⑧-1
「もっち~。元気出せって~。ホラホラ、俺のキライ…
いや、超好きなにらまんじゅうあげるからサ」
あの(悲惨な)修羅場をくぐりぬけて、俺はいま…赤西とランチをしている。
…約束しちゃったし。…仕方がない。
そういえば、コイツとサシで食べるのは初めてだ。
俺はいつも智毅とだけだったからな。
静蘭の食堂には、虫がいっぱい出るといって女子たちが近づかない外のテラス席がある。
俺たちは食堂のガラス戸を開けて、テラス席の1つに腰かけた。
日差しがきついが、パラソルがあるので緩和はされる。
赤西ファンの女の子たちは遠巻きに見ているが、誰も来ない。
いま外には、俺たち2人だけなので、話してる内容も聞こえることはないだろう。
赤西は「本格中華セット1000円」、俺は「オムライス700円」を頼んだ。
どこぞの高級ホテルが経営しているので美味しいらしい。
まあ、美味しいのはいいことだし、俺も楽しみにしてたのだが…。
さっきの件で、食事がのどに通るかどうか……。
にらまんじゅうを俺の皿に置いた赤西は、ラーメンを勢いよくずぞぞぞぞ……!と啜った。
「ん? もっちー。早くオムッちゃいなよ!(オムライス食っちゃいなよの略)」
「……うん」
「さっきのこと~? いいじゃん。好きっていってくれたんだから。ねこむすめ」
「……そういう問題じゃなくて……」
「もっちーも、ウダウダ言ってないで。そろそろ童○卒業する頃だと思うぜー」
コ、コイツ!! 一瞬でも良い奴かもと思ってしまった俺のばかっ。
なのに、なぜか愚痴が止まらず…。
「でもさ。いくらなんでも、生徒の前でキスはよくないよ。いくら魔法の力とはいえ……。
まずいだろ。教育実習なのに問題起こしまくって……俺」
あっ。魔法って言っちゃった。
だが、赤西はそれを気にすることもなく。
「まあ……教育実習終わったら、間違いなく出禁レベルになると思うから、今のうち楽しんじゃったら? 俺なんかもう8人の女の子たちとLINE交換しちゃったぜ!」
……もういい。コイツとは、話どころか、思考もなんもかも合わねえ。
俺はふてくされて、オムった(オムライスを食った)。
うん…おいしい。
1人でもぐもぐ食べていて、ふと顔を上げると。
頬づえをつきながらこちらを見ている赤西の視線とぶつかった。
フッ…と鼻で笑う赤西。(ムカッ!)
「もっちー。なんだろなぁ。なんか動物的で可愛いのかなぁ…。俺にはわかんないけど」
無視する俺。引き続きオムる。
「ねこむすめと、モジョモジョなお嬢にモテるなんてなぁ」
ん? ねこむすめ=猫村タミー? モジョモジョなお嬢???
「あ、ヤベッ! トゥーップシークレッツ!なことしゃべるとこだったぜ。
ふうっ。セーフセーフゥ」
聞こえてるぞっ!(怒)
「なんだよ。モジョモジョなお嬢って……」
「てかさー! もっちーさあ!」
わざとらしく話題を変える赤西。
「協力してくんねえ?」
ドキッと胸が痛くなった。
もしかして……杏奈のこと…?
「俺がひと目ぼれしたって言ってた子、もっちーのクラスにいるって言ってたよね?」
「ああ…うん」
俺は平常心を装いながら、オムライスをかきこむ。
味なんかわからない。
心臓がものすごい音を立てている。変な汗も出てきた。
「それって、三上杏奈なんだけどさ……」
キター!!
俺は持っていたスプーンをカラーンと床に落とした。
案の定すぎて、心の準備もしてきたけど、やっぱりやっぱりショック……!!!
「今年の正月んときに、すげえビビビってきたんだよね。
家まで着いていこうかと尾行してたんだけど、まかれちゃってさ」
そういえば……あのとき杏奈は。
変な男がついてきて、とかなんとか言ってたな。
さっきまりあも言ってたし。
ストーカーって赤西…お前だったのか。ってかなにやってんだよおおっ!!!
もう少しで、俺たちが一緒に住んでるってことがバレるかもしれなかったのか…。
心臓がバックンバックンから、バクバクバク…と音を変える。病気かな(←自虐)
てかむしろ、言った方がいいのかな。
俺が杏奈の義理の兄だってこと。そしたらあきらめてくれるのだろうか。
いや違うな。
そんなことを言ったら、ずっと「杏奈chanに俺と付き合うようにもっちーから言ってよー」
と言われるはめになる。
うああああっもうっ!
やっと教師らしいデビューができたと思っていたのに(泣)
外野がうるさくて、ぜんっぜん集中できないんですけど!!
俺がそうやって頭をかきむしって、うおおおおっと心の中で叫んでいると。
赤西が宙を見ながら
「うん。そうなんだよ。三上杏奈が好きだったんだけどさ……」と小さくつぶやいて……。
「心変わりしちった」と言って、軽く舌を出した。
「は?」
「さっき、俺につっかかってきた まりあって女いただろ?」
赤西はラーメンの汁のついた唇をぺろりと舌なめずりすると…。
「俺、あいつ落とすわ」
はい?
「気の強い女……今まで俺の周りにいなかったタイプだ。
見てて、もっちー。俺、アイツを俺の虜にしてやる!」
……展開についていけてないのですが……。
「だから、もっちー。協力してよ。その代わり、もっちー脱○貞プロジェクト組んでやるから」
「結構だっ!(怒)」
ニヤニヤ笑う赤西を見ていたら、本当にムカついてきて…。
「俺、彼女いるから!」と思わず口走っていた。
「ふう~ん。だったら写真見せてよ。アニメ画像じゃダメだよん?」
うわあっムカつく。
「トモヤ? トモキ?だっけ。いつももっちーとつるんでる奴。
アイツといると、もっちーもそういう人って思っちゃうから。友達は選ばなきゃ、だぜ。
大学帰ったら、俺のグループに入れてやるよ。そしたら、もっちーも、一発でオトコになれるぜ」
片目でウィンクすると、赤西はラーメンのお盆を持って、食堂の中へ入っていった。
ガラス越しにキャーキャー騒ぐ女生徒たちの声が聞こえる。
赤西は……まりあ狙いか。良かった…。ふぅ。
いや!ちっとも良くはないんだけど。
杏奈だったら、俺……。
てか、なんで杏奈に対して俺こんなに……執着してんだろ。
まだ、猫村タミーの問題やら、赤西が言い残していった「モジョモジョなお嬢」(誰?)
問題は山積してるが、とりあえず赤西の件は一件落着。
それで今の話の流れで、俺は大きなひとつの決心をした!
おもむろにスマホを取り出すと……桃のマークのアイコンにタップする。
だいすきなだいすきな俺の……ピーチ姫だ!(書いてて寒いなア)
俺はそっと左耳にスマホを寄せた。




