⑧-2
2コール目あたりで「瞬くん?」という声が聞こえた。
まさかこんなに早く出てくれるとは思わず「あ、あ…」とどもってしまう。
「どーしたの? お昼に電話なんて珍しいね」
ももてぃんの電話は外からのようで、なんとなくガヤガヤとしている。
「ごめん…仕事だった?」
「仕事っていえば仕事だけど…別に大丈夫だよ」
そう…ももてぃんは昼間はOLをしている。
忙しいだろうに、俺からの電話にすぐ出てくれるなんて…ほんと女神だよな。
こんな人が…俺の最初の彼女なんていいのだろうか。
そもそも…こんな人の最初の彼氏が俺でいいのだろうか。
「そう? あのさ……今夜って空いてる?」
「今夜……? うーん、と。あ、ごめん。闇闇ガールズサマーフェスタの打ち合わせだ」
「…そっか」
「でも…明日なら大丈夫よ。なにか急ぎの用事なんじゃない?」
「急ぎっていうか……最近ももてぃん、いや桃子と逢ってなかったなって」
久しぶりに桃子って言ってみた。ちょっと顔が赤らんでしまう。
「え~嬉しい。教育実習中は瞬は忙しいだろうなって……思ってたから」
瞬! 瞬!っていってくれたよ。キャッ!キャッ!
俺はももてぃんのこういうところも好きだ。本当にたまらないっすよ。
「働くって大変だよな。桃子は毎日で本当に偉いよ」
「どうしたの? 何かあった? 私でよければ話聞くよ」
「いや…それがさ」
「いま静蘭で実習中でしょ? 民江とマシマちゃんいるでしょ? 2人ちゃんと勉強してる?(笑)」
「……民江、うん猫村タミーのことについてちょっと話したいことあるし、それに俺が彼女持ちってことがうるさい男にバレちゃって」
「ん? 聞こえない? いま大きいトラック通って全然聞こえなかったよ~」
「いやいや…たいしたことじゃないんだ。ほんと。明日ゆっくり聞いてもらえれば」
「そう? じゃあごめんね。もうすぐ次の取引先のとこに行かなきゃならないから、切るね」
「あ、うん」
電話が切れて、後はむなしくツーツーと鳴るばかり…。
今日打ち合わせがあるって言ってたけど…猫村タミーの奴、俺にキスしたとか…まさかももてぃんに言ったりしないよな。
てかアイツ、しょっちゅう変身してんのかよ。絶対おかしいとか思われてるっぽいよな。
魔法って静蘭で常識なわけ?
ますます変な学校だぜ。
俺は心の中で毒づいて、オムライス定食の食器を片づけるべく立ち上がった。
外で虫はいるが、誰も入ってこない…空間だった。
これからお昼のときはここで食べよう。心を落ちつけて、午後に挑みたい。
お盆を手にとり、食堂へのドアを開ける。
すると同時に「キモっ」との声が降ってきた。
右傍らを見ると、杏奈とまりあが座っていた。
なんと!窓カウンター席で、ガラスを通してテラス席をずっと見ていたらしい。
つまり、俺と赤西の一部始終を! 声は聞かれてはいないけど!
俺は後ずさった。
「キモッキモッキモッ」と歌うように連呼するのは、……まりあだった。
杏奈は?と思い、顔を覗き込んで見ると、心なしか…目が腫れているような…。
もしかして泣いていた?
「おい、もっさん。女泣かしていいことねーぞ!」
まりあがキイッとにらんで俺につっかかってくる。
「お、女? 泣かす? え?」
俺が杏奈の方を見ると、杏奈はぷいっと顔をそらした。
「ここでは他人のフリしなよ」まりあがぴしゃりと言う。
「わ、わかってるよ」
現にマリアンヌペアと話す俺を見て、ひそひそこちらを見てる生徒たちがいる。
早く立ち去ろうとするが、「女を泣かせて」という言葉が心にひっかかって……動けない。
なぜならば、女を泣かせたことがこれまでの人生で一度もないからだ。
女という生き物すら…俺には今まで縁がなかったつうのに。
何をした? 俺が何したちゅうねん。むしろ泣きたいのは俺っちの方なんすけど?
だから大人げないながらもまりあにこう言ってしまった。
「お前こそ気をつけろよ。最大のピンチがお前に降りかかってくるかな」
最大のピンチとはもちろん赤西のことなんだけど…。
「ふん、ピンチだろうがなんだろうが、上等だよ! 行こっ! 杏奈」
まりあは勢いよく立ち上がると、杏奈に促す。
杏奈は弱々しげにうなずき、立ち上がるものの、ふらっと横にかしいだ。
「あぶないっ!」
俺は思わず杏奈を受け止める。
「おいっ杏奈? 杏奈?」
杏奈は応答することなく、そのまま気を失った。




