33話 偽り
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。純粋な心の忍者。護衛/172cm
、若王子王子
未来人。七海の兄。自称天才・実際天才/167cm
「王子くん! 知ってたんでしょ! それなのに、なんで……なんで……」
フリルさんは私を止めた。王子くんは誰の目も見れなくて、下を向いてる。
「王子様、貴方は計算し尽くして、こうしなければベル様達全員とワタクシを救えないことを知ってらっしゃった……そうですわね?」
「そうだよ……。フリルちゃん、利用してごめんね」
「謝罪は結構ですのよ? ワタクシはベル様のお力になれて救われましたもの」
フリルさんは、嬉しそうに両手で胸元のリボンに触れた。
「フリルさんは……救われてないじゃん……だって……」
ナナはわからないまま戸惑っていて、でも私を心配してくれて、自分のツインテールを持って、私の膝にくるくるってイタズラしてくれた。
場違いかもしれないけど、ナナの精一杯だったのが伝わってくる。私は髪を指でくるくる巻いてから、ナナに無理矢理でも微笑んだ。
だからかな……ナナはまだ心配して、キョウをじっと見て訴えた。
「ベル、ココアを飲んで。落ち着いて、な。王子くん。ベルに聞かせてくれるか?」
キョウがユヅさんに私の紙コップを渡す。ユヅさんはココアを追加で注いでくれた。
「ほら、ベル。恭介の言う通りにするんだぞ」
私に持たせてくれると、冷めてたココアが温かいものとぬるいものと混ざって、ホッとする温度になる。二人の言う通りにして、私はゆっくり飲んだ。
美味しい、けど、味わってしまっていいのか罪悪感が募ってく。
「何度も計算したんだ。最初に言った通りにね。ベルちゃんの能力を使うしかなかった。でも、ベルちゃんは体が持たないんだ。だけど、光があった――フリルちゃんが偶然にもベルちゃんに必要な禁書を持っていたことだよ」
王子くんは猫耳の帽子をばさっと取って、自分に打ちつけた。
「オレ……言い訳ばかりだ……」
「今は王子くんの話が必要なんだよ。僕達に聞かせてくれ」
ユヅさんは冷静に、優しく王子くんに話すよう促す。
「うん……ユヅくん。えっと――でも、オレは、無理矢理盗むなんて真似はしたくなかった。みんなもそうだろうって思ったから。その為に、フリルちゃんと打ち解けて、フリルちゃんの意思で、禁書を頂く形にしないと意味がなかった……そうじゃないと……そうしないと……」
ナナは、はっとして王子くんを睨んだ。今何が起きているかナナになりに理解した、んだと思う。
「じゃあ……アニキはフリルっちを騙してたんスか!?」
「そう……だね。オレは最低だ」
ナナが、王子くんの報告を――引っ叩いた。
「このっバカアニキ! ひどいっスよっ」
「七海! やめろ! 王子くんの言ったことを思い出せ! 黒羽さんに本当に使って良いか訊いてただろう? 黒羽さんに必要なものだろうって、訊いてたのを覚えてないのか!」
ああ、そうだ……。王子くんは確認してた……。
それで嫌だって言ってたら断ったのかな?
どうしたんだろう?
こんな、疑うようなことしたくないよ……!
「あ、あ……アニキ……どっちなんスか……」
「ワタクシ、騙されてませんのよ!」
「フリルっち! アニキは、アニキは手段がこれしかなかったって言ってるっス! 手のひらでころころされてたかもしれないっスよ!」
「王子くん、一旦七海を預かる」
ユヅさんが混乱してるナナをひょいっと抱き抱えると、ナナは困惑をぶつけるようにユヅさんの膝に座って胸板に頭をとん、とん、と打ちつけた。
「なあ、王子くん。俺の疑問なんだが――すぐに未来に転送する方法もあっただろ? それをしなかったのは、禁書を譲り受ける以外に何か理由があるのか?」
「あ、る……よ。フリルちゃんと共に過ごして、オレ達は、オレ達自身の警戒を解いて、フリルちゃんを信用する必要があった。何も知らないまま二年後に転送しても、僕達は受け入れないからね。それに、フリルちゃんを守るっていう目的も果たせなかった」
そっか……フリルさんを騙してしまったかもしれないけれど、私たちが生き残るのを最優先にしながら、王子くんはフリルさんを助けることも考えてたんだ……。
――自分だけ、悪い役を引き受けて。自分だけ、罪をまた背負ってたの?
