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虚無王ザラビスは退屈している  作者: 釘宮・連
ザラビスの起源に関する注釈
11/101

第11話:全てを食らう玉座

ホムールの地、黒き大地に激しい雨が降り注ぐ。


稲妻が走る。


だが、音はしない。


まるで、この地では空さえも……声を出すことを恐れているかのように。


廃墟の間に


一人の少女が立っていた。


体は灰にまみれ。


瞳は空っぽだった。


ヤイ・ホムール。


埋もれし出自。


父は……生きたまま焼かれ。


母は……生け贄となった。


あの日から。


世界から色が消えた。


残された選択肢はただ二つ。


生き残るか……消え去るか。


長い年月、彼女は地下で生きてきた。


物を盗み。


身を隠し。


焼け残った書物から知識を学んだ。


だが。


力をつければつけるほど……


その力は奪われていく。


吸い取られ。


盗まれ。


喰い尽くされる。


いつも同じ声が聞こえる。


「お前に自由など来ることはない」


魔王ヴァウの声。


それは魂の奥深くまで刻まれた呪いだった。


だが、ある夜。


赤い月の下。


ヤイは自分の手を強く握りしめた。


「……自由になれないのなら……」


「……奴らが滅びるその時まで、生き続けてやる……」


その瞬間から。


小さな炎が灯り始めた。


――現在へ――


玉座へと続く階段に、足音が響く。


壁に刻まれた悪魔の彫刻が……まるで泣いているように見える。


生きているかのように。


こちらを見つめているかのように。


レイジが先を行く。


その足取りは穏やかだ。


ミジャルンが後ろから、いつでも魔法を放てるよう身構える。


ヤイはその側に立ち、二本の短剣が震えていた。


「後退りするな」


レイジの声は低い。


「後退りするものか」


ミジャルンがにやりと笑う。


「私は……準備ができている」


ヤイはゆっくりと息を吸い込んだ。


ドォーーーン!!


爆発音が階段全体を揺るがす。


赤い霧の中から、数十人の番兵が姿を現した。


「侵入者だ!!」


炎が舞い。


魔法が飛び交い。


叫び声が響く。


――地獄の階段の戦い――


レイジがゆっくりと手を上げる。


空気が裂ける音がする。


「オムニ・エーテル・パルス」


辺りは一瞬にして静寂に包まれた。


三人の番兵が……両断された。


血は流れない。


彼らの体はただ……光の粒子へと変わっていった。


ヤイが動く。


速い。


影よりも速く。


「ダーク・ファング・ワルツ!」


短剣が舞い踊る。


敵は自分が死んだことに気づく間もなく、次々と倒れていく。


ミジャルンが戦いの中心へと躍り出た。


「セラフィック・ブルーム!」


光の花びらが咲き開き。


すべての攻撃が弾き返される。


だが。


ザシュッ!


ヤイに刃が襲いかかった。


黒い血が流れ出す。


体がよろめく。


「ヤイ!!」


ミジャルンが慌てて駆け寄ろうとする。


レイジは言葉を発さない。


ただ一歩、前に踏み出した。


彼の手が変化する。


「コラプス・ドライブ」


バリッ!


彼らの前の空間が……折りたたまれた。


その範囲内にいた番兵たちは。


存在そのものが消え去った。


ミジャルンがすぐさま治癒の魔法を唱える。


「ヒカリ・スパイラル!」


光がヤイの体を包み込む。


傷口は徐々にふさがっていく。


ヤイはかすかに笑みを浮かべた。


「……私はまだ、終わるわけにはいかない」


ミジャルンも笑顔を返す。


「よろしい。これはまだ、ウォーミングアップに過ぎないのだから」


――第二回廊――


何百もの魔法の矢が降り注ぐ。


死の雨だ。


レイジは次元の裂け目を開く。


すべての攻撃は。


そのまま送り返された。


番兵の隊長が姿を現した。


とげのある鎖が襲いかかる。


ドン!


