32話 禁書
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。純粋な心の忍者。護衛/172cm
、若王子王子
未来人。七海の兄。自称天才・実際天才/167cm
「何で禁書なんて持っているんだ……?」
キョウが信じられない、って、理解できないっていう表情で目を見開いて訊く。
多分、王子くんは計算して予想していたんだろう。王子くん以外全員が驚愕してた。驚くよりも上の、とてつもないびっくりの気持ちで車内が満たされる。
最初に動いたのはナナだ。いつもはかわいくて甘えんぼだけど、やっぱり判断力と柔軟性が高い。
「わかんないっス! ウチが持ち物検査をするっスよ! ほいほい、男子は出てくっス。ベルっちはキョウ兄に抱っこされてて下さいっスよ〜」
ユヅさんがナナのズレていたヘアピンを一つ直しながら、「七海。命令だ」と優しく言った。
「危なくなったら言うんだぞ」
「ラジャーっス!」
「黒羽さんを手荒に扱うなよ?」
「手加減するっス!」
ユヅさんからの言葉を受け取ったナナは、ほいほい出てくっス! 覗いちゃダメっスよー! ベルっちは覗いても良いっスよーって言ってみんなを追い払った。
「少し窓を開けておく。何かあったら叫べ」
「はいっス! パイセン!」
しばらく何かを食べている音が聞こえてから、ナナの声が聞こえた。
「フリルっち! ウチも不本意ってヤツっス……。ごめんっスよ。ベルっちの言う通り『しんじるため』に全部出してもらうっスね……。」
フリルさんの声は震えていた。
ナナの声も申し訳なさそうな気持ちを帯びていた。
「そ、それで証明できるのでしたら……」
「ウチも心を鬼にするっス! フリルっち、覚悟っスー!」
「恭介、ベルにだけ見えるようにしてやれるか? 誰かに確認していてもらいたい。ベル、もちろん無理はするなよ?」
「そうですね。ほら、ベル。これで見えるか」
キョウは私をひょいっと高めに抱き直してくれた。
「うん……見える。す、すごい、光景……」
えーっと……ごめんなさい。私、説明したくないです。
小声で「ほい、万歳っス!」「この服どうなってるんスか?」「ここ触っても大丈夫っスか?」と気遣いは聞こえてくるけど……!
ナナは悪気があるんじゃなくて、ただ、危なくないか純粋に確認してるんだけど……雑。
「ごめん……私、もう見れない……」
キョウの肩に顔を埋める。
「無理するな。ナナは強いから大丈夫だ」
「あのね……つらいからじゃなくて絵的によろしくなくて見れなくなっちゃったの……」
ユヅさんは「あの馬鹿」って言って頭を抱えた。
王子くんも猫耳帽に手を当ててしゃがんでしまってる。
「成程な。七海はああ見えて真面目だし、徹底しすぎて行きすぎる所があるから悪気はないんだけどな……」
「本当はいい子なんだよ! ナナちゃんは……オレが弱いから強くなろうとしてこうなっちゃったんだ」
そうだったんだ。お兄ちゃん思いなんだね、ナナ。
「禁書三冊! 万年筆! 懐中時計! チョコレートを発見したっス!」
ナナの嬉々とした声が飛んできた。あのボディチェックならそりゃー回収できるでしょうねぇ。
「声でわかるな。全部見つけるなんて容赦ねぇ……」
「キョウ、見ちゃだめ、だよ……?」
「みっみるか! まだ信用ないのか……? 俺は――俺は……いや、なんでもない」
王子くんがぴょんぴょんっと飛んできて、キョウをじーっと見た。
「んん〜? キョウくん♪ ちゃんと言わないと伝わらないコトもあるよ?」
「王子くんの言うことは一理ある。ちゃんとベルに伝えておけ」
