①-10
手招きされて杏奈のそばに寄った。ふぅっとため息をついて、テーブルにどんっと腰掛ける杏奈。同じ目線になった彼女の顔を、改めて間近で見る。
額には粒になった汗がびっしりついていた。
瞳は相変わらずキラキラして…よく目をこらすと、俺の姿が鏡のように映って見えた。
(本当に、人形みたいだな…)
歌は音程がとれてなくてイマイチだったけど、このルックスなら、アイドルとして充分人気が出そうな気がした。
「で、わかった?にいに?」
目の前の杏奈はそう言って、腕を組んだ。
俺ははっとした。
「見たでしょ?杏奈はアイドルなんです‼︎マリアンヌっていう2人組の歌手なのっ‼︎」
舌を出して、ぷいっと横を向く。
いちいち腹立つ動作する奴だな〜。
都さんがラジカセを元に戻して、こちらにやってきた。
「つまりね、瞬くん。何が言いたいかっていうとね、杏奈たちにはマネージャーがいるのよ。杏奈もマリアちゃんも学校には車で行ってるのよ」
車‼︎
中学生のうちから車通学?
「乗せてあげないよぉ〜だっ」
杏奈は指で鼻の穴を広げた変顔をしたのち、居間から走り去っていった。
都さんは、「ごめんなさいね」と苦々しく笑い、ソファに腰掛けた。
「昔から、あの子あんな感じだから、よく誘拐されそうになってたの」
「……」
「だから、いま車で送り迎えしてもらえてありがたいのよ。アイドルになって、色々苦労もあるけど、そう言った点では良かったと思うわ」
俺は自分のことばかりしか考えてなかったんだな。さっき言ったことを後悔した。
もっと優しくなろう。頼りになる兄貴になろう。
たった1人の妹のために、俺も力になろう。
俺は決心した。
こうして、家族で過ごすクリスマスイブの夜はふけていったのだった。




