15話 目覚め ※残酷な描写を含みます
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。???/172cm
投げられた空っぽのナナを、ユヅさんが抱き止める。見開かれていた目に手を当てて、ナナの目を瞑らせた。そのまま、抱きしめる。
「弾除けって言ったじゃないっスか。非効率っスよ!」
呆気に取られてると『ナナ』はユヅさんのスーツのポケットからサブマシンガンを取り上げて院内を駆け抜けていく。銃を二丁持ってどんどん敵の命を的確に狙って奪っていく。
相手は声すら上げられないほどに無惨に散る。
だけど、森が執拗に『ナナ』を狙って撃ち続けて――『ナナ』は飛んで敵を蹴り飛ばす寸前で……落ちた。全身を重力で引っ張られて、派手な音が響く。
長い綺麗な、ピンク色のツインテールが、鮮やかな赤色と共に床に広がる。
「よしっ当たった! 当たった! 次は書き手だ」
また目の前に『ナナ』が現れた。
「記憶データの同期は後にしてやっちまうッスね! 七彩七海、未来から参上っス!」
同じセリフ、だ……。
「くそっ! くそっ! 書き手を早く殺して恭介に見せびらかしたいのにあの女の邪魔が入りやがる!」
ナナ……いなくならないで。
私のせいでごめんね。
このままじゃ、みんな死んじゃう……。
「ベル――見なくていい。必ず生きて帰ろう」
キョウが撃たれながら、私をかばって背中側を敵に向けてずっと抱きしめてくれてる。
すまない、と頭を撫でてからユヅさんが……ナナの体を、キョウの背中に預けた。
「ユヅさん! ナナなんだよ、弾除けにするなんて、そんなこと――」
「生きる為だ! "本"の書き手を守る為ならなんでもするのが僕達だ!」
「ベル、ユヅ先輩の言う通りだ。なりふり構ってる場合じゃない。これで助からなかったら、ナナも報われなくなってしまう」
「やだよ……やだ……」
私、ユヅさんが辛いのにひどいこと言った。
私、何もできないのが嫌だ。
また未来から『ナナ』が来た。あのセリフを笑顔で私たちに言ってくれる。
そして、また敵を倒していく……。
こんな残酷なこと、繰り返して良いわけない。
――私は『ベル』! みんなを守るんだから!
そう、思った時、
ポケットの中の万年筆が光った。
取り出すと、憧れの魔法少女が使っていたステッキに変わった。すごく長くて、クライマックスとかに出てくるバージョンのやつ。
でも、ちょっと違う。先端はハートだけど、時計になっていた。
「べる……? 能力、か……?」
「た、多分……?」
「駄目だ! 危ないから恭介の中にいろ!」
「やだ、やだ!」
もう無力なのは嫌なの!
「私だって、私だってみんなのこと、守りたい!」
大声で、みっともなく願いを叫んだ。叶わないけれど、でも、守りたいんだもん。
「ねえ! 魔法のステッキなら私に力を与えるくらいしてよっ!」
やり場のない悔しさを叫んだら――
ステッキから「カチッ」と音がした。
その音を皮切りに、周りが静かになる。
銃声が無くなってるし何も聞こえない。
「キョウ、ねえ、どうなってるの……?」
あれっ? キョウが固まってる。どうして?
「キョウ、どうしたの? キョウっ!」
よく見ると、ユヅさんも、みんな固まってる。
――どうなってるの?
私が混乱して、キョウうさを撫でていると、ステッキから、『私』と同じ声が聞こえてきた。
「時間が止まってるんだよ」
しん、とした中だから、小さい声でも響く。
「私はベル。そうだなあ、"前"のベルって言ったら私、わかるかな?」
嘘。"前"の私――?
あまりのショックでどうかしてしまったのかな、それとも天国に来ちゃったのかな、ってパニックになって、またキョウうさに触れた。
キョウが話してくれないし、失われた『ナナ』は血を流して倒れてて、銃弾は宙に空いていて、ここ、怖いよ……。
水の音がした。どこからだろうと思ったら、私は泣いてた。
「落ち着いて。お願いがあるの。もう誰も死なせたくないから、この戦いを止めてほしいの」
「わかんないよ、どうすればいいの……」
「そのステッキ、丈夫で良さそうじゃん? 試しに殴ってみたら良いと思うよ」
「そんな、物理攻撃的な……」
「泣いてる場合じゃないのっ! 時間が止まってるけど、闇山はいっぱいいるんだから! で、今はあなたが『ベル』なんだから走って! でもって殴って思い出させて! 能力ってそんなに都合がいいものじゃないんだからっ!」
"前"の私が半透明の姿でいきなり現れて――告げた。
「私は恭介が大好き。ねえ、今の私。一緒の気持ち、だよね? だから、ずっと、ずっと恭介を守ってね? しょうがないから譲ってあげる。ばいばい」
待ってって言おうとしたけど間に合わなかった。
すると、指輪が二つ落ちてきた。
あれっ? これ……病院に着く前に見た夢と同じキョウとお揃いの指輪だ。
でも、今はキョウのことを思ってる場合じゃない! 指輪は大事にハンカチに包んで、ポケットに入れた。
"前"の私が言ってたけど、ステッキで殴るの?
