18話 記憶の中 ※心苦しい描写があります
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。???/172cm
白の空間……? いや、ここは……
目覚めるとレナさんの記憶の中にいた。ぬくもりを感じる。……キョウ?
「目が覚めたか? おはよ。俺達はレナさんの記憶域に無事到着したんだ」
「ん。おはよう……ここって、病院?」
「ああ、レナさんは長く入院しているらしいからな……自分のイメージとして常にいる場所が病院なんだろうな。起きれそうか?」
問われてから初めてわかったけど、私たちはベッドの中にいた! 何かに座ってるな……とは思ったけどベッドって! 待って! 記憶無いんだけど!
「うひゃあっ!」
「うわっどうした!」
「私たち何かした? その、ラブラブした!?」
「してない! 誰が許可なく寝込み襲うかっ」
「本当!?」
「なっなんで俺信用ないんだ!?」
いつもこの台詞言わせてる気がする……。これは私が悪いから、ちゃんと言わないと!
「今……恭介くんは恋人じゃないですか」
「は、はい」
「ちょっとだけなら、触ったりしてもいいんです……よ……? その方が嬉しかったりするんです。でも、その、恭介くんに緊張してる私もいて、それで、とてもわがままになっちゃうんです……」
キョウは難しい顔をして、悩んでた。
「……今、俺はベルに何ができる?」
「その……えっと、大丈夫ってしてくれる……? この空間、なんとなく怖いの……」
キョウはそっと背中をさすってくれる。私、こんなわがままなのに、嫌な顔一つしない。それどころか笑ってくれる。
「ずっと大丈夫するから、行こう。行けるか?」
「うん、行けるよ。あと、ね……」
――勇気を振り絞る。怖いけど、一歩進みたい。
「キョウは、私にどんなことしてほしい……? 何でも受け止めるから」
「何言っても嫌いにならないか……?」
私は真剣に頷いた。
「俺、ずっと――……」
すごく緊張して言ってくれたのに、その答えが嬉しくて笑っちゃった。
「おい、俺本当の本当にマジで言ったんだぞっ」
「顔赤い。キョウかわいい。私も同じ気持ちだよ」
キョウは、そろそろ行くぞと言って手を引いてくれた。
記憶域のドアを開けると――
無数の病室のドアが並んでいてぞっとした。
***
恭介とベルがようやく記憶域に入った。
予想外の大規模戦闘もあり僕も疲れていたから、この時間は多少リラックスできるだろう。
何より、七海を休ませられることの方が安堵する。
僕達は今、恭介とベルのベッドの上に椅子を持ってきて腰掛けている。
「あーあ、こんなにくっついてけしからんっスね」
恭介とベルはベッドに運ぶと惹かれ合うように寄り添った。
「まあ許してやれよ。恭介は耐えてきたんだ。ずっとな……」
百回ループして、やっと両思いになったのは、"前"のベルの死期が迫った時だ。ベルは妬いていて、比較もしているが全然デートらしいこともしていない。なんなら今の方が愛し合っている時間は長いといえる。
「ウチのベルっちを奪ったっスから寂しいっス……。あにゃにゃにゃ! キョウ兄がベルっちをなでなでしてるっス!」
――僕がいるのに、七海は心からベルが好きだ。
こいつはきっと選べない。
僕もベルも好きで、恭介は兄貴のような存在で大切なんだ。
「撫でるくらいさせてやれよ」
「ダメっス。このいやらしー手を退けるっス」
「やめろやめろ、記憶域に干渉したらどうするんだ!」
「そーっした! サーセン!」
「ウチの大好きなベルっち……無事に帰って来てっスよ」
七海は祈るように、そっとベルの前髪に触れた。
――恭介とベルは恋人になったが、七海と僕は一体なんなんだろうな。
「なあ」
「なんスか?」
「……後で甘えても良いか」
「後でなんてもったいないこと言ってないで! ほらほら、美少女の太ももを貸してあげるっスよ?」
僕は小さい体に身を預けると、七海はおちょくることもなく黙っていた。普段はおちゃらけてるが、僕のことは手に取るように理解されている。
