13話 男達の時間
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。純粋な心の忍者。護衛/172cm
***
ベルが寝てからはユヅ先輩と俺の二人きりになった。まあ、横にベルはいるし、ナナも左前にいるんだが、男同士だと話しやすい。
「気を遣わせてるよな、恭介。眠っていいんだぞ?」
申し訳なさそうに言ってくれるのはいつものことでも、その気配りはありがたい。どんなに親しくなってもユヅ先輩は変わらないまま俺を大事にしてくれてる。
「いや、いいんです。どうせ舞い上がってて寝れそうに無いですから」
俺は二人が眠っているのを確認してから、防音イヤーマフをそっとつけた。
ベルに触れたいが我慢しておく。
ポニーテールの結んでいる部分が邪魔をして、どうしても横に顔が傾くのだが――今は俺の方を向いて寝ている。偶然でも、ベルの意思でも、心が躍る。ったく俺ってこんなに単純だったのかと思い知る。
「だよな、あの後じゃ寝れないよな」
ユヅ先輩はくすくす笑う。ナナもベルも寝てるから普段より隙だらけで、素が出てて話しやすい。俺達は腹を割って話せる仲とはいえ、一応女性陣には気を遣わないわけにはいかないし俺と先輩にしかできない話もたくさんある。
ふと、伝えてなかった重要事項を思い出した。
俺は驚かせようとして前置きをせずにストレートに言うことにした。
「そういえば、ベルが能力に目覚めたんですよ」
「何っ! おい、せめて停まっている時に言ってくれ……」
驚くものの声は抑えてるのが俺と違って先輩の完璧なところだ。
「まだ何の能力がわからないんですけどね。あ、始まりましたよ、テレビ中継」
運転中だからユヅ先輩には見せられない。代わりに読むとするか。
「『総理の別邸から大量の車! 何が起こっているのか』だそうです。例の用意してた声明を出すと思います」
「僕も他の状況は把握しているが、メディアの情報まで拾えない。恭介がいて良かったよ……。総理のことも気になるが、同じくらいベルの能力のことが気になるな」
ユヅ先輩は無線で飛んでくる情報をひっきりなしに聞いている。必要があれば指示を出すし大変だ。俺も加わりたいが指示する者が二人いると混乱するから却下された。ならばできることをするまでだ。
「ベルのことはずっと気になりますけど……今は警戒しないといけないんで。目の前のことをしますよ」
俺はまたライフルのスコープを覗き込む。後部座席は外から見えない仕様だが、どんな能力の未来人がいるかわからないからな。全部見えるやつがいたら不都合だ。全く。この時代は人気だな。
ベルが起きている時は出さなかった。口にしなかったが不安そうにしていたのはわかる。何度も、何度も、長い時間『ベル』を見てきた。誤魔化してるのも知ってるんだからな、ベル。できる限り守ってやりたいから、ライフルも見せられなかった。
「真面目すぎるんだ、お前は。読み手のお前がこれから苦労するんだから、起きてても気は抜いとけ。ったく。言いたくないが――命令だ。ライフルを置け。スコープを覗くな。テレビ局のヘリが僕達の車を映しているのは敵に都合が悪いから手を出さないだろ?」
俺達の頭上にはヘリが飛んでいた。目論見通り、総理の声明が呼び寄せたんだろう。総理の車も同時に映し出されていた。
撮影中に俺達を攻撃しようものなら、警察はもちろん、メディアが特定しようとする。そして、山神という政治家がトップの組織『闇山』ならば、すぐにバレるような真似は危ないからできないだろうな。
――危ないのはメディアも入れない病院内、か。
「念には念を入れたいんですけどね……。総理の声明出てますよ。早いですね。SNSで大騒ぎですよ」
仲間とはいえリーダー命令とあらば従うしかない。スマホで情報収集しつつ、たまにベルの寝顔を見て安心する。
総理の声明は、内容は聞いていたが改めてこうして読むと重みがあるし力強い。
長々書いているから、核となる文章を改めて読んでみた。
