19話 死を望む少女 ※少し怖い描写があります
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。???/172cm
扉を開けると、昼間の病室だった。
外から、「レナをこんなに苦しめるなら、産まなきゃ良かった……私、レナを苦しめるだけで何もしてあげれない……」とレナさんの母親の声が聞こえた。
レナさんはチョコさんをぎゅっと抱きしめて、声もなく泣いていた。それは、お母さんに聞こえないように精一杯無理をしていた優しさだった。
次の扉を開けると夜だった。総理が来て、告げる。
「レナ……レナの母さんと父さんは遠くに行ってしまったのじゃ。じゃがじいじがいるからの! じいじが一緒じゃ!」
「しんじゃったんでしょ」
「……レナは大人じゃのう。そうじゃ……そうなんじゃ……すまんのう、レナ。助けられなくて……」
「パパとママはレナのことむかえにきてくれるよね」
「そ、そんなことはさせん! じいじが寂しいから生きてくれ……レナ……死なないでくれ……」
総理がレナさんを布団ごと抱き寄せて泣いている。レナさんはチョコさんの手を握っていた。
今度は違う病院の部屋だった。カウンセラーと名札に書かれた爽やかな男性が「ノートに好きなことを書いてね」と言って渡す。
「絵を描いてもいいし、レナちゃんが自由に使って良いノートだよ」
「すきにしていいの……」
「うん!」
レナさんは、突然びりびりに破って投げた。
カウンセラーは、なんと怒ってしまった! 私もキョウもハラハラしながら見守る。
「こーらっ! 自由に使っても良いけど破っちゃダメだろ? 僕も手伝うから、ノートは元に戻すこと。いいかい?」
「……わかった。なおす。」
レナさんは意外にも少し嬉しそうにしてた。
また扉が閉じて、私たちは追い出された。
「レナさん……いつも怒るのに、怒られて怒らなかったな?」
「私もそこに引っかかった」
もしかして、とお互いの考えを話すとぴったり合っていた。
「やっぱりそうだよね?」
「ああ、間違いない。みんな謝っている中、この人だけ叱ってくれてたからな」
「しかもちょっとユヅさんっぽくなかった?」
「ああ、雰囲気あったな。って……」
私は「レナさんだって乙女なんだから」と意味深に笑った。
「また良い記憶だといいな」とキョウは願いながら言う。
一緒に乗り越えようと約束してから、ドアはキョウと私の一緒に開けることにした。
また、せーので扉を開ける。
カウンセラーと直したらしいノートが病室に置いてあった。
ノートには、『おてんき、たいよう、にこにこ。チョコはひなたぼっこ』と書いてある。
すると、カウンセラーが部屋に入ってきた。
「レナちゃん! 今日も書けていてえらいね!」
「あり、がとう……」
「本当だ、太陽が綺麗だね。僕も晴れの日が好きだよ」
「わたしも、はれのひ……すき。チョコも、ふわふわになるから、すき」
「そうだね。チョコちゃんも嬉しそうだね!」
「うん!」
レナさんは空を見て笑っていた。
カウンセラーさんが出て行った後、すぐにチョコさんを抱いて、「おにいちゃんは、はれのひ、すき……だって。レナも、すきになるっていいにいく」
レナさんはぴょいっとベッドから降りた。点滴スタンドが邪魔で移動できない。
「チョコ、てつだって! うごかないよ」
うごかないよ……と泣いていると、外から声がする。
「あら、お疲れ様。レナちゃんのカウンセリング?」
「ああ、そうだ」
「あなたの株爆上がりよー。あの生意気なクソガキを手懐けて日記まで書かせれるようになったって。イケメンってお得よね」
「クソガキなんて言うなよ。最初はノートを破いて大変だったが良い子にしてる。ちゃんと接したらわかってくれるよ」
「ねえチョコ……おにいちゃん、くそがきじゃないっていってくれた……ね?」
レナさんはチョコさんを動かして、「うん」の動作をさせた。
扉が緩やかに閉まる。
「もしかして、この扉って心理状況も表してる?」
「ああ、言ってなかったな。そういったケースもあるが、こんなに変化があるのは珍しいぞ」
記憶域の空間もそうだが、扉にも個性がある。色々なんだ。とキョウが補足する。
「それだけ、レナさんの気持ちって浮き沈みしてるってことなのかな……」
「多分、な。ずっと病院に居るんだ。沈んでいる日が多いだろうが、記憶に残っているのは強いものがほとんどだからな」
そうだ、私、"引き手"なんだ。
「忘れてしまった記憶を引き出すのはどう? 私の"引き手"で!」
良いことを思いついたと同時に気がついてしまう。
「……今の、無し」
「そうだな……。気がついたか」
「うん……」
キョウは一旦休もう、と言って座り込んだ。私も座る。でも感覚はなくて、宇宙にいる感じ。……行ったことないけどね。
「ベルは知ってると思うけど、改めて言う。通常の記憶域外に追い出された記憶は――自分を守るために忘れようとしたことだ」
「うん。自己防衛が働いてるんだよね?」
「ベルがステッキで能力を使ったあの時は、良かったことを思い出してほしいって思ってだろ?」
必死だったから断言できないけど、でも、あなたにも家族がいるでしょ! とか思ってステッキ振るってたかも。
「大切な人を思い出して、って思ってたかもしれない! そうしたら戦いは終わるかもしれないって考えてたのかも。全部かもしれないだし、無意識だけど……。でもそれで助からなかった人もいた」
