第二話 初配信、同接二万人
【現在視聴者数:18,441】
青白いウィンドウが、暗闇の中に浮かんでいた。
「…………は?」
理解が追いつかない。
頭の中に直接表示されているみたいだった。
地下通路の奥では、スーツ姿の男がじっとこちらを見ている。
顔が認識できない。
視線を向けるだけで吐き気がした。
『何だこれ』
『配信バグ?』
『映像止まってね?』
『音死んでる』
『おい後ろ後ろ後ろ』
コメント欄だけが動いている。
いや。
違う。
コメント欄“だけ”が正常だ。
周囲の時間が、少しズレている。
【ユニークスキル《配信者》を起動します】
【観測による情報補正を開始】
【恐怖感情をエネルギーへ変換します】
「……誰だよ、お前」
返事はない。
代わりに、男の輪郭が揺らいだ。
ノイズみたいに。
存在そのものがバグっている。
そして。
コメント欄に、一行だけ赤文字が流れた。
『見るな』
空気が凍る。
「……っ」
本能的に視線を逸らした。
瞬間。
頭痛が消える。
今の、ヤバかった。
直視していたら、多分まずかった。
『え?』
『赤コメ誰?』
『運営?』
『今の何』
『怖』
男が一歩、前に出る。
その瞬間。
スマホの同時接続数が跳ね上がった。
【22,103】
【31,884】
【47,991】
「はぁ!?」
意味が分からない。
なんで増えてる。
どこから来た。
SNSか? 切り抜きか?
ありえない速度で数字が増殖していく。
すると再び、脳内音声。
【視聴者数が規定値を超えました】
【スキル《演出強化》を取得】
【身体能力補正:小】
ドクン、と。
心臓が熱を持った。
全身の血流が変わる。
視界が鮮明になる。
「……え?」
軽い。
身体が異様に軽かった。
同時に理解する。
視聴者数が増えるほど、俺が強化されてる。
『おい動け!!』
『来るぞ!!』
『逃げろ!!』
男が消えた。
次の瞬間。
真横。
「――ッ!!」
反射的にしゃがむ。
轟音。
背後の壁が抉り飛んだ。
コンクリートが紙みたいに裂ける。
「は、はは……」
笑うしかない。
当たってたら死んでた。
いや、掠っただけでもミンチだ。
男の腕が、異様に長く伸びている。
人間じゃない。
怪異。
しかも今までのとは格が違う。
【対象を認識】
【危険度判定:S級災害指定個体】
【名称:《ノーフェイス》】
『ノーフェイス!?』
『嘘だろ』
『関西圏に出たの!?』
『配信切れ!!』
『おい協会通報!!』
コメント欄がパニックになる。
その中で。
なぜか俺だけ、冷静だった。
いや、違う。
“分かる”。
どこへ動けば避けられるか。
どうすれば生き残れるか。
視界の端に、青い線が見える。
最適行動。
ゲームのナビみたいに。
「……逃げ切れる」
呟いた瞬間。
《ノーフェイス》が笑った。
顔がないのに、笑ったのが分かった。
ぞわり、と総毛立つ。
直後。
地下通路の照明が、一斉に点滅した。
赤。
黒。
赤。
黒。
そしてスマホ画面に、知らない通知が表示される。
【あなたへのスーパーチャット ¥50,000】
送り主:
【■■■■】
読めない。
文字化けしている。
だがメッセージだけは見えた。
『もっと見せて』