ごくり。って喉の音がした。キョウは真っ赤になりながら言ってくれた。
「俺は、ベル以外に興味はない。他の女性の……その、体を見たいとか、そんなことは思わないんだ。大体、俺は医者だ。『患者さん』としか見ていないし、そっ、その――女性として見てるのは、ベルだけだ」
「え……えっちな本読んだりしない?」
「読むか! だから、俺はベルだけで……」
「……勢いで恥ずかしいこと訊いちゃった、ね。ごめんね。私、面倒くさくてごめんね。私もキョウだけだよ……一緒だね」
抱っこされてるから私は顔をぐっと埋めるようにぐりぐりした。
「あーーーーかわいいことすんな!」
「ふふっごめん。ありがとう。もっとしたいけどだめ?」
「駄目に決まってるだろっ」
「キョウったら面白い! あれ、お薬効いてきたかな?」
「薬の他に、俺のエネルギーを分けるようにしてる。今くっついてるだろ? だから供給できるんだ」
「そんな無理させちゃ……」
「恭介がしたくてやってるんだ。させておけ。な? ベル」
私は頷いて、「ありがとう、だいすき」って言ったらまた赤くなっちゃった。けど耐えてくれてる。
んー! 照れてる恭介くん推せる。点滴より効きそう。
車内から「お洋服直すっすよー!」ってナナから報告があった。まだボディチェックしてたの⁈
フリルさんの「くすぐったいですのっふふっ!」っていう笑い声が時折きこえてくるから、多分大丈夫。ふう……。
「了解した! 七海、丁寧にな! ――あのなあ、恭介。お前は今、すごく面白い。だがもっと理性をコントロールしろ」
王子くんがはっとする。
「ユヅくん! いつも理性をコントロールしてるの!?」
「そうだ。お兄様」
「いやーーーーッ! ふくざつっ! ナナちゃんをよろしくお願いしまあああす!」
王子くんは直角に体を折り曲げた。でも猫背だからまあるい気もする。
「許可が取れたでござるな。ユヅ殿。おめでとうでござる」
綻ぶ服部さんの笑顔とは裏腹に、ユヅさんの顔が陰った。
「いいや、僕達は多分、正式な恋人じゃないんだ。確かめるのが怖くて七海には訊いていないが……」
ユヅさんの突然の告白に全員がばびょーんと浮いた。多分、しばらく浮いて、落ちた。
「えっそうなの?」
「ち、違うでござるか!?」
「――あーあ、そんな気してましたよ。俺には色々言うくせに」
あっ揚げ足取ってる! 悪い恭介くんだ!
「五月蝿い黙れ調子に乗るなよ恭介」
言わんこっちゃない……。本当にユヅさんに余裕がない。 てか、突然この情報降ってくる?
王子くんが車に背を向けて「ナナちゃーん!」って呼んだ。
車は念のため少し窓を開けてたけど、聞こえにくいから王子くんは大声だ。
時間が停止してるから誰も聞いてないけどね。
ままま、まさか!
服部さんがユヅさんの口を塞いだ!
空気を読める人だった!
キョウと私も顔を合わせて微笑む。
「まだ服着せてるっスー! あん? 見てるんスか!?」
「見てないよ! ねえねえ! ユヅくんと付き合ってるのー!?」
「なんすか? 付き合ってるっスよ?」
「恋人で合ってるー?」
「にゃああああっっ! そ、そっスー!」
「わかったー! 応援するー!」
「あ、あざス……」
車内からもフリルさんが「あらあら」と楽しげな声が聞こえてきた。本当にこの子、私たちに捕まってるのかな?
王子くんは「だってさっ♪」とユヅさんを小突いたら、ユヅさんしゃがみ込んでしまった。
わ、初めて見る! こんな、恋してるっていう表情!
瞳が潤んでて、微かに頬が染まって……ユヅさんは美人だから映える!
