⑧-7
つ、ついていけない。この展開に…。
しかし…あの滝沢って男が止めてくれるっていうんだから。
1万円払ったかいもあるってもんで…
って、ホントかよ?!
証拠となるように一筆かかせりゃ良かったよー!と俺は今さらながら後悔した。
そもそも、あんなに若い男が、丸菱財閥のお嬢様の運転手って…。
俺と変わらない年に見えたぞ!
怪しい怪しい怪しいよ! 見るからに怪しかったよー!
騙されちゃったかもしれないよー!
しかし…確実に「明日」は来てしまうのだ。
翌日…オーディション当日。
集まったのは、6人。
大石のばあさんの罠にかかった、かわいそうな子ヒツジさんたちだ。うっ(涙)
みんな、アイドルになれるかも…と期待に胸を躍らせて、眼なんかもキラキラっと輝いちゃって。
これから、大人たちのいいカモになってしまうと知らず…。
杏奈とまりあの「マリアンヌ」組もいる…。
不安そうにキョロキョロしてる杏奈と対称的に、
まりあは俺の顔を見て、ウィンクしてくる余裕がある。
おーい!滝沢さんよー。話が違うじゃねえかあ(涙)
「マリアンヌ」はオーディションで最後の順番だという。
大石のばあさんは、表面上の上品な学園長を装い、
「では、お始めになって」と1番の人をうながす。
1番の女の子は、どこをどうみても…(失礼だが)アイドル向きではない。
だからと言って、妖怪になるほどの…特徴のルックスではない。
あくまで、フツーの女の子である。
それでも…アイドルというのは、憧れてやまないものらしい。
声を張りあげて自己PRをする彼女から、情熱が伝わってきて、
俺も…刺激を受けた。てか、少し涙ぐんでしまった。
どうして教師になりたかったのか、どんな教師になりたかったのか。
杏奈と出会い、ももてぃんと出会い、俺のさえなかった環境は180度変わってしまったけれど、
教師になりたいという熱い想いは消えていない。
その炎をぼおっと再び着火させてくれるような…。
それと同じように…彼女たちも…どんな方法であれ、アイドルになりたい!のだろう。
俺には止める権利はないし、止めたいとも思えなくなってしまった…。
2番、3番、4番と続き、5番のマリアンヌの順番が回ってきた。
オーディションとは主に、大石のばあさんの面談(就職の面接みたいな)をするのだが、
これはあくまで1次で。
2次には、実技テストがあるらしい。
てか、妖怪になりたいアイドルがやる実技ってなんだよ!!
大石のばあさんと向かい合わせになっている椅子をもう1個増やして、
杏奈とまりあが座る。
「では始めてください」と大石のばあさんが、わざとらしい笑顔で、わざとらしい優しい声で
言ったときのことだった。
まりあが「ストップストップ! なんか…お腹いたい」
とお腹を押さえて、その場から駆けだし、ひゅるんっといなくなった。
「え、え?」
杏奈が困ったようにあたりを見渡し、最後に俺の顔を見る。
今にも泣き出しそうな…顔で。
「どうする?」大石のばあさんは…笑顔を崩さず杏奈に聞く。
杏奈は俺から目を離さない。
声が伝わってくるようだ。
(どうしたらいい? にいに?)と。
俺は口パクで(キケン、棄権しろ)と杏奈に伝える。
杏奈は最初首をかしげていたが、俺の言ってる意味が4回目あたりでわかったらしく。
「キ、キケンします!」と大声で告げた。
1番から4番までの女学生たちが、嬉しげに歓声をあげる。
「マリアンヌ」は彼女たちにとって、強敵だったようだ。
強力なライバルが減る…!
さぞかし嬉しいことだろう。
大石のばあさんは「それでいいのね?」とファイナルアンサーを問いかける。
杏奈はコクコクとうなずくと、俺の顔をちらっと見て、その場を立ち去った。
きっと…トイレに行くのだろう。
まりあ…。可哀そうだが、助かったよ。
ハッ!とその時俺は気づいた。滝沢は有言実行してくれたのではないかと…。
きっと…まりあの飲み物に下剤を入れたりなんかして、
オーディションを中止させてくれたのではないかと…。
今度会ったら「滝沢大明神」と名付けよう。
1万円払ったかいがありましたー!ブイブイww
俺はほっ。と一安心。
大石のばあさんも顔では笑っているが、内心は「ちっ面白くねえ」と思ってる顔をしていた。
無事、防げました!
俺の知り合いではない1-4番の女生徒さんたちのうちの誰かさんよ。
悪いけれど、社会経験だと思って…闇闇ガールズとしてたくましく活動してくれ!
俺は完璧他人ごとになったので、余裕をもってオーディションを眺める。
胸の前で腕なんか組んじゃったりもして。ちょっぴり業界人きどってますw
とそのとき、後ろのドアがガラガラと開いた。
「すみません…当日なんですが、追加でオーディション受けてもいいですか?」
聞きなれた声。ん?この声は?
俺は後ろのドアに入ってくる人を見て、思わず目を見開いた。




