっぱいだったけれど、勝手に手が動いて、女の子の頭を撫でてた。
「私は『ベル』って人じゃないですけど……。な、泣かないで……? ね?」
その子は悲しそうなまま笑って「あざっス」って言った。
私まで泣きたくなった。なんなんだろ。初対面なのに感情がどんどん入り込んでいくこの感覚。
適当にコーヒーを淹れながら「で、言うのが嫌って言ってたのはなんなんですか?」って訊く。
まだ茶髪の男性は俯いてた。こちらは犬の耳がしゅーんと垂れて見えてきそうだ。
そういえば、まだ名前を知らない。向こうは知ってるのに。
とりあえずテーブルに人数分コーヒーを置いた。あ、女の子はジュースの方が良かったかな。ってまあいいか。泣きながらごくごく飲み始めたし。
私は空になったティッシュを補充すると、目つきの鋭い真面目そうな人が、「七海、ほら、鼻かめ」と言って、ちーんっ! と遠慮なく鼻をかんでる。ちょ、物価高なんですけどっ⁈
「ねえ、あなたたちさ、自己紹介くらいしてくださいよ。勝手に上がって……泣いたり、何か躊躇ったりして。私困ってるんですけど? あ、ツインテールちゃん。プリンあるけど食べる? 頼むから泣き止んでね」
「ぷりん……!」
スイーツをあげたら機嫌が良くなる予感がして、いざあげてみたら大喜びだった。すごくかわいいな。手を伸ばしてまた頭を撫でたくなって、おっと危ない! と手を引っ込めた。
「俺は来栖恭介だ。医者をしている」
「僕は百目鬼弓月。その食いしん坊は七彩七海だ」
「私は綺咲です。あなたたちは怪しいから下の名前は言いません。玄関にも書いてますけど、『簡易医療場』のバイトをしています。病状が良くないのは誰ですか? どこの病院に行けばいいのかわからないとか、そういった相談にも乗りますけど?」
来栖さんが頭を下げて、百目鬼さんって人も頭を下げた。
「頼むから、俺達の話を聞いてほしいんです」
――ここから始まった。嘘みたいな、私の人生。生きてるって気がした。
私はキョウを好きになって、
ナナと親友になって、
ユヅさんとも親友になった。
「なあ、凛音。凛音だから、ベルっていうのはどうだ? 本名がバレたら"本"を書かれるかもしれないからな。"本"を書く条件の一つに、本名を書くことがあるんだ」
「未来では勝手に鍵穴を作って、勝手に"本"を夢で見せて、書き手の心理を操っている連中も増えてる。念のため本名は呼ばずにあだ名で呼ぼう」
ベル、か。
「そういえば最初にナナが言ってたやつだよね?」
「二分の一の確率で会って三ヶ月以上経たないとリンリンは『ベル』って名前を嫌がったんスよ」
ナナが腕組みして解説してくれる。うわ、そうだったんだ……。
「うわ、私面倒臭いね! ごめーん!」
「ははっ! 気にするなよ? 改めて『ベル』、よろしくな!」
――私はこの日から、『ベル』になった。
キョウが私を好きでいてくれてるのは知ってたけれど、私はいつか死ぬのを知ってたから言えなかった。
だって、私が好きって言ったら……キョウはどうなるの?
今までのベルだって同じく悩んだと思うし。
これからのベルにキョウをとられるのも、絶対に嫌だ。
告白はしない。キョウの幸せを、心から願ってるだけ。
そのために、私は今までにないくらい、何事も本気で取り組んだ。自己防衛術からエッセイの書き方まで。自分でも何をしたかわからないくらい、頑張ってきた。
私たちは、たくさんの人に"本"を届けることができた。
でも、激しい戦闘があったり、本を盗まれたりもしたし、良いことばかりじゃなかったの。
その度に乗り越えてきたけど……乗り越えられないこともあった。
途中、ナナとユヅさんが亡くなった。
新しく未来から来たナナとユヅさんは、何も変わってなかったし、記憶もそのままだった。記憶を『同期』することで、今までの記憶が受け継がれるんだって。
――でも、亡くなったあの瞬間は忘れられない。それに、記憶を引き継いでるって聞いて、命を軽くしてるって感じたの。
私は未来のシステムに、とてつもなく恐ろしくなってしまった。
私は二人が亡くなった時のことを、何度も夢で見た。
ナナは腕を切り落とされて、私たちを庇って全ての攻撃を受けた。ユヅさんはナナが亡くなった後も守るように抱きしめてた。私も守りたかったのに、キョウは、「見るな、見なくていい!」って私を抱きしめてくれて、私は一瞬しか見てない。でも、キョウは二人の最期をしっかり看取ってた。
楽しい思い出もあるけど、悲しみばかりが浮き彫りになって、勝手に思い出す。
今度は記憶域で私を庇って、キョウが埋もれてしまった。私は泣いて叫ぶばかりで、また何もできなかった。一旦一人で戻ったら、ユヅさんに銃を渡された。
「ベル。何も考えずに恭介を撃て。そうしないと、記憶域に恭介は永遠に閉じ込められることになる」
