第13話:待機ゲート
青く柔らかな光がニリオン多元宇宙の空を切り裂いた。
その裂け目から、一つの影がゆっくりと落ちてくる。
ヤイ・ホムル。
彼は巨大な黒い門の前に、音もなく降り立った。
門の上に描かれた紋様がゆっくりと回転し、まるで生きた瞳のように…こちらを見つめている。
空気が重く感じられる。
圧し潰すような重さではない…まるで何かを測り定めているかのような重さだ。
通りかかった数体の悪魔が足を止めた。
「新しい悪魔か?」
「…なんだか気配がおかしいぞ」
「あまりにも…澄みすぎている」
ヤイは周囲を見渡す。
警戒心を抱きながらも…それでも、心のどこかで感嘆していた。
「ここが…あの者たちの故郷なのか?」
第一の門の番人
門の闇の奥から、
ゆっくりと足音が響いてきた。
一人の女が姿を現す。
竜の体躯、黒い翼、刃物のように鋭い瞳。
「私はヴェルキラ」
声は冷ややかで、落ち着いている。
「この第一の門を守る者だ」
彼女の視線はすぐにヤイに固定された。
「貴様の名は?」
ヤイは唾を飲み込んだ。
「…ヤイ。ヤイ・ホムルだ」
一瞬の沈黙。
ヴェルキラはすぐには言葉を返さない。
ただ彼を観察し、価値を測っているようだった。
「貴様に関する記録はどこにも存在しない」
ようやく彼女が口を開いた。
「…だが、敵ではないようだな」
彼女は背を向ける。
「ついて来い」
ニリオンの天空回廊
二人は星と星の間に浮かぶ、透明な回廊を歩いていた。
足元の下では、
無数の世界がゆっくりと回転している。
まるで闇の中にともされた無数のろうそくのように。
ヤイはふと足を止めた。
「…これが…全部本物なのか?」
「当たり前だろう」
ヴェルキラは短く答えた。
「ここにあるそれぞれの門は、多元宇宙級の存在によって守られている」
彼女はわずかに目を向ける。
「私もその一人だ」
ヤイはすぐに口を閉ざした。
「わかった…ここでは余計なことはするな、と」
遠くから、何かが激突する音が響いてきた。
ドーン――ガラガラッ!
広い闘技場で、
二つの影が激しく戦っていた。
二人が放つエネルギーが、空間そのものを震わせている。
ヤイはその場に凍りついた。
「ス…スウルタ…?!」
戦っていた影の一つが動きを止め、
ゆっくりとこちらを向いた。
「…ヤイ?」
考える間もなく、
ヤイは走り出し、
その胸に飛び込んで抱きついた。
涙があふれ出す。
「また…一人になったのかと思った…」
スウルタはしばらく黙っていたが、
やがて彼の背中を柔らかく叩いた。
「…もう一人じゃない」
遠くでは、ニメロスが小さくため息をついていた。
「はぁ…またムードが重くなったな」
ヴェルキラが横目で見る。
「それより、貴様はさっき闘技場を壊しかけたらしいが?」
ニメロスはにやりと笑う。
「あれは訓練だ」
番人たちの会話
二人は心の中で言葉を交わす。
ヴェルキラ:
「…我らが主はまだ戻られていないのか」
ニメロス:
「ああ。今回出て行ったのはヴェルドラだけだ」
ヴェルキラ:
「ふん。あやつが問題を起こしていなければいいが」
ニメロス:
「もし本気を出せば…ヴェルジャカールでさえ、彼の敵ではないかもしれん」
ヴェルキラは黙った。
「…だからこそ、心配なのだ」
ヴェルキラは精神的な通信回線を開く。
「アルロ・アシュヴァレン」
多元宇宙の果てにて、
横になっていた男が突然、慌てたように身を起こした。
「ヴェルキラか!?どうした?!」
「主のことだ。お前のもとに戻られた様子はあるか?」
アルロは首を横に振る。
