20話 奇跡
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。???/172cm
ずっと「しにたい」とレナさんが泣いていると、チョコさんがベッドから落ちてしまった。
「チョコ!」
大きな声を上げてしまった反動で咳き込んでしまう。
「ちょ……こ……ごめんね……わたし、しんだらちょこひとり……ぜったいだめ……」
その記憶はそこで終わりだったらしくて、私は虚しくもキョウが閉じ込められてしまった扉とは逆の方から追い出された。
「キョウっ! キョウっ! お願い! もう一度扉を開けてよおっ!」
扉はびくともしない。それどころか消えてしまった。
「あ……キョウが……キョウが……」
――閉じ込められちゃった……?
絶対守るって決めたのに。
守れなかった――。
そういえば、元々は黒の扉が壊れて吸い込まれたんだった。ここは一本道で出来てるから……
また、あの扉に吸い込まれたらキョウに会えるかも!
私は病院の廊下を走った。随分遠かったけれど、そんなこと関係ない。走って走って、走ったところに、壊れていた扉はそのままあった。
これで助けに行ける、と思ったのに、その空間は着いた途端に無くなってしまった。
「どう……して……?」
あの話が本当だとしたら、記憶域に取り込まれたキョウは、死んでしまう……。
ナナの死を思い出した。もうあんな思いしたくない。みんなも悲しませたくない。
私が、私がキョウを助ける!
――万年筆が浮かび上がって、時計がついたステッキに変わる。
キョウが、吸い込まれてしまった前に巻き戻せるかな?
いや、やるしかない!
私はステッキを握って、「お願いだから戻って! キョウを助けるために力を下さい」と祈りを込める。それから、強く床を叩いた。
記憶域が揺れる。レナさん、ごめんなさい……。
ステッキの時計の針が、チク、タクと音を立てて、逆回転し始めた。
それに呼応するように、私は前に前に戻っていく。
走ってきた廊下が体を駆け抜けて、追い出されてしまった扉に入る。
そして、キョウが笑って突き飛ばした瞬間まで戻った。
「キョウ! だめ!」
私はステッキを伸ばす。キョウは慌てて掴んだ。ステッキに阻まれて扉は完全に閉まらない。だけど、もうお互いに顔が見えなくなってしまった。
「開いてっ開いてよっ! キョウ! 一緒に開けて!」
すると、足元が下になっていたのに、空間が九十度傾いて元に戻った。落下しなくなって、なんとか扉を開けられるようになる。けど、扉は――重い。
「ベル……時間を走ってきたんだな。ありがとう」
「お礼言ってる暇あったら扉開けて!」
「俺一人の力じゃ開けられない……」
「なんのために私がいるの!? 頼ってよ!」
私は左手を扉に入れて、指輪を見せる。
「俺のこと一生好きでいて一生そばにいてほしいって言ったのは嘘だったの!? ばかっ! ばかばかばかあっ!」
「嘘じゃない……ごめん」
キョウが手を握ってくれる。見えないけどわかる。キョウの手だってわかるよ。
「せーので力入れて開けよう! 私だって馬鹿力出せるんだからっ」
ベルに頼らないと、失礼だよな……。ってキョウは申し訳なさそうにする。やっと私のことわかってきてくれたかな?
「……ベル、力を貸してくれ! 合図は俺が出す! せーの!」
二人で思いっきり扉に力を込める。でもびくともしない。
またキョウが、せーのと合図を出す。
「う、うぅ……開けっ開けーっ!!」
すると、背中がとんとん、と叩かれた。
え……? チョコさん……が私を叩いたの?
チョコさんは、ドアノブにぴょんって上がって私の手に自分のふわふわの手を乗せてくれると、ドアは簡単に開いた。
キョウは力を入れっぱなしだったから、飛び込むようにして帰ってきた。
私はキョウを受け止める。ずささ、と後退するとレナさんがとん、と支えてくれた。
「いけめん……しなせない」
レナさんはキョウの方を向いて言った。
「わたしも、ずっとチョコといたい……わかるから……たすけ、た」
「ありがとう……ございます……」キョウが面食らいながらお礼をした。
「キョウっ良かった!」
私が安堵のあまりキョウの首に手を回して抱き寄せてしまう。「べっベル、胸がっ! 離し……」と慌てふためく。そんなの知らない!
どんだけ心配したと思ってるの! バカキョウっ!! とさらに力を入れる。今はキョウの存在を確かめないと安心できない。
「おい……おんな……いちゃつくな、ころす」
「うわあっはい!」レナさんの目は鋭くて怖かった。
てゆーか、チョコさんもレナさんもどうなってるの?
渋々キョウを離すと、「おにいちゃん……だいじょうぶ?」と訊くレナさんと、膝に座ったチョコさんがいて、唖然としている。
「記憶域でこーゆーことってはじめて?」
「過去に二度あったくらいだ。本当に稀だな」と腕を組む。
「ステッキ使ったからかな?」
わからない……とキョウが言う。
「奇跡、かもしれないな。ベルが頑張ったから……」
「まて。きせき……なんかない。おんな、ひっしだった……だから、レナとチョコが……たすけた」
ただの、じじつ。その言葉が響く。
レナさんは、呼吸を整えてから話し続ける。私たちは、座ったままだからその目線と交わったまま、見つめる。
「きせき、あったら、レナは……こんなとこ、いない。でも、レナは、チョコにあえた。じいじと、こたさん……きてくれる。きせきは、そうゆうののこと、いう……」
レナさんは奇跡を理解している。そんな願いが叶うようなことは無いって。
――この小さな女の子は、現実は残酷だって知ってる。
「レナのこと、わかった……?」
わかった。記憶を見てきてわかった。あなたが大切にしているもの、嬉しかったこと。わかったよ……。
「うん、わかった……それから、私は『おんな』って名前じゃないよ、『ベル』っていうの」
「それから俺は――」
「……しってる、くるすきょーすけ!」と即答した。覚えてたの?
