幕間3 ミッシング・イン・アクション(4)
【Side:闇ヶ淵 綾乃】
「さてさて、皆さん準備はよろしいようで……それじゃ、レイド完遂を祝してかんぱーい! ……って気分じゃないもんね、ちゃっちゃと話す事にしようかな」
私はみんなの顔を見渡してから、リュックに入っていたノートとペンを取り出した。
島根に帰ってばっちゃまが亡くなった事で発生した手続きでバタバタしている間にも、暇を見ては「視」の力で高坂さんを追っていた。
ばっちゃまの力を継承してバカ強くなった私の「視」で見たビジョンの中から、多分これが有力だろうなーってルートをメモしておいたのだ。
いやーしかし、本当に高坂さん何で生きてるんだろうね?
もはや豪運なんてレベルじゃない、もはや奇跡と呼べるような偶然の積み重ねで高坂さんは生きていたのが一番びっくりだった。
原爆ドームダンジョンの最下層で異能封じを食らって闇ヶ淵の力を封じられる少し前から、この未来はある程度視えていた。
一瞬だけトーカちゃんが出てきてるから、ダンジョンに何かしら干渉したんじゃないかとは思ってたんだけど、まさかテレポーターの発動だったとは。
それでも、飛ばされた先で高坂さんが生き残るルートはほぼ無かった。
落下死、魔素貯留で死亡、魔物に襲われて死亡……大体何らかのアクシデントで死ぬはずだったのに、よく生き残るルートに入れたモンだと感心する。
流石メサイア……いや、それは関係ないかな?
ああ、そうそう。原爆ドームダンジョンの異能封じだけど、私を含めて全員解放されている。
これはりりぴょんの原初の種子、タイム・ルーラーのお陰である部分が大きい。
……大前提として、りりぴょんはタイム・ルーラーを随意的に操れていない。
トーカちゃんが例えで出した「妖精さん」……原初のの種子が潜在的に持っている擬似人格のような物の補助が強めに効いている状態だ。
その擬似人格のお陰だろうか、りりぴょんの異能封じのデバフがものの数秒で解除され、ついで私達のデバフも消滅した。
どうやらタイム・ルーラーは「時間」が絡むギミックやデバフに対して無類の強さを発揮するみたいだ。
この力がもーちょい早めに効いていたら高坂さんの異能封じも解除出来ていたかも知れない……まあ、Ifの話はしないでおこうか。
「みさっち、高坂さんが国際探索者連盟の管轄になってる旧北朝鮮領のバカデカダンジョンに飛ばされた事は知ってるね?」
「……はい、あかりさんから聞かされました」
「結構結構。しずかちゃんも会見で言ってたもんね。で、そのダンジョンは来月……十一月の第四週くらいまではゲートが開かないから、高坂さんはダンジョンから出られないんよ」
「でも、渉さんは空も飛べますし、何なら空間を引き裂いたり出来るし……」
「そこなんだけど、私達はりりぴょんの妖精さんのおかげでデバフ解除されてるけど、高坂さんはデバフ掛かりっぱなしだから異能封じが効いてるんよ。空飛ぶのはスキルシステム預かりだけど、結構しっかりめに異空間なダンジョンだからゲートを通らないとこのバースに繋がらない訳」
「ゲートが開くのを待つしかない、って事ですか」
私は大きく頷いた。
「で、私の『視』が微妙に通りにくくてね……あかりんのソウル・リンカーと比べたら対象指定が曖昧な異能だから、かなり未来視に差が出てるんだけど……共通してる事がいくつかあるんだ」
「その一つがあかりさんの言ってた現地妻……ですか?」
「そうそう、どのルートでも高坂さんを助けた後ずっと行動を共にしてる女の子がいるんだよね。傷ついてる高坂さんに包帯を巻いたり、看病しながら横で手を握ってたり、疲れて高坂さんの上に倒れ込んで……」
突如、みさっちの方から激しい破裂音と共に水飛沫が飛んで来た。皆が動きを止め、みさっちの方を見る。
何かと思えば、みさっちの手に握られていた缶チューハイが圧縮されて野球ボールくらいの大きさに潰されていた。
いやいや怖い怖い、いっそ激情を剥き出しにしてくれてる方が分かりやすいのに、そんな能面みたいな顔でこっちを見ないで欲しい。私戦闘要員じゃないんだよ?
