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私たちは、あなたの輝かしい過去を一冊の本にし、夢を通してお見せします。  作者: 夢歌環めちあ


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16話 くまのぬいぐるみ

★主な登場人物★


・ベル (本名 ???)

現代人。鈍感な本の書き手/164cm

・来栖恭介

未来人。爽やかな医者/177cm

・百目鬼弓月

未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm

・七彩七海

未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm

・服部半蔵

過去人。???/172cm

 森はめちゃくちゃ謝った後、「オペの準備とか誰にも見れないようにするとか全くできてないんだよー! ごめんなさい! 今からしてくる! あと、恭介両思いおめでとう!」とダッシュで去っていったので、私たちは病院の個室でキョウとうさぎ仮面の医療班の人に治療してもらってた。


 私が時間を巻き戻せたのは、ナナに攻撃が集中する前の時点だったから怪我してるし、それぞれ能力を使ってたから疲れてるしで、もう大変!


 これから、記憶を読んで"本"を書くベルには一度回復してもらわないといけない、とキョウのドクターストップで休ませてもらってる。


 というわけでみんなお休み中です。


「それにしても、全勝だったウチが死んじゃうなんてびっくりっスよ〜」


ナナがそう言った時はぎょっとしたけれど、きっと、ナナに大切な人がいて、心が強くなったからショックを受けなくなったんだと思う。


「七海……なんで覚えてるんだ」


「? 何言ってるんスか、覚えてるっスよ。ウチってば超カッコよかったっスよね!?」


 ナナは褒めてくださいっスー! と言ってぴょんぴょん跳ねてたので点滴スタンドをがらがらしながら持って行って、唖然としていたユヅさんを押し退けてナナにいいこいいこする。キョウに「ベルこら動くな!」って注意されたけど、今の優先順位はナナなんだもん。


「ねえ、ユヅさんっ! ナナは体だけじゃなくて心も強いじゃないですか」


 所々包帯を巻いているナナをいっぱいなでなでしながら私が言うと、キョウが「そうだな」となでなでに加わった。なでなで祭りだーっ! ナナは「ふっふーん♪」と大喜び。


 ほら、先輩も! とキョウが手を引っ張る。


 ユヅさんは「お前らどけ」と私とキョウを圧で散らして――ナナをそっと抱き上げ、たかいたかいをしてあげた。


「ひゃっふーっ!」


 ナナはさらに大喜びで、降りた後もぴょんぴょんとユヅさんの背中に乗っかったりして、キョウに「降りろ! 調子に乗るなって……全く。また後で褒めてもらえ! ナナ! 動くなっ! 拘束するぞ!」と医師としてマジでお説教してた。


 私も怒られないように、点滴スタンドをがらがらと動かしてベッドに戻った。


 闇山たちは、私たちに謝ったりお礼を言ったりして駆けつけようとしたけど、ユヅさんが「僕達は任務がありますから、全て聞けなくてすみません。気持ちは受け取ります」と大人の対応をしてくれた。


 彼らは壊してしまった椅子やカウンターなどの修繕や代わりのものを用意している最中だ。これから、人生の全部を使って償っていくと言っていた。未来人と現代人が混ざってたみたいで、未来人は未来の警察による刑罰が執行されるとのこと。


 うさぎ仮面たちの中には、私が時を戻しても間に合わなかった人もいた……。

 それは闇山側も例外じゃなくて、死者がゼロとはいかなかったことがとても苦しい。葬儀は回りきれないので、せめてできることをしようということになり、落ち着いた頃を見計らって天国にいるうさぎ仮面たちのところへ手を合わせに行く予定だ。


 それに、生きていても――私がステッキで引き出したその人の「輝かしい記憶」は、嬉しいと思う人が多数だけど、逆撫でして襲ってくる人も少数いた。


 飛び出したナナとユヅさんが私たちを守ってくれた。さらに、うさぎ仮面と闇山が協力して抑えて、戦闘は免れたけれど、『能力は都合の良いもの』じゃないもんね……。人それぞれ色んな記憶があって、それぞれの考えがあるんだ……。