いやいやいやいや。なんかこう、光ったりビーム的なのが出てきて、それで改心させたりするんじゃないの?
またわかんないことが出てきたけど、『能力は都合がいいものじゃない』って言ってたし、とりあえず二階に上がって一人ずつやっていきますか……。
『やろう、頑張ろう』って思ったらステッキが光った。多分…正解なんだよね。
私は涙を引っ込ませて、階段を上がっていく。
片っ端から『闇山』の構成員をステッキでごん! ごん! と叩いていった。
ナナがあんなに酷い思いさせられたのに、私は殴るのさえ抵抗があった。
――十人目。
もう疲れてきた……。
――二十人目。
足も腕もつらいし重い。一回叩く度に、体が重くなる。多分、能力の対価だ。疲れが襲ってくる。
五十人目からは数えてない。あと、佐山と、森と、ええと……。ああ、限界だ……。足がもう動かないよ……。
もう既に命が失われている佐山も、ステッキで軽く叩いた。
「子どもになってナナを騙して……自分が大切な人がされて嫌なこと、しないでよ……」
最後に森をステッキで「えいっ」と叩く。
この人には手加減しない。
「キョウのこと恨んでる暇があったら、自分を磨いて彼女作ればいいじゃん! ダイエットから始めなよ! 恋人が欲しいなら頑張ればいいのに! キョウは……キョウはあんたと違って自分より他人を優先する人なの。優しくて、尊重してくれて、わがままを受け止めてくれるの。だからっ私はキョウを好きになったの! それを恨むことなんて、しないでよっ」
時間が止まってることをいいことに、言いたいことを言ってく。どうせ誰も聞いてないんだからっ!
すると、「ごめん、言い忘れてた」と"前"の私が現れた。「推しって言って逃げないで。恭介が向き合ってくれてるのに誤魔化さないの! 馬鹿っ! 指輪、大切にしてよね。恭介が買ってくれたんだから!」と叱咤して今度こそ去ってしまった。
「うん、大切にする。ありがと。ちゃんと、向き合うからね」
"前"のベルは寂しそうにしてた。だって、自分はもう亡くなってて、今生きてる私に大好きな人を託すんだもん……。相手が自分でも、そんなの悔しいよね。
――でも、"前"の私はキョウを縛ったりしないで、私に思い出の指輪までくれた。
……ありがとう。ごめんね。これから先、あなたの好きな人を、私は奪ってしまいます。
全員叩き終わって、することがなくなった。
疲れているのに、脳内にいっぱい悲しいことが流れてくる。
本当に、これでいいのかな?
本当に、戦いは終わるのかな?
誰も傷つかないで、争いはやめられるのかな?
どうすればいいの……。
私は不安になって、固まってるキョウにかけよって、弾除けにさせてしまったナナの体ごと抱きしめた。
思い出す。忘れられないナナの最期の姿。
小さい体でめいっぱい手を広げて、一つでも銃撃を防ぐために、力一杯立っていてくれた、優しくて、強いナナ。
「もうっどうしたらいいの!? ナナが死んじゃう前に戻して! この戦いを終わらせてよ! 何も……何も起こらないじゃん! お願いっナナが死んじゃう前に戻って……戻ってよ!!」
ヤケクソになって叫んだら、ステッキの中の時計が回って、周りが動き出した。
私はキョウの中にいて、ナナを見てた。
「後は任せたっスよ」とユヅさんを自らの後ろに投げ飛ばして――「はにゃにゃ?」とナナが言った。
「七海ーッ!……あ?」
「ベル、おかえり。よく頑張ったな」
「キョウ、キョウっっ! ナナ、 ユヅさん!!」
「みんな見てたよ」キョウが泣きそうな顔で笑って、頭を撫でてくれた。ステッキはいつのまにか万年筆になって、ポケットの中に入ってた。
「うそ」
すごく独り言言ってたし、叩いてたし、アレを見られちゃったの……? ああっ『忘却防止装置』つけてるからだー!
