35話 一秒
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。純粋な心の忍者。護衛/172cm
、若王子王子
未来人。七海の兄。自称天才・実際天才/167cm
ピンクの光が山神を包む。ゆっくり傷は塞がっていって、銃の弾がころん、ころんと落ちていく。
銃の弾はいつの間にか消えて、血だらけの服も戻った。
それから、山神の白髪が減っていく。
若返ってるんだ……!
ステッキが重くなっていく。キョウが一緒に持っていてくれるけどキツそうな顔をして、精一杯両手で掴んでくれてる。
これ以上キョウの負担になることはしたくないっ!
「ねえ! 未来人って『忘却防止装置』って生まれた時からつけるのっ?」
「い、や……普通の生活を送る分にはつけない。クソ、いつつけたんだ? にしても、ステッキ滅茶苦茶重てえ……」
「なあ、それを降ろしたらどうなるんだ?」
ふと、ユヅさんが提案と疑問の狭間のようなことを口にする。
「高さは低くして良いけど、ずっと握ってないと失敗した例がいくつかあったよ」
王子くんの今までの計算上そうらしいので、私は体育座り、キョウはあぐらでどかっと座ってステッキを持つことにした。
「楽になったな」
「うん。疲れさせちゃったよね、ごめんね……」
「べーるっ? 謝るなよ」
「うん、ありがと」
うう、普通の魔法少女モノだったら高く上げてすごく素敵にかっこいいのに体育座りって……。
だけど重いし山神は若返るだけ! いつ埋めこんだの!? もうっ赤ちゃんになっちゃうよ⁉︎
「ウチも支えるっス。要するにベルっちがステッキを持っていればいいだけで、ウチらも触って良いんスよね? キョウ兄みたいに」
落ち着いたナナがケロッとしてステッキを持ってくれた。うわ、楽!
服部さんとユヅさんも続いて支えてくれた。
「七海……大丈夫か?」
ナナはユヅさんに無邪気に笑ってピースした。
でも、その後、両頬を覆って桃のように頬を染めて、照れ隠ししてる子どものように「その……っスね」ともじもじしながら切り出した。
「ウチはもう、ばっちぐーっス! でもハズイんでみんなにはさっきのを忘れて欲しいっス」
「私もう忘れちゃった」
「俺も何があったかわっかんねー!」
「拙者も記憶が飛んでいるでござるよ」
「何かあったのか? 僕は思い出せないな」
「オレ三歩以上歩くと何もかもわかんなくなっちゃう♪」
「みんなおバカさんっスね!」
「ナナかわいいっ世界一! いつでもおバカさんになれるからね」
「ベルっち、ベルっちー!!」
ステッキを持ってるから触れられないけど、お互いに頭をこつんってした。優しい空気が私たちを包んでいる中、突然――王子くんが焦った様子で叫んだ。
「ベルちゃん! 能力止めて!」
王子くんが言うことには理由がある。
絶対に止めなきゃ!
「止まって! お願いっ!」
あれっ……どうして……?
チクタク、チクタクという音がし続けてる。
能力が止まってくれない!
「嘘――止まらないよ……?」
「一度発動したら止まらないのかも! しまった、オレの判断ミスだ! ベルちゃんが能力を使うと『時間記憶固定』も同時に発動する。もし山神が幼少時や生まれた直後に『忘却防止装置』を埋めこんでたとしたら、その時まで戻ってしまう――取り返しのつかないことになるんだ!」
「わけわかんないっス」
ナナは首を傾げてお手上げした。でもステッキは持っててくれるし、「止まれっス!」って言ってくれてる。ナナ、ありがとう!
私は全力で「止まって! 止まってよ!」ってお願いしても止まらない。その間に、みんなは話を進めていく。その中で答えが見つかるなら、話してててほしい。みんな、頼んだよ!