【親族及び自らの命に暗殺の可能性が示唆されたことから、自費で警備を雇っている。うさぎの仮面をつけた者達は、集中治療室にいる孫を激励すべく、病院の協力の下で多数のゲストを招いた】
うさぎ仮面についてもこのように上手く理由付けたのである。
この作戦には『闇山』も想定外だろう。琥太郎さんではなく総理の発想らしい。
俺達もこのストレートさに舌を巻いたくらいだ。
「お陰様でベルを守りやすくなった」
「これ以上七海を戦わせずに済むといいんだがな」
やっぱりユヅ先輩はナナに弱い。俺がベルに弱いように。
俺は恋愛初心者だし、恥を捨てて訊いてみるか。二人が聞いてないしな。
「『詫び』に何するんです?」
「訊くなよ……。はあ。しょうがないな」
先輩は一呼吸置いてから話し始めた。
「七海のおねだり次第だな。こいつには力でも負けるし、精神的にも負けてしまう。多分額に口付けさせられると思うんだが……」
「ご愁傷様です。でもご褒美じゃないですか」
「お前なぁ。立場逆にして考えてみろ」
待てよ? ベルに「ねえキョウ、おでこにキスしてほしいな」なんて言われたら宇宙の彼方まで吹っ飛んでしまいそうだ。
「……うわ! やべぇ!」
「お。想像したな? ヤバいだろ?」
「はい……かなり」
それだけで体が熱を帯びる。想像なんてするな馬鹿!
俺達の心を読んだかのように、信号が赤に変わる。緩やかで繊細なユヅさんのブレーキはゆりかごより静かで、二人はすやすやと寝息を立てている。
先輩はナナにかけているブランケットを直してお腹の辺りに触れた。
俺もベルのブランケットを直す。髪だけ少し触れようかと思ったがやめておいた。正規の恋人になったわけではない。調子には乗らない。
もうこの際なんでも聞いてしまえと俺は先輩に訊く。
「そういえばいつナナに告白したんです?」
「おいおい、質問多いな」
「なかなか機会無いですから」
ユヅさんが重いため息をついてから、「仕方ないな」と言って、一呼吸、また一呼吸置いてから、ゆっくり話し始めた。
「"前"のベルが亡くなった後――命を落とし損ねたと泣いている七海を見た時だな。百回、ベルの死に立ち合って……その度に自ら急所で一発。ベルが一人にならないようにと先に天国に行っちまう」
俺は黙って耳を傾けた。
あの時のことを、こうして話してくれるのははじめてだった。
「前回は銃を落としてて、傷も無かったから安心したよ。その時に――勝手に、僕の為に死ぬなって口走ってたんだ。それが告白になってしまったな……。七海は猫のくせにわんわん縋りついて泣き始めてこうなった、ってところだ」
俺はゴトン、という音を聞いて、ナナがまた先回りしてベルを待っていたのかと思った。二人が生きていた時にはホッとして、二人が泣いているところに飛び込んで、生きていることを確かめて泣いたんだ。
「巻き戻せるとはいえ、かなりの痛みを味わったことは記憶に焼き付けられたままだ……死は最も遠ざけたいです。二人が生きてて良かったですよ」
「暗くしちまってすまんな」
ユヅ先輩の心の傷を抉ってしまった。だが、話して軽くなったようにも見える。どいつもこいつも抱えすぎなんだよ。ま、人のことは言えないけどな。
「いえ俺の方こそ……。そうだ、ベルの能力当てません?」
「いいな。僕はもう予想がついてるんだ」
「俺もです。せーので言いましょうか」
俺がせーの、と合図した。
「「時間移動」」
お互いに笑う。付き合いの長さは伊達じゃないらしい。
「現代人が手に入れたら最強ですね」
「そうだな。本当に時間移動を手に入れていたら、結婚しても時に未来と現代を行き来できて良いじゃないか」
「そりゃいいですね。式も二回出来ます――ってまだベルの気持ちも能力も確定したわけじゃないですから!」
ユヅさんが静かに、と人差し指を立てたのを見て、やべ、と二人を見ると天使のような寝顔があった。
俺を推してくれてるベル、かわいすぎる。
それにしても、とユヅ先輩は話し始めた。