私は嫌だって言ったけど、また記憶域に戻った。戻るしかなかった。
「キョウっキョウ!」
黒い泥の中に埋もれてしまって、肩から上しかもう見えない。それでも、キョウは銃を持っているのを見て、とびきり優しく笑った。
「ベル、悪いな。そいつで俺を助けてくれるか?」
「やだ……やだ……!」
「『新しい俺』もベルを守る。大丈夫だ。記憶は変わらない。ベルのことも知ってる『同じ俺』だ。急所はわかるな? さあ、前に教えた通りに撃ってくれ。後で食べたいって言ってた新商品のカップラーメン、奢ってやるから。な?」
「やだよ……いらないから帰ってきて……」
涙が出てくる。落ちる。その繰り返し。静寂の中で、キョウはしばらく深刻そうに悩んでからいつもの笑顔で話してくれた。
「――わかった。ごめんな……。ベル。実はな、面倒だが良い脱出方法を隠してたんだ。これは時間がかかっちまうから、今すぐに記憶域を出て待っててな? ユヅ先輩にも時間がかかるって伝えてくれ。疲れただろ? ちゃんとカップラーメン奢ってやるから楽しみにしてろよ!」
「私も手伝うから……お願いだから、一緒に帰ろうよっ」
肩を引っ張るようにしてキョウの体を上げようとしたけど無理だった。憎い。助けられない私なんて大嫌い!
「これは未来人の秘密の脱出方法なんだ。禁忌だから見せれない。ごめんな……今から実行するから、絶対見るなよ! もう泥に侵食されつつあるな……ベル、走れ!」
足元を見たら、私もまた埋まりそうになっていた。
私は言われるがままに走った。キョウが帰ってくる。早く現実世界で会いたいって思ってた。
でも……良い方法なんて嘘だった。キョウは、舌を噛み切って、残酷で、痛くて、最後まで気を遣わせて、嘘をつかせた。
私は、最低だ。
私が銃を使ってたら、キョウにこんな思い……させなかった。
こんな……こんなに無力で、みんなの荷物で、足手纏いで、おんぶにだっこで、何も力になれないまま、また私は死んで、みんなを悲しませて、また次の私にバトンタッチするの――?
それを、繰り返し続けるの?
そんなの、認めない。
私はキョウといたい。
死なないで寿命を迎えるか、病気になるまでいたい。
他の――理不尽な理由で死にたくない!
何より、みんなに私が死ぬところをもう見せたくない。だって、だって、三人が最初に来た時、悲しそうだった。ナナは泣いてた。
絶対になんとかするって、私は決めた。
ナナのお兄さんの王子くんは天才だったはず――。
私は王子くんに相談することにした。
王子くんの話によると、今回で私は百回ループしてるらしくて、私は寿命と引き換えに禁書を書くことができるようになったらしい。こっそり教えてくれた。キョウたちには絶対に内緒。
それと、王子くんは私のことが好きだって言ってくれた……。
気持ちには応えられないのに。私はごめんなさいとしか言えなかった。
「ベルちゃん。オレはベルちゃんの味方だけどひどいこと教えてごめんね」
教えてくれのは、命と引き換えの方法だったからだ。王子くんは泣いてた。言ってくれたのは、私が「教えてくれないと、生きてきた意味がない」なんて、最低な言葉を王子くんに聞かせてしまったから……。
「そんなことないよ、王子くん。私の本当の願いは、王子くんにとって、とても意地悪なのに……ごめんなさい」
だって、私が方法を選ばずに亡くなっていくことを王子くんは知ってる。私のことを好きなのに知ってるから、とてつもなく酷いことだって思った。
「惚れた女の子に尽くしてなんぼっしょ♪ カッコつけさせてねん!」
ナナと同じ優しい笑顔。かっこいいよ、って私は王子くんの涙を拭きながら言った。
それから、王子くんからアドバイスをもらって三人の眠った隙に、禁書を少しずつ書いた。そして、全てが書き終わった時、王子くんに"次"のベルに時間軸を合わせてもらった。
頼りっぱなしだった。最低だったけど、もう戻れない。もう誰かの『目の前で死ぬ』ことをしたくないし、誰かが『私のせいで死ぬ』ことを終わりにしたい。
私はキョウがやっていた手術を思い出しながら"次"のベルに鍵穴を作って、禁書を夢で見せた。
本来なら、本人が起きている時に禁書を読んで丸をつけたりしなくちゃいけなかったらしいけど、禁書はフルネームがわかっていて、本人の承諾を得られると使えるんだって。よくわかんないけど。
私は『私』の手を握って、全部に丸をつけた。両方とも『綺咲凛音』だからできる裏技だって、王子くんは言ってた。
無事に帰る頃には、フラフラになってた……。目がほとんど見えない。禁書の副作用は私が引き受けたからだ。
『禁書の副作用を引き受ける禁書』を書けばいいことだった。副作用は、『命』。すぐじゃなくて、三日苦しむことも副作用に含まれてた。
これから、私は死ぬ。
でも、次の私はキョウと一緒にいられる!
