37話 声
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。純粋な心の忍者。護衛/172cm
、若王子王子
未来人。七海の兄。自称天才・実際天才/167cm
道の遮蔽物に隠れながら、あるいは建物の上から銃や弓矢で私たちを攻撃してきた。
沖田さんが「攻撃やめ!」と言うと、ぴたりと止まった。
ナナは今だ、と舌をペロっと舐めて顔を凛々しくして大声で言い放った。
「ウチが最強の七彩七海っス!」
沖田さんはゆっくりナナの目の前に来て、足先から頭の先までなにも言わずに観察した。ナナはウィンクしてみるけど、全然反応がない。
表情筋がないのだろうか。ナナの大声にも反応しなかったし、ただ『見た』だけだった。
「やはり小学生……。それは玩具ではなくて危ないものだ。わからないか? 怪我をしてはいけない。それを渡せ。ここは戦場になるから保護者の元に帰るんだ」
沖田さんは心配を含んだ声でナナに声を掛ける。本気で心配してるんだ……。でもやっぱり表情は変わらない。ナナが頬を膨らませてむぅっと睨む。睨むけど……迫力が無いどころかかわいい!
「失礼っスね! 誰が小学生っスか⁉︎ こんなに強い小学生がいるわけないっス! ほい、刀を返すっス!」
ナナは丁寧に刀を差し出した。
手紙の通り律儀に渡すんだね⁈
「ほう、返してくれるとは思わなかった。今時の小学生は躾がされているのだな」
沖田さんは素直に受け取った。
受け取るんですね⁈
「なあ、そこの人達。本当にこの子は小学生じゃないのか? 手紙は平仮名で、それに振る舞いも幼いのだが?」
沖田さんは、今度は私たちの顔を見て問う。
みんなは、沖田さんがナナに『絶対に言ってはいけないことベストテン』を言ったことを感じて、固まった。ナナのご機嫌が悪くなるのか、それとも泣き出すのかどうなるんだろう――。
今、ナナはぷんすかぷん! と怒っているマークが額に出てる。わかりやすっ!
でも、誰も答えてくれないからナナが怒りながらしょんぼりし始めた……。猫耳としっぽがしゅーんって垂れてる。ああっかわいそう! ナナは立派な大人ですよ⁈
怒りながら悲しんでる――!
敵もすっごく失礼!
「は?」って顔して後ろで腕組んだり、少年誌読んでるし!
ああもうっいいよわかったよ私が答えますよっ!
「あの、えーっとナナは大人です、よ……?」
視線が私に向いた。優しい人、なのかな? あんまり怖くないって印象だった。
「そうか。大人だったのだな。勘違いをして悪かった。君は"書き手"のベルだな? 手紙はありがとう。――だが手加減はできない。全員攻撃開始!」
沖田さんが号令のように手を挙げた。
えっ! 攻撃されるの? 言わなきゃ良かった……! てか認知されてたー! って私の能力があーだこーだ未来で議論されてるからそりゃーそうなんだよねえ⁈
私はどうしよ〜ってナナ以外のみんなの顔を見る。みんなああ!
「ベルは……悪くない、気にするな、な?」
「七海の誇りを守ってくれて感謝している」
「ベルちゃん! あの質問にはそう答えるしかなかったもんね⁈」
「ベル殿……致し方ないでござる」
逆にフォローが痛かった。うーっ。
ナナは沖田さんと刀を交え始めて、何がどうなったのか知らないけれど、道路の中央で戦ってた。この位置からあっちまで行くってことは――ナナが押してるんだ!
「小学生と言ってすまなかった。お詫びに真剣に勝負させてもらおう」
「ごめんなさいしたら許すのがウチのルールっス! でもこの勝負――ウチが勝つっスよ!」
強者同士の戦いだ。
なんといっても――強い・速い・わからない!
一方、全体の戦いを見ると、前と違って銃より近接攻撃が多かった。弓もあるけど。王子くんの読みが見事命中した!
病院で私たちを根絶する予定だったらしいから、銃が足りていないとのこと。なるほどねっ!
そして、新たに山神にくっついてきた沖田さんを含む敵組織は、未来の銃を過去に持ってくるのは違反になるらしくて、ナイフとか刀ばかりになる、とのことだった。私もよくわからないけど……。
――とにかく防げば良いってこと!
銃弾は服部さんがナナの代わりに飛び回って槍で落としていく。
ユヅさんは少ないとはいえ脅威になる遠距離からの発砲を減らすために武器にガンガン当てて壊していった。
キョウは麻酔銃で近くに来た敵をパタパタ夢の世界に誘っていく。私は、みんなが止めきれなかった飛び道具をステッキでなんとか守ってた。
王子くんは盾の中! 安全でいてね!
