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【コミカライズ連載中】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第四章・幕間

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幕間3 ミッシング・イン・アクション(1)

【Side:月ヶ瀬 美沙】



 やってしまった。やらかしてしまった。

 一番やってはいけないミスを、一番やってはいけないタイミングでやってしまった。

 ダンジョン・コアを破壊して、あとは脱出するだけ……そんなタイミングで、地震で体勢を崩して転んでしまった。

 いっそあたしなんか助けずに、渉さんだけ逃げてくれれば良かったんだ。

 それなのに渉さんは一桜ちゃん達みたいに光り輝く棍棒を生み出して、あたしを叩き飛ばした。

 最下層の入り口……階段で待ち構えていた一桜ちゃん達に抱き止められて、上から大岩が降ってきて……そこまでは覚えている。

 その後前後不覚になったあたしは半狂乱で叫び続けて、あまりのショックに少しの間気絶していたようだった。

 気が付いた時には……もうどうしようもないくらいに終わっていた。



 原爆ドーム前に居座っていたダンジョンゲートが、光の粒子に変わる。

 周囲に配備していたナオビがけたたましい音を立てて、空気中に拡散しそうな魔素を吸い上げる。

 既に避難済みの探索者達や出展者達が、その様子を声も上げずに眺めていた。

 やがて、誰かが喜びの声を上げた。その歓声はまるで勝鬨のように伝播し、普段は静かな大手町に響き渡る。

 ……そこに、渉さんの姿はない。

 あたしはただ、一桜ちゃんに抱えられたまま、みじろぎ一つできずに、ゲートがあった場所を見つめていた。



 § § §



「おかーさん、大丈夫? おなかすいてない?」



 一桜ちゃんがあたしの部屋のドアをノックして尋ねる。あたしは返事もせずに、ベッドの上で布団にくるまっていた。

 最初の三日間はずっと泣いていた。泣いて、泣いて……涙も出なくなって、起き上がる気力も無くなった。

 スマホもひっきりなしに鳴ってたっけ。二日目には充電が切れたけど。別に充電なんてしなくてもいい、一番声を聞きたい人はもう居ないんだから。

 ……そんな他人行儀な物言いも許されないのかも知れない。だって、渉さんを殺したのは、紛れもなくあたしのミスなのだから。

 渉さんとの思い出が胸に去来する度に、自責の念があたしの心を引き裂いていく。

 今は、一桜ちゃんの言葉も聞きたくない。……渉さんの事を思い出してしまうから。



「……おかーさん、あかりさんが話したい事があるって。静香さんも……綾乃さんも、心配してたよ」



 返事は……できない。したくない。



「晩ご飯のおかゆさん、ドアの横に置いとくね。梨々香ちゃんが氷谷先生から作り方聞きながら作ったんだよ。……大丈夫になったら食べてね」



 ドアの向こうで、何かが置かれた音がした。そこそこ重たそうな音だ。

 恐らく、お粥を土鍋か何かで作ったんだろう。……私は食べる気は無いけど。

 いっそ死んでしまえばいいんだ、こんな役立たずなあたしなんか。

 餓死は苦しみながら死ぬと聞く。

 そんな苦しみで帳尻が取れるとは思えないが、生きる意味なんてもうないんだから、どうだっていい。



 ドアの向こうの気配はなかなか消えない。

 一桜ちゃんが、あたしに何か声を掛けようとして逡巡しているのが目に見えるようだ。

 ……あたしの事なんて放っておいてくれたらいいのに。



「あのね、おかーさ……あれ? あかりさん? あ、ちょっと待っ」



 ドアの向こうでドスドスと廊下を踏み鳴らす音と、一桜ちゃんの戸惑いの声が聞こえたかと思うと、あたしの部屋のドアが弾け飛んだ。

 布団の隙間から見えたが、あかりさんがドアにヤクザキックをかまして暴力的な解錠を試みたようだ。

 あの、ここあたしの部屋なんだけど……いや、建てたのは霧ヶ峰だしお金払ってないから厳密に言えば違うっちゃ違うんだけど……



「いつまでウジウジやってるんですか! ほんとにもー!」



 布団をひっぺがされ、原爆ドームダンジョンから戻った時のまま……ボディアーマーの姿で横になっていたあたしを見て、あかりさんは大きなため息をついた。



「どういうつもりなんですか、もう一週間も閉じこもったままで。そりゃあ高坂さんがいなくなってショックだとは思いますけど、今の美沙さんの姿を見たら高坂さん幻滅しますよ?」



