21話 団結
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。純粋な心の忍者。護衛/172cm
何て都合が良いことに、私たちがこんなことになっている間、総理と琥太郎氏は離席していた。
お仕事の電話対応だったらしい。
ふぅ。見られなくて良かったー!
ってだからユヅさんがあんな強引なことしたんだ!
ご依頼人様の前でナナにするわけがないもんね。
ああっ思い出したけどすごく大人って感じだった!
ユヅさんの色気がヤバくて映画のワンシーンみたいだったなぁ。薔薇のフレームが見えたもん。
「ユヅパイセン! どこで"本"書くっスか?」
ナナは何事もなかったように接してる。
お、おとな、だ。
「院内にいるのも迷惑だからな。もう消灯時刻になるから近くのホテルを取っている。芸能人や政治家が使うセキュリティ面がしっかりしているところだ。今すぐ移動するから、そのコンビニで買ってきた大量のお菓子はちゃんと持って帰れよ」
「ラジャーッス!」ナナはびしっと敬礼した。
ナナぁ! 使用人さんからあんなにたくさんもらったのにまた買ったの!?
レナさんのVIPルームの病室の冷蔵庫には、ぱんぱんにナナのお菓子が入ってて、「要冷蔵のもあるのにどうするっスかねぇ」と悩んでた。
うそ、アイスとかも買ったの?
キョウはレナさんの診察をして総理と琥太郎氏と話してる。目が青い。
記憶域から戻ってきて疲れてないかな……?
後で労ってあげよっと。私もくたくた。
「レナさん、安定していますね。俺がいない間、変わったことはありましたか?」
「いいえ、ありませんでした。それどころか安定した状態が続いています」
総理は、ベッドの横に置いてある椅子に腰掛けて、にへにへと笑みを浮かべてレナさんの寝顔を眺めてた。おじいちゃんの顔してるー!
「それは良かったです。俺達は移動しますけど、何かあったら服部さんを呼んだり、ユヅ先輩に連絡してください」
「先ほど森様が戻ってきましたので医療の面は大丈夫ですよ。……聞きましたか? この病院が元通りになるまで働いた後、緊急時救急医療対応守備部隊に従事するみたいですよ。私共への協力も約束して下さいました」
キョウはほっとした様子だった。
「先輩の腕は確かですから安心ですね。今後のことも聞けて良かったです。あの環境下で働ける人材は多い方がいいですし、いざ総理が医療の力を必要になった時にはよく動いてくれると思います」
琥太郎氏は逡巡した後、「失礼でしたらすみません」と一言挟んで話す。迷うなんて珍しいなぁ。
「それから……個人的事情とはいっても祝福させて下さい。おめでとうございます」
「琥太郎さんが下さったからですよ。ありがとうございます。これからも大切にします」
「ふざけたデザインですが効力は絶大ですから、是非持っていて下さい。……ったく本人がコレですから」
総理の頭をぺけぺけボールペンでドラムのように叩いてた。その扱いでマジでいいんだ……。
キョウは苦笑しつつ琥太郎さんとの話を終えた。
何のお話だろ?
診察とお話を終えたタイミングで、ユヅさんがキョウを連れ出した。警備のプロのナナがさりげなく隣に来てくれる。
「男子たちなんなんスかね? やらしーっス」
「んー、色々あるんじゃないかな?」
「ベルっち〜ウチらもこそこそしようっスよー」
ナナは腕にぎゅってしがみついてきた。
私の方が背が高いから、上目遣いみたいに見える。
何この生き物かわいい。保護しなきゃ!
「えー? 何話す?」
「記憶域でなんかあったっスか?」
「うーん? 一回能力使ったよ」
「そうだったんスね! そういえば手をぶんぶんしてたっス」
えっ、現実に動き反映されるの!? 恥ずかしい!
戻ってくるなりユヅさんはナナを叱る。めっちゃママだ……。
「こら七海。何サボってんだ。早く荷物まとめろ! 移動するって言っていただろう!」
「ひゃ、ひゃぃぃ……」
あんなことする仲なのに怒られたらこんなに小さくなっちゃうんだ。ふふっ。
私たちは、ナナのバッグにお菓子を入れるのを手伝ってあげた。大量で入りきらなくて、結局私が趣味で集めてた大量のエコバッグに、たくさんお菓子をみんなで詰め込んだ。
「ごめんっスー!」
「ナナ! 買いすぎるなと言ってるだろ! 賞味期限迫ってるのもシェルターにあるのを忘れるなよ!」
「ううう……キョウ兄ぃ……怒らないでっスよぅ」
ベルっち〜〜! と私に助けを求めた。でも買いすぎだからちゃんと言うこと言わないと!