 総理は院内を見た時、「ワシのせいじゃ……」と泣き崩れてしまったみたい。うさぎ仮面のご遺族への支援と、病院の早期修繕の協力を買って出てくれた。闇山サイドには、山神をとっつかまえてヤツに責任を取らせると涙を流しながら憤っていたという。


 未来の医療技術で元気になった私は、キョウが「俺は後でだ」と頑なに言って放置していたけど、ユヅ先輩がすぐにうさぎ仮面の医療班の人に来てもらって、爆速で治療してくれた。

 電話で早送り申請をしたみたい。未来人すごい……!


 総理と琥太郎氏はメディアと政界の人になんやかんやしてきたらしくて、合流した時にはぐったりしていた。あれだけ院内で騒ぎがあったから、テレビでどんな報道をされてるかわからないし、SNSで拡散もされているだろうなぁ……。


 私の知らないところでも、たくさんのことがあって、まだ終わってないのが心残りだけど、本当の目的はレナさんに夢を見せること!

 気になること、手を差し伸べたいことはたっくさんあるけれど、優先順位を守らないと!


***


 ようやく森……じゃなくて森さん案内の元、レナさんのいる集中治療室へついた。


 レナさんは十二歳だけど、より幼く見えた。お人形さんみたいに丁寧に切り揃えられた髪。陶器のようなお肌。目を瞑っているけど、まつげが長くて、かわいい女の子なんだろうなっていうのがすぐわかった。


「……レナ、じいじが来たぞ」

「レナ、ただいま。じいじはどうでもいいからこの青の薔薇を見てくれ。とても綺麗なんだ」


 琥太郎氏は容赦ないけど、レナさんを笑わせるためなんだろうな……。んん? もしかしてあのコントってレナさんのために始めて、日常でもこうなったのかな。


 レナさんは答えなかった。意識不明ではないってさっき森さんから聞いたけど呼吸器をつけてるし、今、苦しいのかもしれない……。


 レナさんの近くには、くたっとして毛玉がついてるくまのぬいぐるみが側に座ってた。年月を感じさせるってことは、ずっと一緒なんだろうね。


「あの、総理……私たちも話しかけていいですか?」


「もちろんじゃ」


 病室には、総理、琥太郎氏、私、キョウ、とナナ、ユヅさん、森さんがいる。VIPルームなんだけど、これだけ人が集まったら狭く感じる。

 本来なら患者さんの負担になるし、レナさんは大人じゃないから、プレッシャーになることは避けるんだけど……今回ばかりはしょうがない。


 私はキョウうさをベルトから外して、話し始めた。


「レナさん、はじめまして、私はベルです。こっちはうさぎのキョウうさちゃんです。いっぱい人が来てごめんなさい。私のキョウうさちゃんと、レナさんのくまさんと友達になってほしいんです。……いい、ですか?」


 レナさんの瞼がゆっくり開く。


 総理が「レナっ」と声を上げる。


 呼吸器を自ら外して、私を睨みながら「……ガキ、扱いすんな……チョコに触ったら、殺……す。出て、け……」と言ったと思う。多分。


 ん? 脳が追いつかない。も、も、ものすごく毒舌だ……! でもすごい美少女!


 琥太郎氏は「レナ。驚かせてすまないが看護師さんから聞いてるだろう? お客様なんだ」


「……うざ。死にたい……って、言ってんじゃん……」


 ナナは口を覆って、ユヅさんはガタっと一歩下がった。キョウは予想していたのか微動だにしない。


「つかれた……ねる」


 レナさんは呼吸器を外したままにしていたので、森さんが付け直した。


 直した呼吸器を外さないってことは、本当は死にたくないんだよね……? それとも、外すのもままならないくらい疲れさせちゃったのかな……。


「レナさんに鍵穴手術と記憶を読むことの諸々の合意をして欲しかったんだがな……困ったな、記憶が読めないとどうにもならない」


 キョウは残念そうに呟くと、レナさんは呼吸器をさっと外して右を向く。え! 動くの早っ!


