①-7
居間に行って、4人がけのテーブル席に座ると、
さっそく「持田家」の一家団欒が始まった。
ホールケーキをナイフで4等分にわけてくれる都さん。
皿に移す前のケーキに、手を伸ばしかけた杏奈の手をぴちっと叩く。
「お行儀悪いこと、やめなさい!」
むうっと膨れる杏奈。体育座りして、これみよがしにいじけたポーズをとっている。
そういうやり取りを見てると、昔のテレビドラマを見ているようで、ほほえましく感じる。
「杏奈ちゃんはケーキが好きなのか?」
親父が満面の笑みを浮かべて聞くと、杏奈は「うん。超好き。大好き」と答えた。
それがわかってたら、もう少し大きなサイズ買ったのに。ああ……でも、あの忌まわしき合コンのせいで余計な金を使ってしまったから仕方ないよな。
都さんがケトルのお湯をカップにそそぐと、紅茶の香りが居間全体に広がり始めた。
待て!と言われてお預けをさせられてた犬のりんたろう……いや違う、杏奈に向かって、
都さんがようやく「よし!」をすると、
杏奈はフォークで4分の1のケーキを突き刺し、大きく口を開けてまるごと中に入れた……。もぐもぐ…。
咀嚼音もろくに聞こえなかった。
杏奈は、紅茶をごきゅんごきゅんと飲み干し、「あー美味しかったぁ」とつぶやく。
唖然とする俺と親父。
あんなサイズを一瞬で…しかも一口で食べるなんて。
「にいに? 食べないなら杏奈もらってあげようか?」
気が付くと俺の隣に移動してきている杏奈……視線はケーキに釘付けになっている。
てか、さっきから左上腕部に当たってるんすけど!ふよふよとした柔らかいものが!
いわゆる…おっ◯い。
大きさにしてみれば、あのミニスカサンタには程遠いけれど、柔らかいことには変わりない。
触りたくなる衝動をこらえる。
「ねえ……にいに? いいよね?」
目を必要以上にパチパチさせて、俺の顔をのぞきこむ。
杏奈の瞳からは魔力が出ているようで、見つめれば見つめるほど目がそらせなくなってくる。暗示にかけようとしているらしい。
甘いものが得意でない俺は、もともとあげるつもりでいたけれど……。
「うん」
5秒後にはそう答えていた。
「やったああ!杏奈にとっては、ケーキは飲み物みたいなものだからさっ」
それを聞くなり、一口で口に頬張る杏奈。
「こらっ! 瞬くんにあげなさい!」
都さんの喝がとぶ。
「………」
杏奈はそう言われて途中で噛むのをやめたので、口から半分ケーキが飛び出した状態のままだった。
そして俺の顔に向かって、顎を上に上げる動作をし始めた。
「ん! ん!」
……?
何を言いたいのかわからない俺に、都さんが助け船を出してくれる。
「食べてって言ってるみたい」
「食べてって何をですか?」
「だから、いま杏奈が口にくわえてるケーキを」
ケーキ? 杏奈が今、口にくわえてる?
え?え? 俺が食べるったって。だってそんなことしたら……
キスになってしまうじゃないか!!!
ごくん。俺は生唾を飲み込んだ。