「七海。服部さんと会った時に『時間記憶固定』をしに行っただろ? 歴史が動いた日を改竄されないように、事実を揺るがないものにすることだ」
「んん? なんスかそれ」
「お前は何をしに行ったんだ……」
キョウが呆れてしまう。でもステッキは一生懸命握ってくれてる。
王子くんが、絵本の読み聞かせをするような声色でナナに説明し始めた。ポケットから苺大福を出す。ナナが「いちごだいふく!」と言って飛びつくけど、ユヅさんが抱っこして捕まえた。
「えっとね、ナナちゃん? あげるから説明を聞いてくれる?」
ナナは「しっかり聞くっス。ウチはおりこうさんできるっス!」とユヅさんの中で真剣に返事をした。
「えらいえらい! じゃあ見ててね。苺大福を半分こします。そして、『時間記憶固定』をします! でも、半分こしなきゃ良かったって後悔して、過去に遡ります。半分こをしないで帰ってきたら、普通だったら、苺大福は一つの状態に戻るよね? でも『時間記憶固定』してるから、苺大福は半分このままになってしまいます、ってコト♪」
ナナは「にゃぎゃああああうううう」と叫んで「ベルっちヤバすぎっス! 苺大福! 苺大福!」って言いながらもステッキを持ち続けてくれた。
王子くんが「ステッキを持ちながらゆっくり食べるんだよ」と言って、苺大福を器用に綺麗に一口サイズに切って渡してる。
「いや、あの、だからね、山神が赤ちゃんまで若返ったら、若返ったまま直せないってことなんだよおおおおおお!」
王子くんが頭を抱えて足をドタバタさせる。
「いにゃああああああ! 得してるっス! そんなのダメっス! オッサンからベイビーになって得するなんてダメっス」
そこ気にするの!?
「うぅ、止まんないよ……てか私にそんな力あったの?」
キョウが「ベルごめんな」と頭を下げた。
「言い出せなかった。俺とユヅ先輩、王子くんだけ知ってたんだ……。この話はプレッシャーになるだろ?」
またキョウたちに気を遣わせちゃってたんだ……。"本"を届けるのを最優先に動いてたし、私が疲れちゃったりしてたからそりゃあ言えないよね。
ステッキが、さっきとは比が違うほど重くなって、床にヒビが入った。
「わっ!? おもっ……うううううっ……」
手の汗で滑る。もう、だめ。倒れちゃうよ!
「ウチが支えるっス! うーーーーにゃーーーーッッ! リミッター解除っス!」
ナナは目の色が黄色に変わってた。
「止まってよっ! お願いっ! ねえっ"前"の私っ! これが望んでた力なの⁉︎ 本当にいいの? 止まってよ、やめてよ、やめようよっ! 聞き入れてよっ!」
チクタクという音が止んでステッキがいつもの重さに戻る。すごい力で下に引っ張っていたナナが、床にさらに突き刺してしまった。
「あ、サーセンっス」
「こら七海! 能力解除を忘れるな!」
ナナは三回瞬きをすると、いつもの赤の瞳に戻った。ついでにウィンクしてくれた。ファンサの神! 疲れた体にしみる〜〜〜!
私はへたり込んでるからわからないけど、キョウと王子くんが山神を調べてる。
「忘却防止装置が消えてる……」
キョウは唖然として言った。目が青くなってるから、体内を見て確認したんだよね……。
「えっと、今の山神は89歳から若返って、68歳。この時に『忘却防止装置』をつけたんだね。珍しいケースかも」
王子くんが「まだ白髪あるね」って言いながら山神を見てる。
「そんなにおじいちゃんだったんスか! 得しすぎっス!」
「増毛のコマーシャルみたいでござる」
言い得て妙すぎて私は吹き出してしまった。
笑う所じゃないよ! 私のバカっ!
勝手に若くしてごめんなさい……。
「傷はないし、後遺症はもう無いんだよね?」
これは大事なことだから、キョウに確認した。
「ああ。だが……不思議なことに体内のところどころがそのままだ。山神の糖尿病と黄疸が治ってないな。罹患した病気はそのままで治らないのかもしれない。ベルが祈ったのは、今回ついた傷が治ることと、『忘却防止装置』を無くすることだったからな。若返りは時が巻き戻ってるというベルのイメージが具現化したんだろう。どうだろう、王子くん」
「キョウくんの言ってる通りだと思う。ベルちゃんの願いをできるだけ叶えるステッキだと思っていいかもしれないね」
私はステッキを見つめて、そっと触れてみる。
「私らしい……けど怖いね」
「能力を使うのは最小限にしよう。そのために俺達がいるんだ」
キョウが背中をぽん、と叩く。
私もありがとうの意味で叩き返した。
――王子くんは大きいため息をついて、床にバタッと倒れた。
「良かった……オレがつけた傷が消えて……山神の老後も……オレのせいで大変なことになっちゃったのに……」
ユヅさんが歩み寄って王子くんの横に座った。
「王子くん、撃ったことを決して忘れるな。自分を許すな。――だけどな、僕達も背負う。ベルの能力行使で若返ってしまったのも僕達全員で背負う。もう一人にならないでくれよ」
「ユヅくん……俺、忘れないよ、絶対忘れない」
王子くんが土下座すると、みんなで全力で止めすぎてひっくり返してしまった。わああ! なんでこーなるの?
