①-6 クリスマスプレゼント
そこには、俺が21年間生きてきた中で、見たこともないような美少女がいた。
透きとおる陶器のような肌に、まつ毛が上向きのぱっちり二重。
ほほう、これがいわゆる……イケてる女子必須の「目力」ってやつか?
瞳の中はこれまた茶色で、見れば見るほど吸い込まれていきそうになる。
先ほどから半開きになっている唇は、パフェの上にのったさくらんぼみたいに、ぷるぷるっとしてた。
俺は思わずごくんと唾をのみこんだ。
決してロリコン趣味があるわけではないけれど、これはちょっと危険な匂いがする。
ずっと一人っ子だった俺に、ようやくできた兄弟姉妹は、思ってもみなかった……女の子。
これから……ひとつ屋根の下で暮らすのか。ごくん……。
なぜか、俺は手に汗をかき始めていた。緊張しているようだ。
一方、自称あんなの方はというと、俺を上から下まで舐めるように見たあと、
「ぷっ」と噴き出した。
そして、使命は終えたとばかりに、腰まで伸びた髪をいじりはじめた。
おいっ!(泣)
「ぷっ」ってなんだよ!
しかも、俺に対しての関心なくすの早っ!
ショックで唖然としている俺に、みやこさんが話しかけてくる。
みやこさんは持っているしゃもじをあんなに向けて、
「瞬くん。紹介するわね。この子、杏のあんに、奈良の奈で杏奈っていうの。
ちょっと変わった子なんだけど、仲良くしてほしいわ」
……そういう京都の都の字のみやこさんも、十分変わっているようだ。
都さんは、しゃもじを杏奈の顎につけて、くいっと上に上げる。
俺にそれを見せながら、
「ね、けっこう可愛いでしょ。でも性格は最悪なの。誰に似たのかしらねえ」
「ママに決まってんじゃん!」
「あらら、やあね、この子ったら」
都さんはそう言うと、今度はしゃもじを杏奈の顎から頬に持っていった。
ピタンピタン……
と規則的に、頬に押し当てている。
高校の頃、体育館裏で不良がいじめっ子に奪った札束でまったく同じことをしていた光景を思い出した。
あのとき、不良はこう言っていた。
「おめえ、余計なこと言うんじゃねえぞ!!!」
都さんの目にも、先ほど見えなかった目力を感じる。
何よりもさっきからずっと真顔なのが、すっごく怖い。
親父、本当にいいのか?
すっかり存在感を無くしつつある親父の方を振り返って見ると、
うっとりとした表情で2人を見て、うんうんとうなずいている。
まあいいのかな。親父が幸せなら。
いつまでも、ピタンピタン……もどうかと思い、
「そろそろケーキ食べない?」
少し大きな声でみんなに言ってみた。カアっと顔が熱くなる。
親父は「そうだな」と言って笑う。新しい母親と新しい妹もそれに伝染したように笑顔になった。杏奈は口の中で「ケーキケーキ♪」とつぶやいている。
俺だって……ずっと家族が欲しかった。
親父も狙ったわけじゃないだろうけど、思わぬクリスマスプレゼントをもらった気分だ。
さっきのミニスカサンタのお姉さんに感謝したい。
あれがなければ、甘いものが好きではない俺はケーキなんて買っていかなかっただろう。お姉さんのライブに行って、お礼を言おうと思った。
ケーキで家族団らんしましたよって。
それにしても、杏奈も案外可愛いじゃないか。
ケーキごときでこんな笑顔になっちゃって……うん、笑うとマジで可愛い。
アイドルっていうのもうなずける気がしてきた。
俺の前をスキップで通りぬけるときに、俺を見て笑いかけてきた。
思わず、ドキンっと心臓が跳ねた。
と同時に俺自身も跳ね上がった。
「いってえええ!!!」
杏奈のやつ、俺のつま先を思いっきり踏みやがった。
あっかんべーをしながら、奴はのたまう。
「しゅんぺーにいにも、早くきたまえよ」
俺の名前は瞬だ! しかも、にいに……って。
俺は妙に恥ずかしくなって、下を向いた。




