12.地獄の階段
【過去編】彼が歩んだ地獄
黒い雨が、地下王国のホムルの地を激しく打ちつけていた。雷鳴は聞こえず、ただ血と灰の匂いだけが残る。下級悪魔たちの家々の瓦礫の中で、二本の角を持つ小さな少女が、埃と火傷にまみれて立っていた。その名は、ヤイ・ホムル。
かつて彼女は、暴君たる貴族たちの支配下で生きる、下級悪魔の使用人家族の娘に過ぎなかった。父は命令に背いたとされ、生きたまま焼かれ、母は魔王ヴァウの力を高めるための生贄にされた。
その日から、ヤイは笑顔を失った。彼女にとって世界は、色も方向もない場所へと変わった……ただ二つのことだけが存在した。生き残るか、過去の灰と共に消えるか。
何年も、彼女は地下の廃墟で生きてきた。影の狩人たちの動きを真似、敵の陣地から食料を盗み、燃え残った書物から魔法を学んだ。
しかし、強くなるほどに、彼女は気づいた……自分の力が決して増えないことに。
吸収したすべてのエネルギーは、見えない何かに吸い取られるように消えていく。そしてついに彼女は知った。魔王ヴァウが、ホムルの血を引く者たちが自分に逆らえないよう、呪いの封印を施していたのだと。
ヤイは何度も逃げようとした。だが、星のない地下の空を見上げるたびに、頭の中に声が響く。
「お前は決して自由になれない、小さなホムルよ。お前は仕えるために生まれたのだ」
その声は夢ではない。ヴァウ自身の声であり、呪いが魂にまで染み付いていることを示していた。
しかしある夜、血の月が黒い空に浮かぶとき、ヤイは自分の手を見つめ、囁いた。
「自由になれないのなら……せめて、やつらが後悔するのを見るまで生き延びてやる」
その時から、彼女は悪魔の闘技場で戦い始めた。生き残るためだけに殺し、忘れられないためだけに生き延びる。勝利は誇りではなく、積み重なる後悔だった。
そして……その夜が来た。
闘技場は炎に包まれ、地下の空は崩れ落ちた。
ヤイは遠くに奇妙な光を見た。炎の光ではなく、外の世界からの光だった。
そして、その光の中に……黒髪の男女が現れた。その瞳には、不気味なほどの静けさしか映っていなかった。
彼こそが、レイジとミジャルンだった。
ヤイにとって、その出会いは運命ではなく、生き続ける理由を与えてくれる、ありえない奇跡だった。
石の階段に足音が小さく響き渡る。壁には泣き叫ぶ悪魔の顔が刻まれ、その通路を通る者を鋭く見つめているかのようだ。
レイジは落ち着いた足取りで先頭を歩き、その瞳は仄暗い青色に輝き、冷たいオーラが全身を包み込む。背後では、ミジャルンが回復魔法の準備をし、ヤイは闇のエネルギーで震える二本の短剣を握りしめていた。
「怯むな」レイジの声は低く、しかし力強い。
「誰が怯むもんか」ミジャルンは薄く笑った。
ヤイは息を吸い込み、「覚悟はできてる」と答えた。
しかし、彼らがさらに足を踏み出そうとした瞬間……
ドーン!
突然、大爆発が階段を揺るがし、血の霧の中から、赤い目を光らせた黒い鎧の兵士たちが現れた。彼らは炎を纏った槍を構えている。
「侵入者だ!」
「魔王ヴァウの玉座を守れ!」
通路はたちまち炎と魔法の閃光で埋め尽くされた!