ナナが思い出したかのように王子くんを揺さぶりながら「バカアニキ! 再計算するっス!」って大声で言う。すごい声……さっきまで王子くんは土下座してたのに……ナナぁ!
揺らされながらも王子くんは目を瞑った。
「……ダメだ。山神が駒として使えなくなっても他の刺客を送ってくると思う。それに、今、未来が見えないからオレの計算能力は使い物にならないんだ。……みんな、ベルちゃんとオレを囲んで構えて。試しに時間停止を一秒解除してみようか」
服部さんは何かを思い出したかのようにスマホを操作した。スマホ使えるの⁉︎ いつも巻物で連絡してるのに⁈
「ねえ、王子くん、今さ、能力は最小限にしようって話をしてたのに使っていいの?」
「計算の為に必要だから最小限のうちだよ。みんな、オレとベルちゃんを囲んで。警備モードでお願い。一秒の間を縫って刺客が送られてきたらアウトだ」
ユヅさんが声を大きめにして、空気を引き締めるように指示する。
「わかった。みんな配置につけ! ベルもステッキを構えてくれ」
私は床に刺さったステッキを引っこ抜い――ぬ、抜けない!
ナナが「ごめんっスよ、ステッキっち、ベルっち」と言って渡してくれる。「それにしても、このステッキはがんじょーで壊れないッスねえ」
「ありがと、ナナ。確かに丈夫だよね!」
もう癖になっていて、ナナを撫でてた。ナナは「ふにゃ〜!」 と喜んでくれる。んー。たまらない!
真ん中に私とキョウ。戦力になれない王子くんが三角になるように立っている。囲うように服部さんユヅさん、ナナが盾を隙間に持って立ってくれた。
ユヅさんが全員の配置を確認してから「準備はいいな?」と声を掛けると全員で頷く。そして、カウントしてくれた。
五、四、三、二、一!
「――時間停止解除! 一秒だけっ!」
一瞬で視界が覆われた。な……に……?
ざっと見ても私たちを全方位囲うくらいの人数が現れて止まった。
あれ、なんだろう? すごく、すごく痛い……私の肩が刺されたように痛かった。触ってみたら、――血がついた。
何かが倒れる音と、ナナの悲鳴が重なった。
「あぎゃーーーーーーーーッ!」
ナナは向けられた銃を一秒で手首を折り曲げていたみたい。一秒で刺客が来て、一秒で攻撃されるなんてたまったもんじゃない!
驚きっぱなしのナナはユヅさんの上に登って、ユヅさんは慣れた様子でナナの背中をさすってた。ユヅさんも似たようなもので、銃を握ってた。すご。
……それにしても痛いなぁもう。
「みんな! 怪我はないか?」
キョウが私の出血に気がついてくれて「ベル!」って血相を変えて傷を確認してくれる。
うぅ、ごめんね。
あれ、服部さんは? 服部さんがいない――たくさんの敵の隙間にスーツが見える!
「キョウっ服部さんがいない気がする!」
「キョウ……殿……」
「服部さん⁉︎ 人が集中してる所から声がする! 恭介を呼ぶってことは怪我かもしれない!」
ユヅさんがナナを降ろすと、ナナも服部さんを探した。
敵は時間が停止してるから、動きが止まったままの色のある石像みたいになってる。
みんなで持ち上げるように一人一人丁重に持って、適当な場所に置く。
主にナナが能力を使ってどかしてくれた。
そうして、ようやく服部さんの体全体が見えた。
――日本刀が服部さんの肩を貫いていた。
角度的に私の傷と一致する。私、服部さんを盾にさせちゃったの……?
こんな時に、無機質な服部さんのスマホの通知が鳴った。
ナナは本来、頭が良いのです。
しかし、ユヅさんも恭介も頭の回転が早いので考えるのを放棄してます。考えようとしていないだけなのです。
頭の良さランキングはこのような感じになります。
王子くん>ナナ>ユヅさん&恭介>ベル&服部さん
ですが、ベルと服部さんも決しておバカさんではありません。
一番おバカさんになるのはベルが可愛いときの恭介です。
突然IQが低くなります。