しばらくして、七海が「ベルっちにやきもちおもちっスか?」と痛いことを突く。
そうだ、と白状すると、後でいーことしてあげるっスから、今は良い子にしてて下さいっスと囁かれた。
本当はこうしていられない。総理と琥太郎氏にヒアリングしなければならない。任務放棄は絶対に駄目だ。
僕は起き上がってお礼の代わりに七海の頬を撫でる。「にゃふふーん♪」とまた猫になって喜ぶ。
全く……コイツは可愛すぎる。
「お前のお陰で頑張れるよ。"後で"楽しみにしてるからな。それから……総理と琥太郎さんを呼んできてくれるか?」
「えー! ユヅパイセンが呼んで下さいっスよ」
「お前は人を笑顔にする力がある。愛らしいレディが迎えてくれた方が二人ともホッとするだろ」
七海はわかりやすく「にゃにゃにゃっ」と言って真っ赤になった。何回褒めてもこの反応をするから、褒めるのをやめられない。
「はいっス! 愛らしいレディ行ってくるっス!」
七海――僕と結婚してくれって言ったら、きっと困らせてしまうよな……。
僕は、七海を僕だけのものにしたい。
七海のベルへの感情は否定したくないのに、僕だけ見てほしい。僕だけを好きになってほしい。
この恐ろしい獣のような感情はずっと僕の中に居て、鎖で縛っている。
この鎖は――弱ってきていてもう限界に近い。
愛って厄介だな……。
***
「ドアが均等にならんでいるな。レナさんは真面目な性格なのかもしれない……ベル?」
私が震えているのに気づいて、キョウは「大丈夫」と言ってまた背中をさすってくれた。
「全部白だし、結構威圧感あるよな。最初の記憶域がこのデザインなら怖くて当たり前だ」
――それに、とキョウが続ける。
「人の記憶って残酷なものや、ショックなものも多い。闘病していたレナさんなら、きっと俺たちも心が揺れるだろう。だから、読み手は二人一組が原則なんだ。俺が守るから安心してくれ」
それとも俺は頼りないか? と顔を覗き込まれた。
私を笑わせようとしてくれてる。いたずらっ子の顔だ。
「頼もしいよ」
「ベルに頼もしいって言われると強くなれる」
「あははっ頼もしい頼もしい」
「あんまり言うと嘘っぽいぞ?」
「嘘じゃないよ、行こ。ドア、開けて見ていくの?」
「そうだ。まずこのドアを開けてみようか」
二人でドアノブを握って開けると、病室の光景がそこにあった。レナさんの視点で、お父さんとお母さんらしき人を見てる。
「レナ、お誕生日おめでとう。ほら、お友達よ」
「くま欲しがってただろう? 名前つけてみたらどうだ?」
「くまちゃん……! かわいい! ありがとうパパ、ママ!」
ぎゅっと抱きしめたのは、チョコさんだった。
「なまえ、チョコにする」
「チョコ? かわいいわね! どうしてチョコにするの?」
「レナはチョコがすきだから、すきなものなまえにするの!」
「レナは良い子ね」
「たくさん話しかけてあげるんだぞ! パパ達がいなくても、チョコが一緒にいてくれるからな!」
「うん! ありがとう! ずっとたいせつにする」
ドアは、パタン……と閉まった。
「レナさん喜んでたな」
「幸せそうだったね。この時からずっと一緒だったんだ……」
「今回は幸せな記憶だったが、次はどうかわからない。覚悟してくれ……」
「ちゃんと受け止めて、ちゃんと"本"を書くから見守っててね」
おや? 私も何か忘れてるような……。
「ねえ、キョウ……まだ言ってないことあったの。すぐだから、聞いて?」
キョウはこーゆー時、待っててくれる。それが嬉しい。私の心を受け止めようとしてくれる姿勢が、私を安心させてくれる。
「この指輪、"前"の私と今の私にくれてありがとう!」
あれれ、びっくりさせちゃったみたいで固まっちゃった。
「キョウー? おーいっ」
「ど……どういたしまして」
片方の手で口元を隠しながら言ってたけど、照れてるのがバレバレ。
「ちゃんと新しいの買うから……待っててくれ」
キョウ、ごめんね。感謝を伝えたかってだけなのに、また困らせちゃった……。