ん〜〜……でも、これじゃキリがないよ!
あっちは殺す気で来てて、こっちは守るだけだもん。
そうしたら、あっちは有利でこっちが不利。
あっまたなんか飛んできた。
ステッキで顔を守る! ……派手な音した! ひええ、銃だあっ。
ダメ元で相談しよっ! 私は後退する。
「王子くん! 時間を止めて"引き手"の能力を使っちゃダメ? 病院の時みたいに!」
「ダメ! 今のベルちゃんの能力はまだガチャ状態だから! かえって戦況が悪化するかも! にしても……警察おっそいなぁ……組織の人間がいるとか、見限られ可能性があるかもしれないや」
目と鼻の先にあるそれはそれはご立派な警察署からは、誰一人出てくることもなかった。装備を準備してるのかな、とか思ったけど全然そんなことはなさそう。お巡りさんここですよ⁈
目撃した人が、「なにこれ」「きゃあっ!」と恐怖で声を上げたり、逆に「なんか戦ってまーすうぇーい!」とか興味を示して動画を撮ったりしてた。
逃げてよ! 怪我しちゃうでしょっ! 今動画を撮ってアップロードして承認欲求満たしてる場合じゃないの!
良いねじゃない! 良くないの!
「よお、"書き手"のベル! お前殺すとボーナスが入るんだ! 死ねぇっ!」
大男が味方の銃の攻撃を物ともせず、嬉々として斬りかかってきた。服部さんとキョウが振り返ってくれるけど、二人とも応戦中だった。ステッキで防ぐ。けど、力で負けてしまう。私は殴られて壁に突き飛ばされる。
「ぐっ……ぅ……」
「ベル!」
キョウが戦ってた敵が「女に気を取られてんじゃねえ!」って叫んで右胸にナイフを思い切り刺した。
「キョウっいやあああああっ!」
私のせいで、私が心配させたせいで刺されちゃった……キョウっ、キョウっ!
「これでお前もあの男も終わりだなァ」
男は悠長にゆったりと歩きながら近づいてくる。
私は勝つ方法をとにかく考えた。……そうだ。
ステッキが良い位置にある!
私はキョウを侮辱したことと、私を見下したことへの怒りを力にして――
男の急所に向かって、力一杯、思いっきり、めちゃくちゃに! ステッキを男の股下から上に持ち上げる!
「ぎょあああァァあっ」
後で除菌しようと思いながら、「う、おりゃあああっ!」と気合を入れてもう一回お見舞いする。
男は声をあげれずその場に倒れた。けど、顔をしかめながら立ち上がってナイフを向けてくる。
私は体勢を立て直して今度は突くようにさらに攻撃した。
大男は痛みに耐えられず、急所を抑えて倒れ込んだ。相当痛いはず!
私にはわからないけどねっ!
「オイ! あの"書き手"容赦ねーぞ!」
「近づくな! たまったもんじゃねぇ! 撃て撃て撃て!」
「みんなに手を出さないで! 時を止めて男全員こうしてやるんだから!」
脅し文句を言ってみる。こんなのに引っかからないけど、時間が稼げれば良し!
「そんなことできるならもうそうしてるでしょっ!」
今度は女が襲いかかってきた。ああもう!
幸い強くない。けどナイフは濡れてた。薬液か何か塗ってる……?
ステッキでとにかく防ぐ! 負けるもんかっ!
「はああっ!」
すると――空から血に染まった何かが降ってきた。よく見えなかったけど、数えきれない切り傷だらけだって、わかる。
――ナナだ!
スーツの生地がヒラヒラってしながら落ちてきた、んだと思う。最低だ。私の脳が、脳が……拒否した。ナナを見るのを。ナナが傷ついてる事実を。だからちゃんと覚えてない。
「ナナあっ!」
「ナナちゃんっ! クソ、くらえっ!」
王子くんが走るけど遅い!
王子くんが煙玉を投げて、ナナを抱えて逃げようとした時――沖田さんが既に刀を振り下ろしてた。
沖田さんには傷一つなく、血はあんまりついてなかった。あの付き方は、きっと……ナナの返り血だ。ナナのことだから、傷つけないようにただ自分の身を守ってたんだ!
「いやぁぁぁぁぁ! ナナっ! 王子くん!」
――その時、パトカーのサイレンの音と選挙の演説みたいな声がした。
『半蔵くんやーい! おるかのう?』
間の抜けたおじさんの声に、原因が呆気に取られる。私たちの聞き覚えのある声だ。
今だっ!
