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虚無王ザラビスは退屈している  作者: 釘宮・連
ザラビスの起源に関する注釈
3/101

第3話:警備員が動き始めたら

【番外編】


ニリオン多元宇宙——

そこには、何かが違っていた。


戦はない。

脅威もない。


だが……

その均衡そのものが、どこか空虚に感じられる。

まるで——

本来あるべきものが、

すっかり消え失せてしまったかのように。


第六の門。

虚無の中に浮かぶ岩の上に、一人の番人がくつろいだ様子で腰を下ろしていた。


ヴェルドラ。


彼はだるそうに体を伸ばす。


「……三百年、か?」


彼は遥か彼方を眺める。

そこには何もない。


「まじで……誰一人として攻めて来ようとしないのか?」


沈黙。

答えは返ってこない。


彼は大きくため息をつく。


「退屈だな……」


他の番人たちも規則通りに巡回を続けている。

整然と。

静かに。

感情一つ見せずに。


誰も気づいていない。

彼らの主が——

もうニリオンにはいないことを。


ヴェルドラが立ち上がる。

彼は少しだけ目を細めた。


「……まあ、このままじゃ……」


手を上げる。


「俺、出かけるわ」


小さな笑みが浮かぶ。


「ちょっと休暇を取る。外には何か面白いことがあるかもしれないしな」


一歩踏み出す。

そして瞬く間に——

彼の姿は第六の門から消えた。


——


幾重にも重なる門の狭間。

彼は一人の女性と行き会った。


黒い髪、静かな悪魔の気配を漂わせる女——

ニメロス。


「ヴェルドラ?」


彼女が彼の方を向く。


「どこへ行くつもりだ?」


ヴェルドラは気楽そうに手を振る。


「ちょっと散歩に。退屈だったから」


「あっ、待て——」


ニメロスが引き留めようと声を上げる。


「もし戻る時は、忘れずに——」


「大丈夫だって!」


ヴェルドラは笑い声を上げる。


「みんなにお土産、買って帰るからよ!」


彼は青い光の軌跡を残し、飛び去っていく。


ニメロスはため息をつくしかなかった。


「……何も起きなければいいのだが……」


——


ニリオンの外。

そこの世界の理は、いつもとはまるで違っていた。


より荒々しく。

より手強く。

より……生き生きとしている。


ヴェルドラは足を止める。

見慣れぬ多元宇宙の彼方を眺めた。


「ふむ……」


彼は口元を上げる。


「こりゃあ、面白くなりそうだ」


だが——

彼がさらに奥へ進もうとしたその時——

二人の存在が現れ、彼の行く手を遮った。


「外来存在を感知」


冷たく、感情のない声。


「貴様はこの世界の理に属さぬ者」


ヴェルドラは眉を上げる。


「え? 落ち着けって、お兄さん」


彼は両手を上げて見せる。


「俺はただの観光客で——」


だが、応じたのは攻撃だった。

予告もなしに。


エネルギーの爆発が周囲の空間を揺るがす。


ヴェルドラの姿が消え——

次の瞬間には——

二人の背後に現れていた。


「……ははあ、なるほど」


彼は笑みを浮かべる。


「いきなり手荒な真似をするんだな?」


彼の瞳の色が変わる。

紅に。


周囲の気配も変化した。

重く。

より……危険なものへと。


「わかった、わかった」


彼は首をぐるりと回す。


「……俺も乗ってやるよ」


一撃目——

それだけで空間が震えた。


大きな破壊を引き起こしたわけではない。

だがそれは——

両者の力の差を、はっきりと示すには十分だった。


わずか数秒のうちに——

二人の悪魔は遠くへと弾き飛ばされた。

体には無数の亀裂が走っているが、完全に砕けはしない。


ヴェルドラは動きを止め、彼らを眺める。


「……悪くない腕だな」


再び彼の表情は気楽なものに戻る。


「この世界……思ってたよりも悪くないかもしれない」


彼は背を向ける。

まるで先ほどの戦いなど、取るに足らない出来事だったかのように。


「他の場所も見て回るか」


そして、彼の姿は消えた。


しばらくして——

その場所に複数の存在が集まってきた。


残された僅かな破壊の痕跡と。

傷ついた二人の悪魔の姿を目にして。


「……誰がこんなことを?」


その一人が口を開く。

声は厳粛だ。


傷ついた者たちが、かろうじて答える。


「……見慣れぬ……存在だ……」


「この世界の理には……属さぬ者……」


沈黙が降りる。


彼らの前に立つ者が目を細める。


「……ということは——」


彼は空の彼方を見上げる。


「……外から何かが入り込んだ、ということか」


宇宙の風が吹き抜ける。


そして彼らの中に、初めて——

小さな、だが確かな不安が生まれた。


その頃——

ここから遠く離れた場所。


『地球』と名付けられた小さな星で。


一人の男が、人々の間をゆっくりと歩いていた。


彼自身はまだ知らない——

自分が今、想像を絶する大きな出来事の引き金を引いたことを。


そして彼ら番人たちも——

ゆっくりと……

動き始めていた。

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