「――王子くん、ありがとう。知らなかったよ……僕と七海は、恋人だったんだな」
「どういたしまして! 白黒はっきりさせたいじゃん?」
「服部さんもありがとう。止めてくれなかったら、僕は七海の答えを一生確かめられなかった」
「ユヅ殿……良かったでござる。拙者は……ユヅ殿とナナ殿、キョウ殿とベル殿の幸せが嬉しいでござる」
服部さんは感極まってユヅさんに抱きついてた。
ユヅさんが背中をぽん、ぽんってあやすようにして微笑んでた。
ナナがドアを開けて、一仕事終えた、と額を拭って出てきた。
「終わったっス〜ほいこれ禁書……って何スかこれ!」
ナナは片手で禁書を王子くんに渡してる。
「色々あったんだ。後でユヅ先輩に訊いてくれ。後でだぞ」
「キョウ兄! わかったっス。ほい、これ禁書っス」
ナナはまた片手で禁書を王子くんに渡してる。
「こらっナナちゃん! 禁書の扱いを丁寧にしなさい! 雑にしないの! わかった?」
ナナはプイッとあからさまに嫌な態度を王子くんにして、呼ばれたユヅさんの方を見る。
「で、七海。黒羽さんの服を元通りにして、拘束もしてるのか?」
「あいっス!」
「なら車に戻ろうか、顔色は良くなっているが、ベルを休ませてあげよう。恭介、ベルを膝に乗せれるよな? そうすれば服部さんも車に乗れるだろう」
「拙者はいいでござる」
「遠慮しないでくれ、ベルとくっつける理由ができて恭介は心の底から喜んでるだろうからな」
「人聞き悪いこと言わないでくださいよ!」
私はガーン! となった。喜んでるなら、喜んでるって言ってよおっ!
「私……私はキョウとくっつけて嬉しいんだけどな……。服部さん、おいでおいで。みんなで一緒にいよう?」
「ベル殿。お言葉に甘えるでござる。ところでキョウ殿は大丈夫でござるか?」
あちゃー。私の肩に顔を隠してる。紅に染まってるなー?
今度は後部座席にフリルさん、服部さん、キョウが座ってそのお膝に私が座らせてもらった。落ちないようにお腹の辺りで控えめにホールドしてくれてる。ふふふっ♪ お膝の上嬉しいなっ!
運転席にはユヅさん。助手席には王子くん、王子くんの上にはナナ。さっきと違ってナナは殺伐としてない。ユヅさんのこと応援してもらったからかも!
ちなみにフリルさんの拘束は、もうしていない。王子くんが『時間移動防止装置』がついているブレスレットだけ渡してつけてもらったし、横に服部さんもいるし、武器がないなら問題ないってことになった。ちなみにブレスレットは黒のビーズとリボンのビーズで作られてて超かわいい。
王子くんはペロペロキャンディーをタバコに見立てながらドヤ顔を決めて話している。とてつもなくダサい。
「禁書は山神の未来の拠点から盗んで来た、ってトコかな?」
「はいですの」
王子くんが丁重に見せてくれる。
「ね、本当に使っていいの? これ――フリルちゃんに必要なものだよね?」
王子くんは複雑そうな顔をしてた。どうしてだろう? 禁書を使うと何かあるのかな?
「ベル様がそれで助かるならっ! 私はいいですのよ」
フリルさんは、必死に私と王子くんを交互に見た。
「……わかった。この『二十四時間空腹にならない禁書』と『二十四時間飲み物を飲まなくても平気な禁書』はフリルちゃんに戻すよ。でも――『二十四時間疲れない禁書』……これは本当に使わせてもらうよ」
禁書ってもっと真面目なものかと思ってた!
いや、……すごいのかな?
「ええ、もちろんですわ。それと、七海様、万年筆がある限り、私は"黒の書き手"ですの。どうかあなたの力で壊して頂けますか?」
「壊すのは万年筆が可哀想っス。高級感があるっスし、お花の模様がかわいいっス! ウチが預かってもいいっスか? 大事にするっスよ!」
「ありがとうございます、ですの……。大切にして下さる人の元に行ってくれるのでしたらこの上ない幸せですのよ」
ナナはにこにこして、大きな水筒からあったかいココアを紙コップに注いで、フリルさんに渡した。
受け取ると「あったかいですの……」と言って一気飲みした。
ん? どこから水筒出したの!?
「おい七海。そのでかい水筒はどこから出した」
「車に積んでるっスよ?」
「はあ……まあいい。飲む人いるか?」
やれやれ、となっているものの、ユヅさんが配給係を引き受ける。
「オレオレ!」
「私も飲みたいなっ」
「美味そうだな。俺も飲みたいです」
「拙者も良いでござるか?」
ユヅさんが、ナナから水筒と紙コップを受け取って、みんなに渡した。
ナナはその中にチョコとかマシュマロ、クッキーを入れて飲んでた。すごいブレンドだね!?