「……誰ですか」
「ひゃいっ!?」
「それは、どこの、誰ですか? あたしは今、過去一冷静さを失おうとしています」
およそ素手から出てはいけない、油圧プレス機にかけられたかのような金属音がみさっちの手元から響き渡る。
悲痛な叫び……いや、断末魔を上げた缶はさらに圧縮され、寿司のシャリくらいの大きさになっていた。
「あ、えーとね? 私の『視』の通りが悪くてね? どーんな人かまではちょっと……」
「誰ですかと、聞いてます」
みさっちの全身から殺意の波動が迸り、ついに缶だった金属はパチンコ玉に転生してしまった。
梨々香ちゃんと一桜ちゃんは抱き合いながらガクガク震えている。やめたげてよー!
仕方が無いので高坂さんの未来を視ると……ちょっと待って人増えてない!? 女も何人か増えてるんだけど!?
増えてる分はとりあえず置いといて、とりあえず台湾ガールのお名前が分かりそうなシーンを……ああもう、力が通らないから音が聞こえない! ビジョンもなんか凄いボヤけてて見づらいし! もーやだ!
あ、よーやく見えた! 林? 林……玉? 王? それから……何アレ!? なんかゴチャってる漢字! ボヤけてて読めない!
「えーとね、林……はやし……林さん! 名前は……王だか玉だか……」
「林 玉馨、二十一歳。イングリッシュネームはユキ、中華民国探索者協会花蓮分会所属。レベルはおおよそ九十前後、ジョブはランサー、槍使いです。彰化県第十迷宮の攻略メンバーとしての功績により一級……日本で言う所の甲種探索者に昇格。CROD-1探索の司令を受けたようです。配偶者・恋人共に無し、祖母と両親と歳の離れた妹、それからメスのマンチカンと共にアパート暮らしです」
あかりんがスマホに目を落としながらつらつらと読み上げ、こちらに画面を見せる。
銀髪ポニテでにっかり笑う可愛い女の子の画像が表示されている。
いやあ、やっぱりかわいいなあ。コレは高坂さんもコロッと落ちちゃうかもしんないぞ。
え、てかこれすぐ出てくるあかりんどーなってんの……? いくら情報でご飯食べてる家だからって特定の早さやばない……?
「あかりん、あんだけの情報でどーしてそこまで調べられるん……?」
「既にCROD-1内の人員の情報は完全に掌握しています。台湾人で五人、女性で三人まで絞れていましたが、林と言う苗字で確定しました。どうします? 家族の身柄を押さえておきますか?」
「押さえない押さえない! 国際問題に発展しちゃうでしょー!? それに女の話よりも大事なのは高坂さんの身の安全じゃないの!?」
私がツッコミを入れると、あかりんとみさっちが残念そうにため息をついた。いやいや、残念そうにすんなし。
すーぐバイオレンスな手段に訴えようとするんだからなぁ、このフィジカルバーバリアンとソーシャルバーバリアンは……
「んじゃ、今高坂さんが置かれている状況と実現が濃厚そうなルートを説明してくね。まず、高坂さんはこれから迷宮探索機構のお偉いさんの所に連れていかれて——」
私はこれまでメモしておいた内容から読み解きながら、みんなに高坂さんの現状と近い未来について説明する。
たはー! これもう小説のプロットとかそんな感じじゃんね! これ使ってローファンタジーのダンジョンモノが一章分書けちゃいそうな荒唐無稽なあらすじになっちゃってんのよ!
でもまあ、事実は小説よりも奇なりって言うもんね。フィクションだった方が幾分かマシな高坂さんの話をしっかり話し合うとしましょうかー!