「恭介の先輩の医師がレナさんの病院に勤めていたのが幸いだったな」
「はい。でも、出来すぎてませんか?」
「未来人と未来人は惹かれ合うと言うからな。ちなみに苗字は?」
『闇山』は必ず苗字に山がついていた。もし組織にいるのなら、先輩にもついているはずだ。
「『森』です。でも疑って行動します。『森』ってなんというか、山の要素あるじゃないですか」
「確かに山系統ではあるが……山が苗字についているわけじゃないな。でも、石橋は叩いて渡るとするか。演技が下手な二人には黙っておいたほうが妥当だろうな?」
ベルは不安になり、ナナは猫になって警戒するだろう。容易に想像できた。緊張もしそうだな。
「賛成です。ナナもベルも警戒と緊張をして手と足を一緒に出す光景が浮かびます……。何かあったら俺達で処理しましょう。万が一何があってもナナは即動けますし問題ないですね」
こうして俺は打ち合わせと恋愛相談をできた。
――隠してごめんな、ベル。何もないことを祈ってる。
俺は、君が生きていればそれでいいんだ。
触れようとして、やめる。その代わり、俺はベルが言うところの『ベルうさ』を白衣のポケットから取り出した。
こいつが『キョウうさ』の脈拍や体温を拾ってくれてる。
ベルの鼓動を感じて、安心した。
――ベルが、生きてる。
***
「ベル? 起きれるか?」
んー? なんだろう。すごくたくさん夢を見たような気がする。
悲しい夢は、川の向こうにナナが髪を下ろしてて、白のワンピースを着て、「ベルっち、先に待ってたっス!」って泣き笑いして手を広げてるの。私は濡れるのも構わずに三つの川を走っていってナナをぎゅって抱きしめるのに、ナナのばかっ! って怒っちゃってた。なんでナナを怒るの⁈ ひどいひどい私! とても悲しいけど幸せだった気がする。不思議な夢だったなぁ。
嬉しい夢は、キョウとお揃いの指輪をする夢。いつか、できたらいいな……。
「あと五分……」
頭が重い。眠い。だるい。ブランケットが離してくれない。無理ぃ。
「なあ、お試しの付き合いでも額にキスするくらいならしてもいいのか?」
その言葉でがばっと起きた。
「キョウっばかあっ! したの? したの?」
「本当に俺、信用ないな……」
「しても良いけど次回予告してっ」
私は白衣の襟元をぐっと握ってキョウを怒った。
もうっ! 調子乗らないのー! ……実はちょっと嬉しいんだけどね。
スーツ組に呆れてツッコミを入れられた。
「予告したらいいのか……」
「予告したら良いって言ってるっス」
「う、うるさいっ! さあ、レナさんのところに会いに行くぞ! ……とその前に病院の協力者の俺の先輩に挨拶してからじゃないと会えないんだがな」
ユヅさんがうさぎの仮面を指差す。
「さあ、ベル、仮面をつけてくれ、うさぎ仮面と総理達と一斉に病院に入るぞ」
「守るっスからね、ベルっち!」
ピースをしてナナが笑う。
あっ口元にチョコついてる! 拭いてあげたら「またチョコを口につけておくっス!」って言われちゃって、可愛くてどうしようかと思った。
ナナ……恐ろしい子! 全人類惚れてまうやろ!
「ベル、行こうか、まずは読み手の仕事、一緒に頑張ろうな」キョウが国宝級の笑みを見せてくれた。
うっっわ! かっこいい!
恭介くん、歯磨き粉のコマーシャルできるよ!
私はうさぎの仮面をつけると、キョウがエスコートしてくれた。病院へ歩き出す。
他にもうさぎ仮面がいっぱいいた!
ナナとユヅさんはちょっと遅れたみたいで、走って来た。
ナナったら瞬足! コーナー無くても差をつけれる! 駆けつけてくれて、後ろから私を抱きしめて「はにゃぁ〜ベルっちぃ」と嬉しそうにしてた。
なあに? どうしたの? って訊いたらナナの口を手で塞いでなんでもないってユヅさんが答えた。
ナナは、ベルが亡くなったときや亡くなりそうな時に自らの意思で天国に行きます。ベルを迎えたり、ベルを追いかけて抱きしめてます。ベルが一人にならないようにするためです。
ナナはベルが大好きで、ベルもナナが大好きです。