「べる、きょーすけ……ともだちになる。その、キョウうさってやつはチョコの……ともだち」
私はベルトからキョウうさを取ってしゃがむ。チョコさんがぽてぽてと歩いてきて、握手してくれた。動くチョコさんかわいい〜〜〜!!!!!
「よし。かえれ」腰に手を当ててレナさんがふんっとふんぞり返る。泣くのを誤魔化して、わざと怒って見せてるみたいだった。
「レナさん、友達には帰れって言わないんだよ?」
「……なんていう?」首を傾げる。本当にわからないんだね。ならば教えてあげようじゃないかっ!
「またねって言うんだよ」
「ベル、きょーすけ、キョウうさ……またね」
レナさんとチョコさんは、手を振ってくれた。
私たちも手を振る。
「またね!」
「ありがとう」
***
目を覚ますとベッドの中だった。抱き合っていて顔が近くて、唇が触れそうになってて、お互いに「わああああ!」と焦って体を押し合うと一緒にベッドから落ちそうになる。ナナが支えてくれてセーフだった。
「それくらいでびっくりしてどーするんスか。これからちゅーくらいするんスよね?」
「すっするか! 馬鹿!」咄嗟にキョウが反論する
「しっしないの……?」私はショックを受ける。
だって恋人だよ? そりゃ私だってキョウに触れたいわけですし? 即否定するなんて失敬な!
ナナは「あーもう面倒くさいっスねぇ。ウチが愛のキューピッドしてあげるっスよ〜〜!」
私の頭とキョウの頭を小さい手で掴んだ。力つっよ! そして頭同士を近づける。
いっ嫌な予感がする! ナナの行動力ならあり得る! うわあああ心の準備が〜〜〜!
「七海、やめとけ」
「イヤっス。この二人進まないんスもん。ウチが無理にでも――んむ?」
ユヅさんがナナの顎を上げて――唇を泥棒した!
ナナは、びっくりした反動で逆に私たちをくっつけてしまい、結局ユヅさんは止められなかった。
や、やわらか……ッ!?
「も〜急になんスかパイセン」
「お前の馬鹿力は止められないからな。違う方法で止めたまでだ」
二人が話してる間もナナの馬鹿力でこっちはくっついたままなんですけど!?
うわーんっ! ロマンチックの欠片もなーいっ!
「いやぁサーセンっした、ベルっち、キョウにぃ
いぃぃ!?」
「あーあ……止められなかったか……」
自分でしたことなのに自分で驚いてるのがナナらしい、なんて思う間もなく私はドキドキしっぱなしだった。
ナナが慌てて手を離したので、私たちはぷはーっ! と息を吸い込む。
「……恭介、ベル、かえってすまなかった」
「謝ってください。心から謝ってください」
「二人ともごめんっス!」
「ナナお前……俺達の意思とは無関係に余計なことを! ユヅ先輩、時間遡行の許可申請お願いします」
「ベルには忘却防止装置ついてるだろ」
「装置をつける前! 今朝からやり直します」
「そ……そこまでするのかっ!? 駄目に決まってるだろ!」
私は耐えられなくなって、あははって笑っちゃった。
「こんな面白い漫画みたいなこと、忘れたくないよ! キョウ、今度ちゃんとしようねっ?」
それと、ただいま! と言って起き上がってナナを抱きしめると「ベルっち〜!」とぎゅむぎゅむしてくれた。
「私たちがドギマギしっぱなしだから背中を押してくれたんだよね?」と耳打ちすると、ナナが猫になって「そっそんなことないっス〜」と目がすいすい泳いでた。ナナったら誤魔化さなくても良いのに!
一方、キョウは枕にうつ伏せになって動けなくなってた。どうしたの? と聞こうとしたけどユヅさんに「今は触らないでおけ」と忠告される。
だってぐったりしてるよ? 枕に伏せてて顔も見えないし。
「キョウ……大丈夫?」
「僕が保証する。恭介は今ものすごく大丈夫だ」
……ユヅさんを信じよう。私は「わかった……」とだけ言ってその場を離れる。
すると、ナナがドーナツあるっスよ! 食べるっスか? と誘ってくれたので「食べるー!」とついていくことにした。ドーナツ♪ ドーナツぅ♪
***
「恭介、今度"ちゃんと"しろよ」
「無理です。助けてください」
「悪いが力になれない」
「……感触が残ったままなんですよ。助けてくださいよ」
「ほう。それはそれはこの世のものとは思えないほど柔らかかっただろう」
「やっやめてください!」
「お前ほんっとベルのことになると頭悪くなるよな」
お読み下さりありがとうございます。
奇跡の意味があなたに伝わりますように。
お星様にて応援頂けますと嬉しいです!