「ワタクシは騙されてませんわ。どうか王子様を責めないで下さいまし。望んだことですもの。――ベル様。ワタクシは貴方の本が好きで未来で読んでいましたの。お会いできて光栄ですのよ」
「……フリルさん……王子くん……ごめんなさ、ごめんなさい……」
ベル、と言ってキョウは手を取ってくれた。膝の上にキョウうさを乗せてくれる。それから、ベルうさを、キョウうさが、よしよしってしてくれる。
ナナはユヅさんに乗っかったまま、フリルさんに手を伸ばした。フリルさんはナナの手を包むと、ナナが無言で涙をぽろぽろって落としてく。
ナナが声を上げずに泣くなんて……。こんな切ない表情をするなんて思わなかった。
フリルさんはずっと、「ありがとうございますですの」って宥めるように言って、ナナの手を取って撫でていた。
「つまり、だ。僕の推論だが――王子くんは悪くない。黒羽さんは善意で禁書を譲って下さった。だが予め使った禁書で危険な状態にある。しかし、」
ユヅさんはナナの頭に手を乗せて言った。
「ベルが二年後に転送すれば、二年後の僕達が黒羽さんが救えるってことだろう?」
王子くんが顔をようやくあげてくれて、質問に答えた。
「そう……だよ……。今ならベルちゃんに疲れを加算されないから。それに、そろそろフリルちゃんも疲れてるはずだよ。懐中時計見せて?」
「王子殿。落ち着くでござるよ。僭越ながら拙者が時計を見るでござる。ええと……」
「八時を指してますから、八時間ですの」
「すまないでござる。フリル殿」
「いいえ。服部様」
やるべきことはわかった。
――フリルさんを二年後の私たちのところに転送する!
「フリルさん。あなたを二年後の私たちのところに送ります。王子くん、これで良いんだよね?」
「最適解だよ。ベルちゃん。みんな、オレのこと許さなくていいから。フリルちゃん……ごめんね」
「盗む手もありましたのに、名前の通り『王子様』ですのね。恨んでなんかいませんのよ、ワタクシは感謝をしているのですもの」
ナナはわちゃわちゃとスーツから何かを外して、フリルさんに急いで何かを渡す――いや、ある意味突きつけてた。
「フリルっち! これっ! 持って行ってっス!」
それは、ナナのお気に入りのピンバッジだった。
「限定のっ……ウチの宝物っス! それを持ってたらウチは信用するっス! 万年筆と交換っスよ」
「ありがとうございますですの。大切にしますですわ!
ベル様――転送をお願いします」
みんな車から降りる。フリルさんは、ナナから受け取ったハート型のピンバッチを早速リボンにつけていた。
私はまだ本調子じゃなくて、いざ立とうとしたらフラついてしまったからキョウに支えてもらった。
「王子くん、ステッキ一緒に持ってくれる?」
「それは、キョウくんの役目だよ」
「じゃあ三人で持とう。な? 王子くん」
三人でステッキを掲げる。いつもより軽いなあ……。
「二年後の"私たち"のところに、"フリルさん"を送りたいのっ! 時間の扉よ開いてっ! お願いっ!」
ギィィ……と車の横に扉が出現した。
佐山の時とは違う。扉が陸に現れた……?