「ナナ、買いすぎは控えようね」と頭をぽんぽんする。
キョウは、「調子に乗るから甘やかすな」とナナを私から引き剥がした。
「シェルターって教えたか? 覚えてないから言っておくな。まあ、俺たちの拠点だ」と補足してくれる。そーなんだ! 行きた〜いっ!
軽いナナは呆気なく私から離されて「ベルっちぃぃぃ」と半泣きで永遠の別れのように大袈裟に呼ぶ。ナナぁー!!!!!
キョウはユヅさんにナナをひょいっと渡した。ぬ、ぬいぐるみみたい!
かわいいなぁってぬいぐるみになったナナを見てたら、耳元でユヅさんは何か言ったのを私は見てしまった。
ナナは――さっきとは別人のように変わって表情を険しくした。ぬいぐるみから人間に変わってるし、すごく気合が入ってる……! わかりやすっ!
「ベル、車へ行こうか。クロストレックが待ってるぞ」
わぁやったー!
私はウキウキでキョウについていく。移動中に手を繋ぐのはもう当たり前になってて、すぐに手を取ってくれた。 鞄はすっかり病院に馴染んだうさぎ仮面が運んでくれて、護衛にもついていてくれた。
みんな荷物を預けてるのは、全員が逃げたり戦ったりしやすいように、なんだって。私は申し訳ないのがまだ慣れないけれど……。
病院内から駐車場へ向かう間に、ナナが買ったお菓子のラインナップを聞いてた。ついでに好きなものの話に脱線した。抹茶もチョコミントもなんでも食べれるみたい。好き嫌いはないんだって!ナナらしいなー。
ナナとスイーツのお話をしてたら、あっという間に病院を出て駐車場に着いた。
今度は大量にクロストレックは停まっていなくて、二台だけだった。
ふう。あの時は本当に多すぎだったから普通の風景って安心するなあ。
でも、二台?
ユヅさんがキーを渡しつつ話す。
「ベル、車は運転できるな? ホテルまで運転してくれ。助手席には七海が乗って、後部座席に恭介が乗る」
「私はいいけど……どうしたの? 何かあった……?」
「一応の行動だ。ベルが一番運転が上手いだろう?」
「え、そうなの」
そういえばあまりにも馴染んでいて言うのを忘れてたな、とユヅさんが笑った。
わー! 笑うんだ!
「ああ、僕よりも腕は上なんじゃないか? そこで、車を運ぶのを手伝って欲しいんだ」
車なら任せて! 車の漫画の影響で、山をいっぱい走ってるし得意なんだからっ!
「わかった。ユヅさんについていけばいいの?」
「いや、メッセージに送ったホテルに先に移動してくれ。僕は寄るところがある。あとは恭介に従って動いてくれ」
やっぱり……危険なことしようとしてない?
「ユヅさん! 隠さないでよ、何かあったんでしょ?」
「取り留めもないことだが一応潰しに行くだけだ。それよりも、七海が食べ過ぎて腹を壊さないように見ててくれ。頼むよ」
「わかった。……詳しいことは聞かないけど、怪我……しないでね」
「大丈夫だ。すぐに合流する」
キョウに行こう、と促されて私は運転席に座る。んー、憧れのクロストレック最高!
いつのまにか遅い時間になっていたから、道路が混み合っていなくて運転が快適だ。
でも憧れの車だからいつもより緊張して運転する。借りているものだし……!
ナナは、リスみたいになりながら冷蔵庫のお菓子を頬張ってた。アイス垂れてる! おおっ一口で食べた! セーフ!
キョウが「俺も食べるから寄越せ」と一つ奪うと「ウチのっス!」とナナはぷんぷん怒る。
いや、この量は無理だよっ!
「ナナ……溶けちゃうと思うからキョウに手伝ってもらったら?」
「ベルっちがそう言うならキョウ兄にもあげるっス」
「最初から素直に言え」
キョウは二つ目、三つ目と溶けかけのアイスを放り込んだ。さらに要冷蔵のケーキまでナナから渡されて「まだあるのかよ!?」と驚きつつ食べてあげてる。ふふっ兄妹みたい!
赤信号で止まると、「じゃあベルっちも手伝ってっス!」と大きいスプーンを差し出してきたのでぱくんと遠慮なく食べる。
んー、溶けてるけどおいひー!
走り出すと、突然黒いものがフロントガラスにくっついてきて邪魔だった。ワイパーで退けようとしてもびくともしない。
「もうっ! 何これっ!見えないから路肩に駐車して取るね」
「ベルっち、予定変更っス! ごめんっスけど走ってっス!」
ナナが車の窓を開けて屋根に飛び出した。
え……何!?