ココアを片手に、王子くんは、『二十四時間疲れない禁書』を渡してくれた。
「現状の疲れは取れないけど、これ以上消耗することはないからね♪ さあ、ベルちゃん」
「うん。……フリルさん、使わせて頂きます」
「はいですの」
フリルさんは微笑んでどうぞ、と手で促してくれた。う〜〜〜疑ってごめんなさい!
私は意を決して禁書を恐る恐る開いた。
小さいオジサンとか出てこない、よね……?
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これから其方は二十四時間疲れなくなる。
しかし、副作用として五箇所ニキビができる。
それでも良いのならば、はいに丸をつけよ。
はい いいえ
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「んーなんかね、丸をつけてって書いてる」
「禁書ってこんな感じなのか」
後ろ、というか私と一緒にいるキョウが興味津々に覗き込む。
「ベルちゃん! 副作用なんて書いてた?」
「五箇所ニキビができるって……」
「ひぃぃっ嫌ですのよっ」
まさかフリルさんが反応すると思わなかった。ってフリルさんが使用する予定だったんだよね? ニキビはいいの⁈
「ニキビくらいどうってことないよ! 丸つけるね!」
って、あ。万年筆ステッキになったまんまだ。
「誰か書くものなーい?」
すっ……と筆ペンを服部さんが出してくれた。あの巻物、筆ペンで書いてたんだ!
「服部さん! お借りします」
「どうぞでござる」
筆ペン久しぶりに使うなあ。丸つけよ。あっ書きやすい! えーいっ! まるっ。
すると、本から虹色の光が出てきて私を包んだ。すると、禁書は懐中時計になってしまった。
ニキビがぽこぽこぽこぽこ、ぽこっとできてくる。
えー! こんなに早く出てくるんだ。しくしく。
呆気に取られつつ借りたものを返さないとって思って、服部さんに「ありがとう」って渡すとニコッとして受け取ってくれた。
んー! 服部さんかわいい!
えっ、あれ、この懐中時計ってフリルさんが持ってたやつじゃん!
「使い終わりました! あの、懐中時計が出てきたんだけど……フリルさんと一緒の」
「懐中時計は残りの時間を現すだけで、怖いものじゃないから大丈夫だよ♪ そうだ、ユヅくん、フリルちゃんに能力使ってみて」
ユヅさんが一瞬固まってから、ココアを一旦飲んだ。
「ああ、僕って能力者だったな」
「ちょっ……パイセン大丈夫っスか?」
ナナが引いてる! レア!
「自覚がなかったんだ。ええと……黒羽さん、失礼する。頭の上に能力の名前が出るだけだから怪しいものではないんだ」
「でしたら……どうぞですのよ」
ユヅさんは、額を叩いてフリルさんをみる。
「――時間停止無効の能力が無い」
「えっ? どういうこと?」
だって、フリルさんがここにいるのは『時間停止無効』の能力を使ってるからじゃ――。
いや、何か引っかかる。
懐中時計、お腹が空かない禁書、飲み物を飲まなくても良い禁書、疲れない禁書――これって!
「フリルさん! どうして私に大事な禁書を使わせちゃったの!?」
「ベル! 黒羽さんの善意だぞ!」
「だって、だって……」
王子くんを見る。絶対一番に気づいてたのに止めなかった。王子くんは、俯いて何も言ってくれない。
「私の『時間停止無効』は禁書によって一時的に得たものですのよ。副作用は極度の疲労。それから飢えと渇き――ギリギリまで使わないようにしていて良かったのですわ」
ですから、ベル様に渡せましたのよ。
笑顔で言ってくれる。だけど……だけど……
それって――今度はフリルさんが大変なことになっちゃうんじゃん!
禁書から小さいオジサンが出てくるわけないじゃないですか!
いや、でも禁書はその書き手によって色々なものが書かれているので、小さいオジサンが出てくるという禁書もありえるかもしれませんね。
ちなみに、必ず禁書には副作用があります。能力に対して対価を払わないといけないのです。大きいニキビ五個はつらいですね……。




