幕間3 ミッシング・イン・アクション(3)
【Side:雪ヶ原 あかり】
「まずは家族から……母親は群馬の前橋にある特養、それから足立区の自宅に小学二年生の息子と生まれたばかりの女児がいるはずです。パートで働いている奥さん共々うまく使って下さい。これまでの言動を後悔させながらジワジワとお願いします。決して楽にはさせないように」
《惣領、着手済みです。ご安心下さい》
私専用の秘匿通信網に指令を投げましたが、帰ってきたのはこの一言でした。
どうやら既に実行部隊が動いていたようです。流石雪ヶ原に連なる者達、私の望みはお見通しと言う事でしょうか。
美沙さんの部屋のリビングで皆と一緒に記者会見の生放送を見ていましたが、あの記者は一体何様のつもりでしょうか?
私達が無事に帰って来られたのはひとえに高坂さんのお陰だと言うのに、あの言い草は許されません。
どう言い訳しても八つ当たりにしかならないのは少し残念ですが、見せしめと言う意味でも一族郎党非業の死を遂げて頂くことにしましょう。
でないと落とし前をつける事が出来ません。美沙さんの目も完全に据わっていますし、一桜ちゃんも悔しそうにぎゅっと拳を握りしめています。
梨々香さんも……梨々香さんは特に何も感じていないのでしょうか? 特に怒りもせずにテレビを見続けています。
「……梨々香さん、悔しかったりしませんか? 嫌な思いとか……していませんか?」
「んー……割とどうでもいいかなって」
「と言うと?」
私が尋ねると、梨々香さんはテレビから視線を外す事なく答えます。
「この記者の人達や他にテレビを見てる人が知りたいのは、お兄ちゃんが生きてるかどうかとか、静香さんの会社がどうするかですよね?」
「……そうですね」
「でも、私達がやらなきゃいけないのは、ナントカって海外の人達にお兄ちゃんを返してくださいってお願いする事とか、お兄ちゃんが帰ってきた時に不自由なく生活できるように準備したり、強くなりすぎた一桜ちゃん達を世間の人達から隠したりですから……別に誰がどう思ってても関係ないですよね、わざわざ言わなくてもいい事だし。静香さんは会社があるからああやって話さなきゃいけないだけで」
……正直に言って、驚きました。
殺意の波動に飲まれている美沙さんは置いといて、どうやら梨々香さんは私よりもマクロな視点で、この記者会見を見ていたようです。
何だか少し恥ずかしい気持ちになります。ちょっと大人気なかったかな……?
「だからどちらかと言えば、記者会見よりもお兄ちゃんが今どうなってるかの方が気になるんですけど……綾乃さん、まだ帰って来てないんですか?」
「こちらに向かっているとは思いますが、どうでしょうね……闇ヶ淵さんですから、寄り道してる可能性も……」
梨々香さんが言う通り、闇ヶ淵さんは不在です。
梨々香さんを連れて原爆ドームダンジョンに潜ったのだってお婆様の力を継承した直後との事。
美沙さんをどうにか部屋に連れ帰った後「まだまだ事務手続きが残っているから」と島根にとんぼ返りしました。
今回は中国山地をほぼ遭難と言っても過言ではない山中行軍を行う訳ではないので、シーカーズのグループチャットで連絡を行っています。
高坂さんが国際探索者連盟の管轄地となった旧北朝鮮領に居て、現地妻のようなツラをしている台湾人の女性と共に行動している事も、そこで知らされました。
昼頃にげんなりしたうさぎのスタンプと共に「やる事終わったよ〜〜〜」とメッセージが飛んで来たので、そろそろ帰る頃だとは思うのですが……噂をすれば影、ですね。
玄関の鍵は開けっぱなしにしてあると伝えておいた事もあって、廊下を小走りで駆けてきた闇ヶ淵さんがどたどたとリビングに上がり込んで来ました。
自分の部屋に寄らず、そのままここに来たのでしょう。背中に大きめのリュック、両手にコンビニ袋を持ったままの姿です。
「やっほーい! よーやっと諸々の残務処理終わって帰ってきたよー! しんどーい! 向こう半年は書類見たくなーい! あ、私さっき広島駅でハンバーガー食べて来たけどみんなご飯食べたー? ……みさっちはもう大丈夫そうだねぇ、うんうん」
「大丈夫じゃないですよ! 渉さんは今どうなってるんですか! それに何なんですか現地妻って!」
記者会見のせいででイライラが最高潮に達していた美沙さんが立ち上がって闇ヶ淵さんに詰め寄ります。
やはり、美沙さんは完全に復調しているようです……私達同様、「異能封じ」のデバフも含めて。
「しゃーないなー、そんじゃ私が現状のおさらいを兼ねて説明したげようじゃないかー! あ、りりぴょんテレビのチャンネル変えてもらっていーい? しずかちゃんには悪いけど辛気臭い記者会見見ながら話したい気分じゃないんだわー」
闇ヶ淵さんはダイニングにある大きめのテーブルの上にコーラやジュースのペットボトル、ビールやチューハイの缶と一緒におつまみになりそうな惣菜やスナック菓子を広げていきます。
美沙さんや梨々香さん、一桜ちゃんが席に着いて各々好きな飲み物を取っています。
美沙さんはぶどう味のゼロのチューハイ、梨々香さんは緑茶、一桜ちゃんはりんごジュース、闇ヶ淵さんはビールですね。私はコーラを頂きましょう。
……もはや報告会と言うよりは女子会の雰囲気になりつつありますね。
思い出したかのように梨々香さんがリモコンのボタンを押すと、涼しい顔で受け答えをする霧ヶ峰さんの顔が映し出されている画面が、今度発売される私の新曲のCMに変わってしまいました。