「いや、今日はまだだ。ただ…」
「ヴェルドラが妙な様子で通りかかったのを見ただけだ…まるで何かを隠しているような」
ヴェルキラはしばらく目を閉じた。
「…わかった。今後も多元宇宙の安定に努めよ」
ハイダ
ニリオン多元宇宙に存在する八人の最高守護者たち。
彼らはただ意思を持つだけで、
宇宙を滅ぼし、
超新星を生み出し、
現実そのものを折り曲げることができる。
そんな彼らでさえ、
自分たちの主がどこにいるのか、まだ知らないのだ。
しばらくして…
彼らは星の海に浮かぶ闘技場の端に腰を下ろしていた。
ヤイは空を見上げる。
「俺は今まで、世界というものは苦しみだけが存在する場所だと思っていた」
スウルタがかすかに笑う。
「ここは…確かに奇妙な場所だ」
ニメロスが言葉を加えた。
「だが、自由な場所でもある」
ヴェルキラは遠くを見つめる。
「我々はまだ、この世界の半分も探検していないのだ」
「…それに、もしかしたら…我々よりも強大な存在がいるかもしれない」
皆が黙り込んだ。
だが次の瞬間、ニメロスがくすくすと笑い出した。
「そんなことを心配しているのか?」
ヴェルキラは鼻を鳴らす。
「私はただ、また問題が起きて後始末をするのがめんどくさいだけだ」
皆が柔らかく笑い合う。
そしてヤイも、この時初めて、心から笑うことができたのだった。
崩れゆくヴァウの世界
空が裂け、
大地が崩れ、
ヴァウの宮殿は瓦礫と化した。
その中心に、レイジが立っていた。
彼はミジャルンとアシアを抱きかかえている。
「兄さん!早く!」
「…落ち着け」
彼は高く跳び上がった。
数百メートルの高さから、まっすぐに落ちていく。
地面に激突する寸前、
彼は二人の体を空高く投げ上げた。
瞬間移動の術式が発動する。
レイジ自身はそのまま地面に叩きつけられた。
ドーン!
大地が砕け、
次元そのものが激しく震えた。
「…まさかな」
彼はつぶやく。
「たった0.000002パーセントの力でこれほどまでか?」
レイジはゆっくりと手を上げる。
空間は…再び縫い合わされ、
時間は…巻き戻されていく。
すべてが元の姿に戻り、
まるで、
最初から何も起こらなかったかのように。
地球への扉
黒い扉が開かれた。
その先に見えるのは、
近代的な建物が立ち並ぶ町。
穏やかで、静かな世界。
「…ここは…地球か?」
レイジはその光景を見つめ、しばらく黙っていた。
「なぜだ…俺が次元を乱すたびに、いつもこの世界につながってしまうのだろう」
迷うことなく、彼は一歩踏み出した。
☀️ 東京
暖かな風が吹き、
空は晴れわたっている。
人々は何も知らずに行き交っている。
レイジは自身に法則を適用する。
『法則:干渉なき存在』
現実の均衡は完全に保たれた。
彼は人混みの中をゆっくりと歩いていく。
心は落ち着いている。
口元にはかすかな笑みが浮かんだ。
「ふう…ここもなかなか平和なものだ」
「ミジャルン…アシア…二人なら大丈夫なはずだ」
彼は空を見上げる。
「俺の多元宇宙も…まだ、俺の帰りを待っている」
風が柔らかくそよぐ。
そして久しぶりに、レイジは目的もなく、ただゆっくりと歩き続けたのだった。
光への道は、時に勝利ではなく…暗闇が過ぎ去った後に、自分が何者なのかを見出すことなのです。
ヤイのように、私たちも時には未知の場所にたどり着き、何が起こるか全く予想もつかないことがあります。でも、信じてください。あなたが踏み出す小さな一歩…それは世界を揺るがすほどの力を持つのです。