「ベル、黙ってて悪かった。不安にさせたくなかったのに……。予想外の事態が起きた。頼む! 走ってくれ! 出来るよな?」
キョウに言われて緊急事態だと体が反応する。無言のまま頷いてナビを見た。
このまま真っ直ぐ走り続けると、山道に入る!
私はとにかく急げるだけ急いだ。
フロントガラスに張り付いていたのは、よく見ると、"人間の女"だった。こっっわ!
どうやって上がったの? 乗る前に見たら何もいなかったのに!
んん?
この黒い衣装……見覚えがある――右山だ。
ナナが攻撃を仕掛けてるらしいけど、そうする度に足でフロントガラスを蹴りつけて私の運転の邪魔をしてくる。ああもう鬱陶しい!
私は警察がいないのを確認してスピードを上げた。
いや、キョウたちの上司がここで起こりうること全てを計算しているのなら、私が無理な運転をすることも把握済みのはず!
山道に入った途端、思いっきり蛇行運転をする。
ナナならあの身体能力だから大丈夫!
右山はぐらりと揺れて、車から落ちた。
ナナがすかさず追って掴みかかる。
二人を落としたままだから、このまま走ると置いてっちゃう!
停めようかとスピードを落として路肩に寄せたら、「駄目だ! 逃げるぞ!」とキョウが叫んだ。
それから、キョウはシートベルトを外して、後部座席から助手席へ無理矢理乗り込んできた。
「後ろにユヅ先輩がいる。ナナは大丈夫だ」
「でも――」
「山道は得意だろ? 高速に出れる道路がある! 遠回りだがそこからホテルに……うわっ」
タイヤが一気に撃たれた。アクセルを踏んでも走れなくなる。
ナナと少し離れたところから、動けなくなってしまった。
ハンドルを握っていた私よりもキョウが揺れて体を車にぶつける。
「キョウっ!」
「平気だ。何があっても降りるな。俺と居てくれ」
「でも、ナナが、ユヅさんが……」
「あの二人は強い。右山の能力はわからないが、あれほどの人員をまた用意するのは無理だろう。何より服部さんが右山が一人で動いてるという情報を掴んでいるから信じよう」
それで服部さんと巻物のやり取りをしてたんだ……!
事前に準備してたとはいえ……黙ってられないよ!
後ろを振り返ると、発砲音がした。ナナはナイフで応戦してる。後方にはユヅさんがクロストレックの屋根からライフルで右山を狙っていた。
足に命中したらしくて右山はしゃがみこんだ。ナナが顎を蹴り上げると同時に右山はナナをハイヒールで蹴飛ばした。リーチの差でナナが負ける。
「ナナあぁっ」
キョウが後部座席の窓を開けていたらしくて、レーザーポインターみたいなのを右山に当てると、ほぼ同時に銃とは似て非なるものを出して、撃った。でも躱されてしまってナナに当たる。
「やっぱり躱してくれたな。これでナナが能力を使える」
「今の、何?」
「即効性の栄養剤だ。お菓子では足りないし、栄養が偏っているからな」
ナナが爆食してたのって、戦闘後のエネルギーを補填しようとしてたからだったんだ!
――ナナは目の色が黄色に変わった。
右山に覆い被さり、ハイヒールを千切って脱がせると、そのまま先端を地面に釘を刺すように手のひらに刺した。一瞬ナナが離れる。ユヅ先輩が一発撃つと、腹部に命中して完全に沈黙した。
さっすがナナ! 強い! ユヅさんとナイス連携!
そう思ってたら、ゾワっとする声が私たちを襲った。
「随分と乱暴なんだから〜。あのお姫様も妖艶なホストさんも。だからこっちに来ちゃったわ」
後部座席から声がした。右山がいる! なんで⁈ 瞬間移動した? 時間移動した?
――わかんない!
「"書き手"のお嬢さん、死んでちょうだい」
ナイフで直に私を刺そうと運転席の私に向かって腕を伸ばす。
やられてばかりいるかっ!
無意識に手にした万年筆が、ステッキに変わった。
ステッキでナイフからの攻撃を防ぐ。
んーっ! このステッキ、車内じゃ狭い! ドアを開けて飛び出すと、キョウが叫んでた。
右山がまた私の前に現れて、ナイフを向けてきた。こうしてみると、鋭利で長くて大きい……!
怖い。
けど、みんなを守るっ!
私がステッキでナイフの攻撃から自分を守る。キン! キン! というぶつかり合う派手な音を立てる。
するとキョウが走って右山の背後に回っているのが見えた。
「避けろ!」と言う声に合わせて私が横に飛ぶと、キョウは右山の背中を思い切り蹴り、地面に体を打ちつけさせた。そのまま右山を踏んで、何か注射器を刺した。
「何……すんのよ小僧!」
右山は体を捻って、ナイフでキョウを刺した。
「キョウ! いやあああああ!」
ステッキが呼応するように光る。
「現代人が能力を使うなんてムカつくわね」
右山は私の真ん前にいて、私は防御が間に合わなかった。ナイフが振り下ろされる。構わない。
時間を――飛ぶ!