砂埃が舞い上がり。


再び静寂が訪れる。


「背後だ」


レイジの声がする。彼はすでに隊長の背後に立っていた。


一閃、蹴りが放たれる。


隊長の体は壁に激突し、砕け散った。


一方その頃。


ミジャルンとヤイは心を一つにし、動きを同調させていた。


光が道を切り開き。


影が敵を仕留める。


言葉は不要。


迷いもない。


ヤイがささやく。


「私はもう……誰かの奴隷ではない」


レイジが応じる。


「よろしい」


――階段の終着点――


埃が静かに落ちていく。


空は裂け。


辺りには……圧倒的な気配が立ち込める。


そこには三人の者が立っていた。


フクロン。


ヘイモン。


ガトウ。


レイジはかすかに笑みを浮かべた。


「なるほど、貴様たちが最後の番兵か」


フクロンが剣を掲げる。


「そして貴様こそ……まだ正されていない過ちだ」


ガチン! ガチン! ガチン!


彼らの剣戟の速さは。


目にも留まらないほどだった。


「クロノ・リフト・スラッシュ」


時がゆっくりと流れ出す。


フクロンは……時間そのものを切り裂いてみせた。


「私がこのまま止まっているとでも思ったか!?」


レイジはわずかに口角を上げた。


「よろしい」


激しい衝突。


爆発が起こり。


周囲の建造物は崩れ落ちる。


「ヴォイド・カスケード」


黒きエネルギーが空間を飲み込む。


「インフェルナル・ボルテックス!」


炎が渦を巻く。


ドォーーーン!!


一瞬の静寂。


レイジはいつの間にかフクロンの背後にいた。


「ディメンショナル・リバーサル」


血が飛び散る。


だがフクロンは高らかに笑った。


「これで……すべては私のものだ!」


「ヘルストリーム・レイン!」


空一面に、炎の剣が浮かび上がる。


レイジはゆっくりと見上げた。


その表情はあくまで穏やかだ。


「……もう、十分だ」


「ゼロ・コア・リリース」


純白の光が辺りを包み込む。


完全なる静寂が訪れた。


ただ一閃の刃が閃いただけ。


すべての炎の剣は跡形もなく消え去った。


フクロンの体は二つに裂かれていた。


「……化け物め……」


それが彼の最後の言葉だった。


レイジは言う。


「違う」


「……私はただ、退屈していただけだ」


――ミジャルンとヤイ、対ヘイモンとガトウ――


ミジャルン:

「巨体の方は私が引き受ける」


ヤイ:

「素早い方は私が相手をする」


完璧な役割分担。


「セレスティアル・バースト!」


光がヘイモンを打ち砕く。


ミジャルンは彼の体を押さえつけ、問いかける。


「……アシアはどこにいる?」


だが答えは返ってこない。


バリッ!


一方その頃。


「ファントム・スプリット」


三つの影が現れる。


そのうちの一つが本物だ。


最後の一撃が振り下ろされる。


ガトウが倒れた。


ヤイはそこに立っていた。


息は荒い。


だが彼女の瞳には……


生気がみなぎっていた。


――玉座へ――


静寂が戻る。


三人の将軍は。


すべて消え去った。


道は開かれた。


目の前には巨大な扉がそびえ立つ。


レイジがゆっくりと歩き出す。


一歩、また一歩。


「ついに……来たか」


重厚な声が響き渡る。


扉がゆっくりと開く。


その奥には。


魔王ヴァウがいた。


玉座に腰かけ。


穏やかな面持ちで。


彼の放つ気配は……


周囲を圧迫するものではない。


すべてを吸い込もうとする、底なしの穴のようなものだった。


ヤイの体が小さく震える。


「……あれが……」


レイジは真っ直ぐに彼を見つめる。


ミジャルンは手にした杖を強く握りしめる。


ヴァウが笑みを浮かべた。


「待っていたぞ」


レイジが応じる。


「そうか」


彼は最後の一歩を踏み出した。


「私がここに来たのは……話をするためではない」


彼の瞳が鋭く輝く。


「私が来たのは……貴様の作り上げたこのシステムを、終わらせるためだ」

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