フリルさんを迎えてるみたい――。
「おいで、フリルちゃん。もう大丈夫だよ」
扉から声が聞こえて、手が伸ばされた。フリルさんは手を伸ばそうとして――やめた。振り返って私たちに手を振ってくれる。
「ベル様。貴女がこれからも物語を紡げますように。皆様、ありがとうございましたですの!」
今度こそ扉からの手を取って、フリルさんは消えた。扉がそっと閉じられて、光を放って消えてゆく。
***
警察署に着いたけれど、王子くんは「計算外もありえるから念には念を入れたい!」って言ったっきり動かないので待機中です。
ラムネをばくばく食べてる……それだけ能力を使ってるんだ。
服部さんは漫画を読んでた。嘘、読むの?
時々笑っててびっくりする!
ユヅさんはさっきまでナナが泣いていたから一緒にあやとりをしてる。
ちょっと待って。あやとり? 見間違いかもしれない!
「川ができたっス?」
「形が微妙だな」
あやとりだーっ! 見間違えてなかった!
キョウはというと、私のニキビに軟膏を塗ってくれた。
はい、優しい! 神! てぇてぇ!
鏡で見たけど、でっかいのが五個は乙女的にキツい。しかも大好きな人の前でこんな顔……やだあーっ!
「ベル、俺は美容医療も勉強してるから早く治してやるからな。絶対ニキビに触ったり引っ掻くなよ」
「寝てる間に潰しちゃいそう〜〜」
「これが潰れたら大変だな……未来からニキビの上からでも使える肌に優しい化粧品を送ってもらうから待っててな」
「わああんっありがとう!」
そう、軟膏を塗る為に私はメイクをオフしたのだ。少しでもノーメイクで過ごすとか無理!
「化粧しても綺麗だが……あのな、ベル。すっぴんもかわいいぞ?」
「うう……ご褒美ありがとう。でもキョウの前では綺麗でいたいのーっ!」
キョウは心臓の辺りを抑えて「胸が痛い」って言い出した。
「えっ嘘、大変!」
疲れたままだけど、それで止まってるのはフリルさんのくれた禁書のお陰様だって実感する。
さっきまでだったら、能力を使うたびに倒れてたからね。
「ベル殿、ベル殿」
なんと服部さんが声をかけてくれた。なんだろ?
「それは恋煩いによる胸の痛みでござるよ」
「ほんと?」
「そうでござる。試しに『寿司大好き』と言ってみるとわかるでござる」
寿司大好き……? お寿司は好きだけど、なんだろ?
「キョウっ! 寿司大好き……?」
びくっとした後、キョウは顔を覆った。
「べる……俺もだ……」
「あっすごく真剣に答えてくれた! 私も好きなんだよね。いつもわさび抜きだけど」
服部さんは笑うのを堪えてた。
「こ、これからもこの『寿司』作戦がおすすめでござる」
わー、こんなに話したの初めて。『寿司大好き』ね! 覚えたぞ!
和んでいると、突然、王子くんがばっと顔を上げた。
「まずい。もう留置所に既に侵入者がいる。みんな、行ける? 山神が殺される。オレは誰も死なせたくないんだ!」
「わかった、行こう」
ユヅさんがあやとりをやめてすぐに車から飛び出した。私は走れないけど、またキョウに頼るのは申し訳ないなー。んー。どうしよう。
「ウチが最速っス。ベルっちをおんぶするっスよ!」
「ナナ! ありがとう!」
「ベルを頼むぞ!」
「キョウ兄! ラジャーっス!」
「王子殿は拙者が」
「ありがとう半蔵くん!」
警察署内を把握している王子くんが「次は右」と指示を出してくれた。時が止まっているから人を避けなくちゃいけなかったけど。みんなは猛スピードで駆け抜けていく。
体感一秒で山神のところに着いた。盛ってないもん! おぶってもらってたけどすごい風を受けたしみんな速かった!
ナナにありがとうって言おうとしたら――
その瞬間、私は目より先に耳を疑った。
発砲音が聞こえた。
王子くんが銃を出して、山神を何発も撃った。
服部さんは元々愉快で優しい性格です。でも、育った環境上なかなか人に心を開けませんでした。
今はすっかりベルにも恭介にも心を開いています。良かったですね。