「ううん、今のがいいよ」
「でも、ベルはどうしても"前"のベルのことを気にしてしまう……よな? 俺がベルの立場だったら同じ気持ちになると思う」
そこまで考えてくれてたんだ。私、押し付けてばかりだった……。反省しなきゃ。
――今度は私がキョウの幸せをたくさん考える番だ。
「ユヅさんが後でちゃんと話し合えって言ってくれたでしょ? その時にいっぱい話そう。私のことたくさんたくさん考えてくれてありがとう」
「考えるより悩むに近い。俺が勝手に悩んでいるだけだ」
「恭介くんたら頑固なんだから。あ、次の扉! 行こっ」
私は記憶を読むぞー! と意気込んでドアノブに手をかける。
「ベル、待て――」
そこは、消灯後の真っ暗な病室だった。
掻き毟る音と嗚咽が聞こえた。
「うっうっ……。しにたい……しにたい……どうしたらしねるの? チョコ……てんごくにつれてって……」
手首を爪で引っ掻いていた。真っ赤に腫れ上がっていて、血が出ている。刃物の類がないなら、武器は自分の体しかないと考えたんだろう。
チョコさんは返事をしない。いや、できない。
ぶちっと嫌な音がする。点滴を外したんだ……。
血と、点滴の薬液が床に滴る。
レナさんはナースコールで看護師さんを呼んだ。
「レナちゃんどうしたの? 寝れないかな?」
「うるさい! ころして、ころしてよっ ころして!」
レナさんは点滴スタンドを倒して、枕やブランケット、時計を看護師さんに投げつけた。
「レナちゃん! 今先生来てくれるから! 大丈夫だから待っててね」
看護師が慌てて出ていくと、医師と他に四名看護師が急いで来て、レナさんの体を抑制帯というもので固定した。点滴を抜いたり、自分を傷つけたりしないようにするものだ。
「いやだっやだっ! チョコ! たすけて!」
「レナちゃん……怖い思いさせてごめんね。一回体を休ませてあげようね」
医師はまだ抵抗するレナさんの腕をさらに押さえて「チクッとするよ、ごめんね」と言って注射を打つ。
「いたいっいたい……どうせなら、ころす……くすりうって……」
私たちは空間から無理矢理追い出された。すぐに何かに包まれる。
「ベルの記憶じゃない! 目を覚ませ! レナさんの記憶だ!」
キョウが抱きしめてくれたんだ……。
「……キョウ?」
頬が濡れてる。私、泣いちゃったんだ。レナさんが辛い思いしたのに、私じゃなくて辛いのは、苦しいのは、レナさんなのに――。
「ああ、俺だ。ベルは強いな……。よく耐えた」
キョウはさらにぎゅっとしてくれた。あれ、キョウ、自分で気づいてないの……?
「キョウ、キョウも苦しかったんだね」
え? とキョウが驚く。キョウも泣いていた。
一旦離して? と言ったら、腕をだらんとして離してくれた。ハンカチで涙を拭って、今度はキョウの脇の下に腕を差し込んで私が抱きしめる。
「すまない……俺がベルを支えないといけないのにな。"本"の書き手の精神的支柱の役割失格だ」
キョウもゆっくり背中に腕を回してくれる。
「何言ってるの? すぐ助けてくれたじゃん! 許可なくドア開けちゃったし……」
そう言ってもずっと俯いて、自分を責めてた。
「泣きながら一緒に進もう?」
「いや、俺は……」
「ばかっ!」
私は背伸びをして、涙だらけの目元に唇をちょんっとつけて離した。
「私にも頼ってよ! 私も力になるよ! キョウ一人でいつも背負って、守ってばかりなのは、それは違うよ!」
だから一緒に行こう。と言って、キョウに思い切り、力強く、痛いくらい抱きつく。
キョウは惚けていて、頬に触れてから破顔した。
「ベル。ありがとう。俺のこと助けてくれて」
「私もありがとう。一緒に乗り越えて、レナさんの記憶と向き合っていこうね」
小さい頃から死を望むなんて――私なら耐えられない。
この先、どんな記憶が待っているんだろう……。
つらいお話で書いていてつらかったです……。
たくさんの人に幸せが訪れますように。
お星様にて応援頂けますと嬉しいです!