「お兄ちゃんが、手術する……の?」


 キョウはレナさんに目線を合わせて屈む。さっきよりも微笑んで見せた。


「そうです。俺が執刀医で記憶の読み手の来栖恭介です」


 レナさんは嘘のように笑顔になった。


「かっこいい……お兄ちゃんだからゆるす……」

「え、えっと、レナさん、手術をしたり、あなたの記憶を読んでも本当に大丈夫ですか?」

「いい。許可す、る……。イケメン……正義、だから」

「ほ、褒めてくれてありがとうございます」


 やっぱりキョウってかっこいいよね! わかるー! でも褒められて嬉しそうなのはなんっかこう……モヤっとする!


 顔に出しちゃってたみたいで、キョウが機嫌を取るようにそっと指ハートをしてくれた。あ〜〜〜好きっ! 


「急に合意が取れたっスね」ナナがぽかんとする。

「サインが難しいと聞いていたから、録音していて正解だったな」


 出来すぎているユヅさんに驚く。すごい。


「こっちのお兄さんは……? お、医者さ……ん?」


 今度は、レナさんの左にいるユヅさんをじろりと見て声をかけた。


 キョウよりも背が高いユヅさんはしゃがんで紹介する。


「僕は百目鬼弓月です。簡単に言うと、この三人のリーダーです。最初に話した人と、かっこいいお医者さんは、レナさんの記憶を読みます。僕の横にいるピンクの人は七彩七海です。僕と一緒にレナさん達を守る役割を担当しています」


「じゃあ、お兄さんも手術中に……い、てくれ……る……」


「そうです。側で貴女をお守りします」


「おてて……握っててくれる?」


 猫になったナナは目で「ダメ」と訴えてる。


「その……手を握ったままだとレナさんを守れません」

「じゃあ、だめ」

「わかりました……ずっと握ってます」

「なら、いい……。サインも、書く」


 総理はそのやりとりをみて顔を真っ赤にする。

「けしからんぞ青年達よ! レナをたぶらかしおって!」

「レナは面食いですから致し方ないでしょう……全く誰に似たのやら。あんたのッあんたの遺伝子が悪いんだ! 皆様すみません……。」


 院内だから声は抑えてるけど、琥太郎氏がマジで激おこなのが何回見ても良い。これでしか得られない栄養がある気がする……!


 レナさんはゆっくり、震えながらもひらがなで電子サインを書いて下さった。頑張ってくれてありがとうございます。


 でも、ナナは妬いちゃってほっぺが膨らんでヤキモチのお餅が出来てた。怒っててもかーわいっ。


 森さんが「ではオペ室に移動になりますー。レナさん大丈夫ですかー?」と再確認すると、「チョコ……一緒に、連れてって……」とお願いした。


 やっぱり、このくまさんが大事なんだ。


「手術室に行くから透明のビニールを着てもらうけど良いですかー?」


「チョコ……苦しくない……?」

「苦しくないですよー。かっこいいお兄さんに着せてもらうから大丈夫ですからねー」


 森さんはキョウに視線を送った。「チョコさんが苦しくないように、一生懸命、丁寧にビニールを着て頂きます」とすかさず言うと、「なら、いい……」と返ってきた。


 ぬいぐるみってかけがえのない存在だもんね……。私も、キョウうさだけじゃなくて、大切なぬいぐるみの家族がいるからわかる。


 安心しきっていたら、「う……」とレナさんが穏やかだった顔を歪めた。


 森さんが急いでおでこをとんとんとん……と叩いた。目の色が茶色になる。――能力だ! 

