①-9
いろいろ考えすぎて立ちくらみがしたようだ。
ああ〜と、頭を抱え込んだ俺を見て、杏奈がぷっと噴き出す。
「なんだよ」
だんだん本性が出てきはじめ、年下の杏奈相手に怒りをぶつけてしまう。杏奈がこういう性格だから、大人ぶるのは無駄に思えてきた。
でも本当は、可愛い妹にとって、優しくて頼りになる兄貴になりたいんだがな。
「え~だって、にいにったら、杏奈が一緒に学校通うと思ってるの?」
鼻にかかったような声で体をくねらせて、杏奈は言う。
俺は負けじと言い返した。
「そりゃあ…駅が同じなんだから、一緒になることだってあるだろ」
杏奈はそれを聞くなり、真顔になった。上から見下ろすように俺をにらみつける。
そして…声を低くして言い放った。
「杏奈を誰だと思ってるの?」
「えっ」
「杏奈はアイドルなんだよ!!」
そういうと、突然……
テーブルの上にとびのった!!
俺は後ずさり、思わず食器棚に手をついた。
その反動で、食器棚の中に並べられていた、おチョコがころんと転がる。
…都さんはさっき、ケーキに手を出した杏奈に、お行儀が悪いと言って手をはたいた。
お行儀悪いどころの騒ぎじゃねぇ!
この山猿むすめをどうにかしてくれ‼︎
俺は期待をして、都さんを振り返った。
見ると都さんは急いでテーブルの上を片づけていた。
うちの親父まで、せっせと皿を台所まで運んでいる。
なに2人して舞台づくりに、協力してんだよっ!!(泣)
「ママ! 曲流して!」
都さんは、引っ越し用段ボールの上にあったCDデッキを持ってくると、
ぽちっとな、で再生ボタンを押した。
てぃららてぃらら~♪と高音から低音の、さまざまな音階の電子音が流れ出す。
杏奈は両手を口に持ってくると、あたりを見渡しながら声を張り上げた。
観客は実質俺だけだというのに、杏奈には幻の観客が見えているようだ。
「みんな~元気にしてたー?? アンヌはちょっぴり元気ないよ~。だってだってぇ、みんなに会えなかったんだもん」と泣きまねをする。
そう言うや否、「でもね!」と続ける。
「今日はみんなに会えて、アンヌは超超しあわせだよ~」
杏奈はすうっと息を吸い込んで歌い始めた。
「きらっめく!ながれぼし〜!2人は誓ったの〜!マリーとアンヌは、そう!ここアイドル星のお姫様になるって〜♩」
…………。
…アイドル星……へぇ……
てぃららてぃらら〜という曲に合わせて、歌って踊り続ける杏奈。
都さんは腕を組んで、渋い顔で杏奈を見ている。「そこ、振り付け違うっ!」
俺でもビクッとするくらいの迫力で、叱りつける。そう、都さんはいわゆるステージママだったのだ。
親父はというと、いつのまにやら用意したペンライトを持って、頭上で大きく腕を振っている。
なんだかな〜。
俺は完全に魂を抜かれた状態になっていた。
いつも、親父と2人の寂しい食卓…。
家族ができたら、ワイワイと楽しくなるんじゃないかと夢見た日もありましたよ、確かに。
でも…こんな……状態は、想像すらしてなかった‼︎(泣)
そうこうしているに、曲が終わった。
テーブルの上の杏奈がハアハア言いながら、俺を手招きする。。。
ま、まさか……




