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『配信を切り忘れた俺を、世界は英雄だと勘違いした』  作者: 黒宮 シズク


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第四話 コメント欄に、人間じゃない奴がいる


 後ろで、重い音を立てて扉が閉まった。


 ――ガン。


 完全に。


 逃げ道は消えた。


「……っ」


 息を呑む。


 薄暗い空間。


 天井から無数のコードが垂れ下がり、古いモニターたちが青白く点滅している。


 ブラウン管。

 液晶テレビ。

 ノートPC。

 壊れたスマホ。


 全部の画面に映っているのは――俺。


 今この瞬間の配信。


『なにここ』

『怖すぎる』

『バックルームか?』

『演出じゃないよな……?』

『同接やば』


 視聴者数はさらに増えていた。


【124,903】


 六桁。


 頭がおかしくなりそうだった。


 数時間前まで、同接十二人だったのに。


 空間中央。


 椅子に座った黒パーカーの人物が、こちらを見ている。


 顔は見えない。


 フードの奥が、真っ黒だった。


「配信、楽しい?」


 声だけは妙に若い。


 男にも女にも聞こえる。


「……誰だよ、お前」


「視聴者」


 即答。


 意味が分からない。


「いや、そういうことじゃ――」


「君、才能あるよ」


 黒パーカーが笑う。


 パチ、と。


 周囲のモニターが一斉に切り替わった。


 映像が変わる。


 知らない配信。


 知らない場所。


 知らない人間。


 だが全部、共通していた。


 全員、死ぬ直前だった。


『え?』

『何映ってんの』

『これまずくない?』

『おい』

『消せ』


 画面の中で。


 ある配信者が泣き叫んでいた。


『たすけて、誰か――』


 次の瞬間。


 配信者の身体が、“何か”に潰された。


 画面が血で染まる。


 ノイズ。


 別のモニター。


 女子高生が夜道を配信している。


 コメント欄には、


> 『うしろ』


 の連投。


 少女が振り返る。


 そこで映像が終わった。


「……なんだ、これ」


「失敗作たち」


 黒パーカーが呟く。


「観測に耐えられなかった人間」


 寒気が走る。


 観測。


 またその言葉だ。


「君は違う。だから“選ばれた”」


「意味分かんねぇよ……」


 すると。


 黒パーカーがゆっくり立ち上がった。


 ギギギ、と。


 まるで関節が壊れているみたいな動き。


 近づいてくる。


 俺は反射的に身構えた。


 だが。


 そいつは攻撃してこなかった。


 代わりに俺のスマホを指差す。


「コメント欄、ちゃんと見て」


「……?」


 視線を落とす。


 流れ続けるコメント。


 その中に。


 明らかにおかしなものが混ざっていた。


『こんばんは』


『みつけた』


『■■■■■■』


『レンくん』


『あけて』


『こっちみて』


『まだ生きてる?』


『次はどこへ行くの?』


 背筋が凍る。


 なんだこれ。


 さっきまで普通だった。


 なのに。


 今は“人間のコメント”が少ない。


『かわいい』


『会いたい』


『骨、何本ある?』


『中に入れて』


『見えてるよ』


「……っ!」


 思わずスマホを落としかける。


 その瞬間。


 コメント欄が、一斉に止まった。


 静止。


 そして。


 たった一行だけ表示される。


『見つかった』


 ゾワッ、と。


 空間全体の温度が落ちた。


 黒パーカーが、楽しそうに笑う。


「来るよ」


「……何が」


 答えは、すぐに分かった。


 天井裏から。


 何百人もの“足音”が聞こえ始めた。


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