私はステッキを野球のバッドを持つみたいにして、ぐるんっと振って目の前の女に対抗した。ナイフが飛んでいく。よしっ! って思ったのに、女が私の胸ぐらを掴んで頭突きしてきた。いったーい! ひどいよう!
ユヅさんはこの隙に沖田さんの刀を握る手に銃弾をヒットさせる。
――でも、敵の弓矢がユヅさんの太ももを突き刺した。苦悶の声一つ漏らさず相手に仕返しする。
キョウは対面してた男を背負い投げして、なんとか免れて私たちのところまで後退する。私のところに来ようとしてくれてるんだ……!
服部さんは沖田さんに向かって手裏剣を投げた。避けざるをえないこの瞬間に、ナナと王子くんを回収した。
『私は高城次郎! 内閣総理大臣だ! 今すぐテロ行為をやめて降伏せよ!』
SPさん、うさぎ仮面、パトカーに乗ってた警察が一気に敵を捕らえてく。
う、うさぎ仮面がいるーっ! 安心感がめっちゃあるーっ!
ナナは助けてもらったのに、「お……きたっち……」って呼んでフラフラ歩く。
服部さんもユヅさんも続く。どう、して……?
さっき遠ざけて逃げたばっかりなのに――?
ナナが死んじゃうよ、やだよ……やだ……!
でも、疑問も不安も何もかも、大好きな人の声でふっ飛んでった。
「ベル!」
キョウが走ってきてくれて、待ちきれないって顔をして私を引き寄せて抱いてくれた。
「キョウ、キョウ……ナイフ……刺さって……ごめんなさい、わた……私のせい、で……」
「あー、これな? 抜いたら派手に血が出るからそのままにしてんだ。海賊みたいでかっこいいだろ?」
「ばか、ばかばかばかっ! ばかなんだからっ」
「嘘つきは泥棒の始まりだぞ?」
ああ、イタズラ小僧のキョウの顔だ。
私ね、屈託なく笑うこの顔が好きなの。
本当に、とっても、何よりも大好きなの。ねえ、知らないでしょ?
「ずっずるい、私の気持ちわかっててそーゆーこと言うんだ……」
「悪い。かわいくてからかいたくなった。じゃあ、せーの、な?」
せーのって言ったくせに、キョウは私の口を手で塞いだ。私も言いたかったのに!
「ベルが大好きだ」
生きてることを、その喜びを確かめ合った。
込み上げてくるものがあって、声が出ない私は、俯くと――キョウの右胸のナイフの刺さったところにたまたま視線が移動した。
治さなきゃって思ったのに、恐怖と戦いが終結した安堵が混ざって動けなくなる。あんなに、幸せを感じてたのに、今の、この、これ、な、に……?
私は近づく黒い影に気がつかなかった。キョウが驚いて見てる。あっ――!
「ベル様。キョウ様。お待たせしましたですわね。手当をしますですの」
えっ、フリルさん⁈
「応急手当てをするですのよ。さあ、あちらへ」
フリルさんは私とキョウを引っ張ってくれた。
「フリ、ル……さん……」
「ベル様。もう戦いは終わりましたの。圧迫止血をなさって。医療班のうさぎ仮面様がいらっしゃるからすぐに駆けつけてくれますのよ。待っていてくださいですの」
「ありがとう。でも、俺より先にナナを……」
キョウが遠慮する。声も普通だけど、でも、キョウには今、刃物が、刺さってて、それは、私のせいで、治療を、しなくちゃ、いけないのに。
頭がぐちゃぐちゃしてくる中で、叫び声が聞こえた。
「情けは不要だ。離せ! 七彩七海! 服部半蔵!」
フリルさんは沖田さんにスカートの裾を持って挨拶した。
「あら、ごきげんよう。沖田様。貴女が警察に捕まってはいけませんですの。過去から来ていることが公になっては大変でしょう? 皆様に感謝して下さいな」
あ、フリルさんって敵陣営の人だったから沖田さんと面識があったんだ……。
「自分は捕まって構わない! 負けたら死を意味する」
「死んじゃダメっス!」
ポニーテールテールが片方解けて、傷だらけになってるナナが叫んだ。
「おきたっち! ウチらと生きるっス! 死んだと思ったんなら、新しく生まれ変われっス!」
ナナが手を差し出す。沖田さんが戸惑いながら握り返そうとすると、ナナからぎゅっと両手で握った。
沖田さんが初めて表情を見せた――目を見開いて、驚いてから、普通の女の子のように顔を覆って泣き始めた。