「だよな? 嬉しい記憶は逆に今の苦しさを大きくする可能性もあるんだ。だから見れる記憶だけ見ていこうな」
俺たちの心が持たないかもしれないし、レナさんが思い出したら大変だからな、と眉間を寄せる。
「……でも、それでいいのかな。もし思い出して、レナさんが救われたら――」
「それは大きい賭けになってしまう。『闇山』は健康で動ける人たちが相手だったが、今のレナさんは身心ともに弱っているだろう? 忘れないでくれ。俺たちはレナさんの『輝かしい過去』を本にするんだ。残念ながらその人全てを救うことはできない……。俺たちが見た記憶の中で、レナさんにとっての幸せを見つけていこう」
私は渋々頷いてキョウについて行った。
まだ白の空間は続いているけれど、先に行くほど黒くなっている――。
一緒に扉を開ける。また晴れの日だった。
「じいじが来たぞ! レナ! ほら、頼まれていたリボンじゃ! チョコにつけるんじゃろ?」
「うん……ありがと」
レナさんが上手くリボンをつけられないでいると、琥太郎氏が首元に綺麗に結んであげていた。
「こたおじちゃん……ありがと。チョコ、うれしいっていってる……」
「そうか、良かった」琥太郎氏は笑ってレナさんとチョコさんを撫でていた。
ワシもワシも撫でるんじゃ! と総理が割って入ると「じいじ、かれいしゅう……やだ」と拒絶されていて、ガーンと固まってしまった。
二人が帰った後、レナさんが鉛筆を握る。
『じいじとこたさんきた。チョコにりぼんつけてあげれた。』
文字が踊っているみたいに喜びが伝わってきた。
――ドアを開ける。雨の日の夕方だった。
「おにいちゃん、きょうはあめだね……」
「雨は雨で楽しいよ。音を聞いてるとよく眠れるんだ」
「ほんと…?」
「じゃあ、実験してみようか」
「うん」
カウンセラーさんが帰った途端、すぐに鉛筆に手を伸ばした。レナさんはしっかりノートに書いているらしくて、半分くらいページが進んでいる。
『じっけんかいし。あめのひ、よくねれる』
――晴れの日の朝。レナさんは泣いていた。
「おにいちゃんいかないで」
「ごめんね、偉くなっちゃったんだ。同じ病院にはいるからね」
「レナのとこ……きてくれないとやだ」
レナさんはチョコさんの手を握る。
「レナちゃん、ノート続けてくれる?」
「あいにきて……ぜったい……かくから」
「わかったよ」
二人はゆびきりげんまんをした。
――同じ日と思われる夜、レナさんは泣きながらノートに書いていた。
『ぜったいやくそく』
ドアは弱くなっていて、閉める前に壊れてしまった。泣いているレナさんの声がずっと、聞こえたままになる。
「レナさん……初めて理解してくれたカウンセラーさんとのお別れは悲しかったよね……」
「俺も胸が痛い。でも飲み込まれるなよ……。その、話しにくいんだが」
キョウが話しにくいってことはきっと、"前"の私のことなのかも。
「教えて、キョウ。大丈夫だから」
「ああ……。"前"のベルの中には、記憶に囚われて、出られなくなったことがあったんだ」
え――? 出られないって、ナナに体を預けたままになった……のかな?
「そうなったら、一生帰って来れないんだ。だから、お願いだ! ベル! 一緒に帰るためにもあまり感情を入れずに、ただ『知る』だけに留めてくれ」
私は、わかった……。ってしか言えなかった。
次のドアは、黒く塗り潰されていた。
「ここは開けないでおこう。嫌な予感がする」
「キョウがそう言うなら、私は信じてついていくよ」
手は繋いだままだ。大丈夫。そう思っていたら、ドアが急に開いた。体重の軽い私から吸い込まれていく。
「ベル!」
キョウも耐えるけど、風圧に負けて空間の中に取り込まれてしまった。
バタン! と扉が閉まる。開けられない――!
「おにいちゃん……こない……」
「うそつき……」
レナさんは真っ黒になるまで書かれたノートを投げ飛ばして、チョコさんを抱きしめて大声で泣き始めた。
ノートが落ちた途端に、ページが開かれる。
『うそつき うそつき うらぎりもの しにたい しにたい しにたい じいじ きてくれない こたさん きてくれない ちょこ しかいない ちょこ しかいない しにたい しにたい ころせ』
「ベル! 見るな!」
「キョウも見ちゃだめ!」
突然、空間が歪んで、足元の方が、下になる。
「きゃあっ」
「くっ……離すなよベル!」
キョウは私の服を掴んでから、絶対に離れないように腰に手を回してがっちり抱きしめてくれた。私もキョウを離さないように、キョウが離れないように強く強く抱きしめる。
扉がどんどん開いていって、どんどん下へ下へ落ちていく。
「しにたい」雨の音と共に嗚咽が聞こえる。
今度は大きな扉が開いてた。引き寄せる力も今までの比じゃない。
キョウの白衣が引っ張られてしまって、その勢いでお互いが引き剥がされる。
「キョウっ! キョウっ! 離さないで! 私が守るから――」
キョウは私を突き飛ばして、笑った。
キョウが落下しながらドアノブに手を伸ばして扉を閉めた。さらに、ガチャリ、と施錠の音が空間の歪みが元に戻って、落下しなくなった。
「ああああああああああああああ! キョウっキョウっ! 開けてっ! 開けてよっ!」
どれだけ叩いただろう。どれだけ叫んだだろう。
どれだけ、死にたいと泣く少女の言葉を聞いていただろう……。
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