これで……負のループは終わるはずだ。
ああ、いいなあ、次の私。キョウとずっと一緒にいれるなんて――羨ましい。
羨ましくて、妬ましくて、憧れて、私は――キョウに告白してしまった。
死ぬまでに、あだ名じゃなくて名前で呼び合いたいって甘えたら、思いっきり嬉しそうに「いいよ、そうしよう」って言ってくれて、「夫婦みたいだね」って私が本音を漏らすと、泣きそうになって恭介は笑ってくれた。
もう死ぬって確定してるのに、すぐに指輪を買ってくれて、愛の言葉を紡いでくれて、本当に、とてつもなく、これ以上ないくらい幸せに満ち溢れてた。心から溢れるくらいの幸せがそこにあった。
私は、次の私に任せて永遠に眠ってやることにした。
自分でしたくせに、呪いながら、恨みながら、妬みながら瞼が下がっていって――この世を去った。
その瞬間、今までの私の"死"が襲ってきた。
最初は、"本"の掟を破った。
次は、撃たれた。
次は、記憶域から出られなくなって自害した。
次は、また"本"の掟破り。
次は、ナイフで刺されて、その次は自殺、次は、キョウを庇って、次は、誘拐されて、次は、恨まれて殺されて、次は、全員で死んで、次は、焼かれて、次は、次、次、次、次、次、次、次、次――
ひどいのに私、嬉しいって思ったことがある……。
全員で亡くならない限りは、いつも恭介がそばにいてくれる。私が死ぬ時、みんなが駆け寄ってきてくれること。
死んだ後、天国でナナが待ってたり、ナナが追いかけて私の所に来てくれること。
白いワンピースを着て、髪を下ろしてて、「ベルっち」って泣いているの。
バカって叱って抱きしめるんだけど、でも、いつも救われた。私は喜ぶなんて、ひどくて、最低な気持ちになって、でも、ナナを見つける度に嬉しかったんだ――。
キョウもユヅさんも来てくれたことがあったけど、もうしないで、命を大切にしてって頼んだら、二人はあんまり追ってこなくなった。
私が死んだからって、自らの命を奪うことをしてほしくない!
前回は、はじめて、ナナがいなかった……私はナナが生きてて良かったって安心した。
私とナナのお墓には、時々王子くんがお花とレジャーシートを持って来て、お菓子を食べながら色んなことを話してくれた。死んだらお墓になんていないのに。だからナナと一緒に幽霊の体でお墓によくいた。
何回も見せてごめんね。恭介……ナナ、ユヅさん、服部さん、王子くん……。
何回も私に会いにきてくれて、ありがとうね。
恭介――私は、私たち全員は、あなたに会う度恋をしてたんだよ。
私が死ぬ間際に出そうとしてた言葉はいつだって「キョウ」だったんだから。
ずっと、愛してる。
ずっと。ずっと。永遠に。
そして"次"のベルを許せない。
ずっと、ずーっと、永遠に恨んでやる。
***
私は、私を見てた。百回の出会いと百回の死を見て、平然でいられなかった。
"前"の私……キョウを奪ってごめんなさい。
私だけ幸せになってごめんなさい。
でも、こんなに黒くてどろどろの感情になって原型を無くしてもキョウに幸せになって欲しかったんだよね?
この黒いのは全部私だ。
今までのベルの、黒い気持ちだ。
私が願いを果たすから。
キョウを幸せにするから。
みんなを守るから。
強くなるから。
"前"の私たちがくれた力を大切にするから。
だから、お願いします。
――私をどうか、元の世界に戻してください。
手を合わせて、自分を追悼するなんて、変だけど、私にとっては必要なことだった。
強く願うと、まとわりついていた血と泥が混ざったようなドロドロのものが、やっと離してくれた。
今までの私、許してくれたのかな?
ううん、許さなくていいよ。全部受け止めるよ。
キョウ! みんな!
ずっと、一緒にいようね。今、走ってくから!
"前"のベル達は、辛い思いをたくさんしていますが、
それ以上にかけがえのないキョウ・ナナ・ユヅさんとの思い出があります。
でも、"前"のベルは"次"のベルへの負の感情が強くて、最期は飲み込まれてしまいました。
今は、美しい思い出を花束にして抱きしめています。