戦いの火蓋が切られた。
レイジは手を上げ、周囲の空気がガラスのように震え始めた。
「全エーテルパルスモード」
瞬間、周囲の空間が停止したかのように感じられた。青いエネルギーの刃が音もなく空気を切り裂き、三人の兵士を同時に貫いた。
彼らの体は凍りつき……そして光の粒子へと崩れ去った。
ヤイは右側に走り、影のように素早く動く。
壁を蹴り、兵士の上に飛び乗り、赤く輝く二本の短剣を振り回した。
「ダークファング・ワルツ!」
狂ったように回転する攻撃は、兵士たちが反応する間もなく、三人を同時に切り裂いた。黒い血が飛び散り、すでに破壊された石の階段を汚した。
その間、ミジャルンは中央に飛び出した。
「光の結界:セラフィック・ブルーム!」
白い光が輝く花びらのように現れ、彼らに向かってくる炎の矢をすべて反射した。
しかしその時、ヤイは近づいてきた兵士の斬撃を受けた。肩に深い傷が現れる。彼女はよろめいた。
「ヤイ!」ミジャルンは兄を見ながら叫んだ。
レイジは何も言わず、ただ素早く歩み寄り、左手を黒いエネルギーに変え、空気を払った。
「崩壊ドライブ」
ガラスが割れるような音が大きく響き渡る。彼らの前の空間全体が砕け、折り畳まれた。
その範囲内にいた兵士たちは、影も形も残さず消滅した。
ミジャルンはすぐにヤイの元へ駆け寄り、肩を抱き、金色の治癒エネルギーを流し込んだ。
「ヒールフロー:光螺旋!」
光が彼らの周りを渦巻き、ヤイの傷をゆっくりと塞いでいく。
ヤイは息を切らしながらも、微笑んだ。「ありがとう……まだ終わりたくない」
ミジャルンは優しく微笑んだ。「いい心がけだ。戦いは始まったばかりだ」
次の通路へ進むと、壁から無数の魔法の矢が放たれた。
レイジは即座に反応した。彼は空中に小さな次元の裂け目を作り出し、すべての投射物を飲み込み、元の場所へ反射させた。
「俺が撃ち返せないと思ったか?」彼は冷たく言った。
数十人の兵士が同時に倒れた。しかし、魔法の霧の中から、大柄な隊長が現れた。彼の胸にはヴァウ王国の紋章が刻まれた棘付きの鎖が付いている。
「貴様らの首を差し出せ!」彼は叫び、鎖をレイジに向かって振り下ろした。
鎖が地面に叩きつけられ、階段の石が砕け、埃が視界を覆った。
しかし、埃の向こうには、すでにレイジの姿はなかった。
「背後だ」
瞬間、レイジは隊長の背後に現れ、超高速の蹴りを食らわせ、石の壁に叩きつけた。
その間、ミジャルンとヤイは次の兵士の波と協力して戦っていた。
ミジャルンは光の矢を空に放った。
「光の矢:散乱新星!」
ヤイはすぐにその隙を利用し、影の悪魔のように光の奔流の中を滑空した。彼女の短剣が舞う。
兵士たちは次々と、素早く正確な動きで倒れていった。
「もう黙ってられない。私はもう、やつらの召使いじゃない」
「いいぞ、ヤイ」レイジは前を見据えながら言った。「さあ……行くぞ」
一時間近くに及ぶ激しい戦いの後、最後の通路は完全に破壊された。
三つの影が、今や燃え盛り、崩れかけている階段の端に立っていた。中央にレイジ、その隣にヤイとミジャルン。
王国の空が開き、破壊の紫色の光が彼らを照らした。
彼らの前には……濃いオーラと圧倒的な力を持つ三人の悪魔将軍が立っていた。
ミジャルンは深呼吸をした。
ヤイは短剣を握りしめた。
そしてレイジは、静かに、しかし決意に満ちた笑みを浮かべた。
「ここに来たのは、ただの試練じゃない」
「これは、宣戦布告だ」
風が重く吹き、血と硫黄の匂いを運んでくる。
ヴァウ王国の空はひび割れ、彼らの頭上に巨大な紫色の渦を形成していた。
黒い霧の中から三つの影が現れ、石の門の廃墟の上に立った。
フクローン - 濃い赤色の鎧を身につけ、瞳は濃い青色に輝き、血のように赤い光を放つ長剣を持つ。
ハイモン - 大柄な体格で、炎を纏った二つの斧を持ち、熱いオーラが煮えたぎっている。
ガトウ - 長い白髪を持ち、二本の短い剣を持ち、歩くたびに空気に亀裂が入る。
レイジは目を閉じ、静かに呼吸をしたが、周囲の空気は震え始めた。
「まだ生きていたか、フクローン……」
フクローンはニヤリと笑い、その目は鋭い。
「貴様を斬るまでは、死神も俺を迎えに来ないだろう」
レイジ対フクローン
瞬間、二つの影が消えた。
金属がぶつかり合う音が、あらゆる方向から聞こえてくる。あまりにも速すぎて、普通の目では追えない。
カキン!カキン!カキン!
彼らは空中で剣を交え、その速度は音速を超える。
レイジの黒い光がフクローンの赤いオーラと衝突し、周囲の壁や床を破壊するエネルギーの波を生み出した。
レイジは素早く回転し、空中にルーンの紋章を描いた。
「クロノリフト・スラッシュ!」
フクローンの周囲の時間が大幅に遅くなったが、フクローンは笑った。
「俺が昔のままだと思っているのか?」
フクローンは時間そのものに逆らうように、素早く斬りつけた。
彼の剣の波は歪みを突き抜け、レイジの顔をかすめた。
レイジは驚異的な反射神経で避け、空中で回転し、フクローンの胸を強く蹴り上げた。
エネルギーの爆発で、彼らは50メートルも吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられた。
レイジは唇の血を拭い、冷たく言った。
「ならば……最後まで立っていられるのは誰か、見せてもらおうか」
彼らは再び飛び出した。
今度は以前よりも速く、彼らの影は稲妻のように衝突し合う。
レイジは虚無の奔流を放ち、空気を飲み込む黒いエネルギーの波を放った。
フクローンは炎の竜巻を操り、爆発させた!
