第三話 投げ銭してきたのは、人間じゃなかった
『もっと見せて』
文字化けしたスーパーチャットが、画面上に張り付いていた。
¥50,000。
人生で見たこともない金額。
だが今は、それどころじゃない。
「っ――!」
横薙ぎ。
《ノーフェイス》の腕が空気を裂く。
俺は反射的に後ろへ飛んだ。
轟音。
コンクリート壁が爆散する。
『避けた!?』
『今の反応おかしいだろ』
『探索者協会の上位勢でも無理だぞ』
『コイツ何者!?』
「俺が知りたいわ!」
叫びながら走る。
肺が焼ける。
なのに身体は妙に軽かった。
【視聴者数:81,442】
【身体能力補正:中】
数字が増えるたび、力が流れ込んでくる。
筋肉。
反射。
感覚。
全部が強化されていく。
まるでゲームだった。
ただし、失敗したら現実で死ぬ。
「クソッ!」
通路を曲がる。
瞬間。
壁。
「――は?」
行き止まり。
いや違う。
さっきまでこんな場所なかった。
コンクリート壁の中央に、“扉”がある。
黒い鉄扉。
その表面に、無数の指跡が残っていた。
『なんだあれ』
『地下七区画に扉なんかないぞ』
『やめろ』
『入るな』
『それ見ちゃダメなやつ』
背後から、足音。
ぐちゃ。
ぐちゃ。
ゆっくり。
確実に近づいてくる。
《ノーフェイス》だ。
逃げ場はない。
【推奨行動を表示します】
青いラインが、扉へ伸びる。
「……入れって?」
嫌な予感しかしない。
だが他に選択肢もなかった。
ドンッ!!
背後の壁が吹き飛ぶ。
瓦礫の中から、《ノーフェイス》が這い出してくる。
顔のない頭部。
裂けたスーツ。
異常に長い腕。
そして。
“顔がないはずなのに”、確かに笑っていた。
『ぎゃあああああ』
『無理無理無理』
『逃げろ!!』
『レン!!!!』
コメント欄が悲鳴で埋まる。
その時だった。
再び、スーパーチャット通知。
【¥100,000】
送り主:【観測者】
『開けろ』
「……っ!」
誰だ。
なんなんだよこれ。
けれど。
何故か分かった。
この配信には、人間以外もいる。
視聴している。
俺を。
ドクン。
心臓が嫌な脈を打つ。
《ノーフェイス》が腕を振り上げた。
俺は扉に飛びつく。
ガチャ。
開いた。
その瞬間。
地下通路の空気が変わった。
暗い。
深い。
音が吸われる。
扉の向こうには、巨大な空間が広がっていた。
そして中央。
無数のモニター。
ブラウン管。
液晶。
壊れたスマホ。
古いテレビ。
全部の画面に、“俺の配信”が映っている。
「…………は?」
その中心に。
誰かが座っていた。
黒いパーカー。
フードを深く被った人影。
そいつは無数の画面に囲まれながら、こちらを見る。
そして。
ゆっくり、笑った。
「配信、楽しい?」
後ろで扉が閉まった。




