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『配信を切り忘れた俺を、世界は英雄だと勘違いした』  作者: 黒宮 シズク


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第一話 底辺配信者と視聴者十二人

配信を切り忘れたその瞬間、人生がバズり始めた。


「はいどうも、レンです。本日も誰も来てません」


 コメント欄、無反応。


 同時接続、十二人。


 そのうち三人は、多分俺自身のサブ端末だ。


「今日は大阪第七地下区画に来てます。例の“封鎖エリア”ですね」


 スマホを向ける。


 画面の向こうに広がるのは、崩落した地下鉄跡だった。


 錆びた線路。

 割れた広告パネル。

 赤黒く変色した壁。


 三年前。


 大阪中心部で発生した《ダンジョン陥没》。


 地下空間そのものが異界化し、数千人が消えた。


 以来、この地下区画には怪異が出る。


 ……という設定で、今は都市伝説配信者たちの肝試しスポットになっていた。


『また危ない場所行ってる』

『収益化剥がされるぞ』

『今日も過疎で草』


「うるさいな」


 苦笑しながら進む。


 本当は危険なんてほぼない。


 怪異が出るのはもっと深層。

 ここはせいぜい低級がうろつく程度だ。


 探索者協会も「自己責任なら放置」で済ませている。


 だから俺みたいな底辺でも潜れる。


「……ま、今日こそバズりたいですね」


 本音だった。


 二十二歳。


 フリーター。


 配信収益、月六千円。


 親には就職しろと言われ、元カノには「夢見すぎ」と言われて振られた。


 それでもやめられなかった。


 探索者になれなかった俺でも、“こっち側”にいたかったから。


 カツ、カツ、と。


 地下通路に足音が響く。


『なんか音しない?』

『後ろ』


「え?」


 振り返る。


 誰もいない。


「やめろよ、そういうの」


 少しだけ背筋が冷える。


 その時だった。


 ――カサ。


 天井から音がした。


 見上げる。


 白い。


 女の顔。


「……っ!?」


 天井に、人の上半身が張りついていた。


 長い髪。

 白すぎる肌。

 首から下は巨大な蜘蛛。


 女が、にたりと笑う。


『うわああああ!?』

『本物!?』

『レイヤー怪異だ!!』

『逃げろ!!』


 頭が真っ白になる。


 なんでここにいる。


 こんなの、中層以降の怪異だろ。


 女が落ちてくる。


 咄嗟に、近くの鉄パイプを掴んだ。


「う、おおおおっ!!」


 振る。


 偶然だった。


 本当に偶然。


 鉄パイプの先端が、怪異の口内へ突き刺さる。


 ――ぐしゃ。


 嫌な感触。


 女の顔が弾け飛んだ。


 静寂。


 コメント欄だけが高速で流れている。


『え?』

『倒した?』

『今の一撃?』

『は????』

『嘘だろ』


「……は?」


 怪異の身体が崩れ落ちる。


 黒い粒子になって消えていった。


 俺も呆然と立ち尽くす。


「いや……いやいやいや」


 勝てる相手じゃない。


 本来なら、最低でもC級探索者案件。


 なのに。


『お前探索者だろ』

『隠してた?』

『協会所属?』

『初見です』

『登録しました』


「違う! 今のマジで偶然――」


 その瞬間。


 配信画面が、ノイズ混じりに揺れた。


 ブツッ。


 音が切れる。


 コメント欄が停止する。


「……え?」


 地下通路の奥。


 暗闇の中に、“誰か”が立っていた。


 スーツ姿の男。


 顔が見えない。


 いや。


 見えているのに、認識できない。


 視界が拒絶する。


 本能が警鐘を鳴らした。


 さっきの怪異なんか比較にならない。


 ヤバい。


 あれはダメだ。


 男が、ゆっくり首を傾ける。


「見つけた」


 瞬間。


 世界から音が消えた。


 そして俺の脳内に、無機質な声が響く。


【観測者権限を確認】

【適合率98.2%】

【ユニークスキル《配信者》をインストールします】


「……は?」


【現在視聴者数:18,441】


 数字が、一気に跳ね上がっていた。


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