⑧-4
飯村さんが、ひやああああ…と声にならない悲鳴を絞り出す。
「いやっ、今のは…ご、誤解なのであって!」
俺は飯村さんの方へ行ってとりなそうとするのだが、
「来ないで! まさか…持田くんがそんなロリコン趣味だなんて…」
飯村さんはその場にストンと崩れ落ちた。
「ち…違うんだよ! ただの兄妹のじゃれあいなんだ!」
「兄妹?」
俺は杏奈の顔を見てうなずく。杏奈は…哀しそうな目をしたのち、そっぽを向いた。
「そう…俺たちは兄妹なんだ…」
「え?」
飯村さんのメガネが驚きとともにずり下がる。
「再婚同士で血はつながらないんだけど…。だからそんな…恋愛関係とかじゃなくて」
言っていて、胸のどこかがチクチク痛む俺がいる。
なんだろう…言っててなんか辛くなってきたぞ。真実なのに…。
杏奈とは義理の兄妹…決して恋愛関係にはならないはずの関係。
それは…自明だ。
親父だって都さんだって望んでないはず。
俺だって…ももてぃんという彼女がいるわけで。
杏奈はただの俺の義理の妹…。ただの…放っておけない…可愛い妹なんだ…。
「ただこのことは内緒にしてほしいんだ。頼む、飯村さん」
俺はそう言って頭を下げる。
飯村さんはコクコクコク…と高速で頭を上下にふったのち…
「良かった…」そんな言葉が口からこぼれ落ちた。
「そんな可愛い子が彼女じゃなくて……ほっとした」
そういって、顔をカアっと即座に赤らめた。
なんでほっとするんだ?
俺は意味がわからなくて、頭をかしげる。
俺の彼女が可愛いとか飯村さんに何か関係あるのか?よくわからない。
「でもいるけどね、彼女」
背後から…不気味な声が聞こえる。
俺と飯村さんは声の主の方向へ振り向いた。
「にいに、彼女いるからね。しかもアイドル。しかも巨乳」
きょ、巨乳~だと!!
いらん!そんな情報はいらん!!
杏奈はくすっと意地悪そうに笑うと、ベッドへそのまま転がった。
「きょ、巨乳? ア、アイドル? …持田くん、それ本当?」
飯村さんは自分の胸に目をやり(まあ…そこそこのカップではあるが)
下を向いたまま…ぼそぼそぼそと…俺に尋ねる。
「う、うん…」
「……アイドル。そう…アイドルなんだ……」
飯村さんはそうつぶやいて、きびすを返してそのまま立ち去っていった。
「杏奈~!!」
俺は杏奈の寝ているベッドに行くが、「来ないで!」と叫ばれた。
「いま…来ないで」
心なしか泣いているような涙声だ。
「にいに…のこと……今から大嫌いになるから……だから来ないで」
「元から俺のことなんて嫌いだろ?」
「……」
杏奈は身動きひとつもせず、そのままベッドに横たわっている。
もしかして杏奈は俺のことが好きなのか…なんて夢を見てはいけないのだ。
杏奈は、あの「お兄ちゃん」に俺を重ね合わせてるだけで…。
俺は別個の人間で、杏奈が好きになれるような…顔も体格もしていない。
性格だって、ただの陰気くさい男。
こんな俺を好きになるはずなんてないのだ。
だから俺は、ももてぃんを本気で好きになることに決めたんだ。
杏奈に対する好きは「妹」への好き。
だからもう…杏奈への情は必要以上にかけない。
「杏奈、ほどほどに休んで、授業に出てこいよ」
俺はそう言うだけ言って、保健室を後にした。