「いっぱい歩いてステッキで叩いているのを見てた。えらかったな……。もう戦いは終わりだ」
敵はみんな泣いていた。どういうことなの?
「母ちゃん……ごめんな……」
「あの時のこと、なんで忘れてたの……?」
「ベルはすごいな。能力は時間に干渉する力で、元々その人の記憶を引き出す"引き手"でもあったんだ」
え、どゆこと?
森は茫然として、「手術の後、あの子にありがとうって言ってもらえたのに……私は何故忘れてたんだ……」と手を床に打ちつけながら膝をついている。
「ねえ、キョウ、ごめんなさいなんだけど、わかんない……」
そりゃそうだよな、ってまた笑う。
「"前"のベルが俺のところにも来て、能力のことを教えてくれたんだ。元々"引き手"ではあったらしいんだが、その力があっても使うための媒体がなかったらしい。そこで奇跡的に能力に目覚めて、媒体になるステッキが出てきて時間を止めたり動かしたりできるようになったんたそうだ」
ほら、ソフトがあってもゲーム機がないと使えないだろ、と補足してくれて、ふむふむと思った。うーん、まだ微妙。
ナナをおんぶしたユヅさんが来て、要するに、とさらに説明してくれる。
「ベルは元々、"書き手"、"読み手"、"引き手"というゲームソフトを持っていたんだよ。スイッチというゲーム機対応の"書き手"と"読み手"の能力は使える。でも、"引き手"というソフトはスイッチに対応してなかった。だから能力を使えなかったんだが……奇跡的に時間を止めるというゲームソフトと共に、"引き手"というソフトが起動できるゲーム機が降ってきた。それがさっきのステッキにあたる。これで、どうだ?」
「あっそっか……ソフトがあってもゲームはできない。能力は使えない、ってことなんだ」
「ベルっちすごいっスよ〜! "引き手"ってその人の忘れてた大切な記憶を思い出させるんスよ! 魔法少女っスね〜!」
あのナナが生きてる。ユヅさんからぴょんと離れて、私を抱きしめてくれていっぱい頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれた。「やっぱうちのベルっちは最高っス!」抱きしめたいけど、腕ごとぎゅってしてくれてるから抱き返せない! ナナ、大好きだよ! ありがとう! 泣いてるから言えない……。
「そんなことより、全部見てた僕達としては、ベルが恭介に言うことがあると思うんだが……」
ナナが涙を拭ってくれて、にこーっと笑って私を解放して背中を押した。キョウと視線が交わる。
ううっ全部見られてたってことはそうだよね、言わなきゃ…言わなきゃ……!
私は、ハンカチに包んだ指輪を取り出す。
キョウに向かい合うように背筋を伸ばして、少し見上げると、いつものように笑いかけてくれた。
「きょ、キョウっ」
「うん」
心臓が内側から叩いてくる! うわ、過去一番強いバクバクだ……。
「あの……ね、私、キョウが好きです」
私は、"前"の私が託してくれた指輪をハンカチごと渡した。キョウはそっと指輪だけ取り出した。
「俺も、ベルが好きです。左手を出してくれますか?」
折角ナナが拭いてくれたのに、ぽろぽろって次から次に涙が出てくる。でも、俯いたら、向こう側からも雫が落ちてきてた。
左手を出すと、指輪をはめてくれた。
私は右手を出す。言わなくてもわかってくれて、キョウも泣きながら、でも微笑んでゆっくり左手を出した。
お互いに泣いて震えてるから、簡単なのに、上手くできない。でもキョウが私の指の上から手を添えてくれて――なんとかこんとか、薬指に指輪をはめれた。
見守ってくれてたナナがうずうずして、我慢できないとばかりに「うちも大好きっス〜!」と私とキョウを抱きしめた。力が強い!
「こら、七海!」とユヅさんが叱るけど、ユヅさんも引っ張って四人でぎゅむぎゅむになって泣きながら体を寄せ合った。
その光景を見てた服部さんは大泣きだったそうで、なんとなく何かあったと察した琥太郎氏は微笑み、総理は「なんじゃ? みんな泣いておるのう」って脳天気に言ってたみたい。
魔法少女みたいな展開が来ました。
『ナナ』のシーンはショックでしたね……。
私もずっと心を痛めています。
その分幸せになってほしいと願ってます!
お星様にて応援頂けますと嬉しいです!