 速やかに聴診器を当てる。


「レナさん頑張りましたねー。休んでて下さいねー」


 森さんはすぐメモを取り出して殴り書きした。「急変の可能性有り。すぐにオペ室へ」とぐちゃぐちゃの字がそこにあった。急変したことをレナさんに悟られないようにするためだ。みんな無言で頷く。


 ユヅさんは約束通り手を握ってあげていて、空いた方の手でナナの背中を叩く。ナナは一瞬、声もなく「!」と喜んでから、背筋が伸びて警備のプロの目になった。


 看護師さんがささっと手術衣にレナさんを着替えるお手伝いをして、キョウに「これをチョコちゃん、えっとくまさんに着せて下さい」「後ほど滅菌したビニールを渡しますので包んであげて下さい」と指示を受けて、「失礼します」とぬいぐるみのチョコさんにそっと着せてあげた。


 なんと、チョコさん専用のガウンがあった。滅菌とかはされてないけど、何度も手術を受けていて、その度にチョコさんも付き添っていたから誰かが用意したんだろうなあ。


 ――その優しさに私は温かくなる。


 総理と琥太郎氏は手術室前で待つことになる。でもユヅさんは手を繋ぐ約束をしてるし、ナナがまた中心になって警備をするから、二人は室内に入る。

 そういえば、服部さんは調査があるみたいで今は外しているみたい。大丈夫かな?


 そして移動する。ナナの他にうさぎ仮面もついてきてくれた。ナースステーションを通ったら「何!?」「総理の言ってたアレ? やばーい」という歓声が上がった。


 確かにうさぎ仮面が前に二人ら後ろに三人は多い! やばーいですけど念のためなので許して下さい!


 総理たちと手術室前で一旦お別れするときに、「最善を尽くします」とキョウが誓った。手術を終えてから、また病室に戻り記憶を読むことになっている。大切な手術室を独占するわけにいかないからね。


 そういえば、とふと思った。森さんはキョウに逆らっていて、用意も何もしてなかったはずだ。


「オペ室ってたまたま空いてたんですか?」

 気になる気になる。森さんに訊いちゃった。

「いいや、お腹が空いたって食べちゃった人がいたんですよー。偶々です。恭介の上司は見越してたんでしょうねー」


 手術前は飲むことと食べることは絶対駄目なの。色々な理由があるけど、とっても危険だから嘘をついちゃだめ。森さんが確認をしたら、幸か不幸かレナさんは昨日から飲むのも食べるのも拒んでいたみたい。


「はい。上は恐らく予測していたんでしょう。ベルの覚醒も、レナさんの同意も、自死に向いたくて……絶飲食していることも。オペ室が空くことも全て。あり得ない計算能力ですよ」


 あれ、そういえば私、ついてきちゃったけど良かったのかな……?


「ベル、未来の技術を使いながらの手術になる。現代の人に見られると大変なことになるから、手伝ってもらっていいか? 本当は休ませてあげたいんだが……」


 あまり負担はかけない、とキョウが頼んでくれる。私は嬉しくなって「任せて」と言った。看護師さんの代わりをするね。と快く引き受ける。


 黙ってるより全然良いし、キョウのお手伝いができるなら喜んで引き受けますとも!


 ナナはガウンを着るのに手間取ってたけど、ユヅさんは一発で着れた。無菌を保つためには、こうした手順を守って着ないと、菌を連れてきてしまうことがある。三度目の正直でようやく手順通り着れたナナは「着れたっス!」と胸を張ってた。


 ナナー! 何着てもかわいいーっ!


 ナナが褒めて褒めてと跳ねるけど、接触しちゃだめだからあとでね、と諭す。はいっス……としょぼぼんとしてた。幻覚だけど垂れた猫耳が見える。うう〜〜ネコナナを撫でてあげたいよう。


 そして――高城レナさんの手術が始まった。


 くまのチョコさんが、心なしか心配そうな目をしていたので、「大丈夫ですよ」と声をかけてあげた。

 


お星様にて応援頂けますと嬉しいです!

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