 返事は出来ない。……したくない。声の出し方を忘れてしまったみたいに、声が出ない。



「あーあ! 私、何だかんだ美沙さんの事ライバルだと思ってたのになー! こんなヘタレだと思わなかったなー! 高坂さん戻ってきたら私と付き合ってもらっちゃおうかなー!」



 ……あかりさんはアイドルは向いてるけど、女優には向いてなさそうだ。セリフが棒読みで大根役者感が隠せていない。

 ……そもそも、もう渉さんはいない。私を庇って死んでしまった。そんな演技なんて、もうしなくてもいいのに。

 あたしが反応を示さない事に業を煮やしたあかりさんが、あたしのアーマーの襟首を掴んで無理やり起こしながら怒鳴りつけた。



「美沙さん、本当にいいんですか!? このままだと渉さんマジで現地妻ヅラした女に取られますよ!?」


「……え? 現地妻??」



 あたしは思わずあかりさんの叱責に反応してしまった。マジでどういうこと? 現地妻??



「高坂さん生きてますよ、今はちょっと手出し出来ない所にいます。私は以前高坂さんから頂いたバフの効果射程を無視する装備品とソウル・リンカーのおかげで生きてるのを知ってましたけど、闇ヶ淵さんの占いと東洋鉱業のGPSトレーサーで大まかな状況が判明しました」


「渉さん……生きてる……? ほんとに……?」



 一週間飲まず食わずで声も出さなかったせいで、喉は枯れてるしカッスカスな声しか出ない。

 それでもあかりさんは私の問いにしっかりと首肯を返した。もう出て来ないと思った涙が、また溢れて来る。



「ほんとです。もう少ししたら霧ヶ峰さんがテレビで記者会見やるとこです。今回はコトがコトなだけに全国区の生中継で報道されます。私が説明するより、そっちを見た方が早い……んですけど、その前に!」



 あかりさんがドアの向こうを指差した。そこには土鍋とコップと水差しの乗ったトレイを持っておろおろしている一桜ちゃんがいた。

 ドア横に置いておくと言っていたが、あかりさんがドアをド派手に蹴破りダイナミックなエントリーをかまそうとしていた事からトレイを避難させようとしたのかも知れない。



「ちゃんと食べたり飲んだりした後で、お風呂に入ってくる事! もう風呂キャン界隈ってレベルじゃないですよ、特に匂いが! あの後帰ってきてからずっと寝てたんですか!? 戦闘が終わった後の汗とか埃で汚れたまんまで!?」


「だ、だって……いっそ死んだ方がいいって思って……」


「そんなの冷静になればわかる話ですよ、高坂さんは自分が守った女が自責の念に駆られて死ぬのを喜ぶような人なんですか!?」


「それは……」


「違うでしょ!? だったら美沙さんがやる事はこんなとこでウジウジメソメソしてる事じゃないでしょ!? はい、さっさと動く! 一桜ちゃん、梨々香さんに言ってそのお粥あっためなおしてもらって! 何なら卵とお茶漬けの素入れてタンパク質と塩分も追加!」


「はいっ!」



 あかりさんの指示を受けた一桜ちゃんが、笑顔を浮かべて元気に返事をしてパタパタと駆けていく。……心配かけちゃったなぁ。

 あたしがゆっくりとベッドから降りると、あかりさんは私からついと離れて部屋を出て……ひょっこり顔を出して一言だけ告げた。



「……私でさえあの時死なせてもらえなかったんです。高坂さんの正妻が簡単に死ねると思わない事ですよ」



 あかりさんはそれだけ言って、一桜ちゃんを追いかけて行った。

 あたしは苦笑いを浮かべて、ダイニングへと向かうのだった。

 ……あかりさんの言っていた「現地妻」と言う単語が、胸に残ったままで。

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