ドーーーーーン!
上の階段全体が破壊された。石が飛び散り、埃が空を覆った。
煙の中から、レイジはフクローンの真後ろに現れ、背中を真っ直ぐに斬りつけた。
フクローンは防いだが、レイジはすでに彼の動きを読んでいた。
「次元反転」
彼の斬撃は、一瞬にして彼らの位置を逆転させた。
フクローンの血が噴き出した。
しかし、彼はまだ笑っていた。
「いいぞ……さあ、俺の番だ」
フクローンは剣を高く掲げた。
「ヘルストリーム・レイン!」
空が赤く爆発した!無数の炎の剣が雨のように降り注ぐ。
レイジは見上げ、深呼吸をした。
「リミットモード……ゼロコア・リリース」
彼の体から放たれる青い光が、純粋な白へと変わった。
彼は一度だけ斬りつけた。ただ一度だけ。
すべての炎の剣が消滅した。
そして次の瞬間
フクローンは時間の斬撃によって真っ二つにされた。
彼の体は灰となり、最後の言葉を残した。
「貴様はやはり……あの時の怪物か……」
レイジは瓦礫の中に立ち、髪は乱れ、その瞳は優しく輝いていた。
「そして、お前はただの過去だ」
ミジャルンとヤイ対ハイモンとガトウ
その間、他の二人の将軍はミジャルンとヤイと対峙していた。
ハイモンの炎が通路全体を焼き払い、ガトウは稲妻のように素早く動く。
「貴様らはただの子供の遊びだ」ハイモンは嘲笑した。
ミジャルンは魔法の杖を掲げ、その瞳は金色に輝いた。
「私は貴様らを埋葬する子供だ」
ハイモンは斧を力強く振り下ろした!
しかしミジャルンは神聖な結界を出現させ、炎を空に反射させた。
ヤイはすぐに背後から飛び出し、ハイモンの手首を斬りつけた。
「忘れたか、私たちはチームだ」
ハイモンは咆哮し、大きな炎を振り回した。しかしミジャルンはすでに大きな呪文を唱えていた。
「星天爆裂!」
巨大な白い光が空から降り注ぎ、ハイモンの体を貫き、粉々に爆発させた。
灰が飛び散る中、ミジャルンはハイモンの頭を掴み、冷たい目で見た。
「アシア姉様はどこにいる……?」彼女は低く、不気味な声で言った。
頭は黙っていた。
「答えろ!」
ミジャルンの目が輝き、そしてクラック!
彼女は素手でその頭を破壊した。
その間、ヤイはガトウと戦っていた。
二人は影と光のように素早く動く。
カキン!カキン!カキン!
ガトウはヤイを蹴り飛ばしたが、ヤイは短剣を壁に突き刺し、回転して着地した。彼女の息は荒い。
「お前もなかなかやるな、小娘」ガトウはニヤリと笑った。
「私は小娘じゃない。レイジの弟子だ」
ヤイはシャドウパルスモードを発動させた。彼女の体は輝く黒いオーラに包まれている。
彼女は空中を駆け抜け、避け、回転し、最後の瞬間に斬りつけた。
「幻影分裂 - 最終刃!」
三つのヤイの影が同時に現れ、異なる方向から斬りつけた。
ガトウはすべてを防ぎきれなかった。
彼の剣は折れ、胸を貫かれた。
ヤイは彼の背後に立ち、短剣は血に染まっていた。
「虚無の中で眠れ」
ガトウの体は崩れ落ち、風に乗って灰となった。
魔王への道
埃が落ち着き始めた。
三人の悪魔将軍、フクローン、ハイモン、ガトウは跡形もなく消え去った。
玉座への階段は静まり返り、彼らの呼吸音だけが聞こえる。
レイジはゆっくりと歩き、肩はフクローンの攻撃を受けた跡で少し煙っていた。
彼は二人の弟子を静かに見つめた。
「大丈夫か?」
ミジャルンは優しく微笑み、まだ杖を握りしめていた。
「私は大丈夫よ、お兄様」
ヤイは真剣な顔で前を見据えた。
「私も大丈夫……師匠」
レイジは小さく頷いた。
彼らの前の空気が震え始めた。
階段の上の大きな扉の向こうから、重い声が聞こえてくる。
「ついに……ここまで来たか」
大きな黒い扉がゆっくりと開き、角の生えた王冠を被り、赤い目を輝かせた高い背丈の人物が現れた。
魔王ヴァウだ。
その力のオーラは非常に強く、彼らの下の床が震えるほどだった。
そしてレイジは静かに囁いた……
「すべてを終わらせる時だ」




