5.1日目: 人間であることに失敗した
「本編」
異世界の草原にて
柔らかな風が、見知らぬ大地を静かに撫でていた。
その大地には濃い魔力が満ちている。
二つの影が、広い平原の真ん中に立っていた。
ザラビスは、無表情のまま周囲を見渡す。
「油断するな、ミジャルン。」
「りょーかい!兄上!」
ザラビスは腕を組み、小さく呟いた。
「この異世界……悪くない。」
ミジャルンも辺りを観察する。空気は濃い魔力で重い。
「すごい……魔力が濃いよ。まるで世界そのものが息してるみたい。」
「そうだな。生命と魔力が共存している世界だ。」
ミジャルンは明るく笑う。
「じゃあ——きっと楽しいね!」
ザラビスは短く、
「……あぁ。」
その「一音」だけで、ミジャルンは吹き出しそうになる。
兄は無に近い存在だが、頑張って「普通」に寄せているのが分かるからだ。
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森での遭遇
二人は森を進み、そこで一人のエルフが倒れているのを見つける。
「兄上!見て見て!耳が長いよ!ほら、エルフだよ!」
ザラビスは無表情のまま考えた。
(……喜ぶべきか?……よし、やってみろ、ザラビス。)
そして、ぎこちない演技で叫んだ。
「おおお!? これがエルフ種族か!? か、かっこいい……!」
ミジャルンは腹を抱えて笑った。
「兄上、それ顔が死んでるよ!!」
ザラビスは膝をつき、涙の真似をしながら呟く。
「……普通って……どうやってやるんだ……?」
「任せて!弟の俺が教えるよ!兄上は何でもできるんだから、笑顔ぐらい余裕でしょ!」
「……あぁ。」
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洞窟での休息
倒れたエルフをザラビスは枕のように軽々と抱え、洞窟を見つけて休むことにした。
「……人間の寝姿って、こうか……?」
ミジャルンは悪戯っぽく言った。
「兄上、エルフさんと一緒に寝れば? あったかいよ?」
「そうか。なら、友好関係が築けるかもしれない。」
(真面目に受け取るんだ……)
深夜。
エルフは目を覚まし、自分がザラビスに抱かれていることに気づき、慌てて弓を取る。
だが、穏やかな寝顔を見て、手が止まった。
(……この人、敵じゃない……)
彼女は少し距離を取り、そっと眠りに戻った。
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翌朝の気まずさ
夜明け。
エルフは立ち去ろうとしていたが、ザラビスが無音で背後に立つ。
反射的に放たれた矢は、触れた瞬間に粉になって消えた。
「ま、待って!!誤解しないで!私たちはあなたを助けただけ!」
ミジャルンが慌てて説明する。
エルフは赤面しながら頭を下げる。
「……ごめんなさい。あなた達は兄弟なの?」
ザラビスはミジャルンへ小声で問う。
「……兄弟とは何だ?」
「家族って意味だよ、兄上。」
「理解した。私は兄だ。」
エルフは優しく微笑んだ。
「私はアエレル・アシア。アシアでいいわ。」
「……俺はレイジ。」
ザラビスがそう名乗ると、ミジャルンも続いた。
「僕はミジャルン!よろしくね!」
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魔王の話
「どうして森で倒れていたの?」とミジャルンが尋ねると、
アシアは静かに答えた。
「……魔王と戦っていたの。私たちの国は、彼に勝てなかった。」
ザラビスは目を細める。
「魔王、か。面白い。」
「兄上!その表情は友達か喧嘩か決めかねてる時の顔!」
ザラビスはくすくす笑う。
「強者は孤独だ。なら、話してみるのも悪くない。」
アシアはその笑いに、何故か温かさを感じた。
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ムシャフ王国へ
「よければ……ムシャフ王国へ来ない? 美しい場所よ。」
「行こう、兄上!!」
「……あぁ。」
三人は歩き出す。
しかしその様子を、遠くの水晶塔から黒衣の2人が見下ろしていた。
「感じたか、ヘイモン。」
「あぁ。あの魔力は……この世界のものではない。」
「魔王ヴォウに報告する。異界の者が現れた。」
彼らの名は、フクロンとヘイモン。
世界の均衡を見守る二人の将。
今、無の領域から来た兄妹——ザラビスとミジャルンを注視していた。
ザラビスは瞬き一つで次元を破壊できるかもしれないが、彼はまだ笑顔の作り方を学んでいる最中だ。
だから、もしあなたが疲れを感じたら、どんなに強い存在でさえ、かつては「良い人間」になる方法に戸惑っていたことを思い出してほしい。
旅を楽しんでください。あなたが踏み出す小さな一歩一歩が、人生で最も素晴らしい章を書き始めるかもしれないのですから。