「……いいこいいこっス」
ナナは痛いはずなのに、今だって立ってられないはずなのに、沖田さんの背中に手を当てて、なで、なで、とゆっくりゆっくり手を動かして――ふっと倒れた。
「七海!」
「ナナ殿!」
ユヅさんが受け止める。血がどんどん服に染みていって、ナナの体の深刻さを赤の色で思い知らされた。
うさぎ仮面が到着して治療をしてくれる。でもすごく焦ってる。
私は動けなくて、キョウに手を握ってもらったまま、座り込んでた。フリルさんが「こちらですの!」と医療班を呼んでる。多分、だけどそう。自分で自分がわからない。
刺さってて、血が流れて、狙われて、私の死を、みんなの死を望まれて、黒い黒い殺意が向けられて、怖かった。怖かったんだ。
私は怖かった。自分が死ぬのを、みんなを失うのを、怖かった。
***
総理は俺達のいる場所に走って駆けつけた。琥太郎さんも大臣も一緒だ。
「みんな生きておるかの? 遅くなって悪かったのじゃ」
「次郎殿。助かったでござるが……危ないことはしてはいけないでござるよ」
隣にいるのはダンス・マーチ大臣だ。この状況下で平然としているのは、最近小競り合いが多くて酷い惨状を見てきたからだろうな。
「オー! ジャパニーズニンジャネ!」と喜んでいる。そういや服部さんが手裏剣を使ってたよな。
「総理、琥太郎さん、万が一総理や大臣に何かあったらどうするんです!」
ユヅ先輩が俺達の意見を代弁してくれた。
何かあっては困る。取り返しがつかないし、大物だからこそ、本来なかった『死』が万が一でもあったら歴史が歪むかもしれないというのに……破天荒な総理だ。
――救われたから感謝は大いにしているが、な。
「レナが良くなったのは皆のお陰じゃ。それにこちらの大臣は実は未来人らしくてのう。話に花が咲いて"本"の話やレナが良くなったことまで話してたんじゃよ」
「大臣は忍者の大ファンでして、服部様の存在をジジイが口を滑らせてからずっと会いたいと仰っていたのです。――そこでテロかもしれない、とSNSで拡散されていたという情報が入ったのです。もしかしたらベル様達に何かあったのではと思い、私共は向かうことにしました」
「コチトラ、キケンショーチネ! ブジヨカッタネ!」
大臣は髭をくるっくるっと触ってふんぞりかえる。総理は肩を組んで豪快に笑った。冗談のように笑っているが本気で俺達の身を案じてくれていたらしい。琥太郎さんがハンカチで汗を拭っている様子で伝わってきた。
今度は、テレビカメラや記者達が飛び込んでくる。規制線を通り越してきそうな勢いだ。
「なんじゃあ面倒くさいのう。待ってておくれ」
「ワタシモイキマース!」
「じゃあ共に行こうかの! マスコミが喜ぶコメントで頼む!」
「マカセテクダサーイ! ベリーベリーナレテマスヨ!」
総理と大臣は政治家っぽく堂々と歩き出した。
「国民の皆様。テロは制圧した。取材は現場が落ち着き次第対応する! ダンス・マーチ大臣は勿論のこと、私も命が危うかった。彼らがいなかったらとっくに命を失っていたのだ」
「ニッポンノミナサマ カンシャデスネ!」
総理がいつものおじいちゃん口調ではなく普通に話しているのは違和感があったが、頼もしさがある。流石、内閣総理大臣だな。
っておいおい、勝手にカメラを向けるな!
「彼らは私たちのヒーローだ!」
記者や安全な道にいた野次馬が俺達に向かって拍手を送る。あー、クソっテレビに映っちまった。
こうして、戦闘は幕を閉じた。
沖田さんも保護できて、フリルさんも無事敵陣営から完全に縁を切れた。
俺達は総理と大臣を救ったとして、未来でも評判が良く、ベルの能力はある程度の規制の中で使うことを許されて襲われる心配はもう無くなった。
――だが。
ナナは重傷。
俺とユヅ先輩は軽傷。
王子くんは擦り傷。
ベルは――意識不明のまま、一週間が経った。
フリルちゃんがまた戻ってきましたね。知り合いである沖田さんを保護すること。そして、二年後のみんなはベルが倒れてしまうことを知っているので、できる範囲でサポートしてほしいと頼んだのでした。
フリルちゃんは喜んで快く引き受けてくれた優しいコです。