「ベルっち! ベルっちー!」ナナが駆けてくるけど距離があって間に合わない。
私はナイフに刺されながら、ステッキで右山を殴りつけて、「時間を戻して!」と願った。
チク、タクと鳴って周りの背景が変わりゆく。
――だけど、キョウにナイフを刺された瞬間に戻ってきた。
「いやああああ! キョウっキョウーッ!」
「チッ面倒な能力ね。また会いにくるわ〜」
ナナが「来なくて良いっスよ!」と叫ぶ。
「しんじゃやだあっキョウうううっ! ううっ……うっ……」
すぐ横にいるキョウの白衣を捲って手当しようとしたら――。
「ベルっ! 落ち着け!」
しゃべっ……った……。
あれ、そういえば血が流れてない……?
パーカーを捲ろうとしたら、キョウが白衣のポケットから派手な金ピカのお守りを取り出した。
それには、ナイフによる傷がついていた。
「これに刺さっただけだ……ほら、出血がないだろ? 心配させてごめんな、ベル」
ナナとユヅさんも駆けつける。二人とも心配そうに覗き込んでいる。
「琥太郎さんに『両思いになれる次郎ちゃんお守り』っていうものをもらってな……。入れておいたんだよ。両思いも叶って命も助かるなんて効き目が……うわっ」
私がキョウに抱きついてさらにナナが抱きついて、ユヅさんが「馬鹿野郎!」と叱りつけて、キョウをデコピンした。
みんなで抱き合っているのを、怪我をした右山は睨んで見てた。
***
「あの調子だとなかなか殺せないわね。さっさと始末しなくちゃ」
仲間なんてばかばかしい、と吐き捨てる。
――否定しているのに、仲間や家族といた未来の記憶が蘇る。甘えてくる妹は可愛かった、あの頃は良かった、と感傷に浸るが――心が空っぽの私には通用しない。
でも……彼らが羨ましくなって振り返ってしまった。
すると、忍者がいた。目を疑う。
そういえば過去人が一人居ると情報にあった!
重そうな前髪を掻き分け、「動くなでござる」と甘い声で言われる。
なんて、なんて素敵な人なの?
国宝級イケメン、いや、貴方は世界遺産ね――。
私は居ても立っても居られなくなって「私、貴方のこと……一目惚れしちゃったみたい」と告白してしまった。
***
私とナナがわんわん泣いていて、ユヅさんも瞳が潤んでいると、服部さんが右山に抱きつかれて現れた。またこのパターン!?
「捕まえたでござる」
右山は目がハートになっていた。
「捕まっちゃったのよ〜♡ 服部様ぁ♡ 愛してる♡ 私のことを愛して? ねえ〜愛してってば〜♡」
服も下着も脱ぎ捨てたらしい右山は、服部さんの私物らしき唐草模様の布で覆われていて、その上から服部さんの腕に抱きつき、胸を押し付けていた。でっっっか!
うわ……今回もご愁傷様です。
服部さんが「離してほしいでござる。頼むから離してほしいでござる」と言っても聞かなかった。
ナナが流れてた涙をキラキラと空中に浮かせながら移動する。
「この女ウチより胸がデカくてムカつくっス! 許さないっス!」
ありえない速さでビンタをして意識を失わせた。
怒るとこ、そこなの!?
服部さんは急いでキョウの近くに座り込み、顔を覗いた。
「俺なら大丈夫ですよ。ありがとうございました」
「キョウ殿、良かったでござる……うっ…うぅ……」
「ハンゾーっちぃぃえらかったっス!」
ナナが褒めると服部さんはさらに涙腺が壊れて泣いた。
服部さん。顔がいいから泣き顔が絵になる!
本当にお疲れ様でした……。
冷静なのはユヅさんだけで、淡々と話す。
「右山はテレポートの能力持ちだから始末が大変だ。未来警察に来てもらおう」
「うっうっ……なんでわかったんスか?」
ナナも涙が止まらないみたい。右山は顔が腫れ上がってた。うわ、やりすぎ。原型ないんだけど⁈
ユヅさんはナナの問いに戸惑いながら答える。
「実は、能力に目覚めたんだ。"能力を見れる"能力らしい。僕らしい地味な能力だな……」
ユヅさんって能力を今まで持ってなかったの?
未来人って全員能力があるって思ってた――。
ナナとキョウは、驚いて口をぽかん、と開けてた。
ステッキはとても頑丈です。刃物でも傷つきません。すごいですね!




