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『配信を切り忘れた俺を、世界は英雄だと勘違いした』  作者: 黒宮 シズク


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3/4

第三話 投げ銭してきたのは、人間じゃなかった


『もっと見せて』


 文字化けしたスーパーチャットが、画面上に張り付いていた。


 ¥50,000。


 人生で見たこともない金額。


 だが今は、それどころじゃない。


「っ――!」


 横薙ぎ。


 《ノーフェイス》の腕が空気を裂く。


 俺は反射的に後ろへ飛んだ。


 轟音。


 コンクリート壁が爆散する。


『避けた!?』

『今の反応おかしいだろ』

『探索者協会の上位勢でも無理だぞ』

『コイツ何者!?』


「俺が知りたいわ!」


 叫びながら走る。


 肺が焼ける。


 なのに身体は妙に軽かった。


【視聴者数:81,442】


【身体能力補正:中】


 数字が増えるたび、力が流れ込んでくる。


 筋肉。


 反射。


 感覚。


 全部が強化されていく。


 まるでゲームだった。


 ただし、失敗したら現実で死ぬ。


「クソッ!」


 通路を曲がる。


 瞬間。


 壁。


「――は?」


 行き止まり。


 いや違う。


 さっきまでこんな場所なかった。


 コンクリート壁の中央に、“扉”がある。


 黒い鉄扉。


 その表面に、無数の指跡が残っていた。


『なんだあれ』

『地下七区画に扉なんかないぞ』

『やめろ』

『入るな』

『それ見ちゃダメなやつ』


 背後から、足音。


 ぐちゃ。


 ぐちゃ。


 ゆっくり。


 確実に近づいてくる。


 《ノーフェイス》だ。


 逃げ場はない。


【推奨行動を表示します】


 青いラインが、扉へ伸びる。


「……入れって?」


 嫌な予感しかしない。


 だが他に選択肢もなかった。


 ドンッ!!


 背後の壁が吹き飛ぶ。


 瓦礫の中から、《ノーフェイス》が這い出してくる。


 顔のない頭部。


 裂けたスーツ。


 異常に長い腕。


 そして。


 “顔がないはずなのに”、確かに笑っていた。


『ぎゃあああああ』

『無理無理無理』

『逃げろ!!』

『レン!!!!』


 コメント欄が悲鳴で埋まる。


 その時だった。


 再び、スーパーチャット通知。


【¥100,000】


 送り主:【観測者】


『開けろ』


「……っ!」


 誰だ。


 なんなんだよこれ。


 けれど。


 何故か分かった。


 この配信には、人間以外もいる。


 視聴している。


 俺を。


 ドクン。


 心臓が嫌な脈を打つ。


 《ノーフェイス》が腕を振り上げた。


 俺は扉に飛びつく。


 ガチャ。


 開いた。


 その瞬間。


 地下通路の空気が変わった。


 暗い。


 深い。


 音が吸われる。


 扉の向こうには、巨大な空間が広がっていた。


 そして中央。


 無数のモニター。


 ブラウン管。


 液晶。


 壊れたスマホ。


 古いテレビ。


 全部の画面に、“俺の配信”が映っている。


「…………は?」


 その中心に。


 誰かが座っていた。


 黒いパーカー。


 フードを深く被った人影。


 そいつは無数の画面に囲まれながら、こちらを見る。


 そして。


 ゆっくり、笑った。


「配信、楽しい?」


 後ろで扉が閉まった。


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